九校戦一日目は真由美がスピード・シューティング女子部門で優勝。男子部門も一高が優勝した。
バトル・ボードでは女子部門で摩利が予選を突破するなど、星勘定とおりに事が進んでいた。
しかし、バトル・ボード男子部門で予想外の苦戦を強いられていた。男子のメンバーは二年の服部。服部は会場入りしてから状態が不安定になっており、それが影響して競技でもらしくないミスを連発。辛うじて予選は突破したものの、真由美ら幹部たちはその事実を重く受けとめていた。
彼女たちはバトル・ボードの試合が無いこの二日目を、服部と専属エンジニアがマンツーマンで調整期間にすることを決めた。
これによりクラウド・ボールを担当するエンジニアの副担当が一人不在になる。そこで白羽の矢が立ったのが新人戦まで出番のない司波達也だった。
達也はその異質さから、男子から拒絶反応を示されていた。それは一年男子だけが例外ではなく、上級生たちの中にも達也を拒絶する者がいるほどだ。
そのため達也が男子の担当に就くことはありえない。
人数調整のために呼ばれたため、本格的にCADの調整を任せるわけではないのだが、結果として達也は今日限り特別に真由美の担当に就くことになった。
九校戦二日目。
真由美と達也はクラウド・ボールの試合が行われる会場の隣にあるトレーニング場にいた。
ここは試合前最後の調整やウォーミングアップに使われ、真由美の他にも試合を控えた他校の選手がちらほら見受けられる。
「ねえ達也君」
「何でしょうか」
「これ、似合ってるかしら?」
「……」
他校の選手が真面目にアップしている中、真由美の呑気な質問に絶句する達也。口を閉ざしたのには他にも理由があり、それは今の真由美の格好にあった。
真由美は膝丈上の防暑用のスタジアムジャンパーを脱ぐと、テニスウェアとしか表現しようのないポロシャツとスコート姿になる。
少し身体を傾けただけで裾が跳ね、アンダースコートが見えてしまうほど露出が多い格好。現代の価値観では卑猥な姿にも見えるが、真由美が着ると様になっている。
(会場に向かう時の私服姿といい、この人は狙ってやっているのか、素なのかわからないな)
少なくとも男子ウケがいい格好なのは間違いないと達也は目を細める。
「……とてもよくお似合いです」
「本当に?」
「はい……どうしてそのようなことを聞くのですか?」
「だって聞いてよ達也君!」
拗ねたような、怒ったような反応の真由美を静かに見守る達也。
「遥くんにこの衣装を見せた時にね、彼、何て言ったと思う?」
「……『真由美ちゃんなら可愛くて似合いそう』とかですかね」
達也に『真由美ちゃん』呼びされたことに驚いた様子の真由美だったが、頬を膨らませながら答える。
「ぶぶ~正解は『エッチな格好ですね』よ」
達也も似たような感想は抱いたが、直接口にすることはなかった。
あまりの図太い答えに気後れする。
「達也君もそう思う?」
「……いえ、ただ少し、露出が多めだとは思いましたが……」
試合を控えた真由美の機嫌を損なわないように言葉を選ぶ。
それは小悪魔ではなく悪魔の問いかけにも思えた。
「そうかなぁ? 動きやすくて好きなんだけど……男の子ってこういう格好が好きなのかしら?」
「人によると思います」
心の中で遥を恨みながら、時計の針に目を向けると試合時間が近づいているのに気づいた。
「会長。試合時間が近づいてきていますので……」
「えっ、あ、うん。準備しましょうか」
真由美はストレッチを始める。
それを黙って見詰める達也だったが、真由美はずっと独り言を呟いていた。
「遥くんはこの格好が好きなのかしら。それとも露出が多いのが好き? うーん……」
達也は一年生の中では比較的真由美と一緒にいる時間が多い方だ。一番は深雪だろうが、次点で達也か遥といったところか。
その達也が違和感を抱くほど、今日はよく真由美の口から『遥』の名前が出ていた。
遥と何かあったのか。そう訝しがるほどに何度も呟いている。
「遥と何かありましたか?」
気軽に聞いたことをすぐに後悔する。
この問いかけに、達也の眼から見て明らかに動揺した真由美の姿が映った。それが答えとばかりに学校では見たことが無い可笑しな表情をしていた。
「え、え、っ、ど、どどどうして、そんなことを聞くの???」
焦って動いた拍子にポロシャツの襟がめくれ上がり、首元の紅い印が見えた。これで達也は確信へと変わる。
「いえ、さっきから遥の名前を呟いていたので」
「えっ、嘘!?」
真由美は両手で口を覆う。
あざといな、と思いながら遥に対する評価を訂正していく。
「すみません、試合前に余計なことを聞いてしまいました」
「……い、いいのよ別に。それと、遥くんとは何もないからね?」
「……はい、わかっています」
顔を真っ赤にしながら言っても説得力が無いと真由美の事を見つめるが、そんな達也の視線に耐えきれなくなったのか、芝生の上に座ると達也に背中を向けた。
「達也君、ちょっと背中押してくれない?」
「いいですよ」
話題を逸らそうとストレッチを続けることにした真由美だったが、達也に背中を押された瞬間、強烈な吐き気が襲ってきた。
これには堪らず口を押えて立ち上がる。
「どうしました?」
「ご、ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
「……大丈夫ですか? 顔色が優れないようですけど」
「うんダイジョブ、すぐ戻ってくるから達也君はここで待ってて」
達也は不思議そうに目を細めながらトレーニング場を去る真由美の後ろ姿を見送った。
(どうしたのよ私……今までこんなこと一度もないのに。体調は悪くない。むしろ良いはずなのにものすごく気持ちが悪い……)
身体の奥深くから沸々と湧き上がってくる吐き気にトイレへと向かう。
(もしかして悪阻……とか?)
原因不明の体調不良。一つだけ思い当たる節があるとすれば、それは今朝の出来事。
(遥くんは妊娠しないって言ってたけど……もしかして……)
下腹部をさするとまだ中に遥のモノが入っているような感覚が残っている。
思い出せば思い出すほど身体に熱が帯びてきて、遥との行為を妄想してしまう。
(駄目よ。もうすぐ試合なんだから今は集中しないと……でも……)
遥の顔を思い浮かべながらトイレでスッキリさせようと駆けた瞬間、頭の中で響かせていた声が聞こえてきた。
「真由美ちゃん」
「ッッ!?」
真由美の想い人が男子トイレから出てきた。
「どうして……?」
ここは関係者専用エリア。IDチップが内蔵された徽章があれば出入りは可能だが、試合のない選手がここにいることは珍しい。
「真由美ちゃんの顔を見たくて会いに来ちゃった」
実際は一般エリアのトイレが混んでいたため、人の少ない関係者エリアのトイレを使っていただけだが、キュンとくる年下の甘えた言葉が真由美の胸に突き刺さる。
「遥くん……」
「どうした? 試合前で緊張してるの? おいで、抱きしめてあげる」
普段は敬語で接するが、真由美の不安そうな表情を見るや否や声色を変えて両手を広げる。
こういう口調の使い分けが遥のあざとい部分でもある。包容力ある言葉に真由美の足が無意識のうちに遥の方へ向き、気づいたときには年下の彼の腕の中にいた。
しばらく腕の中で深呼吸を繰り返すと、真由美が顔を上げて上目遣いで見つめてくる。
「もう生意気。私の方がお姉さんなのよ?」
「ふふっ、じゃあお姉さんに頑張ってもらうように元気を注入してあげます」
「……ンッ、クチュっ……チュゥッ……ぁっ、んぅっ」
強引に、けれども優しい口づけ。
いつの間にか身体を蝕んでいた吐き気が綺麗さっぱり消え去っていた。
残ったのは胸のドキドキと高鳴りだけ。
「まったく強引なんだから」
「ハハハっ、ごめんなさい。でも元気出たみたいですね」
潤んだ瞳が遥を睨む。しかし表情は柔らかく、先ほどまでの青白い顔がピンク色に変化している。
「もう一回しますか?」
「遥くんがどうしてもって言うなら、してもいいけど……」
「はい、大好きな真由美ちゃんとキスしたいです」
「……そういうのズルいと思うわ」
顔を真っ赤に紅潮させながら、この短時間で計三回遥と真由美は唇を重ね合った。
キスの後に真由美が妊娠したかもしれないことを遥に告げると、遥は笑いながらこんな短時間で妊娠の症状は出ないと諭した。
確かにそうだと、自分の短絡的な考えを恥じた真由美は、さらに顔を赤らめさせたのは言うまでもない。そしてさらに遥の言葉に真由美は頬を赤面させる。
「妊娠すると子宮が降りてくるって聞いたことがあるので、確かめてみましょうか?」
「確かめるって……どうやって……ぁ」
「今真由美ちゃんが想像した方法ですけど」
「ダメダメダメッ!」
「真由美ちゃんっていつも駄目って言いますよね。けど嫌よ嫌よも好きのうちって言いますし……」
「今は本当にダメだからね? 試合まであと十分くらいしか無いんだから」
「十分もありますよ?」
「……は、はるかくん?」
「大好きです。真由美」
「んぁっっ……はるぅか、くっ……だめぇ……ぁ……っ」
トイレの前には監視システムが設置されていなかったが、二人の色事を盗み見る二つの影が……。二つの影はそれぞれ別の場所から遥と真由美を覗いていたが一つの影は熱心に最後まで二人を見つめていた。
クラウド・ボール。通称【クラウド】
圧縮空気を用いたシューターから射出された、低反発のボールを相手コートに打ち込む競技。
相手コートに一回バウンドするごとに一点。転がっているボールや止まっているボールはコンマ五秒につき一点が加算されていく。
コート全体は透明な壁に覆われており、二十秒ごとにボールが追加され、合計九個のボールを一セット三分間休みなく追い続ける。
スピード・シューティングでは他を寄せ付けない圧倒的な力で優勝を果たした真由美。クラウド・ボールでも優勝候補として真由美の事を一目見ようと、一回戦から多くの観客が会場に足を運んだ。
多くの観衆が集まった会場では、その全員が比倫を絶する真由美の魔法に魅了されていた。
強さだけではなく、美しさと女性の艶やかな色香を漂わせながらの試合運び。まさかアンダースコートの中に大量の白濁液が注がれているとは思いもしない観客たちは、真由美に惜しみない拍手と声援を送っていた。
ひと際注目を浴びる女子選手。十師族の名に恥じない活躍を見せるのだった。
九校戦二日目、クラウド・ボール女子部門では第一高校七草真由美が全試合無失点のストレート勝ちで優勝を飾った。
クラウド・ボール女子部門が終わると次はアイス・ピラーズ・ブレイク本戦の予選が始まる。
同時刻にクラウド・ボール男子部門が試合をしているが、試合を間近で観戦することで、実際の試合の感触を掴みたいという事を雫から伝えられた遥が、ほのかを含めた三人で観戦していた。
エリカや美月、レオたちはクラウド・ボールの試合に出場している桐原の応援に行き、達也と深雪は一般席ではない関係者スタッフ席でこのアイス・ピラーズ・ブレイクの試合を見ている。
そこには今から試合を行う千代田花音のフィアンセである五十里啓もいるようだ。
ちなみに真由美は試合で疲れたからとホテルの部屋で休んでいるらしい。
「地雷源か」
花音の試合は試合開始の合図とともに、地鳴りが生じた。
振動系統・遠隔固定振動魔法、その中でも特に地面を振動させる魔法を千代田家の魔法師は得意としている。
千代田家が得意とする魔法が『地雷原』であり、『魔法を作り出す者』として『地雷源』と呼ばれている。
上下方向の爆発的振動によって轟音を立てて氷柱が倒壊していく。
まさに攻撃特化型である。
相手の魔法で自陣の氷柱が倒されようと、防御することなく相手に倒される前にこっちが全部倒しきるスタイルで見事勝利を飾った。
「何と言ったらいいんだろう……」
「お見事」
ほのかと雫は別々の感想を述べる。
守りを捨てて攻め立てるスタイルはこの競技では有効な戦略の一つだ。当然欠点も存在するが、こういう単純なスタイルが意外とハマったりする。
雫もどちらかというと守りよりも攻めて攻めて攻めまくるスタイルであり、花音と同調する部分があるようだ。
困惑するほのかをよそに感心したようにうなずいていた。
「見てる方は心臓に悪いです」
ほのかには不評のようだが性格の違いだろう。
「ところでハルカ、七草会長とはどこまで進んだの?」
花音が三回戦進出を決め、ホテルに帰る途中で雫がそんなことを聞いてきた。ほのかも気になっていたようで、声には出さないがチラリと視線を向けていた。
「気づいてたんだ」
「遥から七草会長の匂いがしたもん」
相変わらずの嗅覚である。
「今朝だって目を覚ましたら部屋にはる君いなかったし、もしかして会長の部屋に?」
二人に問い詰められて隠し通せる遥ではない。素直に真由美との関係を認めた。
「エッチしたんだ……」
雫とほのかは押し黙った。
また新たな女性と肉体関係を結んだことを怒っているのだと思った遥だったが、二人の表情は遥が想像していた以上に明るかった。
「これで夢に一歩近づきましたね!」
ほのかたちの夢。それは遥と自分たちが結ばれることだ。そのためには遥が十師族になる必要がある。
真由美と結婚すれば遥は十師族の仲間入りを果たし、重婚制度が承認される。夢に一歩近づいたことを喜ぶ二人。
彼氏が他の女とイチャイチャしたというのに図太いと言うべきか、心臓が強い恋人たちである。
「そうだけど、俺は真由美ちゃんが好きだから告白したんだよ? 結果的に夢に近づいたことになるけど、真由美ちゃんを利用しようと考えたわけじゃないからね」
「当たり前。ハルカが会長を利用しようと思って口説いてたら怒ってた」
「ですです!」
「それにまだ俺と真由美ちゃんは恋人になれたわけじゃないからね。七草家当主に認められるためにこの九校戦で結果を出さないと」
真由美と結婚するためには家柄だけでは不十分。実力が伴っていなければ真由美の婚約者として認められることはない。
それを理解する彼らだからこそ、一致団結して今日まで歩んできた。全ては数日後に控えた対一条に向けて。
「もしハルカが十師族になれなくても大丈夫だから怪我だけはしないで」
「ん? 十師族になれなくてもいいってどういう意味?」
「懇親会で聞いてなかったの?」
「……忘れちゃったな」
「はる君は途中でエリカとエッチしてたからいなかったんだよ」
「あぁ、そっか」
「ハハハ……」
情けない笑い声を発する。
将来は女性の尻に敷かれているかもしれない。
「近々重婚制度の法律が改正されるみたいだよ」
「……へぇ、どんなふうに?」
「今までは十師族だけが重婚制度の対象だったけど、その対象が拡大されるみたい」
重婚制度については多方面から賛否の意見があり、現状重婚制度を利用する者がいないことも拍車に掛かり国会が動いた。
どこまでが重婚制度の対象になるかはまだ不明だが、少なくとも『国際ライセンスA級』を持っていれば重婚制度が適用されるようになると言われている。
だがこれはあくまでも『国際ライセンス』であり、『重婚制度』は日本国内の法律だ。世界の基準を日本の法に当てはめていいのかという意見があるのも現実。
もしかしたら新たに国内限定で魔法師のレベルを分けるライセンス等が誕生するかもしれない。
しかし少なくとも『国際ライセンスA級』に該当する実力があれば重婚が認められるというわけだ。
「だから私は国際ライセンスA級を目指す」
雫の母親である北山紅音は国際ライセンスA級の持ち主。その血を受け継いだ雫なら十分可能性があるだろう。
「それで遥と結婚して、ほのかともエリカや美月とも結婚する」
「ええっ、雫!? 私たち女の子同士だよ!?」
「日本では無理かもしれないけど海外には同性婚が認められている国がある。USNAでほのかと結婚して、フランスでエリカと、オランダで美月と結婚する。日本にいる必要はないし、だからハルカばかり背負う必要はない」
法律の穴を突けば日本でも同性婚が認められるかもしれない。
現状の重婚制度は一夫多妻や一妻多夫を認めるという制度で、そこに同性を含んではいけないという事は記されていない。
だが、それをさておいても雫がそこまで将来の事を考えていると思いもしなかった遥が目が点になる。
同時に胸の奥から嬉々としたものがこみ上げてきた。
「雫ちゃんありがと」
「別にハルカだけのためじゃないもん。私だってハルカと結婚したいし……」
「じゃ、じゃあ私も国際ライセンスA級目指します!」
「ほのかは駄目」
「どうして!?」
「ほのかには普通の女の子でいてほしいから。それに将来子どもと料理しながらハルカの帰りを待つのが夢なんでしょ?」
「うぅ、そうだけど……」
ほのかの小さな夢。それは幸せな家庭を築き、遥との間にできた子どもと一緒に料理を作りながら遥の帰りを待ち、そこで『おかえりなさいアナタ』と子どもと出迎えたいという可愛らしい願いがあった。
「だからほのかは家事担当。とても大事な担当だからほのかにしか任せられない」
「雫ぅ」
「ほのか」
百合百合しい雰囲気の中、ホテルの部屋に戻ってきた三人。
「じゃあ将来のために子づくりの練習でもする?」
最低にも聞こえる遥の発言だが、二人は破顔しながら遥の胸に飛び込んだ。
【お知らせ】
1月の下旬から2日に1回投稿を続けていましたが、次の投稿は【2月26日(金)19時】になります。
今後の予定としましては【2月26日、27日、28日の19時投稿】。
3月からはまた2日に1回投稿に戻したいと思います。
どうぞこれからも【魔法科高校の性春生活】の応援をよろしくお願い致します。