例年通りであれば、宿舎の部屋割りは学校の代表者が決めることになっている。学校によっては教師が決めることもあるが、ほとんどの魔法科高校では選手の代表が決定権を持っている。
今年の一高であれば、女子は真由美が、男子は克人がその役割を務めることになっていた。
基本的に二人一部屋。二人が希望すれば同じ部屋になることができるが、そうでない場合は真由美らが決める。
タダの部屋割りではない。
これが意外と重要で、魔法師は精神面の状況で魔法の発動に影響を及ぼすとされている。それがまだ精神的に未熟な高校生なら尚更その影響を濃く受けやすい。
そのため、相性の悪い生徒同士が同じ部屋になってしまったら最後、競技にも影響が出てしまうのだ。
これまでにも『同じ部屋の奴のイビキがうるさくて眠れなかった』『夜遅くまで騒がれたせいで寝不足』『すぐに部屋を汚す』『臭いが……』などの苦情が代表に届いたことがある。
また、同じ競技に出る生徒を同じ部屋にしないなどの暗黙の了解などもあるらしい。
先輩方のソレを見てきた真由美と克人は、選手選考以上に頭を悩ませるのではないかと危惧していたが、今年は一高に救世主が入学してきた事で、その悩みが解決された。
九校戦で選手たちが泊まる宿舎は宮守グループが保有するホテルだ。
表向きは軍の施設となっているが、設備資金や運転資金などは宮守グループが支払っているため宮守グループの言うことを聞かざるを得ない。
それが軍事機密だったり、軍の内部の情報提供などであればきっぱりと断ることができるが、今回のような部屋割りでは、遥が親の権力を使ったことで一高に多少の忖度がなされていた。
当然だが、このことは軍内部でも限られた人間しか知らないため情報が漏れることは無い。
一高の生徒に限り、一人部屋も選択することができたが、ほとんどの生徒は例年通り二人部屋を選んでいた。
例外をあげるとすれば、達也や深雪、遥やほのかに雫だろう。前者は一人部屋を選択し、後者は遥によって最高級スイートルームが用意されている。
ちなみにエリカや美月も遥の手配でスイートルームに泊まることになっている。
そして遥がほのかや雫に用意したスイートルームは宿舎の最上階となっていた。
壁一面がガラス張りとなり、九校戦の会場はもちろんのこと、富士山が一望できる空間が広がっている。
ほのかと雫は部屋に到着するや否や、唖然とした表情で感嘆とした声をあげた。
「うわぁっ」
「凄い綺麗」
二人は魅惑された状態で遥の腕に抱きつく。
「夜になればまた違った富士山が見られるかもね」
日本の最高峰を一番近く、一番高いところから眺めることができるのはここだけ。
遥の所有するヤリ部屋とは違った風情ある景色を三人の視界が捉えていた。
「他の人もこんな良い部屋なのかな?」
「……ロビーの人がハルカに挨拶してたけど、もしかしてハルカが?」
「さぁ、何の事かな」
素っ惚ける遥の表情を見て二人は察した。
唇を三日月状に変化させると悪い事を、眉を上げて笑うと素っ惚けるといった具合に、遥の事は彼女たちに筒抜けだ。
「はる君、ありがとうございますっ!」
「ハルカ、ありがと」
「ははっ、やっぱり誤魔化せないか」
遥の腕に抱きつく力が強くなり、ほのかの胸が押しつぶされる。
「どれだけ一緒にいると思ってるんですか?」
「小学四年生の頃からだから六年ちょいくらい?」
「二千三百四日だよ」
「え?」
「冗談。適当に言っただけ」
「……だよね」
「うん」
雫のユーモア溢れるジョークに遥とほのかは目を丸くする。さすがにほのかも日数までは知らなかったようだが、冗談という事を知り『もう雫ったら!』と笑っていた。
「ハルカもここに泊まるんだよね?」
「いや違うけど?」
「えっ」
『え』に濁音が入ったような雫らしからぬ濁った太い声を出す。
「違うんですか!?」
「うん。俺の部屋はまた別に取ってあるよ」
「え、でもこんなに大きいんですからはる君も一緒に過ごしたらいいんじゃないでしょうか?」
「ここは一応軍の施設だからね。結婚前の男女を同じ部屋にするっていうのは色々と問題があるんだよ」
「で、でも……その、私たちは、はる君と……」
「将来的に夫婦になったとしても今はまだ結婚前だからね」
「夫婦……えへへ」
『夫婦』という単語を聞いてほのかの頬がだらしなく緩む。先ほどから二人とも喜怒哀楽の表情の変化が忙しくなっている。
「それにほのかちゃんだけならまだしも、雫ちゃんと俺の関係を軍に知られるのはマズイからね」
宮守グループの保有するホテルだが、監視システムだったり、警備データは軍へと送られる。
遥が仲の良い友人のために高級ルームを用意するのと、一緒の部屋に泊まるのとではわけが違う。
軍によからぬ詮索をされないためにも、名目上は別の部屋を用意する必要があった。
「俺の部屋は別にあるけど、そこで過ごさなきゃいけないってルールがあるわけじゃないからね」
「……ハルカ」
「はる君、それってもしかして……」
「二人がよければ俺もここで過ごそうかな」
「はいっ!! はる君も一緒が良いですっ!」
「駄目なはずがない」
両腕が解放され、今度は遥の首に抱きつくようにほのかの両腕が回った。雫は遥の腰に抱きつき、二人が正面から見上げる形となる。
遥の胸元が幸せな状態になり、上目遣いで見つめられることで性欲値が上昇していく。
「バスの中で雫とキスしてましたよね?」
「そうだったかな?」
遥の眉が上がる。
「……深雪に見られないようにするの大変でした」
「そうだったね、ありがと」
「ですのでご褒美が欲しいですっ」
「うーん、そうだなぁ。じゃあ九校戦が終わったらブランドのバッグでも買いに行こうか。それとも前にほのかちゃんが食べに行きたいって言ってたイタリアンレストランに行く? それとも――」
「全部いりません! 私が欲しいのは……ンッ」
ほのかのかかとが浮き、遥の顔へと自身の顔を近づける。
雫の眼前で艶めかしい男女の交わりが始まった。彼女はジッと二人の唇が重なるのを眺めるだけで何も言わない。ただ、遥の腰に抱きつく力が強くなっただけ。
「んちゅぅっ。ぷはっぁ」
唾液が糸をひく。ほのかの性的スイッチが入ってしまった。
「今からエッチなことしちゃったら夕方の懇親会に出られないかもしれないよ?」
「懇親会よりはる君との時間の方が大切です」
「ふふっ、嬉しいけど、さすがに学校行事をさぼるのは良くないね」
「じゃあ悪い子にはお仕置きしないといけませんねっ!!」
何かと理由を付けて性行為しようと目論むが空回りしてしまう。
「駄目だよほのかちゃん。今はキスだけで我慢しよう?」
「ぶぅ~」
頬を膨らませて不満顔になる。それを指で突くと唇の隙間から息が漏れた。
「ほのかがキスしないなら私がする」
「だ、ダメッ! 雫はバスの中でキスしたから私がする!」
「でもほのかは朝エッチしてた」
「うっ……」
懇親会までは時間に余裕がある。それこそ三人で乱れたとしてもシャワーを浴びる時間も確保できるだろう。
しかし、行為後の艶のある色っぽい二人を他校の生徒に見せるのを遥が嫌った。同校の生徒であれば優越感に浸れるが、実に独占欲の強い男である。
「懇親会が終わったらいっぱいエッチしよ? それじゃ駄目かな?」
「……わかりました」
「じゃあ懇親会までホテルを見て回る?」
この宿舎は現在、軍の施設となっているが、元々はホテルとして建てられたものだ。そのため温泉や遊技場、バーなど様々な娯楽場も備わっている。
食事は毎回ビュッフェ形式で好きな時に食べることができ、かつ九校戦の会場にある屋台で食べることも可能。
ホテル内を散策するだけで時間が潰せてしまうが、そんな呑気なことをする者はいないだろう。ここには観光に来たわけではないのだから。
「あまり大したものは見れないかもしれないけど……んっ、ちゅぷぅ」
くちゅり、ちゅっ、ちゅぷっ、と再び遥の唇がほのかの唇に塞がれた。そして雫も遥の指を口に含んだ。
甘い水音が響き渡る。
舌が絡み、唾液の交換が行われる。
ねっとりとした舌が遥の口腔を侵し、快楽と同時に甘みが口の中に広がっていく。
遥は横目で部屋を見渡し、寝室のある部屋へと二人を誘導する。
寝室にはキングサイズのベッドが二つ並べられていた。それを移動と吸収系統の魔法を使い二つのベッドを繋げる。
二つ繋げても遥たちの家のベッドよりは小さいが、それでも三人が横になっても余るほどの大きさはあった。
雫はそれを確認するとほのかごと遥をベッドに押し倒した。
自動的にほのかと雫の身体が遥の身体に乗る形となり、遥の上着が脱がされる。
「エッチしなければいいんですよね?」
「キスはエッチなことじゃないの?」
「キスはコミュニケーションです!」
「……なら仕方ないね」
「はいっ!」
満面の笑みを浮かべながら遥の首筋へと吸い付いた。無意識なのか、意識しているのかわからないが、ほのかは自分の股を遥の下腹部に擦り付けるよう小刻みに動かしながら忙しなく舌が動く。
今度は雫が遥の唇を奪った。
バスの中では音を出さないように抑制しながらキスしていたが、その制約が解き放たれた雫の唇は、早食いしているかのごとく遥の唇を貪りつく。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅぷぁっ……くちゅっ……。
「好き、ハルカ、好き」
「んふっ、バスの中では我慢してたんだね」
「うん」
キスが好物の雫にとって、音を出さないように自分を抑えながらするのは生殺しに近いモノがあったようだ。
中途半端にキスをしたせいで身体の感度が高められ、快楽を求めて遥の唇を喰らいつくそうとしている。
「ちゅ~~っ、ちゅぱっ」
ほのかも負けずと遥の首に吸い付いていた。
キスマークを付けると今度は別の場所に吸い付き痕を残している。
この後に懇親会があるのだが、シャツを着ても隠すことができないほど遥の首筋には大量の痕が付けられていく。
そして首筋では満足しきれずシャツのボタンを外していき、鎖骨や胸元にも口づけしていった。
「ハルカも吸って」
「わかったよ」
「んぁっんんっ……くちゅぅっ、ぁんっ」
雫の唾液が全て遥の口の中に吸い込まれていく。
吸われるたびに身体の力が抜け落ち、掠れた叫び声を遥の口の中で上げる。
「あっ、ンンンンゥゥッ」
乱れた胸の鼓動がより大きくなった。雫の上半身がピクピクと痙攣するようにひくつき、吸うのを止めても重力に従って雫の唇から粘液が遥の口へと落ちていった。
結局懇親会まで三人は性行為はしなくとも、乱れた時間を過ごすのだった。
夕方。
懇親会は立食パーティーとなっていた。
懇親会が行われるホールには、九つの魔法大学付属高校に所属し九校戦に参加する魔法師の卵たちが集っていた。
九校戦参加者はエンジニアなどの裏方も含めると四百名を超える。全員出席が建前とは言え、様々な理由をつけて欠席する者も少なくない。
それでも四百名弱の魔法科高校生たちが一堂に介するのは壮快なものがある。
しかしこれから勝敗を競う相手と楽しく立食パーティーをする気持ちにはなれず、例年緊張感あるパーティーとなる。
そんな中、休んでも良いのなら恋人とベッドの上で懇親会をすればよかったと後悔している人物が若干名いた。
そのうちの一人。
参加者の中で唯一といっていいほど首筋に大量のキスマークを付けた少年。
しかしほとんどの者は首ではなく目立つ髪の毛や整った容姿に視線が向けられるため、キスマークに気づく者はいなかった。
それに初対面の相手に『首の痕はキスマークですか?』などと聞ける人がいるはずもなく、まさか懇親会の前にそんな乱れたことをしている生徒がいると思うわけもないため、彼の心配事は杞憂に終わる。
ただし相手が初対面の相手であればの話。遥とほのかが熱々カップルだという事を知る一高の生徒はその限りではない。
遥の首を見て、それがキスマークだと気づく生徒が出るかもしれない。そう思った遥は一高の集団から離れて敵情視察へと出かけていった。
「ねえあれ、クリムゾン・プリンスじゃない?」
「え、あの十師族『一条』の王子様!?」
「素敵よね……こんな間近で見られて嬉しいわ」
緊張感があるのは経験者である二年生や三年生たちばかり。今年初めて参加した一年生たちは、新人戦がまだ先ということもあり、緊張よりも興奮が勝っていた。
他校の異性を見ては品評会のように品定めをしては盛り上がりを見せていた。
「あれはエルフィン・スナイパーの七草真由美さんじゃないか!?」
「うわぁ初めて見たけど美人だなぁ」
「ぜひお近づきになりたいぜ」
「ははっ、お前じゃ無理無理」
「だよなぁ」
主に注目を浴びるのは容姿が整った者たち。特に今年は例年よりも二十八家の人間が多く出場する為、彼らに視線が向けられるのは必然だった。
目の保養とばかりに遠くから彼らを眺め、それをつまみに楽しんでいるようだ。
見て楽しむだけで実際に十師族の人間に声をかける猛者はない。
十師族の人間には。
「あっ、アレ三高の一色愛梨さんじゃないか?」
「まじ? あのエクレール・アイリ!?」
「俺ちょっと声かけてくるわ」
「あっずりぃっ!」
一人の男子が退屈そうに突っ立っている女子生徒へと駆けていく。
はたして彼は勇者なのか、愚者なのか。
「あの、三高の一色さんですよね? よかったらお話でも……」
「あなた十師族? 百家? それとも何かの優勝経験は?」
「えっ、あの、特にそういったものは……」
「なら話すだけ無駄ね。さようなら」
鋭い視線に険のある言い方をされた男子は言い返すこともできずにその場でガックシと項垂れる。
男子生徒は勇者かもしれないが、少なくともお姫様には認められなかった。
女子生徒はその場を離れ、同じ制服を着た女子らと合流する。
「やれやれ、愛梨は相変わらず厳しいのう」
「話す価値すらないもの」
「愛梨のお眼鏡に適う人物など一条か、一高の十文字殿くらいしかおらんじゃろ」
「いえ、もう一人……」
「おー愛梨ちゃんじゃん」
「っ!?」
グラス片手に柔らかな笑みを浮かべながら女子生徒らの元に近寄る一人の男子生徒。周囲の人間は『またか』と可哀想な視線をその男に送る。
「み、宮守遥……」
「久しぶりだね愛梨ちゃん」
新キャラ登場。
今月もありがとうございました。
2月も頑張ります。
【次回の投稿は2月2日19時予定です】