「さて、知っての通り、俺はジェダイが嫌いでね。単刀直入に言わせて貰う」
ザバンの執務室に通されたリアムは、飲み物すら出されないまま、任務の詳細を告げられた。
「3日後に新しい鉱山の採掘開始セレモニーがある。そこには俺は勿論、閣僚も全員出席する予定だ。だが先日、そのセレモニーを爆破するという脅迫状が届いた。君にはセレモニーの警備と、脅迫状を送った犯人の捜索をやってもらう」
「待ってください。採掘開始セレモニーとはどういうことです?閣下を始め、閣僚全員が出席とは…それほど注目するような鉱山なのですか?」
こういってはなんだが、たかが鉱山の採掘を始めるだけで、政府首脳が全員出席するセレモニーを開くというのは異常である。
財政を鉱山収益に依存しているマジャフでは、毎年新たな鉱山が開発されているが、採掘開始セレモニーなんてものは聞いたことがない。
「それだけウチにとっては重要な鉱山だということを分かっていればそれでいい」
「閣下。中止、もしくは延期にするべきです」
「重要な鉱山と言っただろう!第一、それで解決するなら、態々ジェダイを俺の部屋に入れるものか。それとも何か?出来ませんとでも言うつもりか?」
「…犯人に心当たりは?」
「ない。見当もつかん。脅迫状は見るか?俺たちでは犯人に繋がる情報は得られなかったが、ジェダイなら、まぁ、何か分かるかもしれんしな」
中止や延期を訴えるも、ザバンはそれを拒否し、犯人に繋がりそうな情報も一切ない。おまけにこの不遜な態度である。
リアムは頭を抱えたくなったが、セレモニーまであと三日しかない状況ではそんなことをしている時間すら惜しい。
そして代表がこれならば、マジャフ政府の協力は見込めない。
「…分かりました。脅迫状とセレモニーの会場を見せて頂いてもよろしいですか?」
「好きにしな…と言いたい所だが、セレモニーは鉱山で行う予定でな、好き勝手に見せてやれるような場所じゃない。鉱山の内部には踏み込まないようにしてくれ。…それでも良ければ、俺の秘書官に案内させよう。ドゥナ!」
ザバンの一声で、パタパタと翼をはためかせながら、トイダリアンが進み出る。
余程鉱山を見られたくないのか、フォースの精神操作に対して耐性を持つトイダリアンを、案内役という体で監視に付けたザバンに対して疑念を募らせるリアムだったが、それを押し殺しながら笑顔を浮かべる。
「それは…有難い事です」
「だろう?俺もセレモニーを台無しにされるのは避けたい。期待しているぞ、若いジェダイ」
ザバンは、無理難題を言っている事を承知の上で、にやにやとした笑みを浮かべながら、追い払うようにリアムに退出を促した。
「あー、ではマスタージェダイ。会場へ案内します」
鼻の毛を掻きながら、面倒そうに台本の書かれた紙を読み上げながらリアムを連れ出すドゥナ。
パタパタと喧しい音にイラつきながらリアムは、ザバンに一礼すると、執務室を後にした。
▼
「ドゥナだけじゃ不安だ、他の連中にも監視を怠るなと伝えろ」
ザバンは、リアムが去ると同時に、隣の部屋にいた補佐官へと命令を下していた。
ジェダイの精神操作に耐性のあるトイダリアンが、部下にドゥナしかいなかった為、仕方なくドゥナを監視に付けたが、その監視役は全く信用に値する人物ではないことをザバンは良く理解していた。
リアムから、幾らかのクレジットを握らされれば、驚くほど簡単にこちらに虚偽の報告を行うだろう。
それを踏まえて、リアムには二重三重の監視網を敷いていた。監視役の監視役すら配置しているのだから驚きである。金にがめついドゥナ以上に、ザバンはジェダイという人種を信用していなかった。
「ったく、ジェダイの派閥争いになんで巻き込まれなきゃならない」
ザバンは、最近巷を騒がせている分離主義という運動自体が、ジェダイの派閥争いだと考えていた。
ドゥークーはジェダイ内部の派閥争いに負けて追放され、己の復権の為に分離主義を煽っている。ジェダイの主流派は、それを叩き潰し、共和国においてジェダイの発言力を増大させようとしているのだと認識し、嫌悪感を募らせていた。
「仰る通りです閣下。しかし伯爵の計画はこちらにも利益を齎しますぞ」
まるでオペラ歌手のような演劇染みた声音で語るトワイレックの補佐官の言葉は、上品や丁寧を通り越し、慇懃無礼にさえ聞こえるほど不愉快なものだったが、すでに何年も自分の補佐官としての役目を果たしているこの男の事は、ザバン自身も信頼を置いており、交渉などの場合を除き、滅多なことでは叱責することは無かった。
「分かってる。こっちが火の粉を被らずに、ジェダイの信用を落とせるなら文句はない。だが、あの鉱山の事を知られるリスクを冒す必要があったのか?」
「どんな鉱石も、売る相手が居なくてはただの石くれでしかありませんぞ。元老院にも、ジェダイにも秘密となれば、鉱石の情報を欲する者も出てくるでしょう。そうして自力であの鉱石に辿り着いた者の方が、より高く買い取ってくれると愚考致します」
ザバンがどうあっても隠したい鉱山は、新発見の鉱物を多量に含む鉱山であり、その価値は莫大な物になると踏んでいた。しかしその鉱物のある特徴により、扱いを間違えれば、銀河系に大混乱を齎すことも確実という代物だった。
ただでさえ分離主義の危機により、銀河が混乱している最中であり、ザバンも鉱石の扱いには慎重にならざるを得なかった。
しかし補佐官の進言により急遽、マジャフの住民に限定したものではあるが、セレモニーを開催することになった。
それは偏にドゥークーの計画を進めるに当たって、ジェダイをマジャフへ誘き寄せる必要があり、その為の撒き餌として使われたということに他ならなかった。
この惑星で生まれた物が、ジェダイの都合で使われる事に不愉快ではあったが、補佐官の取り成しと、ジェダイの影響力を削ぐために、ドゥークーの計画に乗ったのだった。
「とにかく、ジェダイに知られることは避けなければ。最悪、伯爵の計画を潰してでもな」
「…は。承知いたしました」
恭しく頭を下げる補佐官に背を向け、眼下に広がる街並みを眺める。
「この星を奴らの好きにさせてなるものか…」
ザバンが万感の決意を込めて呟く背後では、補佐官が能面のように感情の無い顔で、その背を見つめていた。
▼
ピラミッドの政庁から、エアスピーダーに乗せられ、街路樹の植えられた大通りを進み、会場へ向かうリアムは、通行人達からの冷たい視線に晒され、なんとも言えない居心地の悪さを感じていた。
「随分とジェダイは嫌われているようですね」
「まぁー、そりゃ、昔のことをここの住人は忘れちゃいませんからねぇ」
タブレットを弄りながら、何を今更、と言いたげにドゥナが返す。
ザバンの前では一応取り繕っていた敬語も、ピラミッドを離れるに連れ、ボロボロと剥がれて行く。
「ジェダイの調停のせいで不利益を被った…と?」
「ハン!5年も相場価格の半分で取引させられた所為で、財政破綻寸前まで追い詰められたってなりゃ、誰だって恨み言の1つや2つは出るでしょうよ」
マジャフ条約-。
ジェダイの調停で結ばれた条約の中身は、15年間、両星間で行われる鉱石取引の販売価格を、相場の半分とする。というものであり、この条約によりマジャフの経済は深刻なダメージを負うことになった。
リアムがジェダイのアーカイブで調べた限り、そもそも紛争の原因が、当時のマジャフ政府が圧力を以て、その惑星の流通経路を遮断し、相場価格の2倍で鉱石を売りつけていた事が紛争へと繋がっていた。
「逆恨みですね。公正公平な商取引を行っていれば、そもそも紛争など起きなかった。自分たちの悪事の責任を、我々に転嫁しないで頂きたい」
リアムはあえて挑発するような言葉を並べて、ドゥナの反応を伺う。
そもそもリアムにとっては、ジェダイの調停や条約の公平性、マジャフの財政破綻もどうでも良く、ただ自由に動くために必要なマスタークラスへの踏み台としか思っていない。
「ッは!ジェダイらしい言い草だ。…だがよジェダイ?今の共和国で、アンタの言う公正公平な商取引をやってる連中がどれだけいる?通商連合は?銀行組合は?…元老院に代表を送り込める大企業には許されて、俺たちには許されないってのか?」
ドゥナはそれから当時のマジャフの悲惨な状況をリアムに語った。
相場価格の半分で買い叩かれたとはいえ、マジャフ条約は、たかが1惑星との間で行われる商取引に限定したものであった。
調停を行ったジェダイも、ペナルティの程度で条約を支持したのだろう。しかし、元老院議員や大企業は違った。
マジャフから鉱石を買えば正規の値段だが、条約相手の惑星で買えば、相場よりもかなり安く購入できるのだ。
それに目を付けた元老院は、自分達の利益のため、ジェダイの調停を盾に条約を積極的に支持した。
銀河の守護者であり、調停人たるジェダイも、この条約は正当だと判断している。
その結果、マジャフから鉱石を購入する企業や惑星は激減。条約相手の惑星は、相場の半額で手に入れた鉱石を転売することにより、莫大な利益を上げた。
取引相手が居なくなったマジャフは、嫌でも条約相手に鉱石を売るしかない。しかしいくら売っても利益は出ない。
代表に就任したザバンは、転売を禁止する条文を追加するよう条約改正に動いたが、条約相手も元老院もそれを黙殺した。
マジャフにとっては時期も悪かった。その時共和国の目はナブー危機に向けられており、星系間の1条約にそこまで時間を割いてはいられなかったのだ。
結果として、マジャフの公共サービスはほぼ壊滅状態となり、労働環境は悪化の一途を辿った。
砂漠の広がるマジャフでは、食料を輸入に依存するしかなく、そういった星系は、足元を見たように価格を吊り上げる。
遂に餓死者まで出る有様となったが、スターシップの燃料の補給すら儘ならない状況では、星を捨て、難民となることすらできなかった。
そんな中で、ザバンは決死の思いで元老院へ向かい、痩せ細った子供や、食料を奪い合う民衆の映像を交えて演説を行った。
その凄惨な光景は、コア・ワールドの民衆の心を動かし、マジャフ条約は速やかに撤廃されたのだった。
「コルサントのお綺麗な聖堂でアンタらが瞑想をしてる間、俺たちは地獄を味わったんだ」
「……」
捲し立てるように言い募るドゥナの表情は、怒りというよりも、憎悪とすら言えるほど激しいものだった。
それを見ながら、リアムはこの憎悪は、ドゥナ個人の物ではなく、ザバンを含む、マジャフに住む人々全員が抱くものであることを悟った。
そしてその憎悪は、この惑星をいとも簡単に分離主義へと導くことも。
仮に共和国と分離主義者との間で戦争にもなれば、マジャフは共和国を倒すため、ありとあらゆる協力を惜しまないだろう。
(いや、既にドゥークーと手を結んでいると見るべきか…)
そこまで共和国が、ジェダイが憎いのであれば、ドゥークーもさぞ楽に説得できただろう。
リアムは、爆破テロはジェダイを呼び寄せる囮でしかない事を確信した。
(呼び寄せたジェダイをドゥークーが用意した刺客が殺害し、爆破テロを実行。テロを防げなかったことをザバンが批判し、民衆を煽って共和国からの離脱を宣言。鉱石の一大供給惑星を失った共和国は、ジェダイの実力を疑問視するようになる…。そんな所か)
リータの見たヴィジョン、民衆に渦巻く反ジェダイ感情、ドゥークー率いる分離主義に、シスの脅威…。
現状判明している情報を繋ぎ合わせ、大方こういった筋書きだろうとリアムは当たりを付けた。
そしてその考えが正しければ、この惑星のどこかに、囮に引っ掛かったジェダイであるリアムを殺す為の刺客が潜んでいるという事になる。
(気が抜けないな…)
「…イ…!ジェ…イ!…ジェダイ!早く降りろ」
「…ん?あぁ、申し訳ない、考え事を」
いつの間にか会場に着いていたのか、ドゥナがけたたましく喚いている。
ドゥークーの刺客に襲撃されるとしたら、3日後のセレモニー中だろう。それまでは、捜索しているフリだけしておこうと思いながら、リアムはスピーダーを降りた。