※この作品はR-18です。

魔法科高校の性春生活   作:八住 楓

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第92話 悲鳴の裏側

「いやぁぁぁ!」と、空気が張り裂けるような悲鳴を上げながら、ほのかは膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 それはホテルの部屋で休んでいたほのかと深雪が第一高校の天幕にやってきてすぐのことだ。恋人である遥の試合結果を聞こうと天幕に入った瞬間、中にいた一高関係者たちの哀憐の情を含んだ視線が一斉にほのかへと向いた。

 それまで口を開いていた者たちが途端に口を閉ざし、心苦しそうに顔を歪ませる。

 

 二人はそれが意味するものが何なのかわからず顔を見合わせるが、ほのかは幼馴染であり親友の後ろ姿を見つけると急ぎ足で近づいた。

 

「雫!」

「ほのか……」

 

 ほのかに呼ばれて振り返る雫の目は赤く濡れていた。それでも涙を出すまいとギュッと両手で拳を作っている。

 

「ど、どうしたの雫!?」

「雫?」

 

 ほのかと深雪は見たこともない雫の悲しみや怒りが混ざった表情に、只事ではない何かが起こったと切迫する。

 

「ほのか、落ち着いて聞いて……ハルカが――」

「……え?」

「病院に運ばれた」

「びょう、いん? どうして……?」

 

 雫の表情が曇る。下唇を噛みしめて、泣くのをぐっとこらえるような顔をしていた。 

 

 ほのかの視線がふと、雫から机の上に置かれたモニターへと移る。検証のために見ていたのか、モニターには新人戦モノリス・コード、予選リーグ第一高校VS第四高校の試合の映像が流れていた。

 そこには試合が始まる前にとあるビルが崩壊する光景とざわつく観客や実況者たちの姿。聞こえてくる『第一高校の選手のいるビルで崩落事故が起きました』という言葉。

 

 ほのかは自分の心臓が大きく跳ねるのを感じる。それでもまだ無事だと……遥なら大丈夫だと自分に言い聞かせて……しかし

 

「うわぁ、酷いなこれ……穴だらけだぞ」

 

 大会委員か、もしくは病院から返却されたのだろう、血がついた防護服と凹凸になっているヘルメットを持った生徒が天幕に入ってきた。

 最悪なタイミングで、最も見られてはいけない相手に目撃された。

 雫の赤い目、ビルが崩壊する映像、穴が開いて血だらけのユニフォーム。視覚からの情報により、ほのかは頭の中で何かが弾ける音がした。

 

「いやぁぁぁっっ!」

 

 断末魔のような叫び声を上げながら頭を抱えて崩れ落ちる。慌てて雫と深雪がほのかを抱きかかえて声をかけるが、ほのかは壊れたおもちゃのように『嘘だ嘘だ嘘だ……信じない』と呟くばかりで返事はない。

 

 悲鳴を聞きつけて奥から真由美や摩利、鈴音らが駆け付けたが、ほのかの姿を見ると「やはり」と憐憫の眼差しを向けた。

 

「光井さん……」

 

 真由美の声にも反応を示さず、青褪めた顔を見せる。雫と深雪も心配そうにほのかの背中をさすったりしているが治まる気配はない。

 

「摩利、お願いしてもいいかしら?」

「ああわかった。二人とも、光井を奥まで運んでくれるか?」

「……はい」

「わかりました」

 

 二人は左右からほのかを支えながら奥の会議室まで運ぶと椅子に座らせた。部屋にはほのかを除けば雫と深雪、真由美、摩利、鈴音の五人しかいない。

 

「二人とも部屋の端の方にいてね。じゃあ摩利、お願い」

「あぁ」

 

 摩利はほのかの正面で魔法式を発動させる。

 一瞬、雫は眉をひそめたが、ほのかが安らかな表情で眠りについたのを確認すると表情を緩めた。

 

「匂いを使った意識操作ですか?」

「そうだ。よくわかったな」

 

 雫が尋ねると、摩利は意外そうに驚いて見せた。

 

「渡辺先輩はいい匂いがするから……するので、そういう魔法が得意なんじゃないかって――」

 

 最後だけぼそりと小声で『ハルカが言ってました』と言うと、摩利は動揺したように頬を赤らめたがすぐに表情を引き締めなおした。

 

「こういう事態になって予想はしていたが……ここまで乱れるとはな」

「光井さんはこの後、ミラージバットの決勝戦を控えています。しかし、今のままの精神状態では……」

 

 第一高校の軍師とも言える鈴音の声は重く、言葉を選びながら話す。

 

「棄権、ということも考えた方がよろしいかと……」

「そうね。けれどまだ試合まで時間があるから様子を見ましょう。試合を棄権するかどうかの最終判断は……日が沈むまで」

 

 ミラージ・バットの決勝戦はその競技の性質上、陽が沈んでから行われる。星空の下で妖精たちが舞う姿はまさに『フェアリー・ダンス』と呼ぶに相応しく、神秘的な光景が見られるのだが、その場に彼女が立てるかはまだわからない。

 

 雫はほのかに寄り添いながら優しく頭を撫でている。深雪は二人を見守りながら真由美や摩利の方に体を向けた。

 

「それで、いったい何があったのでしょうか?」

 

 深雪は尋ねた。アクシデントが起こったという事だけで、具体的には何も知らないのだ。

 

「そうね。深雪さんにも知る権利はあるもの。それにどうせわかることだし、座りながら話しましょうか。彼女にはまだ、知らせない方がいいもの」

 

 ほのかを見ながら真由美が椅子に座ると、続けて他の女性陣も席につく。

 

「どこから話そうかしらね……」

 

 真由美も自分自身を落ち着かせるように、深く息を吸った。そして口を開けた瞬間、部屋の扉が叩かれた。

 

「はい?」

「司波達也です。深雪……妹がここにいると聞いたのですが」

「お兄様?」

「深雪さんならここにいます。達也君もどうぞ入って」

「失礼します……っと、この状況は?」

 

 達也はドアを開けて部屋の中を見渡すと、真由美ら幹部たちに加えて深雪と雫、そして眠っているほのかの姿を確認する。 

 異常ともいえる光景に思わず達也の視線がほのかに伸びる。

 

「お疲れ様です。達也君も休んでいたから何も知らないわよね?」

「今、天幕に入って少しだけ先輩方の話を小耳にしましたが、詳細までは何も……」

「そう。ちょうどいいわ。いま深雪さんにも話をしようと思っていたところだから達也君も一緒にどうかしら?」

「是非」

 

 達也は深雪の隣に座った。彼も深雪やほのかたち同様、試合に備えて休んでいたため、その間の出来事は何も知らない。

 重苦しい雰囲気が漂う中、真由美が口を開いた。

 

「午後から始まったモノリスコードの予選、ウチと第四高校の試合で――」

 

 整理しながら話をしているため、真由美の口調はゆっくりと、けれども聞き取りにくいわけでもなくすんなりと頭の中に入ってくる。

 

「市街地フィールドでの試合だったんだけど、廃ビルの中で『破城槌』受けてビルが崩落。はる……宮守君たち全員が瓦礫の下敷きになって重傷よ」

「えっ?」

 

 『重傷』という言葉に深雪は瞠若し、達也は冷静に真由美に聞き返した。

 

「『破城槌』と仰られましたが状況がわかりませんね。屋内に人がいる状況で使用した場合は、殺傷性ランクAに格上げされます。明確なレギュレーション違反だと思いますが……」

 

 『破城槌』とは天井などの面に対し強い加重がかかった状態に事象を書き換える魔法だ。単に建物を破壊するだけなら、移動系魔法でハンマーを飛ばした方が簡単に壊せるだろう。それほど難度の高い魔法で、その能力に特化した魔法師でない限り、間違ったで発動できるような代物ではない。

 

「それに三人とも同じビルの中に固まっていたんですか?」

 

 オフェンス一人とディフェンス二人、もしくはオフェンス二人にディフェンス一人に分かれる戦法が定石となっているモノリス・コードで、チームの三人が同一の攻撃で全員行動不能に陥るというのは珍しい。

 ただ、今回の場合はビル一棟が崩壊している。同じビル内に三人がいるというのはおかしな事ではないが、色々と不明なことが多い。

 

「試合前に奇襲を受けたんだよ! 開始の合図前に索敵をして『破城槌』を使ってきた。間違いなく故意だと断言できる!」

 

 返事をしたのは憤懣遣る方無いといった雫だった。

 

「北山さんの気持ちはわかるけれど、まだ四高の故意によるものという確証はないのよ。単なる事故とは考えにくい……それは確かなんだけど、決めつけては駄目よ。疑心暗鬼は口にするだけで膨れ上がっていき、それがいつの間にか事実として独り歩きしてしまうのだから」

 

 一高の代表としての真由美の言葉は正論だった。らしくない生徒会長の言葉に達也と深雪は感心する。

 雫は「でも……」と納得していない様子だったが、それ以上真由美とやり合うつもりもないらしい。

 

「それで、三人は今どこに?」

「三人とも病院に搬送されたわ」

 

 ここでは治療が間に合わないほどの大怪我だ。

 

「重傷という事は命には問題ないのですよね?」

「ええ、森崎君と田中君は瓦礫に埋もれたけれど命に別状は無いわ」

「『は』と言いますと、宮守くんは違うのですか?」

 

 達也と深雪が交互に真由美に問いかける。

 

「はる……宮守君は……」

 

 真由美の瞳が一瞬揺れた。唇を固く閉ざして視線を天井へ向ける。

 

「あたしが話そう」

 

 深雪の問いかけに真由美と雫の間で空気が変わったのを感じる。

 見かねた摩利が代わりに口を開く。

 

「遥に外傷はない。命にかかわる怪我を負ったという事もない。だが……」

 

 ひと呼吸置いて続ける。

 

「魔法を酷使したことで衰弱しているようだ。今も治療中とのことだ」

「え?」

 

 衰弱という摩利の発する言葉の意味を理解するまで幾ばくかの時間を要した。

 

「魔法の酷使と言いますと?」

「言葉通りの意味だ。自分のキャパシティーを超える魔法を使った」

 

 状況を飲み込めない達也と深雪は、再び摩利が口を開くのを待つ。

 

「『破城槌』の発動位置が悪かったのか、廃ビルが建物ごと崩壊した。その瞬間、ビル内にいた遥は障壁を発動させて落ちてくるコンクリートの塊から自分を守っていたんだ」

 

 第一高校の作戦としては森崎と田中がオフェンス、遥がディフェンスを務めるはずだった。そのためスタート地点で両者には距離があり、遥の対抗魔法は森崎たちに適応されなかった。

 

「遥は瓦礫に埋もれていく森崎たちがコンクリートに押しつぶされる前に助け出したかったんだろう。大規模な移動・放出系魔法を発動。ビル一棟分のコンクリートを外へ吹き飛ばした」

 

 廃ビルは十階ほどの建物で、遥たちは一階にいた。総量何千トンにも値するコンクリートの塊を外に吹き飛ばしたのだ。容易な事ではない。

 本来は複数の魔法師が、瓦礫が落下しきる前に加重系魔法で防ぐのがベストな対処法となっている。だが、いつもは選手の近くでアクシデントに対応する大会関係者の魔法師が、今回は第一高校の選手の近くには不在だったというあってはならない事態が起きていた。

 これは真由美たちにも知らされていない秘匿情報扱いになっている。

 

「宮守くんが……」

 

 キャパシティー以上の魔法の使用は魔法師としての寿命を縮める行為である。下手をすれば魔法師としての命だけではなく、人としての活動を停止することにも繋がる危険な行為。遥が生きているという事だけでも喜ぶべきなのかもしれない。

 

「お兄様……宮守くんは大丈夫なのでしょうか?」

「アイツの姿を見てみない事には何とも言えないが……」

 

 雫の前では明言を避けた。達也と深雪は雫に寄り添われるほのかの方へ視線を送る。

 

――もしほのかがこのことを知ったら……眠っていてよかったのかもしれないわね

 

 深雪はほのかが知った後の事を想像して首を横に振る。

 

「でも、ムスペルスヘイムなんて高度な魔法を使えるあいつならけろっとした顔で戻ってきそうだけどな」

 

 雰囲気を明るくしようと声高々にするが、摩利自身も非常事態での魔法の酷使と通常時の魔法の発動を比べても何の意味が無いことは理解している。

 

「大会委員は今頃慌てているだろうな」

「それはフライングを防げなかったからですか?」

 

 深雪は首を傾げながら尋ねた。

 

「それは大した問題じゃないよ。それよりも崩れやすい廃ビルにスタート地点を設定したことが今回の事故……アクシデントの間接的な原因と言えるからね」

 

 廃ビルの外であれば防げた事故だと達也は考えているようだ。

 

「試合の方はどうなったのですか?」

「……四高は失格になったわ。競技自体を中止にする声もあったようだけど、結局ウチと四高を除く形で予選は続行中よ」

 

 ようやくここで真由美が復活する。その真由美が達也の疑問に答えた。

 

「最悪の場合、当校は棄権でしょうね」

 

 真由美の言葉に達也は首を傾げる。

 

「最悪もなにも棄権するしかないでしょう」

「それについては十文字君が大会委員会本部で折衝中よ」

「はあ……」

 

――ということは、選手の入れ替えを特例として認めさせようとしているのか?

 

 九校戦では予選開始後の選手の入れ替えは認められていない。摩利の場合は同競技に出場していた小早川が代わり出られたが、モノリス・コードで代わりの選手はいない。

 それにたとえ認められたとしても、モノリス・コードのチームは一年男子の実技成績の上位者から選りすぐったメンバーだ。代わりに出て好成績を出るのは難しい。

 

「それで達也君に相談があるんだけど……」

 

 真由美の視線が周りのメンバーに向けられる。他聞をはばかる話、ということを察したのか、摩利は立ち上がりほのかの方に歩み寄った。

 

「あたしたちは光井を横になれる場所まで運ぼうじゃないか」

「……はい」

 

 摩利と鈴音、雫はほのかを抱きかかえながら部屋を出る。

 

「深雪は試合の準備をしておいで」

「はい、お兄様」

 

 ミラージ・バットの決勝戦までまだ時間はあるが、真由美の様子から試合前の深雪が聞くべき内容ではないと判断したようだ。

 

 部屋では真由美と達也の二人きりになるが、長机の端と端に座っているため間違っても男女の雰囲気になることはない。

 

「それで達也君の意見が聞きたいの。今回のモノリスコードの件、摩利の事件と同じく何者かの妨害工作という事は無いかしら? 達也君はCADに細工をされた可能性を指摘していたわよね?」

「はい」

 

 達也は頷き、口を開いた。

 

「今回も同じ手口だとすれば、四高の暴挙も説明がつくんだけど、どうすれば立証できると思う?」

「細工の現場を捕まえるしかないと思います」

「四高からCADを借りられたとしてもダメかしら?」

「起動式を入れ替えた痕跡があれば立証も可能でしょうが、バトルボードでの七高が沈黙している所をみると、期待はできません」

 

 達也の返事に、神経質そうに机の上で指を組んだ。

 

「そう……達也君が考えているとおり当校が狙われているとして、目的は何かしら?」

「……実は、口止めされていたのですが、開幕直前の真夜中にホテルに忍び込もうとしていた賊がいました。いずれも拳銃で武装して」

「っ!?」

「今回の九校戦にちょっかいを出しているのは香港系犯罪シンジケートらしいです」

「どこでそれを?」

「現場に偶然居合わせて聞いただけです」

 

 達也の言葉を疑っている様子はなかった。

 

「口止めされていたのに教えてくれてありがとう」

「その代わり他言は無用に願います」

「わかってる、約束します」

 

 真由美は達也に右手の手のひらを見せて誓った。

 

 

 

 




やはりというべきか、6人目まで進みませんでした……。

原作の内容と乖離がありますが、独自設定等含まれています。

【次回の投稿は5月27日19時予定です】
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