『な、なんとっ、新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝戦は……引き分けです!!! 九校戦が開催されて以来初の第一高校の選手同士の決勝戦。それが引き分けという結果に終わりました!』
試合終了とともにアナウンスの声が拡散され、会場には万雷の拍手が鳴り響いた。
『超高難易度魔法『
会場の大型モニターには最後の場面が映し出されていた。スロー再生による解析がなされたが、ミリ秒単位でも同時に破壊が確認されたため引き分けという結果になったようだ。
『これにより、司波深雪選手と北山雫選手の両者優勝が確定いたしました! 同じく第一高校の明智英美選手はこの場に立つことは叶いませんでしたが、混戦極める予選を勝ち上がり決勝リーグまで進出しました。彼女にも惜しみない拍手をお願いします!』
多くの者たちに二人の名が刻み込まれただろう。九校戦史に残る壮絶な戦いは終わりを迎え、本日のメインディッシュとも呼べる最終試合の時間が近づいてきている。
一条将輝VS宮守遥。
ともに女子の試合の前に行われた決勝リーグの初戦を勝ち、次の試合に勝てば新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイクの優勝が決まる。
予定ではこの後、同じ会場で行われるはずだったが、深雪と雫の魔法によってステージ上が短時間で修復不可能という状況に陥り、急遽隣の会場で行われることになった。
十師族の魔法を直に見る機会はめったに訪れない。興奮冷めやらぬ会場では、一条将輝の勇姿を一目見ようと隣の会場へ移動する観客たちで溢れていた。
そんな中、試合を終えた雫は控え室に戻るとほのかに出迎えられていた。
「雫!」
今にも力尽きそうなほど疲弊した姿を見せる雫。ふらふらと酔ったように揺れる雫を、ほのかは自分の胸の中に抱え込んだ。
雫はダラリと手を下したまま、ほのかの胸に頭を預ける。
「ほのか、ごめんね?」
「どうして雫が謝るの!?」
「……勝てなかったから」
「ううん。立派だったよ」
どれだけ雫がこの試合にかけていたのかを知ってるほのかは、痛いほど雫の気持ちを理解していた。だからこそ言葉だけの慰めが不要なことも知っている。
「全力を出したけど、勝てなかった」
「うん。頑張ったね」
二人は椅子に座り、互いに寄り添うように頭を傾ける。
「深雪の魔法すごかったね」
「うん」
「雫の魔法もすごかったよ」
「そう?」
「うん! だって練習の時はフォノンメーザーで一個の氷柱しか壊せなかったのに一気に三個も壊せた。まだまだ成長途中なんだよ」
肩を抱きしめる。
「雫は今が成長期なんだよ」
ほのかに比べれば貧層だが胸のサイズも成長している。身長は相変わらず伸び悩んでいるが……。
「負けなかった。それが今の深雪と雫の距離。確実に前とは縮まってきてるよ」
入試の成績や期末試験の実技では深雪に劣っていた雫。それがこの数ヶ月で引き分けるまでに成長した。
「優勝おめでとう、雫」
「……うん」
「おめでとう!」
「……ありがとう」
「うん!!」
明るく振る舞うほのかに、雫は恥ずかしそうに笑った。
「痛いよほのか」
再び強く抱きしめられ、小さな身体がほのかの胸に埋もれた。抵抗しないのは、単に試合後で疲弊しているからなのか、それともほのかの温もりを心地よく感じているからなのか……。
いくばくかの時が過ぎ、ほのかから解放された雫はほのかの顔を見上げた。
「着替えなきゃ、ハルカの応援に行かないと」
時計を見ると試合予定時刻まで十分を切っていた。
「疲れてるんだからテレビで応援してもいいんだよ?」
「それはない」
ほのかの提案に即答する雫。
「ぷっ、ふふっ、そうだよね、雫なら這いつくばってでもはる君の試合は見に行くもんね」
九校戦フリークの雫は、そもそもがテレビで観戦するという選択肢がない。それが遥の試合となればどんなことよりも優先するのは分かりきっていた。ほのかは自分の提案に呆れるように笑った。
「着替え手伝うね!」
親友であり互いに同じ人を好きになった二人。前に比べて二人きりになるという時間が減ったものの、だからこそこの時間がとても濃密で幸せなものになっているのかもしれない。
「うん!」
ほのかの笑顔に雫は笑顔で応えた。
九校戦六日目、新人戦三日目の最後を飾るのは新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイクだ。
決勝リーグは予選を勝ち上がってきた三選手による総当たり戦。既に二試合を消化し、一条将輝の一勝、宮守遥の一勝、もう一人の選手が二敗という成績になっている。
これから行われるのは一勝同士の戦い。これに勝った方が男子アイス・ピラーズ・ブレイクの優勝者となる。
十師族であり「一条」家長男で次期当主である一条将輝が出場するとあって、会場はさきほど同様超満員。
特に来賓席は異様な空気が渦巻いていた。
「真夜よ、君はこの勝負どちらが勝つと予想するかね?」
「あら、先生こそどちらが勝つとお思いなのでしょうか?」
深雪と雫の試合は別々の場所で観戦していた二人が、会場移動というイレギュラーによって偶然同じ空間に集うことになった。
九島烈と四葉真夜。
現在の日本の魔法師界で、トップに君臨する二人が一緒の部屋にいるというだけで大会関係者は薄氷を踏む思いに違いない。
今大会、二人が同じ場所で試合を観戦するのはこれで二度目。奇しくも一度目の試合に出場していた選手も宮守遥だった。
いくら鈍感な者でも彼に二人を惹きつける何かがあるのだと察していることだろう。だがもし彼の事を追及しようとすれば自分の身が危うくなることも理解できるはず。そんな軽はずみなことをする者は大会関係者にはいなかった。
「宮守家というのを知っているかい?」
畏怖すら感じさせる雰囲気だが、当の本人たちは楽しそうに会話を続ける。
「宮守家、でしょうか?」
「ああ」
「宮守グループを治めている、ということは存じておりますが、それ以外の事は……」
烈と真夜はかつての師と弟子という関係だが、今は互いに腹の探り合い、といったところか。真夜はそれ以上の情報を提示するつもりはなかった。
「ふむ、今の者たちはその印象が強いだろうが、十二世紀頃に活躍した名家の一つに『宮守』という家系があるのだよ」
「はあ……」
二人の視線は櫓に乗ってステージに登場した遥へと注がれる。
「
単純な話である。
『みやこ』を『まもる』から『みやもり』と名付けられた。数百年前の話である。
「『京都における公家の藤原家を守護していた』という話や、『「京」がある明治神宮を守護する者に与えられた称号』などの説もあるが詳しいことは大昔すぎて分かっていない」
「なら先生は何をお話になられたいのでしょうか?」
「なんにせよ『宮守』家が守護の家系だったという事に変わりはない」
いきなりどうしてこの話をし始めたのか理解できない真夜は、疑懼の念を抱いていた。
まさか宮守遥のある魔法の事についてもご存じなのか。そんな疑惑さえ生まれるほどに。
「守護の家系……でしたら現代の宮守家の人間が、魔法が使えない理由は何故なのでしょうか?」
「やはり宮守家の人間が魔法を扱えないことは知っていたか」
しまった、と一瞬眉をひそめたが烈には気づかれなかったようだ。その程度のこと調べればすぐに分かるが、口は災いの元ともいう。真夜は内心自分自身に苛立ちながら烈の話に耳を傾ける。
「様々なモノからこの国を守っていたと言ったが、それは妖狐や悪霊だったと言われている」
「悪霊だなんて……」
「そんなものいるはずがない。そう思うのも分かるが話を聞いてほしい」
「はい」
「今の宮守家の人間が魔法を使えない理由、それは『ソレらとの戦いに敗れ、力を失ってしまった』あるいは『守護対象を守り切れず、無能の烙印を捺されて力を封印された』という説が濃厚だ」
烈は言葉の最後に、油断していれば聞き逃してしまうほどの声の大きさで『力が強大すぎて周りから謀られたのかもしれんな。力を持ちすぎると狙われるのはいつの時代も同じだ』と口にしたのを真夜は聞き逃さなかった。そしてそれこそが烈の言いたかったことなのだと悟った。
四葉は十師族の中でも力を持った一族だと言われている。あまり力を持ちすぎるなよと警告しているのかもしれない。
「お話は分かりましたけれど、それならなぜ彼は魔法を使えるのでしょうか? 確かに宮守家は彼以外魔法師の資質は無いようですし……先生のお考えをお聞きしたいですわ」
調整体の可能性も考えたが、同じ過ちは二度も犯さないと真夜は口を堅く噤んだ。
「もしかしたらあやつは……何百年と封印されてきた宮守家の力を受け継いだ……」
――化け物なのかもしれない。
真夜の耳にはそう聞こえた。しかし烈の口は閉ざされており、自分の空耳だと聞き流すことにした。
「この試合で全てが分かるだろう……予選を通してすべての試合で一本残しの勝利。よもや偶然ではない。もし一条の倅を破る実力があるようなら、奴の力は本物だと……」
未だに十師族の中には血筋を重視した政略婚が蔓延している。それこそ十師族は十師族の人間と子を作るべきだという考えの者が多くいるのが現状だ。
そんな中で烈は『優秀な魔法師であれば認められるべきである』という考えの持ち主で、そういう意味では柔軟で寛容な人間なのだろう。
しかしそれは真夜にとって面白くないものだった。
真夜は後方に控えていた執事に目配せすると、執事は恭しくお辞儀して部屋を出ていった。
【次回の投稿は5月10日19時予定です】
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