三人の男女は色欲に溺れた週末を過ごしていた。
我慢していた欲望の赴くままに互いの身体を求め合い、誰かが果てるまでそれが続く。
「ハル、カッッ、イクッッッ!!!」
更なる絶頂。
前、後ろ両方の穴を犯され最大限まで高められた身体は熱を帯びながら躍り狂う。
「だめぇ、もぅ……んぁぁっ。ハルカぁ」
「はぁっ、はぁっ、俺も、疲れたな」
汗、唾液、涙、涎、愛液、精液。身体から分泌される体液が二人の身体を魅惑的に輝かせている。
食事も摂らずに一心不乱に腰を振り続ける様はまさに狂気。男に限っては睡眠もろくに取っていない。
己の体力の限界まで快楽を味わい尽くしていた。
「ンッ、いま、さわられたら……ぁん」
「雫を感じていたいんだよ」
「んぁっん、みみもとでしゃべっちゃ、やぁ」
「好きだよ。愛してる」
「ンンッ……イッちゃ……ぅぅっンぁ」
挿入無しでも肉体の触れ合いのみ、言葉の誘惑だけで身体が激しく跳ねた。女の身体は震え、男の背中に鋭い爪が突き刺さる。
「ぁぁ、ぁ、ぁっ……ぁぁぁ」
余韻に浸りながら陶酔する。
部屋の窓の外から太陽の光が注がれている。まだ日が沈む前の出来事だ。
「すき」
「俺も好きだよ」
裸のままベッドの上で寝転がる。
落ち着きを取り戻し、男女の寝室での語らいが行われていた。お互いの気持ちを高め合うキスや愛撫が前戯だとすれば、フィニッシュ後のピロートークは後戯とも呼ばれる性行為の一部。
余韻を楽しみ、互いをより満たすための行為でもあり、特に女性にとっては安心感や幸福感が得られる大切な時間だ。
「お尻痛くない?」
「……うん。まだハルカのが入ってる感じがするけど、痛くはないよ」
「よかった」
「ハルカ」
「うん?」
「その、お尻でするの初めてだったけど、えっと、き、気持ちよかった」
破廉恥な行為を思い出して赤面するが、雫だけではなく遥も心臓の鼓動がドクンと跳ねた。愛する者が微笑むというのは何度見てもそれだけで破壊力がある。
「俺も雫ちゃんのお尻気持ちよかったよ」
「ホント? 変じゃなかった?」
「ホントだよ。それにすごく可愛いお尻だった」
「ばかっ、そんなこと聞いてない」
「ふっ」
「……ふふっ」
イチャイチャバカップル的な会話が続く。特別な時間が流れ、幸せな空気が満ちている。
「雫ちゃんに話しておきたいことがあるんだけど」
「なに?」
「九校戦の事なんだ」
「うん」
「九校戦に出られて雫ちゃんが優勝したらなんでも好きなことしてあげる」
「私の好きなこと?」
「そっ。俺に何してほしい? なんでもいいよ」
「……うーん、今は何もほしくない」
「え?」
「だってハルカがいるもん」
これには堪らず遥もノックダウン。
「ちゅぅっ」
照れを誤魔化すために雫の唇を奪う。ピロートークで幸せを感じるのは女性だけではない。
「あ、でも一つだけあった」
「なに?」
「旅行に行きたい」
「旅行?」
「うん。ハルカとほのかと、エリカも一緒に旅行に行きたい」
「いいね。でもそれは九校戦お疲れ様旅行にするとして、雫ちゃんだけのご褒美も考えといてよ」
「わかった。でもまだ選手にも選ばれてないし、優勝したら考える」
「おっけっ」
遥は雫の前に最大の敵が立ちはだかることを知っている。けれど絶対に破れない相手ではない。
遥との性行為によって雫の魔法力は原作よりも高まっている。
今年のアイス・ピラーズ・ブレイクは例年以上に盛り上がるに違いない。
「雫ちゃんって共振破壊が得意だよね」
「うん。よくお母さんから教えてもらってたから」
「九校戦に勝つためにもう一段階上を練習してみない?」
最大の敵を打ち破るために早いタイミングから策に講じる必要がある。遥は知識を生かして雫にとある案を打ち明けた。
特化型と汎用型の二個持ち。新魔法の取得。
遥の事を信頼している雫は一切口を挟むことなく話を聞き、悩みながらも首肯した。
雫の母親でAランク魔法師である北山紅音に頼めばフォノンメーザーの起動式を手に入れることも可能。
あとは性神様の加護である『宮守遥と性行為した相手の魔法力上昇』でどの程度のバフがかかるかにかかっている。
九校戦まで三ヵ月。雫の挑戦が始まった。
エリカから招集メールが届いたのはそのすぐ後の事。
ブランシュ日本支部を壊滅し、ブランシュ事件が解決した慰労会と銘打ってあるが、遥はその中身が達也の誕生日の集まりだと予想した。しかしベッドから起き上がった瞬間に立ち眩みのような眩暈に襲われ倒れこんだ。
原因は血を失いすぎたことによる貧血だった。
雫とほのかの説得により遥の不参加が決まった。
午後の温かさがいくらか薄れ、あたりに夕暮れの気配が混じり始めた頃、ほのかと雫が「本日貸し切り」と書かれた店の扉を開けると既にエリカ、達也、深雪、レオ、美月といういつものメンバーが勢ぞろいしていた。
「やっほーほのか、雫……あれ、遥は?」
「はる君ならちょっと用事があるから行けないそうです」
「えーせっかくみんなで楽しめると思ったのにー」
エリカがふくれっ面になりながら腕を組む。
遥に会えなかったことも口を尖らせた理由の一つだろう。
「それで、その花束はどうしたの?」
「あ、これは……」
ほのかの持つ花束に注目が集まるが、ほのかが口を開く前に深雪が三人の間に入ってきた。
「ほのか、雫、こんにちは」
「み、深雪!?」
「どうしたのほのか?」
「綺麗……」
「えっ、あ、ありがとうほのか」
深雪の私服姿を初めて見たほのかは感嘆の声を上げる。美しさに見惚れながら深雪の隣に吸い込まれて席へ座った。
「まぁいっか。じゃあみんな揃ったところで……カンパーイ!! 今日は飲むわよ~~!!」
「エリカちゃんったら盛り上がってるね」
「酒入ってんじゃねーだろうな」
全員に飲み物が行き渡ったところでエリカが乾杯の音頭を取る。飲み物はジュースやお茶なのだが、あまりのテンションの高さに美月とレオがコップの中の匂いを嗅ぐ。
店のマスターがパーティー料理を運んでくると食事会が始まった。
「賑やかだねぇ、今日は何の集まりなんだい?」
マスターが気さくに声をかける。達也たちはこの「アイネブリーゼ」の常連であり、マスターとも親交があるため今日の貸し切りを快く受け入れてくれた。何の集まりかは知らなかったらしい。
「お疲れ会のような――」
「達也くんのお誕生日会だよー」
ブランシュ事件解決のお祝いです、ということもできず、気を利かせた達也が返事をしようとしたが、エリカの声に遮られてしまう。
「誕生日!? え、エリカちゃんっ……なんで教えてくれなかったの~~!?」
「いやー正確な日付は知らないよ」
「えっ?」
「どうせ四月中でしょ? 誤差の範囲かなぁって深雪に昨日確かめたら……」
「そう、よく知ってたのねって、ビックリしたわ」
「ん? まさか本当に今日だった?」
「ああ驚いたよ。ありがとう」
美月が驚き、エリカが嵌められ、達也が感謝し、深雪が微笑む。
レオや美月はプレゼントを用意してないことを気にしていたが、ほのかと雫が立ち上がると達也に赤や青色で彩られた鮮やかな花束を渡した。
「お誕生日おめでとうございます!」
「お誕生日おめでとう」
「二人ともありがとう。驚いたな、まさか知っていたのかい?」
僅かに声が上ずっている。表情に変化は見られないが、一瞬頬が緩んだのを深雪は見逃さなかった。
「いえ、はる君が教えてくれたんです」
「遥が?」
「はい。花束が私たちからのプレゼントで……それではる君は用事があって行けないから、代わりにプレゼントを渡してくれって、これがはる君からです」
「別に明日渡してくれてもよかったんだが、これはネクタイピンか?」
高校生が持つには分不相応だが達也が持つと様になってしまう。
「ハルカが、プレゼントはその日に渡さなきゃ意味がないって」
遅れてでも直接渡す方が良いと考える者もいる。そこは人それぞれの価値観の違いだろう。
「お兄様これはッッ!」
「深雪?」
「深雪どうしたの?」
達也の手元を覗き込んでいた深雪がネクタイピンに付いている宝石のような石を見て瞠若した。あまりの驚きようにほのかと雫は困惑する。
「ああ、すまないね。深雪は光り物に目が無くて」
「へぇ~深雪も女の子ってことね」
「それはどういう意味だいエリカ」
達也は深雪の失態をうまく誤魔化した。
この石は何の効果も付加されていない磨き上げられたタダの綺麗な石なのだが、深雪の目にはそうは映らなかった。あまりにも例の占い師が持っていた石と類似して見えたのだ。
「でもよく宮守君は達也さんのお誕生日を知っていましたね」
「そうだよなぁ、俺なんか全然知らなかったぜ」
「あんたはたとえ知ってても忘れてたでしょうね」
「なんだとー!?」
「何よっ!」
タイミングよくレオとエリカが言い争ってくれたおかげで深雪も調子を取り戻す。
「申し訳ありませんお兄様」
「しょうがないさ。俺も驚いた。それにしても――」
兄妹の会話はエリカたちの声にかき消される。
何かをプレゼントする機会は多い。誕生日、クリスマス、バレンタイン、あげれば枚挙にいとまがない。そしてその渡したプレゼントに隠された意味があるモノがある。
有名なものでいえばネックレス。『相手を独占したい。束縛したい』という意味がある。
ならネクタイピンにはどんな意味があるのか当然達也は知っていた。
『あなたに夢中』『あなたを見守っています』という意味が込められている。一見変な意味ではない。美月がこの意味を知っていれば「宮守君が達也さんに夢中!?」と変な妄想を膨らませていただろう。
達也にはこの贈り物に込められた意味を誤解して捉えることになる。
(俺を監視しているということか? それとも別に意味が……)
このネクタイピンは何の裏もない単純に遥の好意なのだが、変な誤解を生んでしまった。
「今日は達也君の誕生日なんだからあんたと言い争いしてる暇じゃないのよ!」
エリカは決してレオに近づくことなく言い争いも沈下していく。レオもエリカが口だけなのを理解しているから身構えることなくやりあっている。
「まあまあ、みんな落ち着いて。このザッハトルテを僕と君たちからのプレゼントということで手を打とうよ」
「おおっ!!」
「流石マスター!」
食事会から誕生日会に変わり、終始和やかな雰囲気の中でブランシュについての話になる。
「宮守君にお礼を言いたかったのに残念です」
「お礼?」
美月の言葉にエリカが反応する。ほのかと雫も美月の呟きに気づいたが、エリカが身を乗り出してツッコむ。
「シュシュ貰ったお礼だ!」
「ち、違うよエリカちゃん」
「ホントかなぁ? その手に付けてるの遥からもらったシュシュじゃないの~?」
顔を赤くする美月。エリカたちの会話に達也と深雪、レオも加わる。
雫とほのかは無意識のうちに遥から贈られたネックレスに手が伸びていた。
「そのシュシュみせてもらってもいいか美月?」
「は、はいっ、どうぞ」
達也はシュシュを受け取ると観察する。
「それ遥の手作りなんだってー」
「へぇ、遥のやつ器用なんだなー」
「あんたには無理そうよね」
「あんだと~!?」
口を開けば言い争いが始まる。その場に遥がいるときはエリカも喧嘩を売るようなことは無いのだが、遥がいないと不機嫌とまではいかないが攻撃的になるエリカである。
一瞬達也の表情が変化するが深雪でも気づかないほどの微々たるものだった。
「手作りとは思えないほどよくできてるな」
「はい。でもこれのお礼ではないんです」
シュシュのお礼はすでに済んでいる。美月が言いたかったのは別の事だ。
「昨日、宮守君が早く帰るように言ってくれなかったら襲撃事件に居合わせていたと思うんです。ですので、そのお礼を言いたかったんですけど、明日のクラブの時にお礼しようと思います」
「遥が?」
「はい。帰りのキャビネットに乗って出発した瞬間に学校の方で爆発音が聞こえて……もう少し遅れてたら……」
「それは危なかったな」
達也の中で疑問がまた一つ浮かんだ。
「そういえばほのかと雫は大丈夫だったのかしら? 襲撃のあったときはクラブ活動中だったのでしょう?」
「へ? あ、えっと……」
「私たちも用事があって早く帰ってたから被害には遭わなかった」
「そう、なの? よかった」
(彼女は嘘をついているな)
それほど長い時間一緒にいたわけではないが雫とほのかが何かを隠そうとしているのに気づいた。そしてすぐに二人と遥の関係を思い出し考えを張り巡らせていく。
(遥と二人は幼馴染と言っていたな。彼女たちを危険な目に遭わせないよう帰したというのか? なら何故学校が襲われることを知っていたということになるが……)
ブランシュの仲間、もしくは外部協力者か、それとも四葉や小野遥のような情報を扱う者なのか。もしくは未来を知る者か。答えの出ない問題に達也は頭を悩ませていた。
誕生日会がお開きになり、達也と深雪はキャビネットでほのかから渡されたネクタイピンを見ていた。
「お兄様、これはもしかして……」
「ああ、例の石と似ている」
「ということは宮守くんはあの占い師の関係者ということでしょうか?」
「まだわからないさ。遥が占い師本人、または関係者だとして、これを俺に渡す理由は何なのか。遥が占い師だとして俺たちに姿を隠している以上、知られたくない何かがあるに違いない。それなのにこんなあからさまな贈り物をするだろうか」
「ただの偶然ということでしょうか?」
「わからない。偶然にしては似すぎているし一度調べてみる必要があるようだ」
疑問がさらに深まった一日である。
【裏設定】
二人が花束を用意した本当の理由は、遥が近くにいない時に遥以外の男性に近づくと不快感や異臭がするため、花の香りで和らげようとしたためである。
エリカは道場で散々男の異臭を嗅いでいるせいで感覚が麻痺している。エリカが遥の匂いを好むのは、遥の匂いを嗅ぐと異臭が取れて安らぐため。単純に遥の匂いが好きというのもありますが。遥がいない時に不機嫌になるのはこれのせい。レオと喧嘩することに対してこの作品なりの理由を付けてみました。
例として挙げれば、タバコの臭いが嫌いな人がタバコの匂いや煙が充満する喫煙所に閉じ込められたような感覚ですかね。しんどい人がいればイラつく人がいる。
遥の傍にいれば異臭が消え、その人の好きな匂いが香ってくるという能力。
原作より早く雫の修行が始まったため九校戦で深雪との試合はどうなるのか注目ですね。遥との性行為で魔法力も上がり、いい勝負ができるのではないでしょうか。
また明日19時お会いしましょう