※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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後書きに追記あります。


第79話 深雪の初戦と三高会議

 新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク、深雪の試合は一回戦の最終マッチ。

 昼が過ぎ、男子は既に二回戦が終了していることから、男子と女子の注目度の差が如実に待ち時間に現れている。

 本人はCADの調整をしたりチームメイトの試合を観戦したりと、待たされているという感覚は無かったが、会場に向かう前から観客席の盛り上がり具合を肌で感じていた。

 

 控え室には真由美や摩利、花音たちが深雪の応援に駆けつけ、落ち着かない雰囲気の中で達也は神秘的な衣装で身を纏った妹へと声をかける。

 

「深雪、頼もしい応援団だが逆に緊張しすぎるなよ」

 

 兄の言葉に深雪は微笑んだ。

 

「大丈夫です。雫やエイミィと戦うまでは負けられませんから」

 

 いつもと変わらぬ透き通った声と魅惑的な笑み。

 しかし、深雪の返事を聞いた達也は、妹の心境の変化を感じ取っていた。それは達也にしかわからない微々たるもの。

 

「お兄様?」

「……そうだな。まずは一回戦、行っておいで」

「はいっ!」

 

 これが親離れしていく子を持つ親の気持ちなのかと、妙な胸騒ぎに襲われながらも達也は深雪の背中を見送った。

 

「深雪さんなら大丈夫よ」

「そうですね」

 

 そんな真由美の見当違いな慰めの言葉を聞き流しながら、達也は関係者観戦席へと歩く。

 

 

 

 深雪が櫓から会場に姿を見せると、観客席が大きくどよめいた。

 

「緋色袴!?」

「巫女さんみたい」

「きれ~い」

 

 驚くのも無理はない。深雪の衣装は白の単衣に緋色の女袴。白いリボンで長い黒髪を首の後ろでまとめたスタイルだ。

 緋の袴、紅袴とも呼ばれ、巫女装束として用いられている衣装。

 ただでさえ整いすぎている美貌が、巫女装束と相まって神懸かった雰囲気さえ醸しだしていた。

 

「ブラボー!!」

「美しい……ッッ」

 

 クラウド・ボールは男女ともに決勝戦が終わり、一回戦の最終ゲームということもあって現在、裏で行われている試合はない。男子と違って女子アイス・ピラーズ・ブレイクは注目度が高いということも重なり、新人戦の一回戦にしては異例の満員状態となっていた。

 

「この歓声、完全に観客を味方に付けたわね」

「気の毒に。相手選手が委縮してしまっているよ」

 

 真由美と摩利は関係者観戦席から苦笑いしながら相手選手に同情の目を向ける。

 

「あれはさすがにあたしでも、ちょっと気後れするかもしれん」

 

 雫の振袖姿も大いに客席を湧かせたが、比ではない盛り上がり。掲示板スレの消費具合は、遥が袴姿で登場し、平凡な試合展開になった時と同等か、それ以上の速度だ。

 

 深雪の登場で、辺りは静謐な森の中にいるような雰囲気に包まれる。

 

「あそこまでの着こなし、尋常ではないな。ウチの実家のバイトに来てほしいくらいじゃ」

「沓子……」

「んぅ? 愛梨、大丈夫かの?」

「なんでもないわ」

 

 敵情視察も兼ねて客席に座っていた愛梨たちも、深雪の神々しい姿に目を奪われていた。

 

 

 

 もはや試合を観戦する空気ではなくなっている。相手選手は気の毒だが、観客の目は深雪の一挙手一投足に釘付けだ。

 

 それでも試合は待ってくれない。

 ライトが点り、試合が始まった。と、同時に強烈なサイオンの輝きが両陣営関係なくフィールド全体を覆った。

 

 フィールドを分かつ二つの季節。

 極寒の冷気に覆われた深雪の陣地と熱波に陽炎が揺らぐ敵の陣地。

 敵陣の氷柱はその全てが溶け始めていた。

 相手選手は急いで自陣の氷柱に冷却魔法を編みあげているがまるで効果は見られない。

 深雪の陣地は厳冬を越えて凍原の地獄となり、敵陣地は酷暑を越えて焦熱の地獄となっていた。だがそれも過程に過ぎず、ほどなくして敵陣は昇華の蒸気に覆われ始めた。

 

「これはまさか……」

「氷炎地獄……?」

 

 関係者観戦席にいる摩利と真由美の呻き声。

 

『第四高校清水選手陣内が熱気に揺らめいています……この魔法はまさか……「氷炎地獄」です! あの高等魔法が九校戦、しかも新人戦で見られるとは!! 灼熱の地獄で相手の氷を灼き、かたや自陣の氷を超低温の檻で完全防御。この魔法を破る術はあるのか!?』

 

 有線放送では実況、解説が大興奮。

 

 それもそのはず。『氷炎地獄』は時折魔法師ライセンス試験でA級受験者用の課題として出題され、多くの受験者に涙を呑ませている高等魔法だ。高校生が扱える代物ではない。

 しかし、深雪にとっては当たり前に使える魔法でしかなかった。

 

 既に敵陣地内の気温は摂氏二百度を超えていた。急冷凍で作った氷柱は内部に多くの気泡を含む粗悪な氷だ。その気泡が膨張して熱で緩んだ氷柱にひび割れを起こしている。

 不意に気温の上昇が止まり、次の瞬間、敵陣の中央から衝撃波が広がった。

 

 深雪が魔法を切り替え、空気の圧縮と解放を引き起こしたのだ。それによって脆弱化していた敵陣の氷柱は、そのすべてがひとたまりもなく崩れ落ちた。

 

『全ての氷柱を粉砕! 司波選手の氷には傷一つありません!! 試合終了!! 第一高校司波深雪、相手に一切の反撃を許さず完封勝利を挙げました!!』

「今の見たか? すごいぞ今年の一年はっ!」

「ここまでとは……」

「綺麗」

 

 

 

【全国魔法科高校親善魔法競技大会】九校戦スレPart58【現地観戦勢による解説】

834:

深雪!深雪!深雪!

 

836:

ひーめ!ひーめ!ひーめ!

 

839:

深雪姫!深雪姫!深雪姫!

 

840:

prprprprprprprprprprprprp

 

845:

みゆきたそ~みゆきたそ~

 

 

 

 

 

 掲示板も大盛り上がり。お祭り状態となっていた。

 

「何者なの……司波深雪……」

 

 ある者は歓喜し、ある者は戦慄する。

 わずか数分の出来事だったが、この会場にいた全員の脳裏にはしっかりと『司波深雪』という名前が焼き付けたられたことだろう。

 

『アイス・ピラーズ・ブレイク、新人戦一回戦最終試合はものすごい戦いになりました。第一高校、司波深雪選手が見せた「氷炎地獄」に会場はまだ興奮冷めやらぬ様子です。相手の魔法の干渉を一切受ける事のない鉄壁の守備を展開し、地獄の業火で脆弱化した氷を一気に爆散させる大技。とても高校生の大会には思えませんね。九校戦もここまで来たかという……――』

 

 女子一回戦が終了し、次にこの会場では男子三回戦が行われようとしていた。

 三回戦に勝てば明日開催予定の決勝リーグへ駒を進むことができる大切な試合。深雪の試合を見た観客たちはそのまま会場に居座り表彰台に上がる三人を見届けるようだ。

 

「なるほどあれが司波深雪か……。もし実戦に投入すれば一条家の長男に匹敵する戦力になるな」

「いけませんよ。それを示唆するだけでわが軍は貴重な戦略級魔法師を一人失うことになります」

 

 とある関係者席では軍に所属する山中幸典と藤林響子が深雪がいなくなったフィールドへと目を向けていた。

 

「それと、軍にスカウトするなら次に出てくる選手も注目ですよ」

「次? 次の次ではなくてか?」

「はい」

 

 響子は不敵に笑う。

 三回戦二試合目はあの一条将輝が出場するため、今会場に残っている人はその試合を目当てにしている者も多い。

 しかし響子は次、三回戦一試合目に出場する選手が注目だと言う。

 

「次は、第一高校宮守遥と第――――」

 

 山中はパンフレットに目を通すが、自分の記憶を辿ると一試合目に出場する両者ともに目立った活躍はしていなかった。記憶違いかと思い試合映像に目を通すも、特に気になる点は見当たらない。

 

「第一高校宮守遥。彼は少し活発的な子のようですし、期待してみてもいいんじゃないでしょうか?」

 

 電子・電波魔法による高度なハッキングスキルを得意とし、『電子の魔女』という二つ名で呼ばれている響子。

 彼女が遥の何を知っているかは不明だが、確実に何かを知っている口ぶりだ。響子の態度に山中は、男子にしては珍しく衣装を着ながら櫓の上で会場に手を振っている、宮守遥という人物へと視線を送った……。

 

 

 

 

 

 新人戦二日目を終え、第三高校が借りているミーティングルームでは一日目同様一年生全員で会議を開いていた。

 

「という事で、二日目は一色さんがクラウド・ボールで優勝。一条くんもアイス・ピラーズ・ブレイクで決勝リーグに駒を進めました。明日はアイス・ピラーズ・ブレイクとバトル・ボードがあるけど、一条くんと四十九院さんの優勝は確実だと思う」

「そうだね、万が一にも将輝が負けることはないだろうね」

 

 ある生徒の発言に真紅郎も同調し、それにつられるように周りの生徒たちも首を縦に振った。しかし、それに異を唱える者が若干名いた。

 

「ちょっといいかしら」

「わしからも一つ」

「一色さんと四十九院さん?」

 

 真紅郎は眉をひそめながら二人の方へと耳を傾けた。

 

「バトルボードに関してなんじゃが、目算は優勝じゃなくて二位のポイント計算でしておいた方が賢明だと思うぞ」

「どうしてだ?」

 

 沓子の言葉に将輝が尋ねる。

 

「第一高校光井ほのか。あやつは只者ではない。勝つのは困難を極めるじゃろう」

「光井……あぁ、九校戦ニューレコードを出した女子生徒か。だがあれは周りが彼女を好きに走らせた結果じゃないのか?」

 

 将輝や真紅郎を始め、三高スタッフたちは、ほのかが予選で出した大会新記録は、一緒のレースに出場していた低レベルな選手たちによるアシストがあったからだと考えていた。

 

 バトル・ボードはレベルが上がれば上がるほどゴール時のタイムが遅くなる傾向にある。これは上級者同士が一緒のレースになった時に、他選手たちによる足の引っ張り合いが起こるからだ。

 レベルが上がるほど他選手への妨害魔法のレベルも上がり、それに対応・順応するため自衛の魔法を展開する必要がある。そうなれば必然的にゴールのタイムも遅くなるというわけだ。

 

「予選のレースを見た限りでは、スタートしてすぐに他校の選手が水面に波をたてて妨害しようとし、光井選手もそれに動揺していたように見えたが、おそらく妨害に慣れていないんじゃないか?」

「もしそうなら四十九院さんペースの展開になると思うよ」

 

 将輝も真紅郎もほのかを舐めているわけではない。しっかりと研究したうえでの持論を述べている。

 

「確かにわしの古式魔法は水面への妨害に効果的じゃが、あやつにどこまで通用するかのう」

「気にする心配はないさ。いつもの実力を出せば優勝確実だ」

 

 将輝たちは楽観視しているわけではない。自分たちが一番練習してきたという自負があり、実力も備わっている。普通にやれば負けるわけがないと思っているだけだ。

 

「一色さんも何か言いたい様子だったけど、何か気になる点でもあるの?」

「そうね、私が言いたいのは男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグに残った選手の事よ」

「ん?」

 

 愛梨の言葉に将輝は不審がる。

 

「どういうことだ?」

「前に懇親会で宣戦布告してきた他校の選手がいたって話はしたわよね?」

「ああ」

「その選手が決勝リーグに残った第一高校宮守遥という男なのよ。彼が一条くんの前に立ちはだかるのではないかと心配になっただけ」

「みやもり、はるか?」

 

 将輝は名前を聞いて一瞬頭にクエスチョンマークを浮かべたが、すぐに思い出したように相槌を打った。

 

「ああ、彼か。その男子の事ならもう研究済みだ。だよなジョージ」

「うん。予選三試合のデータで彼の事は大体は分析済みだよ」

 

 当然のように真紅郎は得意げに端末を操作して宮守遥のデータをモニターに表示させる。

 そこには起動式を展開してから魔法を発動するまでの時間だったり、予選を通しての傾向や対策がズラリと描かれていた。将輝の対戦相手という事もあって準備に余念はない様子。

 

「彼は予選三試合全てで一本差の勝利を収めている。全試合先手を取られているけど後半巻き返しての勝利だ。これから推測するに、彼の魔法力はこんな感じだと思う」

 

 モニターの画面を切り替える。

 真紅郎は予選から遥のレーダーチャートを作り上げていた。そのデータによると遥は、処理速度の数値は低いものの、干渉力とサイオン保有量が高めに設定されていた。変数の数は未定とあったが、アイス・ピラーズ・ブレイクにはあまり必要のない項目であり誰も声を発する者はいない。

 

「それに加えて、予選三回戦の戦いを見て彼は本来古式魔法の使い手なんじゃないかと思ってる」

「どうしてそう思ったの?」

「三回戦の戦いを思い出してほしい」

 

 そう言うと真紅郎は今度、つい先ほど行われた遥の三回戦の映像をモニターへと移しだした。

 

「最初は無抵抗に氷柱を壊されている。これは予選を通じて変わらないね。彼は攻撃特化型なんだろう」

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクでは大きく分けて三種類の戦術がある。

 一つは攻守万能型。相手陣の氷柱を攻めながら、自陣の氷柱を防衛する戦い方だ。『氷炎地獄』で大いに会場を湧かせた深雪がこのタイプに分類されるだろう。

 二つ目は防御特化型。このタイプはほとんど存在しないが、十文字克人のような障壁魔法に優れた者がこれに分類される。防衛に徹しながら相手の隙を付く戦術で、高度な防御能力が無ければ成り立たず、地味な戦いになるため選ぶものは少ない。

 そして最後の一つ、真紅郎は遥はこのタイプだと分析しているが、それが攻撃特化型だ。自陣の氷柱などお構いなしに、壊されるよりも先に壊してやる精神の戦い方。選手の中ではこのタイプが最も多く、エイミィなどがこれに当てはまる。

 

「自陣の氷柱が壊されても焦ることなく起動式を展開する胆力はすごいと思うよ。でもそれだけ。彼は自陣の氷柱を犠牲にして時間がかかる古式魔法を選択している。これが三回戦で使った魔法だね」

 

 モニターには遥の陣地の氷柱が一本。対する相手陣地の氷柱は十二本と大差がついているが、空に暗雲が立ち込め、辺りが光ったと思った次の瞬間、相手陣地の氷柱が全て粉砕されていた。

 

「古式魔法の招雷だ。雷雲を発生させ本物の雷を模倣する天候操作魔法で、本来は雷雲を発生させるのだからもっと時間がかかるはずなのに、この短時間で発動できるという事から、彼が古式魔法の使い手だと思った最大の理由がこれだね」

「そう、なるほどね。でも一回戦、二回戦と戦い方を変えてきていることを疑問に思わないのかしら?」

「一、二回戦は女子の北山選手も使っていた共振破壊を使っての勝利。あれは招雷よりも早く発動できる代わりに威力は低い。同時にその二つの魔法を発動できるなら強いかもしれないけど、そんなことは不可能だ」

 

 複数の魔法を全く同時に発動する技術は『パラレル・キャスト』と呼ばれ存在するが、現代魔法と古式魔法の同時発動は不可能と言われている。真紅郎もはなからその考えは消していた。

 

「速度の共振破壊、威力の招雷。どちらも難易度の高い魔法である事に違いは無いけど、将輝の爆裂魔法には速度も威力も劣っている。将輝に勝つのは万が一にもないと思うよ」

「ならいいけど、油断はしない事ね」

 

 愛梨の言葉は二人の耳に届いているのだろうか。特に遥について警戒することなく会議は終わった。

 




追記:後書きにて4月16日に投稿すると告知していましたが、申し訳ありませんが18日に延期させていただきます。
楽しみに来ていただいた方は誠に申し訳ございません。
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