九校戦編が始まりました
今年もよろしくお願い致します。
第37話 九校戦編の始まり
雨後の緑の深みが増し、夏の訪れを感じさせる六月。一つの区切りとなる季節が近づいてきていた。
「ふぅ、来週は期末試験かぁ~」
リビングで夕食後のティータイムを満喫している遥と雫の元に、ほのかが入浴から戻ってきた。艶々しく赤らんだ肌を露出させ、濡れた髪の毛が色香を振りまいている。
部屋着も衣替えを迎え、細く長い首筋と深く窪んだ鎖骨。その下に豊か過ぎる乳房が半分ほど見えるシャツを着て、無防備な脚がさらけ出されていた。
ほのかはそのままソファーに座る遥の足元に腰を下ろすと、遥の方を見て満面の笑みを浮かべる。
「はい」
「ありがとうございますっ!」
遥はほのかからタオルを受け取ると、ほのかの髪の毛を優しく手櫛でほどきながら乾かし始めた。
いつもの見慣れた光景。この家に暮らす人間なら当たり前の出来事に雫も何も言わずに端末に目を向けていた。
「雫は試験勉強してる?」
「えっ? あっ」
「もしかして雫……」
「忘れてた」
「ええええっっ!?」
雫は他の事で頭がいっぱいだった。
来週に控えた試験など眼中にないほど雫の頭の中を埋め尽くすこと。
ほのかは試験勉強を開始しているというのに、予想外の返事にほのかの手から化粧水が零れ落ちる。
「だって九校戦の事で頭がいっぱいだったんだもん」
「だもんって……。雫が九校戦の熱狂的なファンだってことは知ってるけど、今回のテストの結果が九校戦のメンバー選考に関わってくるんだから頑張らなきゃだよ?」
「わかってる。絶対に負けられない戦いがここにはあるっ!!」
夢にまで見た憧れの舞台が手を伸ばせば届く距離にある。雫の熱い気持ちが部屋全体に伝わったように温度が上がったようだ。
「じゃあさ、深雪とかエリカとかエイミィを誘って勉強会しようよ!」
「うん、いいアイデアだと思う。でもみんなの予定も聞かないと」
「だね、明日聞いてみよっと」
肌の手入れを終えたほのかは遥の方にもたれかかる。十五歳とはいえ恋する女の子。美意識は同世代の他の女子よりも高い。
好きな人のために綺麗であり続けたいという気持ちがほのかをより輝かせていく。
「はる君は実技が良いんですから理論も勉強しなきゃですよ!」
「ベンキョウキライ」
「ふふっ、駄目ですよ。はる君も一緒に九校戦メンバーに選ばれるんですからね!」
九校戦メンバーに選ばれるためには期末試験で優秀な成績を収める必要がある。
特に一年生は競技実績が無いため、入学試験・授業・期末試験の計三つの成績をもとにメンバーが選出される。
入学試験で実技成績が上位だったこの三人がメンバーから漏れる可能性は極めて低いが、今回の試験で赤点を取ろうものならメンバー外ということもありえてしまう。
理論が苦手な遥は、現実逃避するため目の前にいるほのかの身体を抱きしめた。
巨大なメロンをぶら下げた身体とは思えないほど細くくびれた腰に手を回し、湿った髪の毛に顔をうずめる。
「保健体育の実技があったら満点取れる自信あるんだけどなぁ」
「きゃっ」
「ね~ほのかちゃん」
遥の腕によって胸が圧迫され、大きな双丘が強調された。雫はそれを親の仇のように鋭い目つきで見つめていた。
「すぅ~、はぁ~。良い匂い」
艶やかな髪の毛に鼻を擦り付けながら深呼吸する。鼻腔をくすぐる甘い匂いが遥の性欲値を上げていく。
「ちょ、っと、はる君?」
「シャンプー変えた?」
「ンッ、はい」
「前の匂いも好きだったけど、この匂いも好きだなぁ」
「ぁっ、く、くすぐったいですっ」
うなじに息がかかり、強く抱きしめられると色っぽい声が漏れる。
風呂から上がったばかりの火照った身体に性の息吹が注がれていく。
「はる君、勉強しなきゃ……」
「明日からでいいよ。ね?」
「……しずくぅ」
助けを求めると雫は端末を机の上に置いて立ち上がった。
「お風呂入ってくる」
「雫ぅっ!!」
タプンッ、と胸が揺れる。雫は最後までその胸を見つめながら浴室へと歩いて行った。
雫も最近バストアップした。しかしほのかには遠く及ばず、今朝の洗濯の時に自分とほのかの下着のサイズの差を見て、少しばかり嫉妬の灯が宿っていたのだ。
いつもなら仲介役に名乗りをあげる雫も今日ばかりは救いの手を差し出さなかった。
「部屋いこっか?」
「うぅ……お風呂入ったばかりなのにぃ」
「あとで一緒に入ろうね」
「……はい」
雫が風呂から上がってくるとリビングに二人の姿はなかった。二階に上がるとほのかの悲鳴にも似た喜悦の声が聞こえてくる。
「ハルカ」
「はーい」
ドアをノックし遥の名前を呼ぶと先ほどまで聞こえてきた淫らな声が聞こえなくなる。ほのかが気を失ったわけではない。
二人の交わりは三十分や一時間では終わらない。何時間もかけて二人は愛を確かめ合い、互いのカラダを貪り合うため、他に人間がこの家にいるときは遥が防音障壁を展開するようにしている。これで声は一切聞こえてこない。
ドアを開けるとほのかが遥の胸元に顔をうずめてカラダを震わせているが音は遮断されていた。部屋に入ろうとしても障壁があって入ることはできない。
雫は遥にほのかをもっといじめるように目で合図すると自分の部屋へと入っていった。
結局二十時頃から始まった夜の舞踏会は日付が変わるまで行われていた。
風呂に入ったばかりのほのかのカラダには大量の精液と体液が塗りたくられ、全身を痙攣させながら遥の腕の中で堕ちていく。
強烈な臭いがほのかのカラダを汚染させ、翌朝目が覚めたときにはカラダの奥深くまで臭いが沁みついていた。
朝から一緒に身体洗いっこをしたが、ほのかのカラダから匂いが取れることはなかったらしい。香水で誤魔化していたが、学校でエリカと美月と出会うと気まずそうに苦笑いを向けられていた。
その日から試験までの一週間は比較的落ち着いた日々が続いた。
毎日放課後に教室に集まって日が暮れるまで勉強会を行い、家に帰ってからも机と向き合う日々。偶に息抜きで汗だくになることもあったが、無事試験を終える。
「はる君」
試験が終わった翌日の昼、食堂に向かおうとほのかと雫が遥の席へと向かう。いつもはそこに深雪も加わるのだが、生徒会が繁忙期に入るため今日は別行動を取る予定だった。
そして今日ばかりは遥に向けられるクラスメイトたちの嫉妬交じりの視線が無かった。
それもそのはず。深雪がいないからではない。彼らは今日から数日間の内に、ある事が決まることを知っていたからだ。
一年A組の教室では昼休みになったというのに誰一人教室を出ようとしない。教室で昼食をとるわけでもなく、扉の方へ視線を向け誰かが入ってくるのを待ちわびているようにも見える。
異様な雰囲気の中、遥たちが食堂へ向かおうとした瞬間、教室の扉が開かれ栗鼠のような可愛らしい生徒が姿を見せた。
「司波さん、光井さん、北山さん。少しよろしいでしょうか?」
深閑な教室に中条あずさの声が響く。
途端に騒がしくなり、ある者は羨望の眼差しで、ある者は焦りの表情を三人へと向けていた。
「雫?」
「ほのか、きっとあれだと思うっ!」
普段ポーカーフェイスの雫の表情に僅かだが喜びが見える。唯一この中でほのかだけが状況を理解していない。
しかしあずさから声をかけられてようやくその意味を理解した。
「生徒会室までよろしいですか?」
「えっ、あ……はる君っ!!」
「うん。いってらっしゃい」
「……はいっ!!」
歓喜の表情。遥が呼ばれない事を疑問に思いながらも声には出さない。
ほのかと雫、深雪はあずさと共に教室を出ていった。
緊張の糸が切れたようにA組の生徒たちは机に突っ伏したりしているが、遥含めて数名はひっそりと教室から抜け出していた。
三人が生徒会室に呼び出されたという知らせは瞬く間に広がった。
「遥は呼ばれなくて残念だった?」
「いーや」
「ホントに? 他の一科生たちは目に見えて動揺してるのに」
食堂を見渡すと八枚花弁のエンブレムが刺繍された生徒たちがどこかよそよそしく浮ついているのが目立つ。
遥は教室を出た後、エリカたちと合流して食堂で昼ご飯を食べている。ほのかや雫たちやいないだけで一気に女性比率が下がり、周りの目が気にならなくなっていた。
「最善を尽くしたからね。それで選ばれなかったら俺の実力不足ってことだよ」
「ふーん。なんか優等生っぽい答えでムカつくんだけど」
「実際優等生だろ。お前と違ってな」
「はあ~!? あんたに言われたくないわよっ!!」
今日は遥の右隣にエリカが座っている。それでもエリカとレオが言い争いを始めたのは、遥の左隣にレオが座っていたからだ。エリカはさりげなく自分の身体と遥の身体を密着させながらレオに突っかかっている。
エリカの思惑を察した遥は、誰にも気づかれないようエリカの太腿に手を添えた。
「っ」
一瞬エリカの頬が赤く染まった。喧噪が止み食事が再開される。
エリカは無言のまま自分の太腿に乗った遥の手を握りしめると、指を絡め、感触を確かめるとすぐに手を離した。
達也が口を開いたのはそのすぐ後の事。
「そういえば遥とエリカは剣道部に顔を出していると聞いたが本当なのか?」
「ん?」
「誰から聞いたの?」
「渡辺先輩からだ」
エリカは小さく「あの女」と呟いたが、その声は遥と達也にしか聞こえなかった。
「さーやを鍛えてあげてるのよ。そしたら他の剣道部員にも懐かれちゃって相手してあげてる感じかな」
「俺は美術部が休みの時に紗耶香ちゃんの様子を見に行ってるだけかな。手伝うって約束したし、それにエリカちゃんは可愛いから懐きたくなる気持ちもわかるよ」
「……うるさい」
今の遥の言葉をレオが言っていたら、エリカが手に持つフォークが、投げナイフのように飛んで行っただろうなと達也は心の中で思いながら二人を観察する。
達也の眼には、同門だけの関係には見えないほど親密な関係に見えた。少なくともエリカが遥に対して並々ならぬ想いを抱いているのは見てとれる。
それはエリカの遥を見る視線だったり表情だったり態度がそう感じさせていた。
「二人は仲が良いんだな」
「ハァっ!? どうしてあたしと遥が!?」
達也の言葉にエリカが思わず声を荒げた。達也は以前にもエリカに対して同じ発言をしたことがある。その時はエリカの相手がレオだったが、その時とは比べ物にならないほどエリカの頬が赤く染まり、表情が女の子としての一面を見せている。
この時点で達也は二人の関係を察していた。とどめはレオの言葉だった。
「そういえばエリカの端末の待ち受け、遥の寝顔じゃなかったか?」
「ッッ!?」
「この前偶然見えちまったんだけどな」
見えたのは一瞬だけだったためレオも忘れていたが、ふと思い出したようだ。
美月は遥とエリカが恋人同士なのを知っているため誤魔化してあげたい気持ちがあるが、余計なことを言って墓穴を掘ってしまったらいけないと寡黙を貫く。
「は、俳優よっ! あんたが見たのはこの前のドラマに出てた俳優の画像よ!! それと勘違いしたんじゃないの!?」
「そうだったかぁ? まぁ一瞬だけだったからそうかもしれないな。まさか遥の寝顔写真持ってるわけないしそりゃそうか」
レオが単純でよかったとホッと一息つくエリカ。
しかし達也の眼までは誤魔化せなかった。遥とエリカが恋仲であることを確信する。だが、遥たちがそれで納得してるなら部外者が口を出すべきではないと追撃はしなかった。
「へぇ、エリカちゃんってドラマとか見るんだぁ。今度その俳優の画像見せてよ」
「……」
「ふふっ」
レオのおかげで良いモノが見れたと遥は心から満悦していた。
エリカの顔が耳まで真っ赤に染まり、俯きながら潤んだ瞳で睨むエリカを見ていると遥の性欲値が急上昇していく。そして遥は食事をとり終えるとまだ時間がある事を確認する。
「剣道部の部室に忘れ物したから取りに行ってくるよ」
「そうか」
「おうっ、じゃあなー」
達也、レオと別れようとすると、エリカが遥の袖をつかんだ。
「あ、あたしも忘れ物したんだった」
「……そっか。じゃあ一緒に取りに行こ」
「ぅん。美月も来る?」
「えっ、わ、私もですか!?」
急に話を振られて動揺する美月だったが、エリカの表情を見て顔を赤くしながら頷いた。
レオは呑気にも授業に遅刻すんじゃねーぞと言いながら送り出し、達也は三人の背中が見えなくなるまで鋭い視線を向けていた。
今後の投稿について
土曜日・日曜日+αの週3,4投稿になると思います。
投稿日は最新話の後書きで告知します。
【次回の投稿は1月10日19時予定です】