※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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三人称→真由美視点→遥視点と変わります。


第45話 真由美との勝負

 遥が真由美の存在に気づいたのは野外演習場に入る前だった。

 

 遥の持つ特殊能力『気配察知』は、自分や遥が大切と思う人に対して敵意を抱くモノが周囲にいた場合、どんな条件であろうとその存在・情報を認識することができるというもの。

 それだけではなく、直径百メートル圏内であれば全ての生命を対象に何処に何があるのかを確認することが可能となっている。

 

 遥は家以外の場所で行為に耽る時は、必ず周囲に人がいないことを確認しているのだが、それによって自分の後方についてくる存在に気づいていた。

 それが真由美だという事に気づいたのは摩利との時間を愉しむ前。真由美に見せつけるようにいつもより濃厚な絡みを演出し、卑猥な空間を作り出した。

 

 案の定、真由美の頭の中は錯乱状態に陥る。冷静な思考ではなくなり、本来であれば遥の接近に気づけたはずだが、目の前に来るまで気づけなかった。

 

「覗きなんて趣味が悪いんじゃないですか?」

「っ!?」

 

 煽り立てるような笑みを浮かべる遥。

 真由美は遥から距離を取るように後退りするが、堅い壁が真由美の退路を断った。

 

「なに、これ……」

「障壁魔法ですね。外には出られないようになっていますけど」

 

 遥と真由美を囲むように辺りには球状の障壁が張り巡らされていた。障壁はひんやりとした冷たい物質でできており、抜け出すことはできない。

 

 障壁を破ることができないと知ると真由美の目が鋭くなる。危険を察したのか、ブレスレット形薄型汎用型CADを構えた。

 

「大丈夫ですよ。何もしません。ただ、真由美ちゃんがお話したそうな顔をしていたのでこの場をセッティングしただけです」

 

 遥の表情に変化は見られない。普段と同じ能天気そうな表情に見えるが、甘いマスクの奥には鋭い眼光が宿っているのを感じ取っていた。

 

 真由美の近くにはいないタイプの人間。

 これまで真由美の近くには十文字克人や司波達也、服部刑部といったような真面目で硬派な男性が占めていた。

 遥のような軽薄そうな男は珍しい。だからこそ遥の考えが読めないでいる。

 

「外からはこの中の様子は見えませんし、声が聞こえる心配もないので安心して話ができますよ」

「ふぅ……」

 

 息苦しそうに真由美は呼吸を整える。重苦しい雰囲気の中、遥は更に言葉を続けた。

 

「まっ、今日は九校戦の練習が休みですし、自主練する生徒がいない限り見られる心配は無いんですけどね。真由美ちゃんには見られましたけど」

 

 あっけらかんとした態度。真由美とは真逆の落ち着き具合だ。

 

「それで真由美ちゃんはどうして俺たちの後をついてきたんですか? もしかして俺と摩利ちゃんの関係に気づいてました?」

「……いいえ、今さっき初めてあなたと摩利の関係を知ったわ」

「そうですか」

「いつから……?」

「うーん、いつから……。初めて抱き合ったのは俺が中学生の時ですかね。同じ道場に通っていたので、その時に摩利ちゃんから抱きしめてもらいました」

「摩利から?」

 

 かなり脚色されているが事実である。

 

「はい。ですが、真由美ちゃんが見たような首にキスするようになったのは最近ですよ。学校にテロリストが襲ってきた後あたりですかね。またあんなことがありそうで怖いから慰めてと言ったら、なし崩し的に俺が摩利ちゃんにキスしてました。摩利ちゃんも受け入れてくれたので、それからは週に一度は時間を作ってます」

 

 最初は摩利も抵抗していたが、すぐに遥の唇と舌の虜になってしまった。

 直接的な性行為だけが快楽を生むわけではない。習慣的に抱き合うことにより、摩利の身体は遥の身体を受け入れる準備が整ってしまっていたのだ。

 

 ハグだけなら、匂いを嗅ぐだけなら、首にキスだけなら、と、自制心が徐々に崩壊していき、もう取り返しのつかないところまで浸透している。

 

「無理やりしてるわけではないの?」

「無理やりだなんてとんでもない。「女性に対して紳士であれ」と教育されてますからね。無理やりするなんてことはあり得ませんよ。それこそ、エリカちゃんや美月ちゃんとも合意の上です」

 

 エリカと交わっている所を思い出したのか、真由美の頬が赤らんだ。

 

「それに摩利ちゃんは俺を拒絶しようと思えば拒絶できるはずです。摩利ちゃんは匂いを使った意識操作を得意としてますし、俺が無理やり襲おうとしたら抵抗してきますよね?」

 

 摩利は匂いを使った意識操作の術を得意としている。CADの操作なしで、気流を操作し複数の香料を鼻腔の嗅細胞に送り込み、心理的抵抗力を低下させる匂いを強制的に知覚させることができる。それにより自白剤や意識を刈り取る効果を得るのだ。

 他にも摩利は聴覚や嗅覚を利用して相手の戦闘力を殺ぐ魔法を得意としているため、相手が男だろうと無理やり手籠めにされることはない。

 

「だとしても摩利には恋人がいるのよ? あなたにも光井さんという素敵な恋人がいるのにどうして?」

「魅力的な女性がいるのに何もしないのは失礼じゃないですか」

「はいっ?」

「あっ、だからといって手を出していない真由美ちゃんが魅力的じゃないと言ってるわけじゃないですよ。何事にも順番があるのでね」

 

 すぐには遥の言っていることを理解できないでいた。まるで自分と別の世界から来たような考えの持ち主に唖然とする。

 

「真由美ちゃんも美人でキュートなんですけど、男性と距離を取る癖がありますよね?」

「そんなことは……」

 

 無いとは言えなかった。真由美自身中学生の頃から何度も年上の男性とお見合いのようなことをさせられ、恋愛というものに妙な先入観を持っていた。

 真由美は男女間の友情は存在しないと思っているタイプ。これと決めた男性以外の男とは無意識のうちに距離を取った対応をするようになっていた。

 だからか、克人や服部といった男が傍にいても靡くことなく噂になることもない。

 

「最近だと真由美ちゃんは達也君と噂になってますけどね」

「えっ!?」

「真由美ちゃんが達也君に惚れたから生徒会長の権力を使って風紀委員に入れたとか、無理やり九校戦のエンジニアにねじ込んだとか言われてますよ?」

「本当に!?」

「はい。まぁ俺が言われてるような噂と似た感じですかね」

 

 真由美は遥以上に妬みや僻みを持たれている。ただ相手は十師族であり、直接言うことはできないが、負の感情を持たれていることに違いはない。

 

「それで真由美ちゃんは達也君の事が好きなんですか?」

「別に好きとか嫌いとか、そんな感情はないわ……」

「そうなんですか。じゃあ俺の事は好きですか?」

「どうしてそんなことを聞くのかしら?」

「俺が真由美ちゃんのことを好きなので、真由美ちゃんは俺のことどう思ってるのかなぁって」

「なっ……」

 

 どうしてそんな簡単に好きとか嫌いを告白できるのか、真由美は遥の性格を羨ましく思う。

 

「好きですか?」

「……」

「嫌いですか?」

「嫌いじゃあ、無いわよ。ただ、複数の女性とそういう行為をするのは好ましく思わないわ」

 

 遥やその恋人たちが例外であって、真由美の考えが一般的である。

 

「今は法律で重婚が認められていますよ。真由美ちゃんの考えは違うってことですか?」

「あれは愛人や浮気相手の存在を正当化するだけに作られたものよ。重婚できるからといってそれを使う人はいないでしょうね」

「真由美ちゃんがそんなこと言っていいんですかね……」

 

 思わず遥も苦笑いを浮かべる。現状十師族にしか適用されない制度。最近では重婚制度について法改正の動きがみられるが遥の知るところではない。

 

「……あなたまさか、重婚制度を使って!?」

「俺は十師族じゃないので重婚制度は適用されませんよ。真由美ちゃんと結婚すれば重婚できるようになるんですけどね」

「……そのために私を口説いてるの?」

「ふふっ、そんなわけないじゃないですか。俺は本心から真由美ちゃんが好きだから告白してるんです」

 

 もはや真由美には遥の声は届いていなかった。

 遥が重婚制度を使うことを目的だと考えれば全ての辻褄が合う。

 

「私はあなたとは恋人になりませんし結婚もしません」

「ふっ、あ~フラれちゃったなぁ。悲しい」

「本当に悲しいと思ってるのかしらね」

 

 遥の悲しむ演技に真由美が訝しがる。

 

「それに気づいているかしら?」

「何にですか? さっきから真由美ちゃんが俺の事を名前じゃなくてあなたと呼んでることですか?」

「っっ、気づいていたのね」

「まぁ何となくですけど」

 

 入学してから稼いできた真由美の好感度が地の底まで落ちていた。だが遥には秘策があった。それこそ大逆転の一手が。

 

「真由美ちゃんが俺の事を軽蔑しようと、俺が真由美ちゃんのことを愛する気持ちに変わりはないですけどね」

 

 先ほどは頬が赤く染まっていたのに、真由美の頬に変化はない。

 

「真由美ちゃんに振られたって言って摩利ちゃんに慰めてもらうので良いですよ」

「っっ、それは……」

「え? どうしたんです?」

「摩利にも手を出すのは止めてもらえないかしら?」

「え~そんなこと言われましても、俺だけじゃなくて摩利ちゃんも望んでることなのでね」

 

 真由美は友達想いの優しい人間であるが故の隙。

 

「真由美ちゃんがどうしてもって言うなら、摩利ちゃんとの関係を止めますけど」

「えっ?」

「ただし、条件がありますけどね」

 

 悪魔の条件の提示。摩利はこれで堕ちたが、真由美はどうなるだろう。

 

「条件?」

「はい。俺と摩利ちゃんはいわば相思相愛の関係なんですよ。それを断ち切るのは容易なことじゃありませんし」

 

 今日一番の深い笑み。そして遥の口が開く。

 

「だから摩利ちゃんの代わりに真由美ちゃんが俺の相手をしてくれるというのなら考えないこともないですけど」

「そんなおかしな話を飲むわけないでしょう?」

「ですよね。じゃあ他の提案をしましょう」

 

 遥は指を一本立てる。

 

「一本勝負。真由美ちゃんがこれに勝てば俺は摩利ちゃんとの関係をきっぱり断ち切ります。が、俺が勝った場合は俺と摩利ちゃんの関係を誰にも言わないと誓ってもらいます」

 

 真由美にとっては悪くない条件だ。勝負の内容にもよるが、自分が負けるはずないと自信に満ちていた。

 勝負の内容を尋ねた。

 

「そうですねぇ、じゃあ十分間声を我慢するって勝負はどうですか?」

「声を?」

「はい。会話くらいならいいですけど、さっきの摩利ちゃんみたいに声を荒げたら負けですよ」

「……摩利と同じことをするつもり?」

「いいえ。真由美ちゃんみたいな綺麗な人にあんなことができたら幸せなんでしょうけど、それは真由美ちゃんが求めてからにしておきます」

「まるで私が求めるみたいな言い方をするのね」

「まぁ未来は誰にもわかりませんから」

 

 

―――

 

 

「本当に十分間抱きしめるだけで他には何もしないのよね?」

「はい。約束しますよ。もし変なことをすれば俺の負けでいいですけど、頭を撫でたり背中を摩ったりするのは許してくださいね」

「それくらいならいいわよ」

 

 私だってパーティーで男性と踊った経験はある。手を握られたり背中を支えられるくらいわけないわ。

 

 摩利の目を覚まさせるために遥くんから勝負を持ち掛けられた。

 勝負の内容は『十分間声を荒げないこと』

 

 声を我慢したとしても喘いだり吹き出したりしてはいけない。

 

 どう見ても私に有利な勝負。遥くんは勝算があるようだけれど、声を我慢することくらい余裕よ。

 さすがに摩利がされていたような行為をされたらわからない。あの摩利があそこまで乱れるのだから初めての私が耐えられる保証はない。けれど抱きつかれるだけなら絶対に声を出さない自信がある。

 

 お見合い相手の聞きたくもない話を聞いている時のような無の状態でいればいい。男性は少しでも反応してしまえばソコを突いてくる生き物だから平常心を保たないと。

 

 私は十師族、七草真由美よ。異性の前で品格に欠けるようなはしたない言動を見せるはずがない。

 

「じゃあ近寄るのでCADから手を放してもらえますか?」

「……ええ、そうね」

 

 ここで遥くんの死角から魔法を放ったらどうなるのかしら。そんな歪な考えが浮かんできたけど、大人しくCADを付けた腕を下ろす。

 遺恨の残さないよう正々堂々と勝負しましょう。

 

 遥くんが傍までやってくる。改めて並んで立つと大きいのね。頭一個分ほど私よりも背が高い。けれど十文字君ほど圧力や威厳のようなものはを感じない。

 

「あっ……ちょ、ちょっと、いきなりはズルいんじゃない?」

「あぁごめんなさい。真由美ちゃんが可愛かったのでつい手が出ちゃいました」

 

 急に頭を撫でられたものだから声が出てしまった。

 今のは不意打ちだからノーカウントだ。しっかりと気を引き締めてかかれば問題ない。

 

「それでは今から十分間始めますね?」

「ええいいわよ」

「十分経ったらアラームが鳴るので、真由美ちゃんも確認してください」

 

 端末を見せてもらうと確かに十分のタイマーが設定されていた。私は指で遥くんの端末を押すとタイマーが動き出した。

 

「これで今頭を撫でた分は帳消しにしてあげる」

 

 十秒が経った。少しズルいかもしれないけど、このくらいは許してくれるわよね?

 

「わかりました」

 

 タイマーは動き出しているというのに遥くんは動こうとしない。それどころか私の目を見たまま微笑んでいた。

 

「抱きつかないの?」

「はい。今は真由美ちゃんのことをよく見たいので。こんな機会でもないと真由美ちゃんのことをよぉく見れませんから」

「そう」

 

 横目でチラ見されたり舐めまわすような視線を送られたことはあるけれど、こんな風に純粋な瞳を真正面から向けられたことはない。これなら早く抱きしめられた方がましだ。

 

 目を逸らしたら負けなような気がして目が離せない。この時間を伸ばせば伸ばすだけ私の勝ちが近づいてくる。

 

「やっぱり真由美ちゃんは綺麗な瞳ですよね。宝石みたいでずっと見ていたいです」

「そうかしら? ありがと」

「あ、信じてないですね? 本当ですよ。俺が真由美ちゃんのことを好きになったのはこの目に惹かれたからかもしれません」

 

 この数ヶ月で遥くんの甘い言葉には慣れた。いまさらどう見繕っても照れたりはしない。

 

「白雪のような肌だ」

「ンッ……」

 

 触られるのには慣れていないけど声は我慢できた。

 

 頬に手を添えられ顔が近づいてくる。遥くんの整った白い肌が視界いっぱいに広がり、彼の瞳に私の姿が映る。

 

「俺って真由美ちゃんの笑った顔が好きなんですよね。今のような照れて頬が赤く染まった表情も可愛らしくて好きですけど、笑った顔が一番です」

「照れてなんかいないわよ」

「ふふっ、自分では気づいていないと思いますけど、顔が真っ赤ですよ?」

「え、嘘!?」

「嘘です」

「っ……」

 

 くっ、年下の男の子に揶揄われるなんて。

 

「あ、でも今は顔が赤くなりましたね」

 

 もうその手には乗らない。遥くんは私の動揺を誘って勝負を決めに来る気だわ。駆け引きなら負けない。

 

「このままキスしたいですけど、それじゃあルール違反で俺の負けになっちゃうので今は止めておきますね」

「キスしてもいいのよ?」

「ふっ、いいんですか?」

「ええ」

 

 私のキスで摩利が救えるのなら……。ただしキスした瞬間、後頭部にドライ・ブリザードをぶつけられても知らないんだから。

 

「遠慮しておきます。デザートは最後まで取っておく主義なのでね」

「そう、残念だわ」

 

 本当に残念。

 

「真由美ちゃん。好きです」

「……」

「ふふっ、じゃあそろそろ失礼しようかな」

 

 遥くんが動いた。両手を広げ、私の背中に腕を回してくる。肩と腰の辺りに手が伸びてきたと思ったら、一瞬のうちに私の身体が遥くんの腕の中に包まれていた。

 

 見た目にはわからない厚い胸板。硬くもあり、弾力のある筋肉質な胸に顔が埋まる。

 そして次に甘い匂いが鼻腔を通って身体に入ってきた。さっきまでの息苦しい空気が一変、優しい刺激が直接脳に訴えかけてくる。

 

「ぁっっ……」

 

 危ないところだった。遥くんの胸元に顔をうずめていなければ声が漏れていたかもしれない。

 

「んんぅっ」

 

 身動きが取れない。

 力いっぱい抱きつかれているというのに痛みはなく、それどころか心地よさ感じる。摩利が望むのもわかる気がするけど、この程度なら妹たちを抱きしめた方が幸せな気持ちになる。

 

「良い匂い」

「ンッ」

「真由美ちゃんって柔らかいんだね」

「ちょっ、と」

「いつも生徒会長として、十師族の一人として頑張ってるんだから、今だけは身体の力を抜いても良いんだよ」

 

 頭の中が遥くんの声に支配されていく。甘い誘惑が何度も頭の中で反響し、呼吸が荒々しくなってきた。

 

「なに、したの?」

「ん?」

「何かしたでしょ? そうじゃなきゃ、こんな……」

 

 どうして心臓の鼓動がこんなに早いのよ。ただ抱きしめられているだけなのにどうして。

 

「大丈夫ですか? 息が乱れてきましたよ」

「ふぅっ、ふぅっ、んんっ」

「真由美ちゃんの息がくすぐったいですよ」

 

 そんなこと言われてもどうしてこんなに息苦しいのかわからない。

 

「酸素濃度減らし過ぎたかな? 俺は大丈夫だしなぁ。ちょっと息苦しいけど」

「えっ?」

 

 どういう意味?

 

「あぁ、この障壁内の酸素濃度を薄くしてるんですよ。その方がより真由美ちゃんの匂いを感じられると思いましてね」

 

 だから最初から息苦しかったの? 気のせいじゃなかったのね……。

 

「ルール違反よ」

「酸素濃度を低くしちゃいけないってルールはありませんよ。確認しなかった真由美ちゃんが悪いんです」

「そんなの、んぁっ」

 

 だめ、今強く抱きしめられたら声が漏れる。

 

 急いで遥くんの胸に顔をうずめるが、すぐに顔を上げる。

 

「凄くエッチな顔してますよ? そんなに苦しいですか?」

 

 うるさい。そんな顔してないわよ。

 

「口から涎が垂れてますよ。ほら、こんなにねばねばした涎が」

「はぁっ、はぁっ……ちがぅ」

 

 まだ十分経っていないの? 一時間以上経っている気がするのにアラームの音は聞こえてこない。

 

「真由美ちゃんからキスしてくれたら酸素濃度を通常に戻してあげてもいいですよ」

「……」

「どうしますか?」

「頬でもいいかしら?」

「駄目ですよ。ちゃんと唇にしてくれないと」

 

 駄目。お付き合いもしていない男性と口づけなんて破廉恥だわ。

 

「あぁ、まだ五分しか経ってないですねぇ。真由美ちゃんは耐えられるかなぁ?」

「うそ……」

「ホントですよ。ほら」

 

 まだ半分しか経っていないというの? 無理だ。息が苦しいだけならまだ耐えられる。けれど、吸う息吸う息全てに彼の甘い匂いが混ざっている。

 匂いを嗅ぐたびに身体の力が抜けていき、遥くんに抱かれないと立っていられなくなってしまう。

 

 息が絶え絶えになり、いつ私の負けを宣告されてもおかしくない状態になっている。

 

 これが摩利を虜にした宮守遥の誘惑。信じがたいけれど、これは非常識にもほどがあるわよ。

 

「屈んでくれる?」

「はい。喜んで」

「恥ずかしいから目を瞑っていてくれない?」

「わかりました」

 

 遥くんの顔が目の前にある。

 

 キスしたら遥くんの負けというルールは、遥くんからキスした場合のみ適用される。私からしたキスは無効ってことなのよね。

 でもちゃんと呼吸ができるようになれば勝負には勝てるはず。

 

 キスなんて言ってしまえばたかが粘膜と粘膜の接触よ。

 どうせいつかはするのだから誰も気にしない。ただ、初めてが経験豊富な遥くんというのが少しだけ嫌。他の子と比べられそうで、下手だと思われたくない。

 

「……」

 

 遥くんって目を瞑っていればカッコいいのよね。目を開けていてもカッコいいんだけれど、黙っていれば敵なしね。

 

 遥くんの前髪を手でかきわけ、頬に手を添える。

 私も、そして遥くんの心臓の鼓動もドクンドクンと大きく脈打っている。彼も緊張している。

 ここはお姉さんらしく堂々とキスして、勝負にも勝とう。

 

 私と遥くんの距離がゼロになり、唇に柔らかな感触が伝わってきた。

 

「んっ」

 

 意外と素っ気ないものなのね。確かに唇は柔らかいし気持ちいいと思う。でもそれだけ。

 

 やっぱり愛する人とじゃないと高揚感は味わえないみたい。

 唇を離そうと顔を下げようとするが下がらない。

 

「ンンンッッ!!?」

 

 クチュ、チュクッ……ちゅぷっ。

 

「ちょっ、ンァッッんっ……らめっ、んぁっ、はりゅ、か、くんっ……クチュぁ、ちゅっ、ちゅ」

 

 後頭部を手で押さえられて頭を固定させられた。もう片方の手は私の腰を抱き逃げることができない。

 

 唇をこじ開けるように遥くんの舌が私の口の中に入り込んできた。好き勝手私の口の中を犯すと、舌を絡めてくる。気持ち悪いほど長い舌だ。きもちぃい。

 

「んんぁっ……ちゅぷっ、ちゅっ、はぁっん……くるしぃ……はぁっ、んぁっ、ンンンンッッ!!!」

 

 息が続かない。頭の中が真っ白になってきた。もう何も考えられない。

 今の私にできることは遥くんの身体に抱きついて、彼の舌を受け入れることだけ。

 

「ぁまいぃっ……んんっ、んぅっ……」

 

 遠ざかる意識の中で、口の中に広がる甘みだけは感じることができた。

 とても甘い。蜜の味。これがキスの味なのかと、大量の蜜が私を溺れさせる。

 

「はぁ、真由美ちゃん、好きだよ」

「……んはぁっ、はぁっ、んんぁぁっ、んんふっん……はぁっ」

「ちょっとごめんね。あと一分しかないから声を荒げてもらうよ」

「ふぇっ?」

 

 遥くんの両手が私の首に伸びる。そして……

 

「ぁっ……かっ……ぁぁ、っ……んぁっ」

「まさか真由美ちゃんの性癖が首絞めプレイとは思わなかったよ」

 

 

―――

 

 

「ぁ、ぁぁッ……ぁっ」

 

 原作で主人公やハンゾー君を揶揄うような小悪魔的な真由美ちゃんの姿は無い。俺の目の前にいるのは首を絞められて感じているドMな生徒会長だった。

 

 目からは涙を流し、唇からは涎が垂れている。

 

 首絞めックスはまだ体験したこと無いけど、初めてが真由美ちゃんになるとはね。女の子のか細い首を絞めるというのは怖いモノがある。

 つい力の入れ方を誤ると折れそうで怖い。だが、こんなにも下品で猥褻な表情を見せてくれるならアリかもしれない。

 

 『鑑定』で真由美ちゃんの性癖を視た時は驚いたよ。まさか性癖に『首絞めプレイ』と書かれているとは思わなかったし、真由美ちゃんも自分の性癖に気づいていなかった。

 

 さすがにこれ以上首を絞め続けるとおかしくなっちゃいそうだから止めておこう。

 

 白い肌が真っ赤に染めあがり、目の焦点が合っていない。

 

「ごめんね真由美ちゃん。愛してるからこそ真由美ちゃんには気持ちよくなってほしかったんだ」

 

 地面にへたり込んでしまった真由美ちゃんの頭を優しく撫でる。

 過呼吸気味に肩で息をしているが、そんな真由美ちゃんの下腹部にそっと手を添えた。

 

 タイマーは三十秒を切っていた。

 

「凄く気持ちよくなるからね」

「ふぇぇ? ハァっん、はぁっ」

 

 俺の誕生日の時に購入したはいいけど、効き目が強すぎて普段は使わないようにしている『指電マ』を発動。

 

「えっ……ひゃぁぁぁっッッッ!!!!?」

 

 最強の振動力を誇る指電マ。『舌ローター』の超強力版でクリトリスや乳首に使うと刺激が強すぎて痛みを感じるかもしれないから使うのを封印していた。

 取扱説明書にはマッサージに有効と書いてあったから九校戦前にほのかちゃんたちに試してみよう。

 

 それを首絞めプレイで敏感になった真由美ちゃんの下腹部に当てた。

 下腹部と言っても間接的にクリトリスや膣に振動が行くように調整したから我慢しようと思っていても耐えられなかっただろうね。

 

 真由美ちゃんは絶叫。

 駄目押しの快感を得たように悲鳴まじりの悦の声を発し、白い頸を長くのけ反らせた。弓のようにたわめて、ビクンビクンッと総身を慄わせながら真由美ちゃんの身体が一気に崩れてくる。力を失い俺の胸元に倒れこんだ。

 

 と同時に俺の勝利を祝福するように十分間に設定したアラームが鳴った。

 

「俺の勝ちですね」

「んぅっ」

「真由美ちゃんも気持ちよくなりたかったら俺を呼んでくださいね。俺はいつでも駆け付けますよ」

「らめっ……ぇっ」

「いいんですよ。気持ちよくなるだけです。マッサージと同じですよ。試しにもう一度体験してみますか?」

「だめぇっ……だめ、だからぁ」

 

 この拒絶はイキ疲れによるものなのか、それともまだ理性が残っているのか。

 

「決着はついたのでキスしても問題ないですよね?」

「ぇっ?」

「触れるだけです。何も怖くありませんよ」

「ほんとに?」

「はい。さっきは突然身体がおかしくなって怖かったですよね? ごめんなさい。でもこのキスは気持ちいいだけなんですよ?」

「……んぅ、ちゅっ」

「ふふっ、どうですか?」

「わからない、わ」

「じゃあわかるまでキスしましょう」

 

 幼児化したように、絶頂した後の真由美ちゃんは警戒心の欠片もなく、素直に俺とのキスを味わっていたように見える。

 

 何度も、何度も唇を重ね、時には舌を絡めながら日が暮れるまで甘い時間を過ごした。

 

 明日にでも素面の状態の真由美ちゃんに告白してみよう。きっといい返事がもらえるに違いない。




5人目ではありませんでしたが時間の問題ですね。九校戦が楽しみです。

2ヶ月で30万字達成。皆様の温かいご声援のおかげです。誠にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします!

【次回の投稿は1月25日19時予定です】
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