惑星アーストン、どこまでも不毛な大地の広がり、まるで空を突き刺すように尖った岩山が並んでいた。
そんな荒涼とした大地の岩陰に、1人の少年が小さな体をさらに小さくして隠れていた。
少年の周囲では、ブラスターの発射音が鳴り響き、それに混ざってライトセーバーの特徴的な音がかすかに聞こえる。
ライトセーバーが振るわれる度に、ブラスターの音は数を減らしていく。
時折、悲鳴が峡谷に木霊するが、ライトセーバーを持つ者以外、誰1人として、それに気を払う余裕などなかった。
1人、また1人と光刃に倒れ、ついにブラスターを持つ者は、ただ1人だけとなった。
「あなたで最後ですか。あなた達のような海賊が、ジェダイである私に奇襲など無意味ですよ」
ライトセーバーを喉元に突きつけながら、どこまでも優しい声色と笑顔で、リータは海賊に告げる。
しかしその優しい笑顔こそが、海賊の恐怖をこれ以上なく高めていた。
「なんなんだよ…あんた…。なんで、ずっと…ずっと笑ってんだよ!!」
あまりの恐怖からかブラスターを手放した男が吠える。
「ダグを殺す時も!バッカスを殺した時も!…今、俺を殺そうとしてる時も…なんで、そんな笑顔を浮かべてられんだよ!!」
男はその場に蹲り、嗚咽交じりの慟哭が響く。
今まで感じたことのない無力感と絶望が心を支配していた。確か自分達は褒められた人間ではなかった。罪の無い人を傷つけたこともある。しかし、ここまで、ここまで無情に、まるで虫けらのように殺されていいほどの悪人ではなかったはずだ。
「虫けらだなんて…そんな事は思っていませんよ」
先ほどの不気味なほど優しい声色とは少し違う、荒涼とした大地には不釣り合いな、女の美しい声が男の耳に届く。
「あなた達には感謝すらしているのです」
ライトセーバーの光刃を戻し、腰に収めたリータが身を屈め、男の手を握った。
とても自分の仲間を笑顔で虐殺した女とは思えないその変貌に、軽い混乱を覚えて男は握られた手を引く。
「リアム」
しかし、いくら手を引こうと力を込めても、まるで万力に締め上げられているように、男の手はぴくりとも動かない。もう片方の手を使っても、全身の力を込めても、微動だにしなかった。
じたばたと足掻く男を一切無視して、リータは岩陰に隠れるリアムの名を呼んだ。
「マスター…」
しきりに目を左右に泳がせ、時折躓きながらリアムはリータの元へ歩む。
リータは屈んだ体勢のまま、美しい弟子の額にキスを落とすと、囁いた。
「この男の首を刎ねなさい」
リアムの耳元で囁いたその言葉は、小さな囁き声であったにも関わらず、当事者の男の耳にも届いた。
「やめろ!やめてくれ!頼む!……ぁ、ぐ、やめろ!手が!手が!あ、ああアァァ!!」
男が絶叫し、逃げ出そうと暴れるのを、リータは握っていた手を握り潰し、その骨を砕くことで黙らせる。
「…なにをしているのですか?リアム。さ、早くしなさい。…大丈夫、簡単ですから」
いつもしているフォースの訓練のようにリアムに殺人を促す。
しかしリアムの腕は、ライトセーバーに伸びることなく、だらりと下がったままだった。
「ま、マスター、無抵抗の人を殺すのは、じ、ジェダイの掟に反します…僕には…」
異常な喉の渇きを感じながら、リアムがそう絞りだした時、男の様子が変わった。
「…が、あ…」
しきりに首元に手をやり、口をパクパク動かしている。まるで急に酸素がなくなったかのようなその姿は、リアムにとって見慣れた姿でもあった。
リータのフォースが、男の首を締め付けているのがはっきりと感じられる。
「リアム、このままでは彼は、苦しんで死んでしまいます…あなたが、彼を楽にしてあげないと」
後ろから肩を抱かれ、耳元に息が吹きかかるのを感じながら、リアムは逡巡する。
なんとか腰からライトセーバー引き抜いて起動させるが、持つ手が震え、足は根が生えたようにそこから動かない。
「……お仕置きされたいのですか?」
「!!」
『お仕置き』
そう聞こえた次の瞬間、無意識のまま、リアムはライトセーバーを振るっていた。
訓練で叩きこまれた動きのままに、流れるように、自然に振るわれた光刃は、リアム本人の意識さえ置き去りにして、男の首を切り裂いた。
「…あ、あ…」
ライトセーバーの高温により、肉と骨が焼き切られる音に感触そして匂いが
はじめにリアムが感じたのは音だった。ライトセーバーにより肉が焼き切られた音が耳の中で反響し、少し遅れて鼻腔に焼けた肉の匂いが充満した。
刎ねた首は数メートル先を転がり、苦しみに悶えた表情をリアムに向けていた。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
人を殺したことに、リアムの心が追いつく。
目を見開き、自分のしたことを理解するとともに、ぐちゃぐちゃになった感情のままに、リアムは絶叫する。
「大丈夫ですよ、リアム」
ふわり、と背後から抱締められる。
「よく頑張りました。あなたは間違ったことなどしていません。正しいことをしたのですよ」
その甘く、どろりとした言葉は、リアムのひび割れた心に染み込んでいく。
自分を抱締める師の腕を、リアムは涙を流しながら強く握る。たとえ自分に男を殺すように強要した相手だとしても、自らを肯定し、優しく抱締めてくれる母のような存在を、リアムは求めていた。