惑星マジャフ。アウターリムに位置し、豊富な鉱物資源を採掘しており、銀河系の工業における原料生産の4割を担っている惑星である。太陽に近いためか地表が非常に高温であり、居住者は専用のアーコロジー内で生活していることが知られていた。
容赦なく降り注ぐ灼熱の太陽が、どこまでも平坦な赤砂の大地を焦がす。
移民としてやって来て既に10年以上をここで過ごしているジャックにとっては、最早見慣れた光景だが、乾いた風に巻き上げられた砂によって、視界が遮られるのは、未だに不快だった。この惑星の砂は非常に微細であり、顔全体を覆うマスクは、屋外での活動の際には必需品である。もしこれが無ければ、宙を飛び交う砂によってズタズタにされた目は、数週間で使い物にならなくなるだろう。肺にも深刻なダメージを負い、一生酸素マスク無しでは生活出来なくなる。そう思えば、劣化したラバーの感触が気持ち悪い、このマスクにも感謝の気持ちが湧いてくる。
空を覆う大量の砂の中から、薄い楔型のスターファイターがまるで砂を切り裂くように現れた。それにあわせて都市に砂の侵入を防ぐ為に作られた防砂ドームを開放する。
「標準時10:00:00…すごいな、ぴったり時間通りだ」
「やっぱジェダイってのは神経質なんだな」
「それを本人の前では言うなよ」
腕に装着された端末で、時間を確認し、スターファイターを誘導する。
無線から聞こえる、防砂ドームの開閉を行っている同僚の言葉に笑いながら、一応の忠告をする。こういった時だけは表情の分からないマスクが有難い。
エンジン音に混ざって砂が機体を叩く音をプラットフォームに響かせながらゆっくりと、スターファイターが着陸する。
「ドームの閉鎖をお待ちください、マスタージェダイ」
機体が固定されたことを確認すると、同僚に合図を送り、ドームを閉鎖させる。
外に取り残されることがないよう、赤いランプと共に、耳をつんざくようなサイレンが響く。
「閉鎖完了!」
「…お待たせしました、どうぞこちらへ」
ドームの閉鎖が完了し、スターファイターから一人の男が降り立つ、金属で出来たプラットフォームに落ちている砂が、ジャリっと音を立てた。
「誘導に感謝を」
深く被ったローブからは、若く、張りのある声が聞こえる。
「っ、いえ、仕事ですので」
礼を言われるとは思っていなかったジャックは、一瞬戸惑ったものの、すぐに返事を返した。ジェダイの顔こそフードで見えなかったものの、ジャックは、彼が僅かに微笑んだような気がした。
そのまま、ジェダイは迎えに来た衛兵に連れられ、エアスピーダーに乗り換えて都市の内部へと向かっていった。
「ジェダイが俺らみたいな下っ端に礼とはねぇ…」
レーンに沿って街へ向かうエアスピーダーを見ていると、軽口を叩いていた同僚がジャックに近づき、驚きの声を上げる。
「確かにな…。しかし、やけに若い声だったな。まだ20にもなってないんじゃないか?」
「はは、なら可哀そうだな。ウチの代表は筋金入りのジェダイ嫌いだ。餓鬼ジェダイなんて怒鳴られて追い返されるのが関の山だろ」
同僚の言うように、過去のいざこざにより、ここの代表はジェダイを毛嫌いしていた。
どんな用事で来たのかは知らないが、それがどんな事にせよ、代表は首を縦に振らないだろう。
ジャックは首をすくめると、また直ぐに出すことになりそうだと思いながら、ジェダイのスターファイターを格納庫へと搬入させる作業を始めた。
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「ベントレー。至急、惑星マジャフへ向かって貰いたい。代表のザバン総督より、分離主義者によるテロを未然に防いで欲しいと要請があった」
帰還命令によってコルサントへ帰ってきたリアムは、すぐさま評議会へ出頭していた。
火急の要件と厳命されていたのもあるが、マスター・ヨーダを筆頭に、リアムにとって警戒すべき人物が数多くいるコルサントは長居したい場所ではなかった。
任務を受けたらすぐにでも飛び立つ準備は出来ていたが、惑星と代表の名前に聞き覚えがあり、任務の違和感をリアムに感じさせた。
「マジャフのザバン総督は、我々ジェダイを毛嫌いしていませんでしたか?」
ザバン総督。犯罪者でもないのに、ジェダイのアーカイブに要注意人物として記載されている珍しい人物である。
アーカイブに記載されている理由はただ一つ。彼の異様なまでの反ジェダイ思想にあった。
過去にマジャフとある惑星の間に紛争が発生。それをジェダイが調査し、調停を行うことになった。
調査の結果、ジェダイは紛争の原因が、マジャフ政府にあると判断。不利益な条約を締結するよう、マジャフ政府から派遣された外交官だったザバンに詰め寄った。ザバンは猛反対したが、ジェダイと事を構えることを良しとしなかった政府は、条約締結に同意した。
帰還したザバンは、弱腰の政府に対して批判を展開し、民衆の間にもジェダイと現政権に対する不信感が募っていたため、あっさりと政権は崩壊。共和国憲法に則った選挙が行われ、圧倒的多数でザバンが代表に就任した。
そういった経緯があり、代表に就任してから今日まで、ジェダイに批判的な人物であった。
そんな彼からの要請であり、当然評議会も懐疑的な目を向けた。
ザバンがジェダイに助けを求めるなど有り得ないというのが評議会の誰もが思い、むしろ分離主義者と手を組んで罠を張っているのでは?という意見も出た。
しかしザバンに限らず、ここ最近はジェダイに疑問の目を向ける民衆が増えており、ここでザバンの依頼を断り、実際にテロが起きれば、『ジェダイは自分たちに好意的な者しか助けない』と批判が殺到するのが目に見えている。
分離主義者への対応に追われる中で、民衆からの批判にまで対応は出来ないと評議会は判断した。しかし罠である可能性は高いままであり、十分な力量を持ったジェダイを派遣しなければならない。
「そこでお前だ、ベントレー。マスター・リータ仕込みのお前の腕ならば荒事にも対処でき、臨機応変にも動くことができるだろう」
「…評議会からの指示であれば、僕は遂行するのみです。ですが、どの程度の裁量が与えられるのですか?」
ほぼ敵地も同然の場所に飛び込むことになるリアムにとって、どこまで自分の判断で動いて良いのかということは大きな意味を持っていた。通信設備も向こうが掌握しているとなれば、評議会の指示を乞うことも、救援を呼ぶことも難しい。
「条約や支援などの政治的な判断以外は全て一任する。もしザバンが分離主義者と手を組み、罠を張っていた証拠さえあれば、その時点で戻ってこい」
「破格の裁量ですね…。ナイトにここまでの裁量権を与えるなんて、聞いたことがありません」
「それだけ危険な任務になる、ということだ」
マスタークラスのジェダイでも早々与えられることのない程大きな裁量権に、ウィンドゥの言う危険な任務というのが、誇張ではないことを物語っている。
しかしその分、成功させればその見返りは大きい。マスタークラスへの昇格が確実に近づく事は想像に難くない任務でもある。
既にジェダイを見限っているリアムだが、近い将来滅ぶとはいえ、今はまだジェダイの枠組みの中で行動しなければならない段階であり、マスターへ昇格すれば、今よりも格段に自由に動ける時間が増える。リータに任せっきりになっているシスの捜索も捗るだろう。
「…かしこまりました。すぐにマジャフへ向かいます」
リアムはウィンドゥに一礼すると、その足でスターファイターに乗り込んだ。
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ドームの天井に投影された青空が、外には赤い砂漠が広がっていることを忘れさせる。
外とは全く違う、暖かな人工の太陽光が降り注ぐ中で、砂を材料としたガラスが、ふんだんに使われた建物が所狭しと立ち並ぶ街を眺める。余程緑に飢えているのか、街の至る所に緑のある公園が点在し、そこでは子供達が歓声を上げながら走り回っている。
そんな子供達を優し気に見つめる母親達だが、古めかしいジェダイローブを着たリアムに気付くと、目に敵意を滲ませながら、子供達を守るようにリアムを睨みつけている。
ザバンが代表に就任した経緯を考えれば、民衆の間にも反ジェダイ感情が存在することは分っていたが、まるで人攫いにする態度に、リアムは辟易とした。
(まぁ僕とマスターに限れば人攫いみたいなものか)
ダッチとの後ろ暗い関係を持っているリアムとしては、その母親達の警戒は理解できるものであった為、子供達に向けていた視線を外し、街の中央に聳え立つ、ガラスのピラミッドへ、紫の瞳を向けた。
ザバンが自らの政権の象徴として建造したあのピラミッドは、マジャフの政庁として使用されている。
『透明な政治を!』
そういったスローガンを掲げていたザバンは、どこからでも見えるガラス張りのピラミッドをあえて政庁に選んだと聞く。建設は公共事業として行われ、国民の所得も改善させた。
ザバンは、ジェダイ嫌いという面の他にも、汚職や腐敗を許さない高潔な政治家という面でも有名人であり、彼の人気はそういった実績によって裏付けされたものでもあった。
「到着致しました」
エアスピーダーがピラミッドの前でゆっくりと静止する。衛兵に促され、スピーダーから降りると、そこには、アーカイブの映像と同じく、短く刈り揃えられた頭と、とても政治家とは思えない鍛え上げられた肉体を持った大男、ザバンがとても歓迎しているとは言えない渋面でリアムを待っていた。
(さて、一仕事だな)
フードを降ろし、顔を現したリアムは、朗らかな笑みを湛えて、右手を差し出す。
「ザバン代表閣下、お出迎えに感謝を。リアム・ベントレーと申します」