クリスマス・イブ、それは恋人たちにとって特別な一日。
イルミネーションが彩る街中、人々の楽しげな声を耳にしながら、私は彼と手を繋ぎ、微笑みあう。
左手の中指には重ね付けされた二つの指輪。
一つは魔法少女として世界に身を捧げる契約の証としての指輪、もう一つは愛しい男ただ一人に人生を捧げる契りの証としての指輪。
去年彼から贈られたそのもう一つの指輪に目を落としながら、私は今この瞬間の幸せと、これから味わう至上の甘美を想い身を焦がす。
今日は、私たちにとって特別な一日。
「すみません、少しよろしいでしょうか」
不意に後ろから呼び止められ足を止める。
振り返るとそこには巡回中の二人組の警察官。
どうやら親子ほど年の離れた私たちを不審に思ったらしい。
またか…と、ばつの悪そうな彼に苦笑しながら、私は慣れた手付きで学校の生徒手帳を提示した。
「…美凪ささらさん、中学生ですね。こちらの方は……あっ」
彼の運転免許証を見て何かを察する警察官。
私はわざと無邪気さを見せて彼の腕にしがみつき、いたずらっぽく笑う。
他人にはまったく理解できないであろうこの関係を誇るように、明るく声を上げる。
「ごめんなさい!私たち、親子なんです!」
「人目のある場所ではほどほどにしておいたほうがいいぞ」
警官と別れたあと、父が呆れた声で言った。
「いいじゃん、本当に親子なんだから。誰も変に思わないよ」
「友達に見られたら困るだろうに」
「大丈夫!こんなところでまで出くわさないだろうし、学校のみんなも私がファザコンなこと知ってるし」
「はあ…」
嘘は言っていない。
私は幼い頃から父が大好きだ。
背が高くてガッシリした身体つきも、レスキュー隊として人々を救う姿も、家で私にだけ見せる顔も……挙げだしたらきりがない。
そんな私のファザコンっぷりは親しい友人にも知れ渡っていて、からかわれることもしばしば。
だから私が父と腕を組んで歩いている姿を見られても何も問題はない。「またささらがお父さんに甘えてる」なんて思われるだけ。
だって、みんなは想像すらしていないから。
目の前にいる仲の良い親子が、互いに肉欲を抱き、毎晩求め合っていることなんて…
「よし、着いたぞ」
着いた先はちょっと高めのホテル。
ホテルといってもラブホテルなどではなく、夫婦や家族連れが旅行で使うようなれっきとしたホテルだ。
「こんな高そうなところ、ホントにいいの?」
「ああ、今日はクリスマスだからな。目一杯奮発して目一杯楽しまないと」
「…うん、そうだね。今日は二人で楽しもう!」
父が私に気を使ってくれていることは一目で分かった。
今日はクリスマス・イブ。世間一般の人にとっては家族や恋人と楽しく過ごす行事ごとの一つなんだろう。
でも私たちにとっては少し違う。
二年前のこの日、私たち家族は崩壊した。
原因は私と父の不貞行為、その一部始終を母に見られたからだ。
当然両親は離婚。母は私の顔なんて見たくもないのだろう、私の親権を放棄し、それきり一度も会っていない。
父はせめてもの償いとしてこの最悪の日を楽しい想い出で上書きしようとしてくれているんだ。去年の私と同じように…
「美凪さんですね、お待ちしておりました。」
フロントでチェックインを済ませ、スタッフの男性に部屋へ案内される。
「親子でご旅行ですか?」
「ええ、そんなところですね」
「仲がよろしくて羨ましいです。うちにも同じくらいの娘がいるんですけどね、最近そっけなくて…」
「はは、うちの子は甘えたなんですよ」
父とスタッフの会話を聴きながら、私ははやる気持ちを抑えられずにいた。
さりげなく父の手を取り、きゅっと握る。
ぎょっとする父を尻目に私も会話に参加する。
「たぶん娘さんも恥ずかしがってるだけで心の中ではお父さんに甘えたいんですよ。ほら、こんなふうに!」
繋いだ手を軽く上げて見せると、スタッフは「そういうものなんですかねぇ…」と苦笑する。
ほら、バレない。してやったりな顔で父にウインクする。
誰が見ても私たちは普通の仲の良い親子。手を繋いでも、腕を組んでも、きっと頬っぺたにキスをしても悟られない。
でも今の私はこんなものじゃ満足できない。早く部屋に入って、鍵を掛けて、普通の仲の良い親子じゃできないことをたくさんしたい。早く、早く…
「では、ごゆっくりお過ごしください」
スタッフがそう挨拶し、部屋の扉が閉められようとしていた。
扉が閉まる瞬間が永遠にも感じられる。早く、早く…
ガチャンと音を立て、扉が閉まった。
その瞬間、私は待てを解かれた犬のように父に飛び付き、首に腕を回し、唇を合わせる。
「お父さん…お父さんっ…!」
父の唇を割って舌を侵入させ、舌同士を絡ませる。唾液が跳ねる音と自分の昂った鼻息が頭に響き、くらくらするような感覚に陥る。
負けじと父も私を抱き返して身体をまさぐり、お尻を大胆に揉みしだく。
「はあっ…お前、ほどほどにって言っただろ…」
「ごめん……んっ、はぁ…ずっと、我慢できなくて…っ」
名残惜しく唇を離したあと、ストンとしゃがみ、ズボンのチャックを開けて父のそれを解放する。
夢中でむしゃぶりつく。
「さっきはごめんね…んっ……人前で迷惑だったよね…っ」
「……馬鹿、迷惑なわけあるか…」
父が私を床に押し倒し、逆位置に跨がる。私の目の前には父のそれが、父の目の前には私の湿った湖が。
脱がされて露になった私のそれに、父が顔を沈める。
「俺だってずっと我慢してたんだ……ささら…」
互いの性器を夢中で舐りあう私たち。イブの夜は、まだ始まったばかり……
「あれ、ここには置いてないのか…?」
「もう、置いてあるわけないでしょ?親子で来てるのに」
アメニティーを物色して避妊具を探す父の背中に苦笑しながら声を掛ける。
「薬、飲んできたよ」
「薬って、ささらお前…」
「今日は特別な日でしょ?今日ぐらい、ホントにシたいなって」
「ささら…」
父のそれが私の中にズブズブと入ってくる。父の腰に脚を絡め、下半身全体で受け入れる。
父の身体がゆっくりと動きだす。さざ波のような快感が身体の内を撫でる。
さざ波はやがて力を増し、大波となって押し寄せる。私たちはその波に自ら巻かれ、溺れる。
「ささらっ…そろそろ、いいか…?」
「うんっ、いいよ…お父さん…好き……お父さん…っ、ぅぅっ……!」
内に秘めた力を解放した大波は、やがてさざ波へと戻り、海に溶ける。
その過程を身体で感じ、私と父は心地よい快楽の海を揺蕩った。
「良かったのか?友達と遊ばなくて」
窓の外が微かに白んできた頃、父がぽつりと呟いた。
「大丈夫、意外とクリスマスは家族で過ごすって子多いんだよ」
「そういうものなのか…」
「そういうものなんだってさ」
ホントは明日香に誘われてたんだけど、なんて言葉を飲み込み相槌を打つ。
今日はどうしてもお父さんと過ごしたかった。たとえ親友の誘いでもこれだけは曲げられない。
「…いつでも元通りになるからな」
「え…?」
真面目な顔で私に語り掛ける父。
「お母さんとまた一緒に……ってのはちょっと難しいけどさ、ささらが普通の親子に戻りたいって思うなら、お父さんは…」
「やめて」
父の言葉を制し、こう続ける。
「今さら普通の親子に戻りたいなんて思ってないよ、私」
「……」
「そりゃ失ったものは大きいけどさ、お父さんとこうなれただけで、嫌なことも全部帳消しにできるんだよ」
母が出ていった時、散々悩んで私は決めたんだ。失ったものを数えない、今ある幸せをしっかり噛み締めて生きていくんだって。
「私、今がすっっっごく幸せなの!」
この関係が未来永劫続くかなんて分からない。だから今を全力で楽しみたい、この人と。
「……ありがとうな、ささら」
「え?」
「一緒にいてくれて」
父が私の頭を撫でながら優しく呟く。その表情の奥にある感情は、今の私には窺い知れない。
「よし、じゃあ寝るか」
「まだ朝まで時間あるよ?」
「寝る時間がな」
「遊ぶ時間だよ」
まだするのか…と言いたげな父を無視し、上にのし掛かる。
年頃の、しかも魔法少女である私の体力はまだまだ充分。イブの夜は終わったけれど、クリスマスはまだこれからだ。
「そういえば、これ言ってなかったよね」
父の耳をかぷっと口に含み、囁くように告げる。
それは祝福の言葉。私たち親子の今を、私たちだけが祝福するための決意の言葉。
「メリークリスマス、お父さん」