※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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第91話 怒り・怒り・涙

 大会七日目、新人戦四日目。

 

 今日は遥が新人戦モノリス・コードに出場し、ほのかが新人戦ミラージ・バットに出場する。

 モノリス・コードは九校戦のメイン競技と言われる種目で、三対三の団体戦だ。実戦さながらの対人戦闘が求められ、その激しさと過酷さから今日と明日の二日間にかけて行われる。

 ミラージ・バットは花形競技とも呼ばれ、女子のみが対象となっている。コスチュームはカラフルなユニタードにひらひらなミニスカート、袖なしのジャケット姿。ファッションショーと化したアイス・ピラーズ・ブレイクとはまた、一味違った華やかさがある。

 だが、ユニフォームを着る当人たちは相手選手との戦いの他にも、羞恥との戦いがあるようだ。

 

「やっぱりスカート短いです……」

「そう? よく似合ってるよ。すごく可愛い」

 

 女子トイレから出てくる二人の男女。もちろん誰にも見られないように細心の注意を払っているため周囲に人影はない。

 

 ミニスカートの中には足首まで覆われたロングスパッツを穿いているとはいえ、特徴的な衣装に困惑気味のほのか。

 バトル・ボードではミラージ・バットのコスチューム以上に体のラインが出るウェットスーツを着ていたが、何度経験しても慣れないのだろうか。

 

「ほのかちゃんが妖精のように舞ってる姿を楽しみにしてるよ」

「はい。でも……できることならはる君にしか見せたくないです……」

 

 性行為の直後は高揚感に包まれ夢心地になるが、最近では依存度が高くなる傾向にある。もっと遥に甘えたいという気持ちが強くなっているのか、トイレで遥と交わったばかりのほのかは上目遣いをしてきた。

 

「ふふっ、嬉しいな。俺だってできることならこんなに可憐で素敵なほのかちゃんの姿を独占したいさ」

「本当ですか!?」

「うん。でも、俺しか知らないほのかちゃんの魅力的な姿をいっぱい知ってるからね。今回は我慢するよ」

 

 ほのかの頬がチークを濃くしたように赤みが増した。どうやら『独占したい』という言葉に喜悦したようだ。

 

「一試合目が終わったようだね。この様子だと、スバルちゃんは勝ったようだ」

「そう、みたいですね」

 

 第一高校でミラージ・バットに出場するのはスバル、ほのか、深雪の三人。予選は同順で試合が行われ、先陣を切ったスバルが勝利を収めた。

 この後すぐにほのかの試合が行われるが、彼女は浮かない表情をしている。励ます意味でも彼氏である遥がほのかの頭を撫でながら口を開いた。

 

「ほのかちゃんの試合を見て元気と勇気を貰おうかな」

「元気と、勇気を、ですか?」

「そう。俺も今日はモノリスコードの予選があるからね。ほのかちゃんが勝ったら俺も勝てそうな気がする」

 

 既にモノリス・コードの予選は始まっているが、大規模なエリアで試合が行われるため一試合ごとに時間がかかってしまう。遥たちの初戦は午後からとなっていた。

 

「ほのかちゃんが勝ったら、俺も勝つよ」

「……もし私が負けたら?」

「大丈夫。ほのかちゃんは負けないから」

 

 答えになっていないが、この言葉にほのかは破顔する。

 

「ぷっ、なんですかそれ……でも、わかりました! 勝って、はる君に繋げます!!」

 

 いつもの天真爛漫なほのかが戻る。

 

 実を言うと彼らの中のバトンはほのかから始まっていた。バトル・ボードでの勇姿が、雫のアイス・ピラーズ・ブレイクの最後の一押しに繋がったのだ。

 幼馴染三人による優勝というバトンは今はまだ途切れることを知らない。

 

「行っておいで。そして笑顔で帰ってくる。約束だよ」

「はいっ!! 行ってきます!」

 

 ほのかはCADを取り出す。そのまま競技フィールドに繋がる扉へと向かおうとした瞬間、遥の頭の中で害意を示す警告音が鳴り響いた。

 

「ッッ」

「きゃぁっ……は、はる君!?」

 

 すぐさま後方からギュッとほのかに抱きついた。思わず悲鳴のような声を上げるほのかだったが、遥の温もりを感じて自然と笑みがこぼれる。

 

「大丈夫ですよ。勝ってきます」

「そうじゃない」

「え?」

 

 心臓の鼓動と声色から遥の緊張がほのかにも伝わった。

 

「そのCADだけど、達也君が調整したんだよね?」

「は、はい。そうですけど」

「CADのチェックは誰が行ったの?」

「わ、私ですけど」

「ほのかちゃんが? 達也君じゃないの?」

「彼はスバルや深雪のCADの調整もありましたし、忙しそうだったので私が行きました」

「そう」

 

 一つの競技に三人が出場し、その全員のエンジニアを務めることがどれだけ難しいは理解できる。達也が悪いわけではないのだが、どこか納得のいかない遥は少しばかり怒りの表情を浮かべていた。

 

「そのCADは使っちゃだーめ」

「えっ!?」

「代わりに予備のCADがあったよね? それを使うこと」

 

 ほのかからCADを取り上げた。

 

「でも、予備は最終調整をやってもらっていません……」

「ほのかちゃんなら跳躍と着地の魔法さえあれば、予選は突破できるよ」

「幻影魔法は……」

「決勝戦にとっておこう」

 

 何故か自分のCADを見る遥の表情が殺気立っていることに気づいたほのかは、それ以上言及することなく予備のCADを使うことを納得した。

 

「いってきまーす!」

 

 遥に見送られながらほのかは競技フィールドに駆けていった。離れる寸前にキスされたほのかは頬が緩み、幸せに満ちていたが、遥を想う気持ち、想われる気持ちがほのかを強くする。

 

 ほのかと別れた後、遥はすぐに達也のいる場所へと向かった。達也は一高の控え室で試合を終えたばかりのスバルを労っていた。

 

「宮守くん?」

 

 同じ控え室にはコスチュームの上に一高のジャケットを羽織った深雪もいた。彼女はほのかの次の試合に出場予定で最終調整を行っていたようだ。

 その深雪だが、恋人のほのかの試合が始まるというのにこの場所にやってきた遥を不思議そうな顔で見つめる。

 

「スバルちゃんまずは一勝おめでとう」

「おっ、宮守君じゃないか。ありがとう。でも、もうすぐほのかの試合が始まるけど僕の傍にいてもいいのかな?」

「すぐ帰るつもりだよ。だけどそのまえにちょっと達也君に聞きたいことがあってね」

「俺に?」

 

 達也は神妙な面持ちで眉をひそめた。スバルは普段とは違う遥の表情と声色に思わず一歩後退りする。

 

――これは修羅場かな?

 

 何も知らないスバルは、そんな見当違いなことを思いながら彼らから離れる。

 

「僕は次の試合まで時間あるから一回着替えてこようかな」

「そっか。次の試合も頑張ってね」

「ありがとう。じゃあ……またっ!!」

 

 逃げるようにスバルが退出する。

 スバルが退出した後、達也が話を切り出した。

 

「それで話とは何だ?」

「まずはこれを見てもらえる?」

「これは……光井さんの?」

 

 CADを達也に渡すと、すぐにほのかのモノだとわかったようだ。何故これがここに、と達也は部屋のモニターへと視線を移す。

 

「あれは、予備の……?」

「お兄様?」

 

 モニターには試合前の集中した選手たちが映し出されていた。そしてちょうどこの試合の注目選手としてほのかの姿が映り、その手には予備のCADが装備されていた。

 

「どうして彼女が予備のCADを持っているんだ?」

「え?」

 

 二人の話を聞いていた深雪は驚きの声を漏らす。

 

「これは達也君が調整したほのかちゃんの競技用CAD」

「そうだ」

 

 ほのかは遥以外の男に体の細部まで視られるCADの調整を任せることを渋っていた。大会前の作戦会議でもその意を示していたが、ミラージ・バットで深雪に勝つためには達也の技術が必要と判断した遥が何とか説得したのだ。

 だが、そのCADはいま達也の手の中にある。

 

「この中に何か変なものが紛れ込んでるんだけど……達也君が入れたものじゃないよね?」

「なに?」

 

 遥はソレが何なのかは知っているが、普通の人間には理解できないモノ。

 達也はCADを視た。そして自分の組み込んだシステム領域に異物が混入していることを確認した。

 

「少し調べさせてくれ」

「いいよ」

 

 眼のことを遥に知られるわけにはいかない達也は、形だけでもCADを調べることに。

 

「なんだこれは……?」

「お兄様、どうしたのですか?」

「ウイルスじゃない。ウイルスに似た何かがCADの中に入っている……」

「本当ですか!?」

 

 達也の呟きに深雪は耳を疑った。そして驚愕の表情を浮かべながら達也と遥を見比べる。そして自分ですら怖いと感じる威圧感が遥から達也に向かって飛んでいることに気づき、深雪は誤解を解こうと勇気を振りしぼって口を開いた瞬間、遥がふっ、と笑った。

 

「大丈夫だよ深雪ちゃん。俺は達也君が異物を混入させたとは思ってないから」

「……ぇ」

 

 いつの間にか口の中が渇いていたのか、思うように声が出なかった。

 

「達也君は九校戦で信用に足る活躍をしている。その彼がこんなことをするはずがないし、する理由がわからない」

 

 遥が兄を評価していることが意外だったのか、深雪は呆けた表情を見せる。

 

「今回の九校戦、一高は会場入りする前のバスでの出来事や摩利ちゃんのアクシデントだったり色々おかしなことに巻き込まれてるからね。おそらくこんなモノを仕込んだのも同じ犯人かもしれない」

「遥は何か知ってるのか?」

「いーや何も知らないよ。ただの高校生が知るわけないじゃないか」

 

 それもそうか、と達也はCADに目を向ける。

 

「ふぅ……ごめんね、ほのかちゃんのCADに魔法とは関係のないものが入ってて少し気が立ってた」

「……仕方ないことだ。それにしてもよく異物に気づいたな」

 

 探りを入れる達也。

 

「彼女を守るのが彼氏の役目。彼女には、怪我をしてほしくないからね」

 

 慈愛にも似た柔らかな瞳がモニター越しの彼女へと向けられる。それを見た深雪は遥の優しさを感じ、自然と恐怖が消え去っていた。

 

「だからこそこんなものを紛れ込ませた奴が許せない。達也君ならそれが何なのか知ってると思ったけど、知らなかったみたいだね」

「俺にも知らないことはある。それにこんなものは初めて見た」

「いつ紛れ込んだと思う?」

「おそらくは……」

 

 摩利の事故の時には予想していたが、今回の異物混入で確信へと変わった達也は鋭い視線を遥に向けた。

 

「選手の使用するCADは必ず試合前に一度、大会委員のチェックを受ける。おそらくはその時だろう」

「大会本部が犯人ってこと?」

「いや、そこまでは……大会本部が何らかの目的で一高を妨害してるのだとすればそもそも他の手段があるはずだ。それよりも大会委員の誰かが金目的で……とかの方が自然だ」

「なるほどね」

 

 遥は全てを知っていて演技している。だが、原作とは異なる展開に少しばかり不気味さを感じていた。

 

「深雪ちゃんはCADのチェックは終わらせたの?」

「はい」

「深雪ちゃんが行ったの?」

「そうですが……」

「深雪、CADを見せてくれないか?」

「は、はい、お兄様」

 

 深雪は端末を達也に渡すが、受け取った達也の瞳から色が消えた。

 

「お、にいさま?」

「遥……すまなかった」

「え、お、お兄様?」

 

 急に遥に頭を下げて謝罪した兄の姿を見て驚きの声を漏らす深雪。

 

「いいんだよ。ほのかちゃんは何事もなくあそこで踊ってるから」

 

 ほのかの試合は始まっていた。モニターには何事もなく空中で踊る彼女の姿が……。

 

「いや、俺が直接チェックを受けていれば……」

 

 遥が自分に怒りを向けていた理由を察した達也は、悔いるように、そして自分の中の怒りを鎮めるように深雪のCADを視る。

 

「あの、お兄様……もしかしてそのCADにも……」

「ああ、ウイルスのようなものが紛れ込んでいる」

「なっ!?」

「これが何なのかわからない以上、このCADを使うのは危険だ。深雪も予備のCADを使うんだ」

「……はい。わかりました」

 

 深雪はいそいそと予備のCADを取りだし感覚を確かめる。

 予備とはいっても達也が調整したCADだ。試合用とさほど違いがあるわけではないが、スペックが劣るのは確かだ。

 それでも深雪の魔法力であれば予選は突破できるだろう。ほのかも予備のCADで断トツの成績を収めている。

 

「次のCADのチェックは決勝戦の前だったね」

「ああ」

「その時は達也君が行くのかな?」

「……当然だ」

 

 初めて達也が感情を露にしたのを見たかもしれない。これが感情を失われた人間の怒りなのか、と鳥肌が立った。

 

「多分俺はモノリスコードの試合とかぶってるから一緒には行けないけど、ほのかちゃんのCADもよろしく頼むよ」

「……遥のCADは大丈夫なのか?」

「まだ大会委員のチェックは受けてないからね」

 

 遥のCADに異物が紛れ込むことはないだろう。

 

「気をつけろよ」

「ふっ、男に心配されるより深雪ちゃんみたいに可愛い女の子に心配されたいよ」

「……お前は相変わらずだな」

「そうだ。優勝したら深雪ちゃんとデートさせてよ」

「断る」

「え~即答? シスコンも度が過ぎると嫌われるよ?」

「……俺に、じゃなくて深雪に言えという意味だ」

 

 シスコンは否定しないようだ。

 

「ということで、深雪ちゃん。俺がモノリスコードで優勝したらデートしない?」

「ほのかが怒りますよ」

「ほのかちゃんも一緒に……そうだ。達也君も一緒にダブルデートしようよ。それならいいんじゃない?」

「……お兄様」

「深雪がいいなら俺は何も言わないさ」

 

 眉を垂らしながら困ったように苦笑いを浮かべる深雪。

 モノリス・コードには十師族の一条将輝と、カーディナルジョージこと吉祥寺真紅郎が同じチームで出場する。本来なら彼らが優勝確実と思われていたが、先日行われたアイス・ピラーズ・ブレイクで遥が一条将輝を破るという番狂わせを起こした。

 それによってモノリス・コードでの序列がわからなくなるという事態に陥っている。もしかしたら勝ってしまうのではないか。そんな気持ちが深雪の中にあった。

 

「えっと……宮守くん」

「なにかな?」

「……ほのかも一緒なんですよね?」

「もちろん!」

「お兄様も?」

「うん」

「……わかりました。それでは宮守くんがモノリスコードで優勝し、ほのかが良いと言ったなら――」

「よっしゃっ、約束だからね! 優勝したら深雪ちゃんは俺とデートすること。決まり!!」

「ほ、ほのかが良いと言ったらですからね!」

「大丈夫。ほのかちゃんは深雪ちゃんと遊びたいって言ってたから絶対オッケーするよ」

「……はぁ、お兄様。深雪は間違った返事をしてしまったのかもしれません」

 

 遥の喜びように深雪と達也は呆れながら温かい視線を向けていた。

 

 

 

 新人戦ミラージ・バットではスバル、ほのか、深雪の三人が無事に予選を突破し決勝戦に駒を進めた。

 三人は夕方に行われる決勝戦に備えて休むことに。ほのかは遥のモノリス・コードの試合を観戦したいと不満を漏らしていたが、雫に説得されて渋々ホテルの部屋で休むことにした。

 

 そうして迎えたモノリス・コード、第一高校の初戦。

 

 『九校戦のメイン競技』という事と『一条将輝を破った遥の試合』という事が重なり、予選リーグ初戦から注目の的。観客席は超満員だった。

 また遥の活躍が見られると浮かれた様子の雫と、そんな雫をみて笑みをこぼすエリカと美月。

 

 彼女たちが見つめる中、モノリス・コードの試合が始まり――

 

「ほのか、落ち着いて聞いてね」

「えっ?」

 

 ホテルで休んでいたほのかは、深雪と一緒に一高の天幕に行き、そこで遥の試合の結果を聞いた。

 一高の天幕に断末魔のような叫び声が響き渡る。ほのかは膝から崩れ落ち、人目も憚らずに涙を流すのだった。

 

 




次回6人目と……? そこまで進まないかもしれませんが……。

【次回の投稿は5月中には。最速で22日19時予定です】
-追記-
5月22日の更新はありません。
5月24日19時に投稿します。
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