※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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第90話 束の間の休息

 

 試合後のインタビューを終えた遥は、着替えを済ませて一高の天幕に向かっていた。道中、他校の生徒や関係者からの試合前とは比べ物にならないほどの熱視線を向けられながらの移動。

 全身を舐めまわすような不愉快な視線に、とても気分が良いものとは言えなかったが、これも有名税と割り切ることに。

 しかし、我慢した先にはご褒美が待っていた。

 

「はる君っ!」

 

 癒しを生む笑みを浮かべながら幸せを運ぶキューピットが遥の前に舞い降りた。

 駆けてくる彼女の胸の高さに自分の顔がくるよう調整して膝立ちになると、そのまま顔面が大きく柔らかな双丘に包まれた。この男、実に計算高い男である。

 

「優勝おめで……っっ!?」

「ンぅ、ほのかちゃん成分補充中~」

「ちょっ、は、はる君!?」

 

 衣服の上から胸の肉を唇で甘噛みしてくる遥に驚き、慌てて周囲を確認するが幸いなことに周りには遥たち以外誰もいなかった。

 

「優勝したごほーびちょーだい」

 

 胸に挟まれながら上目遣いでほのかを見つめる。勇敢に一条将輝に立ち向かった男と同一人物とは思えないほどだらしない態度だが、普段見せないだけに余計にほのかの母性本能が疼いた。

 

「ど、どうしよう雫……はる君が可愛いんだけど……」

「ハルカ……」

 

 なぜ自分には抱きつかないのか、胸か、胸が原因なの? とジトーっとした視線が遥に向けられ、雫の思考を読んだ遥はにんまりと微笑むと彼女を引き寄せて二人の胸に包まれる。

 

「ん~こっちの胸からは甘い匂いがするなぁ、これは雫ちゃんの汗の匂いかなー?」

「違うから、変態」

 

 口ではそう言っていても抱きつかれてまんざらでもない様子。遥の頭を撫でながら雫の頬が緩むのをほのかは見逃さなかった。

 

「にへへ……」

「ハルカが、可愛い……?」

 

 基本的に遥はS気質。ベッドの上だったり一緒に風呂に入っている時に甘えてくることはあるが、ここまで日常の中で甘えてくることは珍しい。

 自分たちにしか見せない遥の甘えっぷりに、陶酔感に浸りながらも異変に驚く二人。

 

「はる君、優勝おめでとうございます!」

「ハルカ、おめでとう」

「二人ともありがとう。ほのかちゃんも、雫ちゃんも優勝おめでとう。これで三人揃って金メダルゲットだね」

 

 ほのかは午前中行われたバトル・ボードで優勝。雫はアイス・ピラーズ・ブレイクで優勝。三人が同じ日に優勝を決めたという事でほのかの表情からは笑みがこぼれる。だが、雫はさえない表情をしていた。

 

「雫ちゃん、優勝おめでとう」

「……」

「ふふ、よくここまで頑張ったね。優勝できたのは雫ちゃんのものすごい頑張りがあったからだよ。胸を張ろう?」

 

 深雪に勝てなかった悔しさがこみ上げてきたのだろう。唇を嚙みしめていた。

 

「雫ちゃんはまだまだ成長するよ。おっぱいだって大きくなってきてるし、雫ちゃんが暗い顔してるのは俺も悲しいな」

 

 立ち上がり、今度は逆に雫の身体を抱きしめる。その際、ほのかも一緒に抱きしめたが、甘えん坊キャラから包容力ある男にキャラチェンジしたことでほのかの両手が遥の背中に回っていた。

 

「ほのかも同じこと言ってた?」

「え、そうなの?」

「うん。成長期だって。ほのかは胸のことは言わなかったけど……女の子に向かってカラダの事を口にするのはセクハラだからね?」

「雫ちゃんが元気になるならいくらだってセクハラするよ。俺に、可愛い雫ちゃんの顔を見せてくれないかな?」

「……ずるい」

 

――ハルカにそんなこと言われたら……

 

「男はずるい生き物なんだよ」

「もぅっ!」

 

 遥が優しく微笑むと、雫の頬が微かに赤らみ、照れを隠すように遥の胸に顔をうずめた。

 

「それじゃあ可愛らしい顔が見えないじゃないか。可憐で愛くるしい顔を見せておくれよ」

「うるさい、ばか」

「ふふ、少しいじりすぎたかな」

 

 隠しきれない耳が真っ赤に染まっている。雫の髪の毛を手櫛でときながらほのかと顔を見合わせ

 

「ほのかちゃんは見せてくれるよね?」

「はいっ!!」

 

 元気よく返事をすると、純粋無垢の笑顔が向けられる。そこに性的なエロさは感じられない。しかし、遥がゆっくりとほのかの方に顔を近づけると一変、頬をピンク色に染めて唇を突き出してきた。

 

「ンっ、ンんっ……」

 

 触れるだけの優しい口づけ。柔らかい感触を味わい、それだけで押しつけられている豊満な胸から激しい鼓動が伝わってくる。

 

「はる、くん」

 

 間近で見つめ合いながら口で呼吸して、お互いの吐き出す息を吸い込みあう。

 

「後でね」

「はいっ……」

 

 頭を撫でられ目を細めたほのかはそのまま遥の胸に抱きつき、それをすぐ傍から見つめていた雫と目が合った。

 

「雫ちゃんにも優勝のお祝いしないとね」

 

 羨ましそうに二人を見ていた雫は、心を躍らせながら目を閉じてそっと顎を上へと向けたが、柔らかな感触は唇ではなく頬に伝う。

 

「えっ?」

「雫ちゃんは笑ってくれなかったから頬にね」

「……」

 

 一瞬にしてむすーっ、と不満そうな表情に変わる。期待が落胆へと変わった瞬間だ。

 

「じゃあ報告に行かないと」

「……そうですね」

 

 キスは性的興奮のスイッチを入れる起爆剤だが、二人とは既に試合前に交わっているため、今すぐにでもベッドに直行するということにはならない。

 ほのかは少し期待していたようだが、遥と手を繋ぐことで気を紛らわせることにしたようだ。一高の天幕に向かおうとした瞬間、遥は雫の唇に口づけした。

 

「チュッ」

「ンッッ……」

「行こっか」

 

 雫の頬は赤いまま、小さく頷く。

 相変わらず表情は崩れていないが、付き合いの長い二人には雫の気分が上昇しているのに気づいていた。そのまま彼らは誰かと出会うまで触れ合いながら天幕に向かった。

 

 

 第一高校の天幕では上級生たちが遥たちを祝福の拍手で出迎え、特に良い意味で期待を裏切った遥に対しては皆、人が変わったように賛辞を贈っていた。

 真由美は遥に飛びつきたい気持ちを我慢し、摩利に茶化されながらも嬉しそうに笑っていたのが印象的だった。

 これにはほのかと雫もたまらずほくほく顔で遥と上級生たちの様子を見守り、自分のことのように喜んでいた。

 

 それから天幕をあとにした彼らはホテルのティーラウンジで甘いものを取ることに。しかしそこには先客がいた。

 

「み、深雪……」

 

 ほのかの視線の先には、ついさっき雫としのぎを削り合った人物が、兄と優雅にティータイムを満喫していた。

 いつもなら彼女の元に駆け寄り同席していただろう。だが今は隣に雫がいる。気を遣って少し離れた席に座ろうとしたが、こちらに気づいた深雪がほのかの名前を呼んだ。

 

「ほのか」

 

 名前を呼ばれて嬉しいはずなのに身体が硬直してしまう。返事をしなければ雰囲気を悪くしてしまうと思ったが、思うように口が開かず金魚のように口をパクパクとさせていると

 

「やぁ深雪ちゃん。優勝おめでとう」

 

 代わりに遥が深雪に声をかけた。

 

「宮守くん……も優勝おめでとうございます」

 

 遥のラフな言葉に、深雪は粛々と頭を下げてお返しする。少しだけ戸惑いようなものが見えた。

 

「深雪ちゃんの巫女さん姿、凄く綺麗で可愛かったよ」

「ありがとうございます」

「でも、雫ちゃんの可愛さには負けるけどねぇ」

 

 ポンポンと雫の頭の上に手を置き、愉快そうに笑った。

 

「残念だったな深雪」

「な、何がですかお兄様!?」

 

 場を和ませようとした遥のノリに達也が合わせる。深雪はからかわれたことが分かったのか、さきほどの雫のようにむぅ~と忌々しそうに達也を睨んだ。その表情に遥が萌えたのは言うまでもない。そしてほのかと雫に背中を叩かれたことを説明するのは蛇足だろう。

 

「雫、今回は引き分けだったけれど、次は負けないわよ」

 

 達也やほのか、遥がそれぞれ優勝について言葉を述べた後、戦いの遺恨を振り払うように深雪から雫に言葉が投げかけられる。

 深雪にも悔しさは残っているが、友達と気まずい空気のままでいることの方が耐えられなかったのかもしれない。その思いが雫にも伝わり、二人は手を握った。

 

「私も次は負けないから」

 

 友から敵へ、そして再び友へと。二人の少女の顔に笑顔が戻った。

 

「仲直りしたことだし、一緒にどうだ?」

「お兄様、深雪と雫は喧嘩していたわけではありませんよ」

「あぁ、そうだったな。それで、どうだ?」

「ほのか、雫、宮守くん、どうかしら? 雫には聞きたいこともあるし、お兄様が奢ってくれるわよ」

「おいおい、そこまでは言ってないぞ」

「あら、深雪のことからかったのですからお兄様にはそれくらいしていただかないと」

 

 さきほどからかわれたことを根に持っている様子。可憐な笑みの中にも邪悪さが垣間見えていた。

 

「はぁ、わかったよ。三人とも優勝のお祝いだ。ここは俺がご馳走するよ」

「本当ですか!?」

「じゃあ、遠慮なく……ウェイトレスさん」

 

 ほのかは逡巡を見せたが、雫は達也の真意を何となくわかったので、必要以上に遠慮することなく首を縦に振った。

 

 深雪は達也と向かい合うように座っていた場所からソーサーごとカップを持って達也の隣へと座りなおす。

 遥は深雪の座っていた場所に座ると、その両隣をほのかと雫が座った。

 

「でもいいのかな?」

「何がだ?」

「ほのかちゃんと雫ちゃんは甘いものになると別腹だって言ってめちゃくちゃ食べるよ?」

「これでもバイトをしてるからな。多少の稼ぎはある」

 

 深くは語らず、遥もそれ以上追究することはなかった。

 

「これと、これ、あとこれも……飲み物はこれで、ハルカはどうする?」

「俺は一口貰えればいいかな」

「わかった。ほのかは?」

「私はこれがいい!」

「じゃあこれと、あ、これもお願いします」

 

 深雪が苦笑いを浮かべる程度には大量のスイーツが注文された。

 

 それから少しして、机を埋め尽くさんばかりのスイーツが並べられ、雫は栗鼠のように頬を頬張らせていた。

 ほのかも忙しなく手を動かしていたが、達也と深雪の視線を気にしながら食べ進めているため雫ほど速くない。

 

「それにしても遥はどこであんな魔法を学んだんだ?」

「ん?」

 

 雫からケーキを口に運ばれていた遥は、紅茶で口の中をスッキリさせてから自分の方を見る二人と向き合う。

 

「ムスペルスヘイム。国内じゃまず見かけない魔法だ。どこで学んだのか気になってな」

「お兄様、人の魔法を詮索するはあまりよろしくないのでは?」

「深雪ちゃん大丈夫だよ。別に隠すほどでもないしね。あの魔法は親の伝手を頼った感じかな」

 

 大嘘である。達也たちに聞かれることも想定してある程度は言い訳を考えていたのだ。北山家で学んだと言ってもよかったが、嘘だとバレたときに北山家にも迷惑がかかるため、安定の実家を頼ることにした。

 

「宮守家か。宮守グループでは最近サプライズ発表があるとか噂されていたけどあれは何なんだ?」

「さぁ? 一応長男だけどその辺りの事はさっぱりなんだ」

 

 これは本当である。高校に入学してから実家に帰ったことも無ければ遥から連絡したことは数える程度しかない。

 九校戦が終わればほのかと雫を家族に紹介するため帰る予定だが、宮守グループとは何の関係もない。

 

 密かに宮守グループと四葉が手を結んだが、まだ公に発表されていないため達也や深雪、遥ですらその事実は知らない。

 

「ハルカ、これは食べる?」

「うん、貰おうかな」

「はい、あーん」

「あーん」

「美味しい?」

「美味しいよ」

「そぅ……ふーん」

 

 雫は自分のフォークでケーキを遥の口に運ぶ。そしてその後、遥が口をつけたフォークを使って自分の口でケーキを口に運ぶ。

 恋人でもないのに間接キスをしている、と彼女たちの関係を知らない者が見たら思うかもしれないが、達也と深雪は何も言わずにそのやりとりも眺めていた。

 

 深雪は何か言いたげに雫を見つめ、その視線に気づいた雫は首を傾げた。

 

「深雪、どうかした?」

「雫、ちょっと聞きたいことがあるのだけれど」

「なに?」

 

 間接キスの事ではない。最初見た時は顔を赤らめて雫に詰め寄ったこともあったが、彼女たち幼馴染にとってこれが普通のなのだと、説得することは半ばあきらめてしまっている。

 

「私との決勝戦の事なのだけれど」

「うん」

「私がニブルヘイムを発動した後の事を覚えているかしら?」

「領域干渉で耐えてフォノンメーザーを撃った」

「ええ、そうなのだけれど、そうではなくて……」

「ん?」

「そのとき、雫の周りにオレンジ色の障壁があったじゃない?」

「……あったっけ?」

 

 焦る気持ちを抑え、動揺が伝わらないように恐る恐る言葉を選びながら雫に尋ねた。

 達也と深雪が雫たちを同席させたのはこれが聞きたかったから。優勝祝いなどは建前でしかなかった。

 

「覚えてないの?」

「試合に夢中で気づかなかった」

「じゃああれは雫が発動したわけじゃないのね?」

「うん。あれは……」

「あれは!?」

「……わからないかな。ごめん」

 

 実際に雫は試合中に自分の周りに結界がある事に気づいていなかった。遥の温もりは感じ取っていたが、それほど集中していたのだろう。

 しかし『オレンジ色の結界』と聞いて思い当たる節が一つだけある。けれどもたとえ友人であろうと自分の口から話すことができる事とできないことがあった。

 

「そう、なのね……」

 

 落胆の表情を隠しきれない深雪。

 その様子を見たほのかは遥と深雪の顔を見比べていたが、遥は平然と紅茶を飲んでいた。

 

「でもどうしてそれが気になったの?」

「……大した事では……少し気になっただけよ」

 

 雫にも言えないことがあるように、深雪にも秘密がある。もしここで深雪が沖縄での出来事を話せば、ほのかが深雪に感情移入して遥を説得していたかもしれないが、その世界線は訪れなかった。

 

「深雪、明日も試合があるからそろそろ部屋に戻った方が良いだろう」

「はい、お兄様」

 

 このままでは深雪の精神状態に支障をきたすと思った達也は、深雪を部屋に戻そうと彼女の座る椅子を引いた。

 もし聞き出すならば全てが終わってからだと、達也も自制心を働かせる。

 

「遥たちも明日は試合があっただろう?」

「うん。まあ俺は予選だけだからゆっくりできるけど、ほのかちゃんは明日は一日中試合だし、今日は早く寝なきゃね」

「えっ」

 

 いつものように朝まで乱れるつもりでいたのか、ほのかの顔が強張る。

 

「夜更かしして深雪ちゃんに勝てるほど甘くないよ」

「そうですけど……」

 

 達也たちがいるため直接的な表現は出せないが、ほのかは何かを訴えるような視線を遥に向けていた。

 

「ふふっ、部屋まで送ってあげるから、早く帰ろうか」

「あ、あの、はる君?」

「まだ夕方だよ」

「あっ、はいっっ!!」

 

 遥の言葉の意味を理解したほのかは恍惚とした笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「深雪」

「なにかしら?」

「明日は頑張ろう!」

「え、ええ」

 

 ほのかの迫力に気圧されたのか、深雪の表情が歪んだ。

 

「ご馳走様でした……はる君、部屋に戻りましょう!」

 

 遥の腕に抱きつき、周りに見せつけるようにティーラウンジを後にするほのかと遥。

 

「ご馳走様でした」

「あ、あぁ」

 

 軽くお辞儀をし、その後ろをお腹をさすりながら歩く雫。

 達也と深雪は異質な存在を見るかの如く、しばらく彼らの通った空間を眺め続けるのだった。

 

 

 




次回、幸せな時間がこのまま続けばいいのに……。

【次回の投稿は5月20日19時予定です】

私が好きなキャラは

  • 一色愛梨だ
  • 十七夜栞だ
  • 四十九院沓子だ
  • 中条あずさだ
  • 渡辺摩利だ
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