※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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第88話 試合後の様子~その2

四.

 

 九校戦観戦を終えた真夜は九島烈と別れてホテルに戻ってきていた。部屋に帰ってきて最初にしたことは、姉の深夜に電話をかけること。電話のコールは一回ほどで繋がった。

 

「どうしたの真夜?」

「どうしたの真夜? じゃないわよ。何とぼけたふりなんてしてるの?」

「あら、何のことかさっぱりわからないわ」

「まったく……」

 

 映像通話する二人の姉妹は四十歳を超えた女性とは思えないほど妖艶な雰囲気を纏いながら微笑みあう。官能的な色香すら感じさせる二人に、機械ですら動揺したのか一瞬映像が乱れた。

 だが別にカメラに感情があるわけでもなく、これは単に盗聴や電脳攻撃を防ぐために一定時間が経過すると自動的に別回線へと切り替わる時の仕様上の乱れだ。

 

「九校戦の放送は見ていたのでしょう?」

「ええ、十師族の力がどれ程の力か見てみようと思ってね」

「そういうのはいいわ、身内とまで腹の探り合いは疲れるもの」

 

 真夜は邪険に手を振り払う動作をする。深夜の目的が十師族ではないことは明らかだった。

 

「そういえば先生と観戦していたようね。放送でも話題になっていたわよ」

 

 四葉家当主と九島家の当主だった男は同じ空間にいるだけで話題になってしまう。

 

「先生……あの男と話すのは疲れるわ」

「ふふふ、全てを見透かされているような気持ちになるものね」

「あー葉山さんの淹れてくれたコーヒーが飲みたいわ」

「そういえば姿が見えないわね」

 

 現在、真夜の側近ともいえる執事の葉山の姿はそこにはなかった。真夜の手元には自分で用意したのかグラスに入った透明な液体が見える。

 

「ええ、葉山さんには大切な商談を任せているのよ」

「こんな時に?」

「こんな時だからよ」

 

 真夜の紫色のルージュが三日月状に変化する。そして透明な液体を一気に飲み干すと、グラスについた紫色のキスマークを指で拭った。

 洗練された一連の動きにまた映像が乱れ、真夜が顔を上げると新たな話題へ移る。

 

「宮守遥。彼が私の探し求めていた人間。間違いないわ」

「彼はまだ高校生よ?」

 

 真夜の言葉に深夜が疑問を投げかける。その言葉の意味が伝わらない真夜ではない。

 

 四葉が総力を挙げて三十年以上もの年月をかけて探しているというのに、未だに見つからない謎の男。

 その人物というのは真夜の命の恩人で、唯一にして最初のキスの相手。

 三十年以上も……と聞けば愛が重いと言われても仕方ないが、十二歳の頃の初恋の相手を探していると言えば可愛らしく聞こえてくるから不思議である。

 

 十二歳の少女が年上の青年に恋をする。よくあるラブロマンス物語だが、今じゃあその少女も四十代後半。真夜自身、初恋を実らせたいから探しているのではなく、もう一度だけ会いたいというのが本音だろう。

 

「これが証拠よ」

「それは?」

「DNA鑑定の結果」

 

 真夜の持つ端末に表示された『完全一致』という文字。それは崑崙法院で残されていた遥の血液と現在の髪の毛から取れたDNA鑑定の結果だった。

 

 あの時、真夜が遥の唇を噛みきった時に出た血痕が今も保存されていたのだ。そして遥が屋台巡りをしている時に観光客に紛れた四葉の刺客が髪の毛を採取。その二つを鑑定した結果、あの時の青年と高校生・宮守遥が同一人物という事が証明されてしまった。

 

「でも年齢や容姿はどう説明するつもり?」

「そんなもの幾らでも説明できるじゃない」

 

 人体の冷凍保存、遺伝子操作、時止めの魔法に幼児化する魔法……。どれも非現実的な話だが、可能性がないわけではない。

 

「それにあの時の崑崙法院は四葉以外の侵入者は誰もいなかったとされているのよ?」

 

 遥が大漢の人間じゃないことは崑崙法院の中から見つかった名簿からも確認が取れている。だからこそ謎の青年が真夜の前に現れた動機も、どうやって現れたのかすらわかっていない。

 

「突如私の前に現れて消えていった。まるでどこかの世界からやってきて元の世界に消えていったみたいに……」

 

 そんな小説や映画のような話があってたまるか、と深夜は目を細めるが、他に説明できないのも事実。

 

「彼は私を助けるためにこの世に現れ、そして生まれ変わってまたこの世界に誕生したのよ。あの時の姿は仮の姿。今のこの姿が本当の彼なのよ」

 

 少女漫画に出てくるように瞳を輝かせて話す真夜に、深夜は何も口を出すことができない。

 

――真夜にとっては正義のヒーローだものね

 

 今でこそ落ち着いて冷静に話すことができるが、真夜が三十代の頃は遥の血液を見ながら『血液だけじゃ妊娠できないわよね?』などとおぞましいことを言って使用人たちを震えあがらせていた。

 

 『過去は美化』され、『恋は盲目』と重なった結果、『愛がとてつもなく重い』女性へと変貌してしまった。

 

――それも全て彼が悪いのだけれど、本当に彼が真夜を?

 

 深夜はまだ信じられていない。だが、十師族でもないにもかかわらず一条家の長男を破る魔法力を持つ少年。彼が只者でないことは深夜にもわかる。

 

「それと、彼、深夜が探していた占い師と同一人物ね」

「ッッッ!?」

 

 突如真夜から落とされた爆弾に、声にならない叫び声をあげた。

 

――想像はしていた……でも改めて告げられるとこんなにも驚くなんて……

 

 三十年以上前に真夜を助けた男で、ファーストキスを奪った相手。そして数十年の時を経て沖縄で深雪や達也、穂波や深夜の命を救った男。

 

 宮守遥という少年が『触れてはならない者たち(アンタッチャブル)』に触れられた瞬間だった。

 

 

 

六.

 

 真由美、摩利、鈴音、あずさ、花音、啓の六名は一高の天幕の会議室で、さきほど終わったばかりの新人戦男子アイス・ピラーズ・ブレイクの試合を見直していた。

 

「まさか勝ってしまうとはな……」

「はい、二位でも新人戦優勝には問題ないと思っていましたが、これで優勝は確実になったかと」

 

 摩利と口角を上げながら興奮した様子で、鈴音は表情には現れないものの普段よりも声が上擦っていた。

 

「この魔法はムスペルスヘイムって言うんだってね。中条さんはそんな高度な魔法式をよく組み込めたね」

「ほんとほんと! 中条さんって凄いのね」

「いえっ、そんんんな、私は大したことはしていませんから!」

 

 隣では同じ二年生同士、花音と啓に褒めちぎられて頭が低くなっているあずさの姿がいた。

 

「ほ、ほんとに私は少しだけ魔法式の効率を上げただけで、基礎は全部宮守君が済ませてくれてましたから」

「そういえば彼はCADの調整はできるんだったね」

「はい、おかげで私も楽できました」

 

 遥はCADの扱いには不慣れだがCADの調整は人並み程度にはできる。とはいっても本職の達也やあずさには遠く及ばない実力だが。

 

「だそうですよ摩利さん!」

 

 花音が仲のいい摩利をからかうように煽った。

 

「なっ、それを言うなら花音、お前だって一人じゃCADの調整はできないじゃないか!」

「私は啓がいるからいいんですよーん」

「くっ……」

 

 花音は啓の腕に抱きつき、許婚同士仲睦まじい姿を見せつけられる摩利とあずさ。あずさは『ほわわわ~』と顔を赤らめさせているが、摩利は恨めしそうに花音の事を睨む。

 

「おい真由美、何か言ってやれ!」

 

 分が悪いと思った摩利は隣に座る真由美へと話を振るが、真由美は試合が映るモニターに釘付けで反応が無かった。

 

「真由美?」

「……」

 

 だらしなく頬が緩んでいるのは見えたが、何に対して見惚れているのか……摩利はすぐに気づく。

 

――あぁ、素敵。普段の笑った顔の遥くんも好きだけれど、真剣勝負の眼差しは格別ね

 

 周りの声など聞こえないほどに、真由美はモニター越しの遥の姿に心を奪われていた。

 

――『真由美ちゃん、好きだよ』って甘く言ってくれるのは嬉しいんだけど、もしこんな風に……獰猛な顔つきで近寄られたら……ダメよっ、耐えられないわ……

 

 妄想の世界に浸る真由美。もはや人に見せてはいい顔をしていない。もしも男子が今の真由美の表情を見たら股間を抑えて前かがみになるか、赤面して硬直するに違いない。

 この場にいる唯一の男子である啓が、あずさや花音と話をしていて真由美の方を見ていなかったのは救いだろう。

 

――私がダメよ、って拒んでも遥くんが私の手を手錠で拘束して、首を絞めてきて……苦しいのに気持ちよくて……『お前が欲しい』だなんて……ああん、ダメダメダメッ、そんなのズルいわよぉ……

 

 誰もが尊敬する生徒会長からドMな牝へと調教される。数日前に行った首絞めプレイの快感を思い出しながら、真由美の手が下腹部に伸び――

 

「おい、真由美」

「っ!?」

「やっと反応したな、中条たちはホテルに戻ったぞ」

「へ?」

 

 外を見ると綺麗なオレンジ色が空を染めていた。

 

「もう夕方!?」

「ったく、どんだけ遥に夢中なんだ」

「ッッッ……」

「図星か」

「ち、違うわよっ、は、遥くんの魔法を分析してたのよ!」

 

 真由美と摩利は互いに遥との関係を知っているが、まだ茶化されることには慣れていないようだ。真由美は頬を紅潮させながら恥ずかしそうに縮こまった。

 

「一条に勝ったことで遥の実力が明らかになったわけだ」

「ええ、そうね」

「十師族にも勝てる力を持っていることが露呈した。もしかしたらどこかの家が動くかもしれないぞ」

「え?」

「どこかの家に取られる前に動いた方がいいんじゃないか?」

 

 家同士の事で部外者が口だすことではないが、親友としての助言。真由美の気持ちを想っての発言だ。

 

「さすがにいきなり婚約することになった、なんてことにはならないと思うが、遥を抱え込んでおきたいと思う家が出てきてもおかしくないだろ。もしそうなったら色々と面倒なことになるんじゃないか?」

 

 他家と関わりがある人間と真由美が肉体関係にある。それは十師族として随分と外聞が悪い。

 

「真由美が本当に遥の事を想ってるなら……これ以上はあたしの口からは強要はできないがな」

「摩利は……いえ、何でもないわ」

 

 摩利は真由美と違って遥とはキス止まり。それに恋人である修次との関係もある事だし、まだ日常的に遥を意識するようなレベルまでは至っていない。

 

「ありがとう、摩利」

「ふん、別にあたしは知らない家に遥を横取りされるくらいなら真由美の方がマシだと思っただけだ」

「ふーん、横取りっていつから遥くんは摩利のモノになったのかしら?」

「なっ、そ、それは言葉の綾として言っただけでだな!」

「冗談よ。摩利の顔、真っ赤よ?」

「夕日のせいだッ」

「ふふっ」

 

 摩利の背中に夕日が沈んでいく。彼女の顔に夕日が映ることはありえないのだが、真由美はこの空間に居心地の良さを感じ、柔らかな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

七.

 

 七草家当主である七草弘一はふぅ、と息を吐きながら自室のソファーに深くもたれかかった。

 

「一条将輝が、負けたか」

 

 十師族という存在は日本の魔法師界にとって特別な存在である。特別な存在でなければならない。そこに所属する魔法師が一般魔法師に負けたという出来事に弘一はどうしたものかと頭を悩ませる。

 

「宮守遥……」

 

 かつての師である九島烈から話を聞き、自分の娘にそれとなく遥と『仲良くなれ』という実質的な監視を任せたはいいものの、真由美からは定期的に連絡が来るがどれも大した内容ではなかった。

 もっと深く探らせるために『色仕掛けしてみたらどうだ?』という文面を書いては消してを繰り返す。他家に対する計略を好むが、どうやら実の娘に対してはまだ非情になれないようだ。

 

「奴が傍流であっても十師族の血を引いていれば問題は無かったが……」

 

 数日前に烈から話を聞き、烈が帰った後すぐに情報を集めた結果、宮守遥は十師族と何の関係もないことがわかった。

 遥の父親が代表を務める会社が十師族や有力魔法師家に対して積極的にアポイントメントをしているが、宮守グループからは七草家もスポンサーにどうかと打診が来たことがあったためそれほど気にすることでもない。

 その時はその他大勢の魔法関連企業と同じ、十師族の『虎の威を借る』のが目的だと突っ撥ねたが、今になってよく考えてみると色々と見えてくるものがある。

 

「奴は一般魔法師。私は、しばらく忙しくなりそうだな……」

 

 遊びの試合であろうと十師族が負けることは許されない。

 今頃、一条家は多方面への陳謝や対応に追われているだろう。その点に関していえば真由美は二種目に出て二種目とも完全優勝。七草家の面目を保っているが、同じ十師族として尻ぬぐいをしないわけにもいかない。

 

 弘一の言葉とは裏腹に、一条家に対して嫌味の一つでも言えると顔がにやけていた。

 そして再び思考を遥へと戻す。

 

「宮守グループは数年前から魔法関連の企業と関わりを持つようになったが、それでも数年だ……」

 

 約三年前に宮守グループからほとんどの有力魔法師家にスポンサー打診の一報が届けられた。ほとんどの十師族は相手にしなかったが、師補十八家の中には資金繰りの厳しい家もあり、そういう家は宮守グループと協定を結んだとされている。

 有名なところでいえば『一色家』が宮守グループと協定を結んだと発表があった。

 

「自分の息子一人だけのために何十、何百億の大金をつぎ込むとは思えないが……って、あの男の親馬鹿っぷりは有名だったな」

 

 遥の父親であり宮守グループの代表は親馬鹿っぷりで有名である。それこそ何十億のスポンサーの見返りに遥の魔法の技術向上に付き合うなどの条件を提示したり、今回の九校戦では会場周辺にある関連ホテルの宿泊費割引などのキャンペーンを行っている。これら全て遥のために、である。宮守グループから出資されていると言われているが、弘一調べでは個人資産からの出資になっている。

 

 他にも遥には妹弟がいるが、妹弟にも大金をつぎ込んでいるとかいないとか……。

 

「金を使って得たものは何だ? まさかたった数年で息子を十師族に勝てるまで育て上げたとか冗談ぬかすわけではないだろう」

 

 宮守グループが魔法師と関わりを持つようになって数年。それまでは魔法の『魔』の字も知らないような連中だった。

 彼らが息子である遥が魔法の素質がある人間だと発表したのは彼が十歳の時。そこから英才教育を施したとしてもまだ五年だ。たったそれだけで十師族に勝てるまで成長するはずがない。

 

「何か秘密があるはずだ。隠された秘密が……まさかっ!?」

 

 九島烈は『四葉真夜が探している』と言っていた。つまりそれは四葉真夜と関係がある人間という事になる。もしかして四葉真夜の息子か? などと思考を巡らせるが、答えは見つからない。

 

「いや、そんなはずはない……だが、他人のために真夜が直接会場に向かうか……?」

 

 四葉真夜の息子ならば一条将輝に勝っても不思議ではない。しかしそれは現実的ではなかった。

 

「自分の息子であれば何故探している……それにそれならばあいつが誰かに話すこともありえない」

 

 昔、弘一と真夜は婚約者だった。その頃の名残で真夜に対する弘一の口調がだんだん砕けてきているが本人は気づかない。

 

「ならば本当に他人か……」

 

 テレビの画面に映る遥の立ち振る舞いからは真夜の影やニオイはしない。弘一からすれば遥よりも深雪の方が四葉のニオイを感じ取っていたが、今はそれどころではなかった。

 

「奴が優秀なら血筋は何とかなる。真由美と婚約させるか? いや、真由美よりも香澄や泉美達の方が年も近いし……」

 

 当然遥に恋人がいることも掴んでいるが、その恋人も一般魔法師。七草家にとって略奪婚など容易である。

 

「奴と繋がりを持つことができれば四葉とも……」

 

 九校戦が終われば夏休み。その時にでも遥を呼んで大人の話し合いでもしようかと画策していると、部屋の扉が叩かれた。

 

「少々お耳に入れておきたいニュースが飛び込んでまいりました」

「なんだ?」

 

 使用人の一人が仰々しく弘一の傍までやってくるとA四サイズの紙媒体を渡す。紙媒体なのは外部に情報を洩らさないため、確認後に処分しやすいからだ。

 

「……なんだとッッ!?」

 

 目を通すと信じがたい情報が飛び込んでくる。弘一は瞠若しながら机に書類を叩きつけた。

 

「これは真実なのか!?」

「ええ、もちろんでございます。『影』たちが掴んだ情報です」

「……影が、そうか。わかった。もう下がっていい」

「失礼いたします」

 

 遥が将輝に勝った時よりも深くソファーにもたれかかった。頭を抱えたくなる衝動に駆られながらも必死に頭を働かせる。

 

 机の上の書類には『宮守グループ、四葉と盟約を結ぶ』と書かれていた。

 

 新たな風が魔法師界に吹き込もうとしている。

 

 




5と6に関連するものが思い浮かばなかった……。

【次回の投稿は5月16日19時予定です】

私が好きなキャラは

  • 一色愛梨だ
  • 十七夜栞だ
  • 四十九院沓子だ
  • 中条あずさだ
  • 渡辺摩利だ
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