光が差さすことのない暗い通路を、僅かに感じるリアムのフォースを頼りに、ライトセーバーで照らしながら歩く。
いつもであれば安心感を与えてくれるセーバーの温かく淡い光は、足元すら覚束ない暗闇と、まるで若い女の悲鳴のような風切り音が絶え間なく響く現状では、通路を僅かに照らしてくれる、心許ないランタンに過ぎなかった。
苔にびっしりと覆われたアーチがリータの前に姿を現す。この惑星の固有種だろうか、ミミズのような生き物がセーバーの光に反応して、その身を悶えさせている。
きぃきぃと、薄気味悪い鳴き声を上げる生き物を無視して、リータはアーチを潜った。
そこは、まるで一種の信仰の場であるかのように、彫像が鎮座しており、台座には古びた捧げものが並べられている。周囲には炎が焚かれ、彫像を煌々と照らしていた。
その彫像はホールにあったものに比べて幾分が小さいが、精巧さでいえば、あちらのものが子供の粘土細工かと思うほど精巧に造られている。炎の光を反射し、黒く輝くその彫像はおそらく、巨大な一つの黒曜石を削って造られたことがわかる。
『随分と淀んだフォースだが…貴様はジェダイか?』
「!?」
突然響いた声に、リータはライトセーバーを両手で握りしめる。
あたりをくまなく見渡し、声の主を探す。
『ふは、心地よき暗黒面のフォースを感じる…そうか、この儂が怖いか…?』
背後から聞こえた声に、ほとんど考える間もなく、セーバーを振りかざす。
しかし、そこには捧げものの1つであったのか、藁で組まれた貧相な人形が置いてあるだけだった。
『無駄だ、愚かなジェダイよ。儂はこの世に霞のように残ったフォースでしかない…。ジェダイであろうが、シスであろうが…霞を殺すことなどできん』
暗黒面のフォースが集まり、人の形をとる。
顔の上半分を隠すように、山羊を模した仮面を被った老人が現れた。
「古代の…シス卿…」
強大な暗黒面のフォースそのものと言える老人を前に、セーバーをマカシの型に従って構えて、精神を鋭く尖らせる。
その姿は、リアムを抱いているときに見せる、獣欲に満ちただらしない顔ではなく、当代を代表する剣士であり、ジェダイ・マスターとしての姿だった。
『…待て、ジェダイよ』
しかし一向に攻撃をしかけることもなく、フォースにも乱れのないシス卿は、片手を軽くあげ、リータに語り掛ける。
『ここに人がやってくるのは何年ぶりだと思っている?戦っても良いが、まずは話に付き合え』
「なにを馬鹿な、ジェダイがシスと語り合うとでも?」
『シスだの、ジェダイだの…儂にとってはどうでも良いことだ…そしてお主にとってもな』
「なにを、言って…」
老人の言葉に僅かにリータのフォースが乱れる。
『お主のフォース…なにやら隠しているようだが、儂には無意味よ。儂には感じる、お主の底知れん欲望に塗れたフォースが…』
「あなたは、何者です…?」
リータは自身の心の内を容易く暴いて見せた老人に問いかける。
セーバーを腰に納めたのを見て、老人は語りだした。
『儂の名は、ダース・ルグア。歴史の波に埋もれた暗黒卿よ…』
かつてジェダイと戦い、そして滅ぼされたシス帝国。
その一員だったルグアは、ジェダイとの戦いが本格的になる前に、シス帝国を離れ、この惑星にやってきたのだという。
当時のシス達は権力欲や支配欲に溺れ、お互いに殺し合うことが日常茶飯事だった。
しかしルグアは、シスであるにも関わらず、権力欲には見向きもしなかった。彼は暗黒面の力で無理やり女性達を従え、享楽に耽っていたのだ。そんな彼にとって内部の権力争いなど時間の無駄でしかなく、日々自分の宮殿に籠り性欲を満たすことに腐心した。
ジェダイとの戦争にも知らん顔を貫き通していた彼は、ついに同胞の逆鱗に触れ、追放処分となった。宮殿には大勢のシスが押し寄せ、集めた女達は捕えられ、焼け落ちた宮殿の前に餓死するまで吊るされた。
悲劇的な最期を迎えた女達とは違って、ルグアは他のシスと戦うことなく脱出し、お気に入りの女だけを連れてこの惑星に辿り着いた。
そして、シスとジェダイが血みどろの戦争を繰り広げている傍らで、女達を攫い、従わせるとかつてのように享楽と退廃の日々を過ごし始めたのだった。
「…それで寿命を迎えて死んだと?」
『うむ、悔いのない最期であったよ』
呆れたようなリータの言葉もどこ吹く風で、ルグアは満足そうに笑った。
姿形は変わっていないのになぜか、先ほどの威厳あるシス卿とは思えなくなったリータは、すっかり毒気を抜かれて溜息をついた。
『しかし、考えてもみよ…儂やお主にとって、このような最期は理想ですらあるのではないか?己の大欲を果たしてフォースと1つになったジェダイがおるのか?シスがおるのか?』
一理あると、リータは反射的に思った。
色欲まみれのジェダイ。掟に真っ向から反する自分の最期は、一体どうなるのか。
「選ばれし者」に罪を見破られて殺さるのではないか?
このまま隠し通すことができるのか。
そういった不安に押され、リータはこの惑星を訪れていただけに、ルグアの言葉は一概に無視できるものではなかった。
『儂が暗黒面とそれを隠す術を教えてやろう、暗黒面を学ぶのだ。それがお主の望みを叶える、ただ一つの道ぞ』
「…私のパダワンも共に弟子にしていただけるのなら」
一瞬の逡巡のあと、リータはルグアに跪き、頭を垂れた。