【抜けていた部分があったため修正いたしました】
終盤の沓子とほのかの会話部分にて。
「んなぁっ!!?」
「んふふっ、おぬしぃ、わしといいことせんかのぉ?」
「な、な、なにをしてるんですかぁ!?」
「懇親会でおぬしからわし、この胸のときめきがとまらんのじゃぁ……」
↓修正後
「んなぁっ!!?」
「んふふっ、おぬしぃ、わしといいことせんかのぉ?」
「な、な、なにをしてるんですかぁ!?」
「懇親会でおぬしにキスされてからわし、この胸のときめきがとまらんのじゃぁ……」
「思ったより元気そうで安心したわ」
「わしは大丈夫じゃと思ってたぞ?」
会議終了後、愛梨と沓子は唯一会議に参加しなかった栞の部屋を訪れていた。
落ち込んでいるかと思いきや、栞は部屋のモニターで自分と雫の試合を見返していた。
「それは、北山選手との準決勝の映像?」
「ええ」
「切り替えなさい。明日からはアイス・ピラーズ・ブレイクの試合が始まるのよ」
「確か北山選手もでるようじゃな」
「だから次こそは勝つ」
リベンジの機会に燃える栞。励ますつもりだった愛梨と沓子は互いに顔を見合わせながら頬を緩ませる。
取り越し苦労に終わり、先ほど会議で話した内容を栞にも共有しようと、一高には優秀なエンジニアがいるという話が出たところで栞が愛梨の言葉を遮った。
「おそらくだけどそれは半分正解で半分違うと思う」
「どういうこと?」
「北山選手の魔法力は……その、愛梨にも匹敵する力を持っていた」
雫の家は大富豪だが魔法の名家というわけではない。その雫が二十八家の愛梨と匹敵するという言葉に愛梨は眉を顰め、沓子は両腕を頭の後ろで組んだ。
「北山選手に関しては、ついていたエンジニアが優秀と言うよりも、彼女の作戦を考えた人間の方が脅威」
「続けて」
不機嫌になっていた愛梨も、神妙な面持ちに変わった。
「北山選手なら準決勝でもっと簡単に私を倒すこともできたはず。それこそ、何度も再試合に持ち込む必要はなかった」
「栞が食らいついた結果ではないの?」
「違う。最初はそうだと思っていたけど、映像を見返して分かった……。北山選手はわざと試合を延ばしていた」
「わざと?」
愛梨は栞の真正面の椅子に座り、続きを促す。
「再試合二試合目、私は一度ミスを犯した。けど、その時は北山選手の魔法が私のクレーを壊したから同点でまた再試合になった」
「北山選手は相手のミスを誘う戦略を用いていた。偶々ミスとラッキーが重なったのんじゃ?」
「私もそうだと思っていた。でも、再試合三試合目、四試合目も私は何度かミスしたけど、そのたびに北山選手が私の取り損ねたクレーを壊してくれた。まるでわざと自殺点を取って同点にするために……」
「考え過ぎよ」
「そうじゃのう、相手にも試合を延ばすメリットはないじゃろうし。疲労を残すだけじゃ」
「いま沓子が言ったことが目的だったら?」
「わしの?」
栞は映像を再生させながら二人に説明していく。
再試合を重ねるたびに栞は疲労からミスを繰り返し、集中力も途切れていた。しかし、敵であるはずの雫が、栞のミスをカバーするかの如く『能動空中機雷』で栞のクレーを粉砕させる。
「あっ!?」
映像を見ていた愛梨も気づく。
一度見直すだけで気づく違和感。
再試合を重ねていくにつれて雫は『能動空中機雷』を使う割合が増えているのだ。再試合五試合目ではほとんどの魔法が『能動空中機雷』によるものだった。
「北山選手だって疲労があるはずなのに、わざわざ威力の高い魔法を続ける理由は……」
「栞がミスした分のクレーを狙う為か、のう」
愛梨と沓子の言葉に栞が頷いた。
「十分私を疲れさせてから勝つのが目的だった」
「でもどうしてそんなことを?」
「北山選手は目先の勝利だけではなく、一高の勝利を考えていた」
「……そういう事ね」
やってくれるじゃない、と愛梨は苦虫を嚙み潰したように顔を歪ませる。
「なるほどのぉ……おぬしたちの試合は準決勝第二試合目。三位決定戦は準決勝が終わってから一時間後。やってくれるのう……」
雫の狙いは栞を疲弊させ、疲労が残った状態で三位決定戦を戦わせることだと悟った三人。
通常の状態では栞には敵わないかもしれないが、雫が栞を弱らせることで三位決定戦に出場する一高の選手を勝たせる狙い。
そして雫の狙い通り、栞は回復できないまま三位決定戦で敗北を喫した。見事な連係プレイだ。
「でも決勝トーナメントの組み合わせはランダム。決勝まで北山選手と当たらない可能性だってあったわけだし、作戦というには運が絡んでいるわ」
「ランダムと言っても予選の成績上位四名は決勝トーナメントの一回戦では当たらないようになっている。ベスト四に三人が入れば、準決勝で負けてもいいって計算だったんじゃないのかな」
新人戦のポイントは本戦の二分の一である。優勝した場合は二十五ポイント、二位は十五ポイント、三位十ポイント、四位五ポイントだ。
「一高でも一番実力のある北山選手と私が先にぶつかることになったから作戦を変えたという可能性が高い」
「全力でワンツースリーフィニッシュを狙いに来たのね」
「だと思う。それ含めて私は作戦負けした」
この事実にもっと早く気づけていれば、欲を言えば再試合になる前の段階で気づけていればよかったのだが覆水盆に返らず。この真実に辿り着けただけマシだろう。
「エンジニアと作戦を考えた人が同一人物と言う可能性はある?」
「わからない。あるかもしれないし、でも私は違うと思う」
「どうして?」
「……エンジニアと作戦スタッフが同じなら、もう少し体に負担の少ない作戦を考えていたはず」
「あぁ、なるほど」
栞の考察は当たっているが、彼女たちは雫の体力が回復することを知らない。試合中に体力がゼロにならない限り、雫はどれだけ疲弊したとしても一瞬にして回復するチートがそばに存在しているのだ。
それに遥と雫が今回の九校戦のためにどれだけ入念に準備をしてきたと思っているのだろう。スタミナ面も心配する必要が無いほどにトレーニングを重ねてきている。もとより雫の身体を考える必要などなかった。
「北山選手なら大丈夫だろうという信頼か、それともただの鬼畜なのか……」
『鬼畜』と言ったところで、愛梨はある人物の顔が頭をよぎった。
「まさか……ね」
その人物の事を考えただけでなぜか急激に、特に下腹部が熱を帯びてきたことに驚きながら、栞たちに悟られないよう内股になる愛梨。
「どうしたの?」
「いいえ、何でもないわ」
「そう」
栞がモニターの映像を優先放送へと切り替えた。このホテルではビデオカードを購入すれば部屋から九校戦の試合が見られるようになっているようだ。
現在は新人戦女子バトル・ボード予選の最終試合が行われている。
『現在一位は第一高校、光井ほのか選手。独走状態です! 同校には先日アクシデントに見舞われた渡辺摩利選手がいますが、渡辺選手の後継者が現れたようです!』
『いやいや、渡辺選手が新人戦で記録したタイムを大幅に更新しています。これは本戦バトルボードと比べても見劣りしません。大会記録も狙えますよー!!』
『ニューヒロイン登場か!?』と大々的にテロップが加えられている映像が流れる。
「これはわしもまずいかもしれんのう」
そう言いながらも沓子は愉快そうに笑いながらモニターを見つめる。
「それにしては楽しそうじゃない?」
「ライバルがいるといないとではやる気は段違いじゃからの」
「ライバル……ね」
「そういう意味では栞も良きライバルが見つかったかもしれんぞ」
九校戦が始まる前よりも生き生きとした表情の栞を見て沓子が呟く。
「じゃあわしはちょっと挨拶してくるかー!」
ほのかのゴールを見届けることなく沓子は部屋を飛び出していった。あまりの自由人さに栞はくすくすと笑っていたが、愛梨はモニターに釘付けだった。
『光井ほのか選手大会新記録達成です!! まさか一年生での記録達成とは驚きましたね~』
『笑顔が素敵ですし、これはファンが増えそうです……おっと~?』
試合が終わり、大会レコードを更新したほのかに万雷の拍手が送られていた。少しの間、客席、主に雫らが座る場所に手を振った後、急いで補佐役がいるコース横へと駆け出した。
バトル・ボードのユニフォームは手首、足首まで覆うウェットスーツだ。落下や激突の摩擦、衝撃から選手を守るための物だが、圧迫気味に全身に貼りついてしまう。そのため選手の身体のラインが誇張して見えてしまい、大きく柔らかなものを備えているほのかが走ると、カメラマンがズームで彼女の事を捉えてしまうのは仕方ないことだった。
視聴率の稼ぎ時。アナウンサーたちも新記録樹立したというのにそっちのけで実況し始める。
『青春してますね~』
『これはうらやま……けしからんですねぇ』
普段は試合が終わればその試合のハイライト映像などが流れているのだが、今回は大会新記録が出たという事もあってほのかをピックアップしていた。だから九校戦では珍しい映像が映し出されることになる。
遥の元に駆け付けたほのかは、飛ぶように抱きつき三回転。そのままお姫様抱っこのように持ち上げられると、おでこ同士をくっつけていちゃつきだしたのだ。
『最近の子は大胆ですね』
『これが愛の力というわけですか?』
『ハハハっ、来年度は男女混合のペアの種目が追加されちゃうかもしれませんね~』
盛り上がる実況席。ざわつく会場内。そして撮られていることに気づかずいちゃつきだすほのかと遥。いや、遥は気づいているかもしれないが、ほのかは目の前の愛する人に夢中でカメラを向けられていることすら気づいていなかった。
『声援に応える時の可愛らしい笑顔もよかったですが、やはり恋人に見せる笑顔というのは一段と美しいですね~女性の神秘さを現しています』
『これにはたまらず男性ファン泣きだしちゃいますね』
『我々は温かく見守っていきましょう』
ここでやっとハイライトの映像へと切り替わった。
「……彼って」
「……ええ」
遥が映ったことで鼓動を轟かせていた愛梨だったが、その相手が自分じゃないことに苛立ちを感じているようだ。何故この気持ちが湧き起こるのかわからずモヤモヤとしながら、翌日のクラウド・ボールの試合に備えるのだった。
更衣室から出てくる遥とほのか。
相変わらずほのかは放心とした瞳を遥に向けていたが、目の前に現れた人物に声をかけられてようやく我に返った。
「予選突破おめでとうなのじゃ!」
「ふぇっ?」
「まさか大会記録を更新するとはお見事!」
「え、あ、ありがとうございます」
えんじ色の制服を着た沓子に手を出されて握手するほのか。そしてすぐさま遥の腕に抱きつき、警戒したような目で沓子を見つめる。
そんな二人の様子を見た沓子は、一瞬遥の方を向くと、小さくつぶやいた。
「……光井」
「え?」
「光井、ほのか」
「は、はい」
「そうかおぬし、光のエレメンツじゃな?」
第三高校にはほのかと同じエレメンツの末裔がいる。その人間からエレメンツについて話を聞いたことがあった沓子はある仮説を立てた。
「なるほどのぉ……これはわしが勝つのは不可能か」
エレメンツは依存する相手のために自分でも思ってもみない力を発揮することがある。『思う心』が強ければ強いほどその力は増大する。
沓子の眼にはほのかの遥に対する揺るがない信頼関係が伺えた。
「じゃが、その心を揺るがすことができれば……」
沓子はすばしっこくほのかの反対側に回ると遥の腕に抱きつき、その薄い胸元を擦り付けてきた。
「んなぁっ!!?」
「んふふっ、おぬしぃ、わしといいことせんかのぉ?」
「な、な、なにをしてるんですかぁ!?」
「懇親会でおぬしに初めてを奪われてからわし、この胸のときめきがとまらんのじゃぁ……」
「えっ!? は、はる君!?」
ほのかを挑発するように沓子は遥に密着し、ほのかはほのかで動揺したように遥の腕に抱きつく力が強くなる。
「ほのかちゃん落ち着いて」
「こ、これがおちついていられますかぁ!? この人、わ、私と同じバトル・ボードに出てるんですよ!?」
「だからだよ。わざとほのかちゃんを動揺させてるんだ」
「えっ……」
バレたかぁ、と可愛らしくチロッ、と舌を出す沓子。沓子はにんまりと笑うと口を開いた。
「でもキスされたのはホントじゃぞ」
「えええっ!?」
「手の甲にだよ。ほらこんな感じ」
遥は膝をついてほのかの手の甲に唇を落とす。
「こ、これくらいなら、まぁ……でも、もうこの人にしちゃだめですよ!」
「分かってるよ。愛してるのはほのかちゃんだけだから」
「わ、私もはる君のこと愛してます!」
ほのかは試合の緊張感と、行為によって愛欲に溺れ、幸福感で情緒が不安定になっている。沓子に対して嫉妬のような感情が働き、敵対心が芽生えていた。
「という事でお引き取りください!」
「うーむ……手ごわいのぉ」
「私、負けませんから!!」
「わしもおぬしの大きな胸を借りる気持ちで頑張るぞ」
「きゃっ!!」
「んふふ~わしが勝ったらその大きな胸にダイブさせてもらうから覚悟しておくんじゃぞ~!」
沓子の人差し指がほのかの乳房を一突き。もし沓子が男なら遥は止めていたが、百合は目の保養とばかりに見逃した。
「絶対に負けません!!」
ぷんすか怒りながら颯爽と遠ざかっていく沓子を睨むほのかだった。
摩利の時と同一人物ってことが特定されたら掲示板が大荒れしてそうです。
【次回の投稿は3月20日19時予定です】