※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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第61話 それぞれの想い

 九校戦二日目を終えて一高の天幕では現在一位だというのに重苦しい空気が流れていた。

 

 その理由は明白。

 二日目は真由美がクラウド・ボール女子部門で優勝したものの、男子部門に出場した三名がいずれも一回戦、二回戦、三回戦敗退という結果に終わったのだ。

 

 九校戦の順位は各競技のポイントの合計で決まる。

 一位が五十ポイントで二位が三十ポイント、三位が二十ポイント。四位から六位までポイントが入る種目もあり、モノリス・コードに限っては一位が百ポイント。ポイント上で最も比重の大きな競技となっていた。

 なお新人戦は本戦のポイントを二分の一にした分が総合順位点に加算される。

 

 優勝を逃しても二位から六位に入ればポイントを得られるが、男子クラウド・ボールで一ポイントも獲得できなかったことに大会前の目算から誤算が生じていた。

 

 それでもスタッフである鈴音は悠然に状況を分析する。

 

「現時点のリードを考えれば、女子バトル・ボード、男子アイス・ピラーズ・ブレイク、ミラージ・バット、モノリス・コードで優勝すれば安全圏と思われます」

 

 本戦男女合わせて残り六種目のうち、四種目で優勝しようという鈴音の発言。

 摩利と克人が出場するため、優勝を計算しやすいのかもしれないが、大会にアクシデントはつきもの。鈴音の計算通りに事が進めばいいのだが……。

 

 

 

 

 九校戦で結果を出して紗耶香に良いところを見せようと思っていた桐原は歯がゆい気持ちで朝を迎えていた。

 桐原は二日目の男子クラウド・ボールに出場。優勝候補とまではいかないが、確実にポイントが計算できる選手として期待されていた。あとは試合の組み合わせ次第で優勝が狙えるかどうか。それがまさかの二回戦敗退という結果に終わり、気持ちが消沈気味になっていた。

 

「あんまり落ち込むなよ」

「もう落ち込んでねーよ」

 

 一高天幕で服部と桐原が試合会場のモニターを見つめていた。

 

 九校戦三日目は、九校戦前半のヤマと言われている。

 男女バトル・ボードと男女アイス・ピラーズ・ブレイクの決勝が行われ、四日目からは新人戦が始まるため本戦が中断するからだ。

 

 服部はこの後行われる男子バトル・ボード準決勝に出場するが、天幕に顔を出したところを覇気のない桐原を見かけて声をかけた。

 

「そうか。顔が落ち込んでる風だったけどな」

「昨日司波に『くじ運に恵まれなかった。優勝候補の三高エースと正面からぶつかって惜敗。事実上の痛み分けですね』って言われて俺もそんなに捨てたもんじゃないって気持ちを切り替えたつもりだ」

「司波が……?」

「ああ」

「じゃあなんでそんなに暗い顔してるんだ?」

「……」

「壬生か」

「なっ、おまえっ!」

「せっかく壬生が応援に来てくれたのに良いところを見せられなくて落ち込んでたのか」

 

 そう、桐原は試合に負けたことよりも、紗耶香に良いところを見せられなかったことを悔いていた。

 どの時代も男はカッコつけたがりである。

 

「お前が壬生に告白して断られたのは知ってるが、応援に来てくれるってことはまだ脈ありなんじゃないか?」

「あいつは完全に俺の事を弟か何かだと勘違いしてやがる。活躍して男らしいところをあいつに見せようと思ってたのに……昨日だって負けて落ち込んでた俺の所にやってくると『頑張ったね~、よしよし~』って頭を撫でられた」

 

 それを見たエリカが茶化して顔を真っ赤にした桐原だったが、内心嬉しかったのは言うまでもない。

 

「嬉しかったのか」

「嬉しくねーよ!!」

「顔が緩んでるぞ」

「っ……お前だって今日活躍して七草会長に良いところ見せるんだろ?」

「っっ、お、おれ、俺は別に会長の事など!!」

「わかったから、お前は会長の事を尊敬してるだけだったな」

「……そうだ。俺は会長を尊敬してるからこそ、七草会長の力になりたいだけだ」

 

 優勝してあわよくば真由美に褒められたいなどという浮ついた気持ちは一切ないらしい。

 

「バトルボードなら会長は渡辺先輩の試合を見に行くだろうし、ついでにお前の試合も見られるかもな」

 

 しかしながらバトル・ボードは決勝戦以外男女は別会場で試合が行われる。

 服部は男子第一レースに出場し、摩利は女子第二レースに出場する。

 服部の試合を見た後に摩利の試合を見に行くことは可能だが、他にも別会場でアイス・ピラーズ・ブレイクの試合も同時進行で始まり、複数の種目の試合を直接見ることは不可能だ。

 各校に用意された天幕であれば複数のモニターが設置されているため、一度に全ての試合をチェックすることができるが、選手としてはやはり直接応援されたほうが気持ち的に嬉しいものがある。

 

 確実に真由美に応援されるためには摩利と一緒に決勝に行くことだ。会場入りしてから本調子ではない服部には高い壁といえよう。

 

「そろそろ試合の準備に行ってくる」

「おう、頑張れよ、俺も応援してる」

 

 それでも桐原と話せたことで試合前にリラックスできたのは僥倖だったかもしれない。昨日はエンジニアと付きっ切りで調整して準備は万端。あとは自分の力を発揮するのみである。

 

 服部は天幕を出て会場入りした。

 

 

 

 

 

 同時刻、朝食を食べ終えた遥、ほのか、雫の三人は、エイミィと遭遇すると一緒にバトル・ボードの会場へと向かっていた。

 

「二人とも昨日私に黙って温泉行ったでしょ!!」

「え~!? 行ってないよー。ね、雫?」

「うん」

「じゃあなんでそんなお肌プルプルなわけ!? 温泉の効能が出ちゃってるんじゃない~!」

 

 エイミィは三人と合流するや否やほのかと雫に詰め寄るが、事実二人は温泉など行っていない。温泉に行く時間など無かったという方が正しいか。

 昨夜はホテルの部屋に戻るとすぐ遥と交わり、明後日に控えた新人戦など関係ないとばかりに夜遅くまで淫らな交流会を開いていた。

 二人は朝も子づくりの練習を複数回やってきているため、体調は万全。お肌もプルプルというわけだ。

 

「秘密だよ、ね、雫」

「うん私たちだけの秘密」

「ムキィ~~!! 私だけ仲間外れはムカつくぅぅううっ!」

 

 地団駄を踏むように二人に抱きつくエイミィだったが、ほのかと雫の幸せオーラに負けて最後まで肌プルの秘密を聞くことはできなかった。

 

「先輩、また一高の渡辺に負けちゃうのかな?」

 

 喧噪から百合百合しい雰囲気になりつつあった彼女たちの耳に、他校の生徒の話し声が聞こえてきた。『一高』『渡辺』というワードに思わず口を閉ざして耳を傾ける。

 

 どうやら一高と一位を競っている三高の女子生徒たちのようだ。

 

「去年も渡辺と同じ組で実力が出せなかったのに、今年も準決勝で当たるなんて……」

「組み合わせに運営からの悪意を感じるよ」

「スピードシューティングでも七草の応援ばかりで相手が委縮してたしズルくない?」

「会場に来る前に遭遇したバスの事故で一高が棄権してれば……」

 

 黙って聞き流すわけにはいかない内容の話が聞こえてくる。

 しかし他校と問題を起こすわけにはいかず、特に雫は口を真一文字にして怒りを表していた。

 

「嫌なこと聞いちゃったね」

 

 エイミィは苦笑いしながらその場を去ろうとするが、雫が彼女たちに襲い掛からんとばかりに鬼の形相を浮かべて動かない。

 

「先輩たちが強いのは才能と努力の結果。ズルなんかじゃない。あの人たちの考えこそ九校戦の理念に対する冒涜だよ」

「そうだね。俺たちは先輩たちの努力を知ってるもんね」

 

 九校戦をこよなく愛する雫だからこその怒りだ。

 

「あなたたち、そんなこと言うものではないわ」

「一色さん!?」

 

 今にも乗り込もうとする雫を遥が宥めていると、三高女子の輪に一色愛梨と十七夜栞が加わり、愛梨が彼女たちを咎めだす。

 

「相手の不幸を願うなんて軽口でも許されないわよ」

「で、でも……」

「そんな暇があったら先輩に応援の一つでも言ってあげなさい」

 

 三高女子の中で愛梨はトップカーストに位置する。その愛梨に反論できるはずもなく、彼女たちは不満げな表情を浮かべながらこの場を去る。

 

 暗雲が立ち込める中、パチパチと手を打つ音が静かな空間を響かせた。

 

「さすが愛梨ちゃんだ」

「あ、あなたは!」

「沓子の初めてを奪ったイケメンだ」

 

 愛梨と栞の元に遥を先頭として四人が姿を現した。愛梨は遥の顔を見た瞬間、頬を赤らめたが一瞬で表情を引き締めた。

 

 ほのかは少し警戒心を持ちながら遥に半身を寄せて、雫は感心した表情を見せている。エイミィは相変わらず苦笑いのままだった。

 

 栞の言葉にほのかと雫が反応したが、他校の生徒の前というだけあって取り乱すことはない。

 

「その言い方は語弊があるんだよなぁ……栞ちゃんだったよね」

「……うん。でも沓子の初めてを奪ったのは本当」

「栞、その言い方は止めた方がいいわ。また他の人に聞かれていたら沓子にも被害が及ぶもの。それと宮守遥をイケメンというのは止めなさい」

 

 イケメンという言葉は疾うの昔に廃れた死語だが、通じないわけではない。ただ栞の中で今になって「イケメン」という言葉が流行っているだけだ。

 

「はる君、どういう事?」

「……懇親会の時に彼女たちに挨拶したんだよ。その時はもう一人いたんだけど、その人に……まぁ、俺がよくする挨拶をしただけだよ」

「つまりキスしたんだ」

「手の甲にね?」

 

 右からほのか、左から雫の静かな圧を受けて答えざるを得なかった遥。雫は気づかれないよう自然と遥の手首に抱きついて嘘をついてないことを確かめると手を離した。

 

「何故あなたがここにいるの? まさか今の話を……」

「ばっちり聞いてたね。他の三人も」

 

 ほのかと雫はこくんと頷き、エイミィは「たはは~」と頬をかいている。

 

「ごめんなさいね。決して褒められることではなかったわ」

「褒められるどころか他の八校からヘイトを買うかもね」

 

 鋭い眼差しが遥に向けられる。気負いしそうになるプレッシャーの中、遥は平然と口角を上げている。

 

「愛梨ちゃんが彼女たちを叱ってくれたから問題にするつもりはないよ。ね、みんな」

「はい」

「うん」

「う、うん」

 

 優勝候補の一高は他校からマークされている。会場入りする前に遭遇した事故も他校の妨害じゃないかと噂になるほどに。

 九校戦は高校卒業後の進路にも大きく関わってくるアピールの場所だ。そのためには他校の生徒を蹴落としてでも優勝したいと考える層は一定数いる。

 

 先ほどの三高女子の発言を公開すれば彼女たちを貶めることも可能だが、ほのかたちにそんな意志はないようだった。

 

「感謝するわ。彼女たちにも後できつく言い聞かせておくわ」

 

 特に三高は追う側として問題を起こすわけにはいかない。静かに肩を撫でおろしながら遥の方へ視線を向けると、遥と妙に物理的に近い距離にいる女子の存在に気づいた。

 

「彼女はあなたとどういう関係なのかしら?」

「ん?」

「隣の彼女よ。やけに親しい間柄に見えるんだけど」

 

 遥は突然愛梨から言葉を投げかけられたことを珍しく思いながら、右腕に抱きつくほのかと目が合う。

 

「俺と彼女は恋人同士だよ」

「……恋人?」

「相思相愛だってことだよ。俺は彼女を愛してるから」

「はる君……」

「恋人の意味くらい知っているわ!」

 

 遥の言葉に胸をときめかせているほのか。愛梨たちに気づかれないよう後ろ側で遥と手を繋ぐ雫。顔を真っ赤にさせて「ひゅーひゅー」と鳴らない口笛を吹くにぎやかしのエイミィ。三者三様の状況の中で、愛梨は思案顔になる。

 

「でもあなた、七草真由美と……」

「ん? 何か言った?」

「い、いえ、別に何も言ってないわ」

 

 愛梨の呟きはエイミィの口笛にかき消された。

 

「彼女はどこか名家の生まれなのかしら?」

「めいけ?」

「名前は?」

「光井、ほのかです」

「みつい? 三の家系にそんな家あったかしら?」

「『三井』じゃなくて『光井』だよ」

 

 光のエレメンツの末裔だ。ほのかの両親は共に魔法師で父親はとある有力ナンバーズの部下として働いているが光井家自体が名家というわけではない。

 

 ほのかの出自が平凡なことを知ると嘲笑うように口元を歪ませた。

 

「可哀想な子ね」

「え?」

「いつか捨てられるとも知らず可哀想な子」

「すて、られる?」

「だって宮守遥は、性格はともかくあの宮守グループ代表の長男よ? 後継者からは外れたと聞いたけれどそれでも大家の血筋を受け継いでいる。学生のうちは自由恋愛を許しているかもしれないけれど、将来的には名家の令嬢と結ばれることが決まっているの。だからあなたはいずれにせよ捨てられる運命にあるのよ。それがわからないなんて……だから可哀想な子と言ったのよ」

 

 現実を突きつける愛梨。一瞬にして場の雰囲気が重苦しく、遥の腕に抱きつくほのかの力が強まった。

 

「何よ。私は何もおかしなことは言ってないわ」

 

 目に涙を浮かべるほのかに睨まれても愛梨は動じない。それどころか睨みかえす胆力さえ持ち合わせていた。新人戦ミラージ・バットの前哨戦か。

 

「はる君は私の事を好きって言ってくれました!」

「そりゃあ言うんじゃない? 宮守遥は好きでもない女に『可愛い』とか『魅力的な人だ』なんて言うくらいだもの」

「それは……」

 

 ほのかにも思い当たる節があったのか、遥の方へチラリと視線を向ける。すると遥は優しく微笑みながらほのかの頬に手を添えて、唇を重ねた。

 

「ッッ!?」

 

 これには愛梨や栞、雫だけではなくキスされたほのかでさえ驚きの表情を浮かべる。唯一エイミィだけは喜悦の悲鳴を上げていたが、端末のカメラを構える前に二人の唇が離れた。

 

「ンッ……はるくぅん」

 

 多幸感に抱かれながらうっとりと遥の事を見つめるほのか。唇に熱を感じながら身体の中に灯った快感に脳が痺れていた。

 

「愛梨ちゃんの言うとおり俺は可愛い子がいたら『可愛い』って言うと思うよ。実際エイミィちゃんにも可愛いって言ったことがあるし、愛梨ちゃんや栞ちゃんも魅力的だ」

「えっわたし!?」

 

 この場で唯一の癒しを生んでくれるエイミィが素っ頓狂な声を上げる。

 

「でも愛梨ちゃんの言葉で間違ってることが二つあるよ」

「な、なによ」

「一つはほのかちゃんが可哀想な子ってところ。ほのかちゃんは可哀想なんかじゃなくて可愛い子なんだよ。とても素敵な女性だ」

「はるくんっ……すき」

「俺も好きだよ。ちゅっ」

 

 人目も憚らず二度目の口づけ。一度キスをして箍が外れたのか大胆になっていた。

 そしてエイミィはちゃっかり二人のキスを写真に収めることに成功していた。

 

「そして二つ目。俺はほのかちゃんと別れるつもりはない。ほのかちゃんが俺に愛想を尽かして他の男の所に行くかもしれないけど――」

「行きませんっ! 私ははる君だけの存在ですから!! 絶対にはる君以外の人と一緒になるつもりはありません!!」

「ありがと。まぁ、そう言う事でほのかちゃんが俺と一緒になってくれるって言ってくれる以上、俺たちは離れることはないよ。たとえ宮守家が反対しても、家と絶縁して親子の縁を切ってでもほのかちゃんと一緒になる覚悟があるよ。ほのかちゃんの目的が俺の家だったら残念だけど」

「むぅっ」

「ごめん、冗談だよ。そんなわけないもんね」

 

 甘い空気が遥とほのかの間で流れ、見つめ合う事数秒。ほのかがかかとを上げて遥に迫ろうとしたタイミングで雫が二人を引き離す。

 

「あぁん、しずくぅ」

「イチャイチャ終了。気抜かないの」

 

 遥の告白に陶酔してふわふわしているほのか。雫に支えられながら遥の後方へと下がっていく。

 

「ってことで俺たちはバトルボードの試合を見に行くからじゃあ」

「……待ちなさいよ」

「あ、それと、次ほのかちゃんを泣かせるようなことを言ったら許さないから」

「えっ……」

「ふふっ、じゃあね」

 

 遠ざかっていく遥たちの後ろ姿。

 

「九校戦が終わったら一緒に実家行かない?」

「んぇ?」

「両親と妹たちに挨拶したいんだ」

「……はいっ! 行きます!!」

「それってつまりほのかとっ!?」

 

 エイミィが興奮した声色で遥とほのかに言い寄りながら会場へと歩いていく。

 遥たちが去った後、愛梨は胸を抑えながらその場にへたりこんだ。

 

「愛梨?」

「何よあいつ……」

「大丈夫?」

「十師族の比なんかじゃない……バケモノよ」

 

 竜の逆鱗に触れた愛梨。遥から声をかけられた一瞬、慄然とした畏怖が愛梨の身体を襲った。それは先日九島烈を見た時に感じた身の毛がよだつ悪寒よりも強烈な戦慄だった。

 愛梨は額から汗を流しながら涙を浮かべていた。

 

「ぐすっ……漏らした」

「え?」

「涙拭くタオル持ってきてもらえる?」

「……ハンカチじゃ駄目?」

「足りないわ」

「わかった。すぐ持ってくる」

 

 栞は愛梨のプライドを守って触れないようにしていたが、愛梨が座る床に透明な液体が広がっていくのを感じ取っていた。急いでその場を去ると、一人残った愛梨は思いの丈を告白する。

 

「バカみやもりはるかぁ。こんな屈辱初めてよ。七草真由美と浮気しておいて許さないんだからぁ……ぐすっ、この責任は取ってもらうんだから……ばかぁぁああ!!」

 




愛梨はお漏らし要員?これが癖になって……。

【次回の投稿は告知通り2月27日19時です】
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