誤字・脱字報告も非常に助かっています。この場でお礼申し上げます。
――呆れてものが言えないとはまさにこのことね
愛梨は目の前で繰り広げられている作戦会議という名の机上の空論ごっこに嫌気がさしていた。隣では沓子が退屈そうにあくびをし、栞は懸命に眠気と戦っている。
――まだまだ続きそうね
ここは第三高校が借りているミーティングルーム。そこには第三高校の新人戦メンバーが全員集合しており、ほんの少し前に発生したモノリス・コードでの事故を受けて緊急会議が開かれていた。
「逆転優勝の大チャンスがやってきたな!」
当然、議題は新人戦について。
「このままだと第一高校はモノリスコードを棄権するだろう。ミラージバットでも光井選手が体調不良で今、医務室にいるとの情報が入っている。思いがけない幸運が舞い降りてきた」
『他人の不幸は蜜の味』とでもいうのか、部屋で男子生徒たちが集まる方向から歓喜の唸り声が聞こえてくる。
話が進んでいき、部屋の熱も上がってきたところで愛梨のお目当ての話題が始まる。
「次に、これから行われるミラージバット決勝戦についての作戦を話そう」
ようやくか、と愛梨は話に耳を傾ける。彼女が何も言わずにこの場にいたのはこれが目的だったからだ。
「一色さんがいるから第一高校の一、二、三位と表彰台を独占されることは無いと思っていたけど、ここにきて光井選手が体調不良だ。彼女はバトルボードで大会記録を更新、決勝で四十九院さんに勝つほどの実力者。警戒すべき選手だったけど、それももう必要ないだろう」
――彼女は体調不良というよりも……
遥とほのかの関係を知っている愛梨は、今ほのかが置かれている状況を憐れんだ。
――沓子が言うには彼女は光のエレメンツ。想う力が強ければ強いほど強大な力を発揮するらしいけれど、今は試合どころじゃないでしょうね
愛梨は直接モノリス・コードの事故を目撃したわけではないが、映像を見た限りでは巻き込まれた人間が無事でいるはずがなかった。
愛梨ですら動揺したのだ。その愛梨以上に親しい間柄であるほのかの心理状態は、風前の灯火と言ったところか。あの廃ビルのようにいつ崩壊しても不思議ではない状況だろう。
「光井選手は気にしなくていい。あと警戒すべき人間は司波深雪選手だが……」
愛梨の瞳が鋭く光った。愛梨の最大の障害になるかもしれない強敵。愛梨は作戦スタッフの言葉を聞き漏らさぬよう神経を尖らせる。
「無視しよう」
「はい?」
思わず聞き返してしまうほどに愛梨は自分の耳を疑った。
「氷炎地獄やニブルヘイムなどの高難度の魔法をいとも簡単に発動できる魔法師だ。彼女を意識しすぎてこちらがペースを乱されるよりも、二位を狙う方向でいこうと思っています」
第三高校の考えとしては、変にミラージ・バットで欲張ってミスするよりも、ポイントを離されないよう愛梨が二位を狙い、将輝と真紅郎が出場しているモノリス・コードで優勝を狙う方が確実だと思ったようだ。
これは第一高校がモノリス・コードを棄権し、ほのかが戦力外という二つの偶然が重なった故の判断である。
しかしこれに異議を唱えたのが愛梨だった。
出場するからには、愛梨は優勝以外目指していない。それは一色家としての誇りや新人戦優勝のためでもあるが、一番の理由は今年で最後の九校戦となる三年生に総合優勝という景色を見せるため。
微力ではあるが、愛梨の一勝が大きな意味を持つことを理解していた。
深雪のアイス・ピラーズ・ブレイクでの圧倒的な力を目にしても尚、愛梨の闘争心は消えていない。ここに集まったのも深雪を攻略する術が見つかったのかと、そう思って来たのだが、期待外れも甚だしい言葉が返ってきた。
「私に、二位に甘んじろと言っているのかしら?」
「ぃや、ち、ちがっ……」
不満げな愛梨の睨みを向けられた作戦スタッフがたじろいだが、横から真紅郎が助け舟を出す。
「最低でも二位、って意味だよ一色さん」
「私にはそうは聞こえなかったわよ」
「それは伝え方のミスだね。一色さんには二位以上を取ってもらわなければウチの優勝する可能性が無くなってしまうし、三位では駄目なんだ……。モノリスコードで優勝すればポイント的には変わらないから、一色さんには司波さんを意識しすぎて他の選手に足元をすくわれるなんてことにはなってほしくないだけだよ」
納得はできないが理解はできた。
「二位以上であれば一位を狙ってもいいのよね?」
「それはもちろん。優勝するのが一番いいに決まってるよ」
そこまで話すと、深雪の対策が聞けないのならここにいても意味が無いと愛梨は立ち上がった。
「一色さん?」
「私は試合の準備があるからこれで失礼するわ。沓子、栞、ついてきてくれるかしら?」
気怠そうに話し合いを傍観していた沓子は嬉々とした表情で、栞は無言のまま愛梨の後ろに続いた。
「里美さんはクラウドボールで一色さんに負けているし警戒する必要はないだろう――」
引き続き行われる無意味な話し合いを背に愛梨たちは部屋を出る。
「無駄な時間じゃったな」
「うん」
部屋を出た途端に沓子と栞は愚痴をこぼす。
「それにしても愛梨は大丈夫なのかの?」
「ええ、体調は万全。CADの調整も完璧に終わらせているわ」
「そうじゃなくて、彼のことじゃよ」
「……」
愛梨も深雪やほのか同様、ホテルの部屋で休んでいたが、モノリス・コードに出場した第一高校の選手が全員病院に搬送されたという一報を受けて、慌てて三高の天幕で情報を集めた。
将輝は遥にリベンジする機会を失って残念がっていたが、吉祥寺真紅郎や他の選手たちは最初こそ驚いていたものの、時間が経つにつれて強敵がいなくなったことを歓喜していた。そして新人戦逆転優勝の可能性が上がったことに、まるで優勝確定したかのような賑わいを見せていた。
「彼は敵よ。今は自分たちの心配をしないと」
ほのかがミラージ・バットの決勝戦に出られるかは不明だが、九校戦の歴代でも抜きんでた魔法力を持つとされる深雪や、クラウド・ボールと違って達也からCADを調整してもらったスバルが愛梨の前に立ちはだかる。
今の彼女に遥を心配している余裕はない。
「彼はこれくらいでリタイアする人間じゃない。必ずまた私たちの前に立ちはだかるわ。そのためにも、私がここでポイントを取っておかないといけないわ」
ミラージ・バット決勝戦の時間は迫ってきている。
ほのかを医務室まで運んだ雫たちは再び一高の天幕に戻ってきていた。奥の部屋で真由美が誰かと話をしている。
「ん、誰かいるのか?」
雫と一緒に戻ってきた摩利は遠慮なく部屋の扉を開けるが、部屋の中には真由美以外の姿は見えない。
「はい、それでは失礼いたします」
「電話してたのか」
「あら、おかえりなさい」
真由美は端末を机の上に置くと、意外そうな表情をした。
「深雪さんとリンちゃんは?」
「二人は光井が起きるまでそばにいるらしい」
深雪は試合までだが、鈴音はほのかが起きるまで付き添うようだ。
「そう、北山さんはいいのかしら?」
「はい」
深雪や鈴音がいない事への疑問ではなく、雫がここにやってきたことに対しての違和感。傍から見ても達也と深雪のように、ほのかと雫もまたニコイチ的存在だと思っていたからだ。
その雫は真由美に訴えかけるような視線で口を開いた。
「病院には行けませんか?」
「病院?」
「ハルカ……彼のお見舞いです」
ほのかのそばにいても自分にできることは無い。ならば遥を助けることが間接的にほのかを救うを判断しての行動だ。
「そうね……いま、病院から連絡があってはる……宮守君が一般病室に移ったそうよ」
「っっ、そ、それでハルカは!?」
「今は眠っているらしいわ。元々怪我したわけじゃないからあとは目を覚ますだけだそうよ」
「そう、ですか……はぁ……」
「よかったな」
「……はい」
張っていた気が一瞬で緩んだのか、雫はその場に膝をついてへたりこんだ。その肩に摩利の手がそっと乗せられ、摩利自身も安堵の表情を浮かべる。しかしまだまだ予断を許さない状況に変わりはない。
「ただ、森崎君たちは数週間の安静が必要みたい。最低でも数日は寝たきり状態が続くって」
「そうか」
森崎たちの夏休みの予定が決まった瞬間だ。
「それで、お見舞いの方は……?」
「関係者以外はお断りみたいだけど、北山さんは幼馴染だもの。立派な関係者よね?」
「はい!」
真由美と摩利の二人は、遥と雫が幼馴染以上の関係であることは彼女たちの接し方から何となく察しがついている。
だがそれを口にしないのは真由美たちが精神的に成熟しているというのもあるが、彼女たちも他人には言えないことを遥と行っているからだろう。
「摩利も行くわよね?」
「あ、あたしもか!? 別に行かなくても……それにお前やあたしまで行ったらここはどうするつもりだ?」
「あーちゃんや千代田さん、五十里くんたちがいるし大丈夫よ。それに何かあったら十文字君が付いてるわ」
新人戦は一年生の大会。エンジニアを除けば基本的に三年生である真由美たちが何かできることは無い。
「じゃ、決まりね。早速向かいましょうか」
摩利の反対意見を抑えこんだところで真由美と摩利、雫という珍しい組み合わせの三人が病院へと向かった。
病院内は九校戦の会場とはまるで別世界だった。異世界に紛れ込んだような、そんな違和感を抱きながら三人は足音を響かせる。
閑静な廊下を歩いていくと、緊急治療室と書かれた部屋にたどり着く。
「ここには森崎君たちがいるのよね」
立ち入り禁止のプレートが扉の取っ手口にかけられ、病院関係者以外は立ち入ることができないようだ。看護師にお見舞いの花を渡すと再び歩みを進め、遥の病室へとやってきた。
「ハルカ!!」
部屋の入り、遥の姿を確認すると雫は一目散に駆けだす。
遥の病室は個室だった。特に豪勢というわけではないが、可もなく不可もなくといった一般的な病室。
彼女たちがやってくる前に誰かいたのか、部屋の窓際に置いてある花瓶には色鮮やかな花が飾られていた。
匂いに敏感な摩利は、花の香りに紛れて微かに女性用の香水の匂いを感じ取った。以前、どこかで香ったことのある匂いだが、それがどこで、誰の、ものまでかは特定するに至らない。
「生きてる……よかったぁ」
遥の手を両手で握りしめる雫は安堵の声を漏らす。
いくら無事だと言われても、あの惨状を見れば直接無事を確認するまでは生きた心地がしなかったのだろう。雫はようやく頬が緩んだ。
「憎たらしいほどに綺麗な顔で寝ているな」
雫の肩越しに遥の寝顔を見た摩利の感想。真由美も微笑みながら頷いた。
「そうね……あんな事故の後だから心配したけど、本当に怪我はしていないのね」
崩落事故現場にいた人間とは思えないほど綺麗な顔で眠っている。顔や手など見える範囲には外傷は無く、少し頬がやつれているように見えるが、普段と変わらない遥の姿があった。
まるで死んでいるようにも見える寝様。しかし、微かに聞こえてくる呼吸音が彼の生存を証明している。
「あとは魔法による影響がどれほどなのか、こればかりは遥が起きてからじゃないとわからないな」
「ええ、見た目ではわからないものね。衰弱しているように見えないけれど、もしかしたら一生寝たきり、なんて可能性もあるから」
「おい」
「あっ、ごめんなさい」
雫には二人の声は届いていなかった。そのことに真由美はホッと胸をなでおろすが、問題は山積みである。
「森崎君たちは面会謝絶の状態。遥くんもこんな状況じゃあモノリスコードは諦めるしかないわね」
「光井もあんな様子じゃ期待できないぞ」
「仕方ないわよ。恋人がこんな風になっちゃったら……私だって冷静に魔法が使えるかって言われたらわからないし、彼女を責めることはできないわ」
これで第一高校の新人戦優勝がほぼ絶望的となった。
モノリス・コードでポイントが取れなかったとしても、ミラージ・バットで三人が表彰台を独占すれば優勝だったのだが、それも現状では不可能。
「摩利、貴女も気をつけてね」
「わかってる。もうあんなへまはしないさ」
バトル・ボードでアクシデントに巻き込まれた摩利は本戦ミラージ・バットの試合を控えている。現在は総合順位では第一高校が二位の第三高校を大きく引き離しての独走状態だ。本戦ミラージ・バットとモノリス・コードでゼロポイントなんてことにならない限りは逆転されないほどの安全圏に入っている。
その両方でまた事故が起きるようでは九校戦自体が中止になってしまうし、そこまで露骨なことはしてこないと思っているが、真由美の心の中は不安でいっぱいだった。
「はるかぁ」
雫はベッドの側に立ち、眉にかかった遥の前髪を横に流す。遥は一度眠りについたら中々起きることは無い。それこそ悪戯しても目を覚まさないほどに。
「起きないと悪戯しちゃうよ?」
「……」
遥を起こす方法。それは射精欲を高めること。遥は射精する間際に目を覚ますことが多い。つまりは性的快感を与えれば遥が目を覚ます可能性があるという事だ。
雫は靴を脱いでベッドの上に乗り込んだ。
「き、北山さん?」
「なにするつもりだ?」
「……ハルカは、特異体質なんです」
遥の脚の間に身体を潜り込ませ、真由美や摩利の方を向いた。
「エッチなことをすればするだけ魔法力が高くなっていって……元気になるんです。だから私がハルカを元気に……」
これくらいであれば話しても良いと言われた内容を口にする。
「ハルカは性欲大魔神だから……寝ていてもエッチなんです……」
布団を剥ぎ、器用に病院用寝間着を脱がせた。雫の行動に真由美と摩利は頬を赤らめる。
「ハルカのこんな小さいおちんちん初めて見た」
何の抵抗もなく下着を脱ぎ捨て、遥の陰部を露出させる。
「ちょ、ちょっと、北山さん何を!?」
動揺する二人を横目に雫はふにゃふにゃ状態の男性器を手で弄る。
「ふにゃちん……」
それが現在の遥の生命力を示しているようで、雫がふうぅ、と息吹をかけると途端にソレに熱が帯び、本当にキャパオーバーで衰弱しているのか疑うほどに屹立した肉棒が姿を現した。
遥の衰弱した理由については後々明らかになっていくのでそれまでお待ちください。
次回★マークが……。前後半になるかもしれません。
【次回の投稿は5月29日19時予定です】