今回は説明が多いです。
イジメの現場に乗り込んだ後。
ほのかちゃんを救い出した後、俺たちはその足で職員室に向かうと全てを暴露した。ほのかちゃんは大丈夫だと言っていたが、俺と雫ちゃんの腸が煮えくり返るほどの怒りをぶちまけた。雫ちゃんは無表情だったが身体中から放つ殺気が凄まじく、怒らせてはいけない人間だと察した瞬間でもあった。
学校側としてはイジメ問題に敏感であり、しかも被害者が魔法師側の人間ということでてんやわんや状態に。最近では魔法師と非魔法師の対立問題が社会でも問題になりつつある状況で大袈裟にしたくなかった学校側が穏便に済ませようと走り回っていた。
その結果、加害者連中は他県の学校に転校していった。表向きは他県の中学校に受験するため引っ越すという理由だったが、大体の生徒たちは察していると思う。次は自分たちがそうならないようにと俺たちに関わることは減った。
無事事件は解決。と、思いきやあの反魔法主義者である担任が最後までオオサキや俺を殴った男子を庇っていたのが気になった。そこまで魔法師を毛嫌いする理由は何なんだろう。
学校側はこれ以上騒ぎを大きくしないようにと釘を刺していたにもかかわらず、担任の発言がエスカレートしていったために彼も俺たちが六年生に進級する前に学校から去っていった。クビになったのか異動になったのかは定かではない。
イジメの件以降というもの、ほのかちゃんの両親とも知り合うことになり半ば親公認のような仲になった。だが俺が雫ちゃんに告白した過去があり、ほのかちゃんもそれを気遣ってか中々距離が縮まらずもどかしい日々を送っていた。
そうして友達以上恋人未満の関係が小学校を卒業するまで続き、俺たちは中学校に進学した。
国立魔法大学付属第一高校通称魔法科高校にみんなで合格しようを合言葉に俺たちの魔法の修行は続くだろう。
中学生になって初めての夏休み、俺は一人飛行機で沖縄に向かっていた。
この世界に転生して初めての飛行機は心躍る感動など味わえず、どちらかといえば心が波立ち騒いで落ち着かない気分だった。
父の経営するホテルで社会勉強という名のバカンスにやってきたが、本当の目的は別にある。
ウィークリーミッション:『司波深夜を守れ』
これが真の目的である。なぜ彼女なのかはわからない。妹の四葉真夜を救ったから姉も救えということなのか。
司波深夜は人造魔法師実験で自分の息子である司波達也に仮想魔法演算領域を植え付けた人物だ。
四葉真夜が誘拐された時に、誘拐され強姦の記憶を精神構造干渉魔法で緩和し、過剰に魔法を行使したため身体を壊してしまったとされている。
さらに
だが俺にはそれを解決する手段を持っていた。
沖縄入りした俺はホテルで生活しながら、追憶編が始まるのを待っていた。そしてこのホテルで黒羽家が主催するパーティーが行われた。
俺はウェイターとしてパーティーに潜り込み、彼らの情報を探ったが特に有益な情報は得られなかった。司波達也と黒羽姉弟が仲良さそうに話していることくらいか。ドリンクを渡すときに黒羽姉弟からお礼を言われた程度で、接触もできなかった。そして司波深夜は不参加だった。
その翌日から俺は占い師の格好をして、彼らが乗るであろうクルーズ船の前に陣取った。
軍に伝手が無い以上、軍隊基地に入ることはできない。司波深夜と接触するにはこれが一番手っ取り早く、堅実だろう。
実戦経験のない俺では足を引っ張るのがオチだし、司波達也と共闘して大亜細亜連合の侵略を止めることは不可能。ならば彼らの記憶に残るイベントを用意すればいい。
クルーズ船に乗るためには必ずここを通る必要があり、それで彼らと接触する。
原作通り彼らはクルーズ船へとやってきた。運転手とその補佐の人間は先にやってきて準備をしている。そして少し遅れてから彼らがこちらの方へ歩いてくる。
司波深雪を先頭に司波達也、司波深夜、桜井穂波の四名が視界に入る。
やはりというべきか、俺の姿を確認すると司波達也と桜井穂波がそれぞれの護衛対象を背にしながら警戒態勢を取る。
「何者だ」
無機質な声色が響く。今の俺は司波達也の眼で見られないように、全身に結界魔法を纏っている状態だ。精霊の眼で見られたとしても存在を認識することができないため、司波達也からすれば最大限に警戒する相手に違いない。
「私はしがない占い師でございます」
「占い師がこんなところで何してる」
「はて、おかしなことを聞く方だ。占い、をしております。どうでしょう、占われてみませんか?」
「結構。さあ行きましょう」
関わるが凶と判断したか。だが見逃すわけにはいかない。
「司波達也さん、ですか。そちらの可憐なお嬢様は司波深雪さん。そして桜井穂波さんですか。おぉ、司波深雪さんのお姉さんかと思っていたら母君でしたか、皆さんお美しい方ばかりだ」
司波達也から放たれる殺気がとんでもないことになっている。総毛立つような威圧感が結界越しでも伝わってくるようだ。直に受けてたら失禁じゃすまなかったね。
「どうでしょう。お布施はいりませんから」
「……そうですねぇ、では視ていただきましょうか」
さすが司波深夜。四葉真夜の姉だけあって醸し出す雰囲気が似ている。
「最初はどなたから視ましょうか」
「私からお願いしようかしら」
まさかのボスから。ガーディアンのどちらかだと思っていたが、護衛を置いて占わせるとは度胸があるのか、それとも試しているのだろうか。
机を挟んで正面に司波深夜が座った。そのすぐ横には桜井穂波が立ち、後ろで司波深雪を守りながら司波達也がこちらに睨みを利かせている。
「占う前に一つ、なぜ私たちの名前を知っていたのかしら」
「私には特別な力があるのです。失礼ながらあなたたちを視させていただきました」
「そう」
「まだ信じていらっしゃらないようで」
「そんなことはないわ。現にあなたは私たちの名を当てたではありませんか」
どうせ件のパーティー名簿でも見たのだろ、とでも言いたげな視線だ。もしくは間者だと疑いの目か。
「そうですねぇ、では特別にこちらをご覧ください」
「これは?」
俺が有能だと証明する方法は簡単。彼女たちを呼び止める方が難しいまであった。
彼女の前に小さく折りたたんだ紙きれを置く。本当にただの紙切れだ。
「……っ!?」
「これで私の占いが信じられるものだとお判りいただけましたか?」
「そうね」
ただ一言。『四葉深夜さんへ』と書かれた紙きれだ。その紙きれを彼女は自分の胸の内ポケットにしまった。
「では占いの方を開始したいと思います。お手を拝借してもよろしいでしょうか? どちらの手でも構いません」
「はい」
水晶を使っては彼女たちの手に触れられないし、手相占いが一番肌に触れられる。俺はレンズ越しに司波深夜の手を覗き込む。本当に占いができるわけではないので、手の感触を味わっているだけだが。
「そうですねぇ……」
「何を占っていただけるのかしら?」
「あなたの未来を」
鑑定で司波深夜の情報を読み取る。そこで原作と乖離している点がいくつか見られた。その一つが、司波深夜が魔法の酷使により身体を壊していないという点だ。想子の感受性が高いのは変わらないが、俺が四葉真夜を助けたことで歴史が変わっていた。
「少々想子の感受性が敏感なようだ。それに想子波に対する抵抗力が低い」
「そこまでわかるのですか?」
「占い師ですから」
「……普通そこまではわからないかと」
十年以上原作を読んでないし細かなところの記憶が曖昧になっているが、鑑定が補ってくれる。
「近々あなたに魔の手が襲い掛かることでしょう」
「魔の手?」
「はい。あなたの身体を蝕む脅威が目の前に現れます……この沖縄で」
「どうすればその脅威から逃れられますの?」
司波深夜は口角を上げながら訪ねてくる。だがこんな茶番には付き合いきれないと桜井穂波が司波深夜の身体を支えようと腰に手を当てるが、それを彼女が拒んだ。
「深夜様?」
「この方の占いはよく当たるようですので最後まで聞こうと思うの」
「……わかりました。申し訳ございません」
素直に謝罪できてえらい! 主の顔を立てる護衛の鑑といえる。
「このリングを肌身離さずお持ちなさい。さすれば厄災からあなたを守ってくれることでしょう」
「これが?」
「特殊な力を込めた石が装飾されているのです」
これが俺の秘密兵器。結界魔法の強化版だ。
結界魔法には結界を展開する他にも使い道があった。それがこの石である。
とある日。ポイント残高が五万を超えた瞬間、視界に≪new≫というマークが出てきて『結界魔法を強化しますか?』と表示された。
アイちゃんから贈られた結界魔法は無敵と呼ぶにふさわしく、当時も不満は全くなかったのだが強化という文字を見て即決した。
結界魔法の強化条件が色々あり、『ポイントが50000以上かつその90%を使用することで結界魔法を強化することができる/童貞/ポイントの割合80%が女性との接触で手に入れること』全てを満たさなければならなかった。そして五万ポイント到達時点で偶然すべての条件を満たしていたというわけだ。
最低四万五千ポイントを消費しなければならない。
女性の手を握ることで獲得できるポイントが『1』だと考えれば四万五千回手を繋ぐ必要がある。しかも連続で同一人物の手を握ったり、同じポイント獲得条件を続けて行ってもポイントを手に入れることができないため、このポイントを稼ぐには膨大な時間が必要になってくる。
ポイントを無駄にしてしまうリスクと結界魔法の強化を天秤にかけたとき、結界魔法の可能性に賭けてみた。そして俺はその賭けに勝った。
これによって結界自体が強化されたわけではない。強化されたのは利便性だった。結界魔法の利便性。つまり『携帯化』が可能になったのだ。
従来の結界魔法とは俺が自らの手で操作し設定・発動・解除を行う必要がある。しかし結界魔法の『携帯化』とは結界の設定さえすれば俺の意思とは関係なく、持ち主に危機が迫れば自動的に結界魔法が発動・解除してくれるというもの。
携帯化には結界魔法の副作用とされる性欲値の上昇が適応外で、性欲値が上がることもない。
当然携帯化には条件があり、その一つがいま司波深夜に渡した石である。
設定画面で結界魔法の携帯化を選択すると、結界の設定画面が表示され、設定を完了すると小豆程度の真っ白な石が出てくる。この石を身に着けている間は結界魔法の力を受けることができる。
・従来の結界魔法と同等の防壁効果の付加
・治癒効果の付加
・反射防壁の付加
・病の軽減の付加
など他にも様々な付加が可能となった。石一つにつき一つの効果しか付加できないが、それでもチート能力に違いはない。そして携帯化の結界魔法が発動された場合、その発動した位置情報が俺の方に届けられ周囲の映像を確認することができるという優れモノ。
司波深夜に渡した石に付加された効果は『想子感受性の健常化』だ。治癒効果や病の軽減でもいいのだが、より正確な条件を指定してあげると効果が上がるため、彼女にはこれが相応しいと考えた。
無効化は不可能だが、これにより一般的な魔法師レベルまでには落ち着くことができる。
しかし良いことばかりではない。デメリットも存在し『携帯化』では従来の結界魔法よりも障壁としての能力が薄くなってしまう。それでもファランクスよりも強固な防壁が展開されるのだからチートである。
そして使い捨てなので一度能力が発動すれば石は壊れてしまう。その都度石を精製しなければならない。
「そのリングに付いた石にはあなたの想子感受性を抑える効果があります。無理をしなければ身体を壊すこともないでしょう」
「……お幾らで売っていただけるのかしら」
「お布施はいらないと申しましたので」
「こんな貴重な石をタダで渡してくださると?」
「はい。あなたのような眉目良い女性の手に触れられた。これ以上の対価など必要ありませんよ」
「あら、こんなおばさんにこの石以上の価値があるのかしらね」
「あなたは美しい。本来であればこの石より素晴らしいものをお譲りしたいのですが、申し訳ありません」
「……ふふっ穂波さん。私口説かれているようね」
「深夜様、こんな怪しい占い師の世迷い言など真に受けないでください!」
自分の頬に手を当てうっとりとした表情で俺を見つめてくる。もしかして魔法で誘惑しているのかもしれないが今の俺には効果がない。
「それで指輪ははめてくださらないの?」
「そちらはセルフサービスとなっております」
「あら残念。去年旦那と別れたものだからこの指が寂しくてねぇ、本当につけてくださらないの?」
原作と乖離している二つ目の点。それがいまの発言。
原作だと司波深夜の夫、司波達郎は彼女が死別後に愛人だった女性と再婚したはず。それが既に離婚していた。
身体を壊していないから夫の力が必要なく、四葉真夜とも喧嘩していないからということか? この辺りは鑑定を使っても情報を読み取ることができない。鑑定で読み取ることができるのはあくまで司波深夜に夫がいないことまで。鑑定を強化させればそれも可能となるが、ポイントが足りない。
「次は司波深雪さん、どうでしょうか?」
「私ですか?」
「はい。あなたは司波深夜さんに負けず劣らずのお綺麗な方だ。是非視させていただきたく思います」
「えっと、お母様」
「結局あなたも若い人の方がいいというわけね。自分の娘に嫉妬してしまうわ」
頬を膨らませながら不満気な表情を向けてくる。この人の場合本当にやっているのかわからないから怖い。
司波深雪は戸惑いながらも司波深夜が空けた椅子に座る。司波達也がすぐ傍に仕え、何かすればすぐに消すと言わんばかりの殺気を放ってくるが俺には届かない。
「素晴らしい干渉力の強さだ。これまで私が見てきた人の中でも一、二を争う強さです」
「お嬢様に匹敵する干渉力の持ち主がいたということか?」
司波達也の問いかけには答えない。占い師として人を視たのがこれで二人目なのだから嘘は言っていない。
「あなたは悩みを持っていますね?」
「……」
司波深雪は答えない。俺が司波達也の問いに答えなかった意趣返しのつもりか。
「バーナム効果ですね?」
「ハハハ、聡いお嬢さんですね。では質問を変えましょう。あなたは兄に対してどう接すればいいか迷っていますね?」
「……っ、それは」
「いつも無表情で他人行儀な兄。司波深夜さんもあなたたちを兄妹としてではなく、兄をあなたのボディーガードとして見ている。そんな歪な関係に悩んでいる。違いますか?」
司波深雪の表情は何の感情を表しているのかな。全て見破られたことに対する驚き、恐怖。そのことを兄にバラされてしまった恥ずかしさ。そして昂ぶりか。
「心配することはありませんよ」
「えっ?」
「あなたたち兄妹の関係は他人である私にはわかりませんが、これだけは断言できます。兄という存在は弟や妹を守ろうとする気持ちは誰にも負けないと思ってる。きっとあなたの兄もそう思っているはずですよ。ですから、あなたの方から兄に対して歩み寄ってあげてみてはどうでしょうか?」
「私の方から?」
「はい。司波達也さんはあなたのことを嫌っているわけではない。そうですよね?」
「……答える必要はない」
「確かに答える必要はない。でもね、妹を大切に思っているなら言葉にすることも必要なんですよ? あなたのその一言で彼女の悩みが解決するかもしれません」
「……」
ただのお節介。この後に起こる出来事で二人の仲がどうなるか知っている。だけどそれじゃあ俺が困るんだよね。司波深雪が司波達也にべったりだと俺が彼女を攻略できない。
「俺は――」
「達也、それ以上の発言は許しませんよ」
「はい」
簡単にこの問題が解決するとは思っていない。四葉の問題は根深いところまで食い込んでいる。
「まぁあなたの兄がこんな風に表情を変えないのは司波深夜さんが関係してますからね。あぁ、大丈夫ですよこれ以上は話しませんから」
これ以上口に出せば稼いだ好感度が暴落しそうだ。
「これ以上の話を聞きたければ直接あなたのお母様に聞くことですね。きっと話してくれると思いますよ。それとこれをプレゼントします」
「これは?」
「司波深夜さんに渡したものと同じものです。ただあなたの手にあるサイズのリングを切らしてましてね、これで許していただきたい」
司波深夜に渡したものとは効果が違うけど。
リングにチェーンを通したネックレスを見せる。これは俺が付けるより司波達也に付けさせた方がいいだろうな。いわくつきの物じゃないことを確認する意味でもね。
「あなたがつけてあげてください」
司波達也にも思うことがあったのか、司波深雪の背後に回るとネックレスをつけてあげた。
「とてもお似合いです。少なくとも沖縄を発つまでは身に着けていてください。沖縄を発った後ならば、あとは捨てても燃やしてもかまいませんから」
身に着けていれば死ぬことはない。彼らの関係が変わってしまうかもしれないが兄妹で結婚される未来を変えれるならそれでいい。
「わかりました。お母様の元に魔の手が迫りくることと関係しているのでしょう。この沖縄を発つまでは身に着けることをお約束いたします」
「ありがとうございます」
「司波深雪さん」
「なんでしょうか?」
「どうしても助けが必要な時は心の中で兄の名を呟くといいでしょう。兄は必ずあなたの元に現れますよ」
司波深夜と深雪と接触できたのは大きかった。次に占った桜井穂波は警戒しながらも、外部の人間が知らないことまで俺が言い当てたことで、俺の力を信じてくれた。
彼女の存在が司波達也を強くする。
桜井穂波には長生きしてもらわないといけない。俺は彼女に二つの石を贈った。
去り際に司波深雪が足を止めて俺に尋ねてきた。
「どうして兄を占わなかったのですか?」
だからこう答えてあげた。
「私はあなたたちのような素敵な女性しか占わないのですよ」
司波深雪は表情を変えなかったが、母親の方は不気味な笑みを浮かべていた。
海では水中にお気を付けくださいと忠告して別れた。
補足1
ポイントの入手方法は色々ありますが、簡単に稼ぎやすいのは女性と触れ合うこと。
『女性の手を握る1P』『女性に手を握られる1P』『女性とキスをする5P』など様々な条件がある。しかし連続で女性の手を握り続けてもポイントは1Pしか入手できない。
効率よくポイントを獲得するためには『女性の手を握る』→『女性に手を握られる』→『女性とキスする』等、異なる条件を順番に満たしていくこと。ループすることも可能でだが『女性の手を握る』から5分経過しなければ次の『女性の手を握る』でポイントは入らない。