※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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第75話 新人戦クラウド・ボール

 新人戦二日目。

 

 その日、最初の試合は女子クラウド・ボールに出場する愛梨の試合だった。

 今日も朝から大勢の観客が会場に詰め寄せ、白熱した試合をと期待した人々で溢れていた。しかし、彼らが一戦目に目にした光景は圧倒的なまでの力の差。

 虐殺と言うにふさわしく、敗者に同情する者が現れるほどの試合展開が繰り広げられていた。

 

【新人戦女子クラウド・ボールAブロック一回戦】

『第三高校一色愛梨 VS 第――』

第一セット【217 VS 0 】

第二セット【88 VS 0(途中棄権)】

 

 愛梨は汗一つかくことなく、猛禽のような冷酷な目で敗者を見下ろし、敗者はタオルで顔を隠してエンジニアの生徒に支えられながらひそひそと会場を後にする。

 

 観戦していた他校の生徒たちは愛梨の酷薄さと実力に恐れ慄き、一般客らは新たな実力者の登場に、『稲妻』の名にかけたような万雷の拍手を送っていた。

 

 

 愛梨は次の試合に備えて一度控え室へ戻ると、栞からの通知を見て関係者専用エリアで留守番電話のメッセージを聞いていた。

 

 実は昨夜、落ち込む栞を慰めている時に愛梨は『自分の試合を見なさい』と伝えていたのだ。そして先ほどの愛梨の試合を見た栞は、自分にエールを送っているような愛梨の鬼気迫るプレイに元気づけられ、熱気と共に鋭気に満ちていた。

 

『……私も、愛梨に恥じない試合をするから、見ててね』

 

 愛梨は嬉しそうに顔をほころばせながら端末をポケットにしまう。

 

「頑張りなさい……」

 

 喜びを示す愛梨の呟きは、目の前に現れた男の足音によってかき消された。

 

「やぁ、愛梨ちゃん」

「……みやもり、はるか、ど、どうしてアナタがここにッ!?」

 

 愛梨が今一番会いたくない人物の登場に、驚愕の表情を浮かべる。

 

「どうしてって、俺も午後から試合があるからね。ここを通ったのは偶然だけど」

「ぐうぜん……?」

 

 そう何度も偶然があって堪るかと、愛梨は怪訝そうな顔つきになる。これまで幾度となく遥と偶然出会い、弄ばれてきた。

 

「何しに来たの?」

「何しに? そうだなぁ、じゃあ愛梨ちゃんに会いに来たって言ったら?」

「ッッ」

 

 お決まりの常套句。いつも通り、軽いジャブ代わりに甘い言葉を投げかける遥。遥も適当にあしらわれると思っていたが、今日の愛梨は違っていた。

 

「……」

 

 目の下をピンク色に染めながら、上目遣いで軽く睨んでくる愛梨の姿に、思わずほぉっと息を洩らす。

 

「愛梨ちゃん今日いつもと違くない? いつも可愛いけど今日は特に可愛いよ」

「……アナタが昨日私にした事、忘れたとは言わせないわよ」

「愛梨ちゃんに……? あぁ、キスしたこと? それとも愛梨ちゃんのおしっこ舐めたことかな?」

「ッッッ」

 

 遥はこの九校戦期間中を使って様々な女子と交流という名の不健全な生活を送っている。

 昨日は真由美と首絞めプレイを勤しんだが、その前には愛梨のファーストキスを奪い、お漏らしした後の女性器を舐めるという羞恥プレイを楽しんでいた。

 

 遥からすればいまさら女性と触れ合うことに抵抗や羞恥心などはないが、愛梨にとって男性と触れ合うということは、人生の中でも一大イベントと言っても過言ではないほどに重大な意味が込められていた。

 

 愛梨にとって遥とは、以前から親交があり、親が遥との将来に好意的。愛梨自身は遥の女癖の悪さを嫌っていたが、元々悪い印象は持っていない。

 それがファーストキスを奪われ、お漏らしした後もぞんざいに扱わない遥に対して、一人の男として、異性として意識するようになっていた。

 

「今はおしっこ出ないの?」

「で、出るわけないでしょっ!! やっぱりアナタって変態なのね」

 

 険のある言葉を発しても、愛梨の視線は遥の唇や仕草に夢中の様子。手の動きや口の開き具合など、遥の一挙手一投足に釘付けだ。

 

「ふふっ」

 

 そして愛梨の視線に気づかない遥ではない。

 

「愛梨ちゃんとキスしたいなぁ」

「なッッ……急に何言ってるの!?」

「クラウドボール一回戦の試合見たよ。凄くカッコよかった。でも今の愛梨ちゃんは凄く可愛い。そのギャップに萌えちゃって、我慢できないんだよね」

「ばっ……そんなの駄目に決まってるじゃない……す、すぐ二回戦が始まるんだから……」

「二回戦は何時から?」

「……一時間後」

「じゃあ十分間、俺に付き合ってよ」

 

 一歩、また一歩と遥の歩が愛梨へと向かう。愛梨は下がることなくただ遥が近づいてくるのを待ち、ゆっくりと顎を上げた。

 

「キスするよ?」

「し、したければすればいいじゃない」

「ははっ、愛梨ちゃんの唇って柔らかいから好きなんだよね」

「う、うるさい、そんなこと言わなくていいのよ」

 

 二人の関係は友達でなければ恋人でもない。

 遥は、愛梨が望まない限りは最後までしないと明言しているため、今はキスするだけの関係となっている。愛梨は一時の快楽を求めて最後まで進もうとしたが、最後の一歩が踏み出せずにいた。

 

 けれど身体をくっつけ、互いの心臓の鼓動が聞こえる距離に近寄ると、他の事が考えられなくなるほど遥に没頭することに……。

 

「誰か来たらどうするつもり?」

「その時は、来た人が見るのを憚るほどの熱いキスをしてあげる」

 

 愛梨は辺りを見回した。しかし誰も来る気配はない。

 

「残念そうだね」

「そんなわけないでしょう……安心したのよ」

「そっか……じゃあ……」

 

 深く追求することなく遥はそのままそっと愛梨の唇にキスをした。

 

「んっ――」

 

 触れるだけのキス。お互いの唇の柔らかさを感じ合うキスに、小さく吐息が漏れる。

 

「ん、うん……」

 

 そして愛梨も離れずに、遥とのキスを続けてくる。

 

「は、ふぅ……ん、ちゅ……んぅ……あむっ」

 

 まだぎこちなさはあるものの、愛梨は必死に自分の唇を遥の唇に押し付けてくる。

 遥が顔を傾けなければ鼻同士がぶつかるほどに、愛梨は遥の唇に吸い付いた。

 

「ちゅぷっ……はむっ、んっ……んぅ」

 

 唇で唇を挟み、その柔らかさを楽しむように、押し付け、啄んでくる。

 薄く唇が開いたときに、そのまま舌を絡ませたい衝動に駆られつつ、遥は大人の対応を見せる。

 

「ん、ふぅっ……ねぇ?」

「ん?」

「キスするの……」

「好きになった?」

「……」

 

 まだ言葉にするのは恥ずかしいらしい。愛梨は赤面させながら遥の胸に顔をうずめて抱きついた。

 甘える愛梨に、遥は頬を緩め、優しく頭を撫でていく。

 

「んぅ……」

「愛梨、好きだよ」

「んっ……んふぅ……」

 

 遥の告白に身体をビクッ、と反応させる。恍惚とした表情を向け、物欲しげに遥の目を見つめてきた。

 

「愛梨ちゃん」

「なに?」

「ユニフォームってそれしかないの?」

「え?」

「試合のユニフォームだよ」

 

 焦らすように他の話題を出してくるあたり遥は根がサディスティックなのだろう。愛梨は一瞬困惑したように固まるが、すぐに返事をする。

 

「他にもあるけれど……」

「その中にショートパンツじゃなくてスコートウェアは無いの?」

「あるけど……」

「じゃあ次の試合からはそれを穿いて試合してほしいな」

「えっ」

「駄目?」

 

 クラウド・ボールは動きの激しい競技だ。通常は今、愛梨が着ているような半袖シャツにショートパンツ。転んでも大丈夫なように、膝・肘用のプロテクターを着ける選手もいる。

 本戦クラウド・ボールでは真由美が唯一スカートスタイルのスコートを穿いて試合をしていたが、真由美はその場で魔法を使ってボールを打ち返すプレイスタイルだ。

 

 対して愛梨は、知覚した情報を脳や神経ネットワークを介さず直接精神で認識する魔法と、打ち返す・走る・CADを操作する、それらの動きを精神から直接肉体に命令する魔法を使う。つまり、感覚器の電位差を直接読み取り、運動神経の電位差を直接操作するのだ。

 

 これが『稲妻』の正体。

 

 真由美とは根本的にスタイルが異なるため、コート内を動き回る愛梨はスカートスタイルで試合するのは色々と抵抗があるらしい。

 

「嫌よ……」

「どうして?」

「だって……はずかしいじゃない」

 

 動き回るという事は、それだけスカートがめくれる確率が高くなる。そうなれば必然的にスカートの中が観客たちに見えてしまうという事だ。下着ではないとはいえ恥ずかしいのだろう。不満そうに唇を尖らせながら訴えていた。

 

「ちゅっ」

 

 キスをせがむようにも見える唇の形に、遥はわざと音をたててキスをした。

 

「んっ……いや」

「ちゅぅっ……」

「ンンッ……絶対嫌だから」

「どうしてもだめ?」

「駄目」

「ざーんねん」

 

 遥もダメもとだったのかすぐに諦める。

 

「じゃあ今度、二人きりの時に見せてね」

「いや」

「はははっ嫌われちゃったなぁ、っと、もうこんな時間か」

「あっ……」

 

 約束の十分が経ち、愛梨から離れる。

 

「一高からも優秀な女子が出場してるから簡単には優勝できないと思うけど頑張って。試合見に行くけど、敵同士だし遠くから見守ってるよ」

 

 愛梨は物足りないのか、遥の袖を掴んだまま離さない。しかし優しく掃われると愛梨の口から寂しげな吐息が漏れた。

 

 遠くなっていく遥の背中を見えなくなるまで見つめ続け、自分の湿った唇に手を伸ばすといつまでも快楽の余韻に浸っていた。

 

 

 

 その後、新人戦女子クラウド・ボールは愛梨が圧倒的な差を見せて優勝を果たした。

 

 一高で出場した里美スバルと春日菜々美はそれぞれ二位と四位に入り、新人戦の順位は一高が一位を保ったままアイス・ピラーズ・ブレイクの予選を迎える。

 

 しかし優勝した愛梨は表彰式を終えて三高の控え室に帰ってくると、苛立った様子でタオルをベンチへと投げつけた。

 

「どうしたの愛梨?」

「いえ、何でもありません」

「そ、そう?」

 

 愛梨のエンジニアを担当した三年生が動揺するほどの荒ぶり。三年の女子生徒は気を遣って愛梨を一人にしたが、一人になった愛梨は不満げにモニターを睨みつけていた。

 モニターにはこのあと行われるアイス・ピラーズ・ブレイクの出場選手らの顔写真が載っており、愛梨の視線はその中でも白髪の男子生徒を捉えている。

 

「試合見に行くって言ったくせに、来なかったじゃないの……せっかくスカートにしたのに……」

 

 愛梨の苛立ちの原因はその男にあった。

 

 遥と別れた後、愛梨はそのままの姿で二、三回戦に挑み完封勝利。準決勝では一高の春日菜々美と対戦することになったが、その時に愛梨はそれまでのショートパンツスタイルからスカートスタイルへとユニフォームを変えた。

 エンジニアの三年生からは、必要以上に肌が露出することに忌避感を示していたが、愛梨が『実家からの命ですので』と言うと、手のひらを返したように愛梨のスカートスタイルを褒めていた。

 

 そしてスカートスタイルに変えたことで一番変わったのが観客たちの反応だろう。それまでは愛梨に対して、優秀な魔法師の一人として見ていたが、スカートスタイルになった瞬間、彼らは目の色を変えて愛梨を見るようになった。

 

 真由美の試合の時のように客席の最前列には多くの男性ファンが集い、愛梨がコートを駆け回るたびに野太い声援が会場に響き渡った。

 

 愛梨も最初は嫌悪感や恥辱感を抱いていたが、どこかで彼が見ているのだと言い聞かせて試合に臨んだ。

 

 しかしいざ客席を見渡して彼の姿を探すがどこにもいない。一高の生徒は所々に見えたが、肝心の彼の姿が見えず、徐々に愛梨の機嫌が悪くなっていく。

 試合では大差をつけて勝っているというのに、まるで負けているかのような態度を取る。だが、それが観客には好評だったらしい。

 

 高飛車な御令嬢が大胆な露出をして試合をする。しかも恥ずかしがっていることを悟られまいと必死にクールな表情を装っているんじゃないか、と妄想が妄想を生み、男性客たちの心を掴んでいった。

 

 結果として多くの男性ファンを獲得した愛梨だったが、愛梨の気分は上がることなく優勝することに。

 

「文句言ってやるんだから」

 

 腹の虫が治まらないのか、控え室には愛梨の愚痴りが遥の試合が始まるまで続いていた。

 

 ちゃっかりと遥の試合を会場の客席で見ていたのは言うまでもないが、その試合を見てまた不機嫌になったのはここだけの話。





3月26日16時追記
次回の投稿は3月28日19時予定です
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