どうぞ!
「俺は周りの人に恵まれました。仲良くしてくれる友人や仲間たち、そして恋人
俺の言葉に彼女は押し黙った。続けて深雪ちゃんが口を開く。
「壬生先輩。貴女自身を見てくれる人の言葉を聞かず、自分の価値を自ら貶めている。自らを雑草だと蔑んでいるのは貴女自身です」
「私……自身が……?」
俺と深雪ちゃんの初めての共同作業によって壬生先輩は呆然と立ち尽くしていた。
さてここからどうしたものか。この後はエリカちゃんと勝負して、洗脳が解けていくって流れになったはずだけど……。
とりあえずもう一度口説いてみるか。あーでもそんなことすれば深雪ちゃんに嫌われるかもしれない。
将来のお義兄さまにも「こんな男に深雪はやれない」と思われたら困る。
「遥」
「……エリカちゃん無事だった?」
「うん、それより、はいこれ」
エリカちゃんが隣に来て真剣を渡してきた。
「……なにこれ?」
「これで先輩と戦ってあげて」
「どういうこと?」
「ホントはあたしが直接わからせてあげたいけど、彼女の相手は遥がいいんじゃない?」
このままでは現実から目を背けて逃げ続ける人生を送ることになってしまう。
剣の道に真剣なエリカちゃんだからこそ、同じ剣の道を歩んできた彼女をどうにかしたいという想いが人一倍強いはずなのに、大切な役目を俺に任せてくれるのか。
「壬生先輩。俺と勝負してくれませんか?」
「み、みやもりくん?」
「剣士として、言葉ではなく剣を交えて貴女に伝えたいことがあります」
今の俺カッコよくね? 深雪ちゃんも俺に惚れたんじゃないかな。だけど深雪ちゃんは俺ではなく先輩の方を見ていた。ちくしょう。司波達也に見られても嬉しくとも何ともないんだよ。
勝負のために特別閲覧室を出て一階の広場へと向かう。
「ここで何が起きてるの?」
途中エリカちゃんが司波兄妹に状況を確認する。
「テロリストが学校を襲撃してきたんだ。今は七草会長や十文字会頭を中心に制圧できているが大元を叩かない限りこの問題は解決しないだろうな」
「ふぅん、テロリストも大胆なことするのね」
一階へ降りるとエリカちゃんが気絶させたと思われる男たちがロープで手足を縛られていた。この男子生徒は退学になるのかな? 洗脳されていたから情状酌量の余地ありと判断されるだろうけど、男には興味がないしどうでもいいや。
紗耶香ちゃんが退学しなければいいや。
俺と彼女は向き合った。互いにテロリストが使っていた真剣を手に持っている。
これは練習ではなく本当の殺し合い。万が一があれば司波達也がどうにかしてくれるだろうし、彼女ほどのレベル相手に手加減できるほど今の俺は強くない。
「宮守くんは壬生先輩に勝てるの?」
「さぁ、勝てるんじゃない?」
「エリカ、大丈夫なの?」
試合を見学する深雪ちゃんとエリカちゃんの会話が聞こえてくる。
何とかするしかないだろう。深雪ちゃんの心配した表情が俺の力と変わる。もし俺が怪我したら治してくれよな。
まぁ、そんなことになれば俺の恋人たちに怒られそうだし、怪我するつもりはないけどさ。
構える。
これが一昨年の全国剣道女子大会準優勝者のオーラか。壬生先輩の洗礼された綺麗な構えからは想像もつかない殺気が放たれる。
「はぁぁあっ!!」
戦場で開始の合図などは無い。突如切りかかってきた先輩の一撃を横にいなす。なるほど、これが汚染された剣というわけか。
変に殺伐としていて人を斬るための剣。彼女が剣「術」の道に進んでいたのなら良い剣筋だ。しかし彼女は剣「術」の剣士ではなく、剣「道」の剣士。今の彼女は剣の道を捨ててしまっている。
「なるほど、いい腕前してますね」
「速ッッ、この動きは!!」
貴女が戦いたがっていた摩利ちゃんの動き。剣を交えたなら俺と摩利ちゃんが同じ動きをしているのは一目瞭然だ。
同じ道場で毎日修行したんだからね。しばらく離れていても身体がこの動きを覚えている。本来は使う必要がないけど今回は司波達也が見てるし、自己加速術式を展開させて移動する。
「本気出してください。今だけは魔法師としてではなく剣士として勝負しましょう」
俺の言葉は先輩に届いたようだ。勝負は一瞬で決まる。そんな予感がした。
同時にその場を駆けた。
一閃。
刃が重なる、そう思った瞬間には先輩の得物が真ん中から折れ、刀身が床に転がり落ちた。
彼女は逃げずに戦った。この力強さがあればどんな困難にも立ち向かえるはずだ。あとは心の問題。
「強いのね」
「先輩が道を踏み外さなければ負けていたのは俺の方です」
「……無駄な時間だったのかな?」
「先輩は強かったです。これまでものすごい努力を続けてこられたのが伝わってきました。確かに、道を踏み外したかもしれません。けれどそれは寄り道なんかじゃなくて、本来先輩が通るべき道だったんじゃないでしょうか。剣の神様が先輩に与えた試練だったんです」
神は存在する。性神様がいるなら剣の神様だっているだろう。
今の俺が神様に試練を与えられているようなものだしな。
「神様が与えた試練……」
「これを乗り越えればきっと成長します。俺も一緒に手伝いますから、また現実と、剣道と向き合ってみませんか?」
「……っっ」
原作のお兄様よりいい言葉が見つからなかった。司波達也の言葉を借りるのも癪だったから俺なりに気持ちを伝えてみたけど反応が薄い。
「前にも言いましたけど、先輩はとても魅力的です。可愛いですし、一つ一つの所作が綺麗で見惚れてしまいます。剣の腕だってあの千葉の娘にも引けを取らないくらい強かったです」
剣が折れ、その場に脱力していた壬生先輩の元に歩み寄ると耳元で呟く。
「他の奴が先輩を見下したり馬鹿にしたとしても、俺は傍で先輩の事を見ています。俺だけが本当の先輩を魅力を知っていては、駄目ですか?」
世界中の全員が敵になったとしても俺だけはお前の味方だ戦法。深雪ちゃんがいなければキスして堕としにいってたんだけど、今だけは深雪ちゃんを恨むよ。
「ねえ宮守君」
「はい」
「私、やり直せるかな?」
一言発した後、壬生先輩は一筋の涙を流した。その涙は穢れを浄化し、過去から未来への架け橋となってくれるはず。
「勿論です。俺がお手伝いします。お手伝いさせてください」
俺の胸に顔をうずめてくる。涙腺が崩壊したんだろう、耳が赤くなっていた。
深雪ちゃんから温かい目を向けられ、エリカちゃんからも仕方ないわね、と苦笑いされた。
「ねぇ宮守君」
「はい、なんですか?」
「さっきの勝負で足首を捻っちゃったみたい。保健室まで連れて行ってくれないかな?」
「……お安い御用です。お姫様抱っこがいいですか? それともおんぶがいいですか?」
「っ……お、お姫様抱っこ、でおねがい」
「かしこまりました。紗耶香お姫様」
「っっ」
こんな時も紳士を忘れずに。
司波達也に目配せすると、彼は俺の心の声を悟ったかのように端末を取り出しどこかに連絡しだした。
剣士は匂い好きという俺の説が立証されるんじゃないだろうか。保健室までの移動中ずっと壬生先輩は俺の胸に顔をうずめて荒い息をしていた。
膝裏から太腿にかけて、彼女を持つ手で軽く揉みあげると、俺にしか聞こえない程度の音量で喘ぐのが興奮した。これもう俺に惚れてるって言ってもいいよね?
彼女が桐原先輩と付き合わなかったら責任を取って処女を貰ってあげてもいいな。なんて上から目線で物事を考えていると保健室に辿り着く。
既に三巨頭の三人が集結していて重苦しい空気が流れていた。俺の出番はここまで。あんまり遅くなると彼女たちが心配するし、未来の彼女よりも今の彼女を大事にしないと。
壬生先輩に俺の連絡先を渡すと、エリカちゃんだけには本当の事を伝え、他の人にはトイレに行くと言ってその場を離脱。
『遥は来ないの?』
『うん。テロリストには興味無いから』
『……そっ』
『気をつけるんだよ。怪我したら俺泣いちゃうから』
『うるさい』
『愛してるよ』
『うるさい』
異様な光景になっている学校の敷地内を歩きながらエリカちゃんとチャットでやり取りする。
エリカちゃんは戦闘狂だからね。血の匂いを嗅ぎつけてそのままエガリテのアジトまで乗り込むんだろうな。
校舎から校門までを歩いていると、地面が削れ、木々が折れ、校舎の窓ガラスが割れているのが見える。戦闘は終息し、風紀委員たちがテロリストを捕縛しどこかに連行しているところだった。
後始末は俺の仕事じゃない。こういう時に風紀委員に入っていないと楽でいいな。
俺は脇目も振らずに駅へと歩いた。
キャビネットの中で端末を見るとものすごい数の通知が来ていた。大多数がほのかちゃんと雫ちゃんで占められ、美月ちゃんからも来ていた。美月ちゃんからはシュシュのお礼メールだったが二人のチャットを開くのが怖い。
一高の襲撃事件はまだ報道されていないが、思ったより早く彼女たちに伝わっていたようだ。
「はる君!」
「ハルカ!」
家の玄関を開けるとエプロン姿の二人がヘッドスライディングをかましてきた。避けるわけにもいかず、二人を抱き返すと瞳を潤ませながら上目づかいで見つめてくる。
「怪我はないですか!?」
「大丈夫だよ」
「ホントに?」
上半身を脱がされ怪我が無いのを確認するとホッと肩を撫でおろしながら一息つく。心配かけてしまったな。
「一高がテロリストに襲撃されたって本当なんですか!?」
「うん、そうみたいだね」
「そうみたいだね、ってはる君も学校にいたんですよね?」
「襲撃の時は図書館にいたから直接被害にはあってないんだよ」
「そうなんですか」
二人はクラブの先輩から連絡を受けたらしい。その時には既に帰宅していて難を逃れた。
リビングのソファーに座っていると雫ちゃんが紅茶を淹れてくれた。ジャスミンの香りが心地いい。
「帰ってこられたってことは解決したの?」
「うん、十文字会頭や風紀委員を中心に制圧してたよ。後はエリカちゃんも喜んで敵を倒してたよ」
「エリカが?」
「エリカならありえるかも」
エリカちゃんの扱いに笑ってしまう。二人もエリカちゃんのことを俺と同じ目線で見てたってことかな。
それから襲撃事件とそれに関連する生徒たちの洗脳の事を彼女たちに話すと、納得したように何度も頷いていた。
「だからあんなに差別撤廃を訴えていたんですね?」
「でも実際に二科生を見下す一科生はたくさんいるから、差別があったことは事実だと思う」
二人も実感があるようだ。特にクラスメイト達の二科生に対する扱いを間近で見たことがあるだけに悲痛な面持ちである。
「テロリストたちはそんな彼らの弱みにつけこんで洗脳したんだよ」
「許せません!」「うん、許せない」
「それも解決したから、洗脳が解ければまた日常に戻れると思うけどね」
今回の事で退学者も出るかもしれない。洗脳されていても記憶は残るようだし、自主退学という形になると思うけど。
「事件のことはわかりましたけど……はる君っ!」
「ん?」
「どうして連絡返してくれなかったんですか? 心配したんですからね!!」
「あーごめんね? 図書館は自分のマナーモードにしなきゃいけないから気づかなかったんだよ」
二人が巨人のように進撃してくる。
「それだけじゃない。この前危険なことはしないって約束したばかりなのに、早速破った」
「いやそれは自分からって意味で、今回はやむを得ない状況だったんだって」
「本当に?」
「雫どういうこと?」
「だって今日に限って部活を休んで早く帰れ、だなんて、まるで学校が襲われることを知ってたみたい」
「はる君?」
やっぱり雫ちゃんは気づいていたようだ。隠し事をしないって約束したばかりだしなぁ、いずれ話す時が来ると思っていたけどこんなに早いとは思わなかった。
「二人の手料理が食べたかったからだよ」
「本音は?」
「テロリストが来ることを知ってたから」
「えっ!?」
「やっぱり」
「雫ちゃんとほのかちゃんが危険な目にあってほしくなかったからだよ」
素直に話すか。そうじゃなきゃフェアじゃないよな。
「勘違いしてほしくないのは、決して俺はテロリストの仲間じゃないよ」
「そんなこと思うはずありません!」
「じゃあなんで知ってたの?」
「俺には二人、秘密の情報提供者がいるんだよ。その人が俺に情報を流してくれた」
「その人がテロリストの仲間じゃないって確証はあるの?」
「うーん、それを聞かれると確証はないね。でも十師族の関係者だし魔法科高校に不利益なことしないでしょ」
俺の言葉に二人は驚愕の表情を浮かべた。
「十師族、ですか?」
「そう、俺たちの目的のために十師族が必要な存在なのは理解してくれるよね?」
「うん」「はい」
「それで偶々十師族と会う機会があって取引したんだよ」
「取引って?」
「情報を貰う代わりに俺は力を貸すってね。俺の魔法は少し特殊で、その人も初めて見る魔法だったらしい」
性的なことをすることで魔法の能力が上がるなんて馬鹿げてるからな。本当は違うけど、彼女たちにはそう説明してるから矛盾が生じないようにしないと。
「十師族の人間が求める力って?」
「この石だよ」
「これは……私たちもはる君にプレゼントされた石」
二人には携帯化した石の効果を話してあるし、実際に経験してるからどれだけ強力か知っている。
「十師族って周りに敵が多いから常に防衛手段を傍に置いておきたいんだよ。真由美ちゃんだってボディーガードが付いてるしね」
「七草会長に?」
「ボディーガードなんていましたか?」
学校では見かけないが、一歩学校の敷地外に出るとボディーガードが見張っている。俺が外で「真由美ちゃん」と呼ぶたびに殺気を放ってくるからわかりやすい。
「ま、兎に角そういうわけで、この石を持ってるだけで緊急時に障壁が発生する能力っていうのは貴重らしいんだ」
「ハルカがこの石を提供する代わりに、その十師族の人から情報を貰うってこと?」
「大まかにはそうだね。あとは守秘義務があるからここからは二人にも言えない」
「……私ならハルカに嘘の情報を与えて嵌めた後、どこかに軟禁して永遠に石を作らせる」
「雫!?」
流石は大企業の娘だ。
「もしそうなったらどうするの?」
雫ちゃんは本気で俺の事を想ってくれているから心配なんだろうな。それだけ十師族の力というのは強大だ。
「俺にはこの力があるからね。例え十師族といえど簡単に捕まるつもりはないよ」
十師族を甘く見ているつもりはない。特に俺が取引してる相手はあの四葉家。最大限に警戒しているから物事を慎重に進めている。
「私たちにできることはない?」
「そ、そうです! はる君ばかりに負担をかけたくないです。私たちにできることがあったら言ってください」
「ありがと。その気持ちだけで充分だよ」
俺と性行為することで魔法力が上昇しているとはいえ、まだ十師族の連中には勝てるレベルに至っていない。結界魔法があれば負ける気はしないが、純粋な魔法力だけで深雪ちゃんに勝てるレベルまで上げたい。
二人は俺の返事に納得いっていないのか不満そうな表情を見せる。
「そんなに私たちのことが頼りない?」
「そうじゃないよ。充分助かってるってこと。二人がいなかったら俺は魔法科高校に入学できていなかったし、性犯罪者になってたかもしれないんだから」
「……ぅん」
「納得してないみたいだね」
「だって……」
「ハルカの足引っ張ってるみたい」
つい先日暴漢たちに襲われ何もできなかったばかりだし、彼女たちは自己評価が低い。
「ばーか」
「へ?」
素っ頓狂な声を出す二人。両隣に座る彼女たちの頭を乱暴に撫でると髪の毛が乱れるが気にしない。
「俺は二人がいてくれるから頑張れるんだよ。大好きな人が傍にいるから頑張れる。ほのかちゃんと雫ちゃんはかけがえのない大切な存在だから、傍にいてくれるだけで力になってるのさ」
納得はしてないが俺の気持ちは伝わったようだ。俺の力になりたい気持ちは嫌というほど伝わってくるけど、今は何もしないでくれた方が助かる。
俺が二人を捨てることは無い。捨てられることはあるかもしれないが、ここから奮起するか不貞腐れるかは彼女たち次第。
「でもそうだね。二人には隠し事は無しだよって言っておいて、自分だけ隠し事するのはおかしいよね。ごめん」
「いえ、はる君は私たちのことを一番に考えててくれてます。今日だって、もしテロリストに襲われてたら何もできなかったと思います。足手まといになるくらいなら最初からその場にいない方がいいことだってある。それに雫。はる君が私たちの事を頼りないと思っていたとしても、それは私たちが弱いからだよ。だったらはる君に頼られるよう強くなればいいんだよ!」
「ほのか……」
ほのかちゃんは雫ちゃんにないモノを持っていて、雫ちゃんはほのかちゃんにないモノを持っている。互いに互いの足りないものを補いながら、共に成長していく姿を見ると俺も頑張らなきゃなって思えてくるんだよな。
「はる君!」
「ん?」
「私ははる君の隣にいたいです!」
強い眼差しを向けられる。瞳には眩い光が灯り、その光がキラリと煌めくと虹彩の模様が変化した。
注視しないと変化に気づけないが、鑑定してみると前のほのかちゃんには無かったものが表示された。
純愛神の加護『恋は盲目。あなたに首ったけ』
なんということだ、神様から加護が与えられていた。
【愛する者を想う気持ちが強ければ強いほど魔法力が大幅に増大。純愛神に愛された者から愛された者は無限の強さを発揮する】と表記されている。
逆に嫌われた場合は全ての力を失うとも書いてあるが、性神様の加護があれば無敵なんじゃないだろうか。純愛神と性神様の相性が良すぎる。
これは光のエレメンツということが関係しているのかな?
ちなみに剣神や処女神などがいる模様。
これ以上遥がエガリテに関わったり後始末を手伝ったりということはありません。
実質入学編はここで終わりです。あとは壬生紗耶香が桐原先輩と付き合うのか、それとも司波達也に恋するのか、主人公を選ぶのかって話を書いて入学編は終わりです。
結末を知ってるからこそこれ以上関わっても自分にメリットが無いと考えた結果です。
エガリテのアジトに行っても殲滅戦で終わりですからね。深雪がピンチになって襲われる!? なんて展開があればついて行ったでしょうけど、まだ遥を活躍させるのは早いと判断しました。
また明日19時にお会いしましょう。