リィーグル
深くフードを被った男が青いライトセーバーを構える、一瞬の間の後、怯える子供を貫き、その鼓動を止めた。激憤に駆られた、背後より迫るジェダイを振り向きざまに一閃すると、周囲に群がるジェダイを次々と斬り殺していく。
男が引き連れている白い装甲服に身を包んだ兵士達がブラスターを放ち、ジェダイ達を射殺していくのを横目に、男は障害と成り得る強力なジェダイを屠る。まるでインプットされた機械のように、冷徹に命を刈り取っていく姿は、まるで完成された殺戮機械のようにも見える。しかし、その金色に輝く瞳から、頬へと伝う一筋の涙が決して感情を失っている訳ではないことと、男の断腸の思いが伺える。
「っっ!」
そこでリータは、フォースの海から自身の意識を引き上げた。深く潜っていたせいで乱れた呼吸を整えながら、最初は朧気だったヴィジョンが徐々に鮮明になってきている事を感じていた。
「…また、例のヴィジョンを?」
調度品が一切置かれず、まるで静謐さを凝縮したような、ただ真っ白な大理石で造られた瞑想室にソプラノの声が朗々と響く。
その声は、壁にもたれかかるように佇む青年から発せられていた。
肩に掛からないように短く整えられた金髪と、紫色の瞳を持つ青年は、気品すら感じさせる優雅な仕草でローブを翻しながら、リータの元へと歩み寄る。
「リアムですか…。えぇ、潜るたびに鮮明になっていくあのヴィジョン…あれが現実となる日は、もう遠くないのでしょう」
長時間同じ姿勢を取っていたためか、凝り固まった関節を解しながら、リータは立ち上がる。
「裏切り者の正体は…」
「まだ分かりません、しかしあの者からは不信、諦観、喪失、恐怖…そして愛を感じました」
裏切り者。青いライトセーバーと質素なローブから、聖堂を襲撃していた男がジェダイであることは分っている。おそらく、なにかが原因でジェダイを離反し、シスへと転向したのだろう。
しかし、何度ヴィジョンを見ても、男の顔だけは、はっきりしない。
それが、まだ確定していない未来からなのか、自身のフォースとの繋がりの所為なのかは未だ分からなかったが、リータはその疑問を脇に退けた。
「愛とは…僕らとは無縁の感情です。…ゆえに計り辛い」
「あら、私はあなたを愛していますよ?」
リアムの溜息交じりの言葉をさらりと受け流す。
「…その裏切り者は、兵士を引き連れていたのでしょう?でしたらなんらかの組織に属している者でしょうが…白い装甲服を纏う軍隊など、今の銀河系には存在しません」
確かにと、リータもそこが引っ掛かっていた。表立った軍事力を禁止している共和国で、あれほどの練度を持った人間の軍隊を、ジェダイや元老院に隠して揃えるなど不可能に近い。
共和国が政策を180度転換し、自ら軍備を整えなければ決して揃えることのできない規模だろう。
「最近巷を騒がせている分離主義者があの軍隊を揃え、共和国と戦争でもするのかしらね?」
「それこそ有り得ないでしょう。軍隊とは恐ろしく金食い虫です。だからこそ、あの通商連合の守銭奴共は維持費の安いドロイドの私兵を揃えているのですから」
ここ数年で、共和国からの離脱を支持する分離主義者は続々と増えていた。
腐敗した官僚機構と、停滞し、利権のぶつかり合いで有効な政策を実施できない元老院に対する不満は、誰にも抑えることができない状態となり、そこにきてジェダイを脱退し、セレノーの伯爵位を継いだドゥークーが分離主義を掲げた。
最早、共和国と分離主義者の対立は決定的となり、千年続いた平和が音を立てて軋み始めている。そう人々は考えていた。
「…どうなるかは元老院とジェダイ評議会次第でしょう。彼らが目の前の問題に対処する間、僕らは僕らで動くとしましょう」
「もちろんです。壊滅する組織に忠誠を誓う必要もありません。彼らの役目は、ダース・ベインの系譜を継ぐシス卿の目を、私たちに向けさせないことぐらいしかありません」
銀河が間近まで迫った戦争の足音に竦んでいる中、リータのヴィジョンから、ジェダイの壊滅がほぼ確実だと判断している二人は、既にジェダイと共和国を見限ることを決めていた。
ジェダイという巨木は、自分たちの欲望を満たすのに貢献してくれていたが、心中など御免である。滅ぶなら勝手に滅べばいい。残骸は有効に使わせて貰う。というのが二人の共通認識だった。
2人の目下の興味は、裏切り者の正体と、その背後にいる組織である。裏切り者から立ち昇る暗黒面のフォースから、シスであることは間違いない。
『二人の掟』から考えると、もう一人、マスターとなるシスがいるはずだが、その居場所どころか、存在すら感知できていなかった。
「もう一人のシスは引き続き、私の方で捜索します。リアム、あなたは…」
「これまで通り、評議会に忠実なジェダイと印象付けを行いましょう」
リータはここ数年、シスの捜索を評議会に進言し、捜査の手を辺境惑星へと広げていた。実際は、性欲を満たす旅でしかなかったが、評議会には古代のシス寺院などを捜索するも、成果は芳しくないと報告をしていた。
対してリアムは、調停や交渉の任務を積極的に引き受け、それらを十全にこなす傍らで、元老院議員とも友誼を結び、政界へのパイプを着々と構築していた。
「リアム様、ダッチ様が目通りを願っています」
「アインか。分かった、すぐに行く」
瞑想室の扉を僅かに開き、黒髪の少女が伏し目がちに、リアムへと来客の訪れを告げる。
「マスターはどうします?今回は少年の在庫は少ないと聞いていますが」
「あら、そうなのですか?それなら私は結構です」
リアムの言葉に、興味を無くしたリータは、再び座禅を組み、フォースの微睡みの中へと意識を落としていった。
「…行くぞ」
アインを引き連れ、リアムは瞑想室を後にした。
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ルグア時代の寺院に使われていた黒曜石がそのまま残る大ホール。早々人が訪れることのないこの寺院に、唯一造られた客を迎える場所として、『謁見の間』と名付けられたそこには、黒く輝く壁や床に対比するように、唯一白亜の石で出来た玉座が鎮座していた。
「ベントレーの旦那!今回は旦那の好きそうなのが入ってますぜぇ!」
「それは楽しみだな、ダッチ」
下品なだみ声を響かせ、手を揉んでいるザイゲリアンの男の後ろには、麻袋を被せられた人間の子供たちが、膝を震わせながら並ばせられていた。ダッチというこの男は、数年前からリアムとリータお抱えの奴隷商人だった。
違法な奴隷取引があるという情報を聞きつけたジェダイ評議会は、摘発のためにリアムを該当宙域に派遣した。
ダッチは待ち伏せていたリアムに難無く捕らえられたが、丁度性欲を満たす奴隷を欲していたリアムが密かに解放し、以後は見目麗しい子供奴隷の供給係として役立てられていた。
密かな奴隷貿易によって成り立つザイゲリアン政府にすら隠れて行われている、この非合法な取引は、ダッチからは奴隷を、リアムからは、共和国とジェダイの目が届かない安全な輸送ルートの情報を渡すことで成立していた。
「この娘は?」
「11歳、出身はホズニアン。俺にゃあ人間の美的感覚は分かりませんが、中々に綺麗な黒髪って評判の娘でしたぜ」
並ぶ子供達から麻袋を剥ぎ取り、一人一人の顔や体つきを見定めていく。
中には全裸に剝かれ、全身を余すことなく̪視姦される少女もいた。涙目になりながら割れ目を広げさせられ、無遠慮に指を挿入され、感度と具合を確かめられる。
「…これと、これだ」
「流石、旦那は目が高ぇ」
一通り少女達を見定めると、子供たちの中から黒髪の少女と、栗毛の少女を指さす。
指された少女達はサッと顔を青褪めさせ、僅かに後ずさる。脚を拘束している鎖が冷たい音を奏でるが、リアムもダッチも気にも留めていない。
反対に、買われなかった少女達は、露骨に安堵の表情を浮かべると、二人へ哀れみを向けていた。
明らかに普通ではない寺院の主らしき男に買われるということは、もうまとも生活など送れないことは、ここにいる奴隷の少女達全員が理解していた。
しかし、直後にブラスターの発射音が鳴り響き、哀れみの表情を浮かべた少女達が真っ赤な花を咲かせ、床へと倒れ伏す。
「馬鹿共がよ…旦那の事を知ってる奴を、生かして返す訳ねぇだろ」
ダッチが構えたブラスターの銃口から昇る煙と、辺りに漂う焼けた肉の香りが、少女達の命が奪われたことを証明していた。
「おい!お前らもよぉく覚えとくんだな!旦那の機嫌を損ね…」
「ダッチ、それはもう僕の物だ。お前の汚い唾を吐きかけるな」
ダッチが銃口を残った二人の少女に突きつけながら脅す。彼にとっては、自分の生命線を握る上客であるリアムの不興など、死んでも買いたくないものだった。
そして、それを承知の上でリアムはダッチを制止する。既に取引は終了し、二人の所有者はリアムとなっている。奴隷とはいえ、自分の所有物にダッチのような小物が唾を飛ばす姿など許せるはずもなかった。
「こ、これは申し訳ねぇ。…しかし旦那、奴隷を縛るのに有効なのは恐怖ってことは覚えておいてくだせぇ」
「それはお前たちのような小物の話だろう。…そうだ、お前に良いものを見せてやろう」
少女達が繋がれている鎖を引き、リアムはダッチを引き連れ歩き出す。首を絞めつける鎖の息苦しさを感じながら、少女達も後に続く。
▼
(ちくしょう。こんなとこに長居なんざしたくねぇってのに…)
リアムに気付かれないように心の中でそう毒づくダッチだが、表情は変えずに白い階段を下るリアムに続く。
既に何度も訪れているこの寺院だったが、今まではあの謁見の間だけしか通されなかった。しかし何故か今日は、その奥まで通されている。
(俺に何を見せるってんだ…?)
表情を崩さないリアムを横目に、ただ黙って後を歩く。
5分ほど歩くと、大きなアーチが現れた。景色が歪むようなプレッシャーを放つそのアーチに近づくにつれ、自分の鼓動ががなり立てるように響く。額からはまるで滝のように汗が吹き出している。
なぜかは分らないが、本能が悲鳴を上げている、全身の神経がここから逃げろと叫んでいる。
(ヤバい、ヤバい、ヤバい…!!こ、ここから逃げねぇと………死ぬ…!)
脳から必死に脚へと信号が送られるが、まるで神経が切断されたかのようにピクリとも応答がない。
少女達は足元に水たまりを作り、汚れるのも厭わずにへたり込んでいる。
恐怖のあまり、呼吸が上手くいかないのか、口をパクパクと動かしながら、助けを求めて動かす腕は、空を裂くだけだった。
「リィーグル、よせ」
常軌を逸したプレッシャーが襲う中で、リアムだけが平然と立っている。そして、アーチへ向かって一言命じると、まるで初めから無かったかのようにプレッシャーが消え去る。
「だ、旦那…い、今のは…?」
顔を汗と涙でぐちゃぐちゃにしたダッチがなんとか起き上がりながらリアムへ問いかける。しかしリアムはそれに答えることはせず、ただ顎でアーチを示す。
ずり、ずり、とまるで巨大な生肉を引きずるような音と共に、その怪物がアーチを潜り、姿を現した。
それは、何千何万もの触手が互いに絡み合い、蠢きながら5mに達するかどうかの巨体を形成している異形の怪物だった。
ぽっかりと開いた恐らくは口であろう部分は、大柄なウーキーを丸呑みにすることが出来るのではないかと思うほど大きく、粘液が滴る両腕は、常に形と長さを変えながら、部屋を這いずっている。
「こいつはリィーグル。この惑星の固有種が異常進化したバケモノだ」
まるで自慢のペットを見せびらかすように語るリアムだが、ダッチはそれどころではない。
多くの惑星を見てきた自信はあるが、ここまで醜悪な生き物は見たことがない。
「リィーグルは便利な奴でな」
そう言いながら、リアムが片手を差し出すとリィーグルから小さな触手が2つ、吐き出された。
人肌くらいの温度の粘液に包まれたそれは、手の中でのたうち回っている。微かに聞こえる、きぃ、きぃという鳴き声が余計に気色悪さを際立たせている。
リアムはそれを摘まみ上げると、静かに二人の少女の元へと歩む。
「……」
「や、やだ!やだぁ!お願い!いうこと聞きます!なんでもします!」
「わ、わたしも!なんでも言うこと聞きます!だ、だからぁ!」
摘まみ上げた触手が、少女達にアピールするように、びちびちと暴れている。なにをされるかは分からないが、無事ではすまないと悟った少女達が、揃って床に額を押し付けながら哀願する。
「お前たちは必要ない、必要なのは奉仕する体だけだ」
「「え…?」」
どこまでも無情に、感情が感じられない声でリアムは少女達にそう告げる。
そして、摘まんだ触手を離す。
「き、きゃぁぁぁ!う、ぐぅ」
「やだぁ!こっちこないでぇ!」
重力に従い、床へと落ちた触手は、リアムの手にあった時とはまるで違う、機敏な動きで少女達の体へと飛びつく。
悲鳴を上げ、払い除けようとする少女達を無視して、体内へ入り込もうと口元へ向かう。
それに気付いた少女が咄嗟に口を覆い侵入を防いだ。しかしもう一人の少女は悲鳴を上げ、大きく開かれた口に触手が飛び込んでくるのを阻止できず、飲み込んでしまった。
「あ…、うぇ…」
「んんぅ!!」
触手を飲み込み、そのまま倒れ込む仲間を見て、口を押えながらくぐもった悲鳴をあげる少女だったが、すぐに下半身に違和感を感じて、襤褸を捲る。
「いや、いや、いやぁぁぁ!」
そこには、尻穴から侵入しようと、体を捻じ込んでいる触手があった。口を押えていた手を離し、悲鳴を上げながら触手を引き抜こうと手を伸ばすが、僅かに間に合わず、触手はするりと腸内へと姿を消した。
「ぎ、や、あ」
「えぁ、あ」
床に倒れ、びくびくと痙攣している二人の少女を、顔を引きつらせながら見ていたダッチへリアムが語りだした。
「こいつは口や耳、肛門から体内に入り込むと、血管へと侵入して脳を目指す」
興味深い動物実験を解説するのと同じように、やけに通る声で解説を始めるリアム。
「脳へ到達すると、僕のフォースを直接そいつの脳へ流し込んで自我を破壊すると共に…」
痙攣が収まった少女達がゆっくりと起き上がる。あれだけ激しく動いたにも関わらず、息がひとつも上がっていないことが彼女たちに起こったことの異常さを伝えている。
「僕に忠誠を従い、絶対服従する人形となる」
「「リアム様、ご命令を」」
先ほどまで恐怖し、悲鳴を上げていた少女達が、今やリアムの元で跪き、一点の曇りもない瞳で命令を待っている。
あの触手に体を乗っ取られたようなその有様にダッチは僅かな嫌悪感を覚える。
(いや、乗っ取られたんじゃねぇな…心を喰われたんだ、ありゃあ。流石の俺でもこんなもん見せられれば心が痛むぜ…)
自分が連れてきた少女達の哀れな末路を見せられ、嫌悪感と罪悪感がダッチの頭をグルグルと回る。しかしそんな感情に振り回されたところで、自分にはもう、リアムとリータへ子供達を人柱として献上し続けるしか道は残っていないのだ。
もし拒んだり、裏切ったりしたならば、あのリィーグルという触手は、自分に向けられる。
リアムは今日、それを示したのだ。裏切りも拒否も許さない。
命が尽きる日まで、ダッチという男は、寺院の主達へと供物を運ぶ。