「…リアムを犯していたあれは一体なんです?」
暖炉の炎が空気を舐めるようにその身をくねらせる。
豪奢なソファにその身を預けながら、リータは靄のように宙に浮かび、半透明なルグアに問いかける。
リアムを救出したのち、かつてルグアが自身の居室として使っていた部屋で、リータは鋭利なナイフの様に視線を鋭くしながら、目の前の暗黒卿と話していた。
もしもルグアが悪意を持ってあの怪物にリアムを襲わせていたのなら、許し難い蛮行である。
ジェダイ評議会に対してジョーカーとなる得る、暗黒面のフォースの教えを受ける機会を失うことは惜しいが、必ずこの男を殺さねばならない。もしもあと一歩遅ければ、彼女の大願はフォースの彼方へ永遠に去ってしまっていたのかもしれないのだから。
「…あれはこの惑星の固有種よ。獲物を捕らえ、体液ごとフォースを啜り、自らの力へと変える。儂はあれを捕えた女が反抗した時の仕置きとして使っておった。フォースに対して耐性を持つどんな気丈な女も、一晩あれと過ごさせてやれば泣いて儂に許しを請い、従順となるゆえな…」
「あなたがリアムを襲わせた訳ではないと?」
刺すような視線のまま、ルグアを問い詰める。
「儂とて、未だにあれが生きておったことに驚いておる。それにあの人型の姿…あんなものは儂も見たことがない。おそらく、あの小僧のフォースに感化され、あのような姿に変貌したのだろう」
「いいでしょう…しかし、あれは始末してもよろしいですね?」
ひとまずルグアへの警戒心を解いたリータだったが、あの触手の怪物への敵愾心は衰えてはいなかった。
自分が大事に磨き上げている宝石を横から掻っ攫われ、余すところなく、薄汚れた舌で舐め尽くされる。そんな蛮行を受け、黙っているほど、リータという女は寛容ではなかった。ルグアへ許可を求めているのも一応の建前である。この老人が処分を認めなくとも、リータは既にあの怪物を殺処分する腹積もりだった。
ライトセーバーを手に、ソファから立ち上がると、フォースで注意深く怪物の位置を探る。
しかし、目を細めたルグアは、そんなリータを制止する。
「ふむ…あれがどうなろうと構わんが…悪いことは言わん、止めておけ」
すでにフォースの霊体となり、怪物を使役する必要もなくなったルグアとしても、そんなことでリータと揉めるつもりは毛頭ない。
リータがあれを殺すというのであれば、それを引き留めることなどしない。
しかし、怪物の異常性を認識しているルグアは、別の理由からリータを止めた。
「言ったようにあれは、フォースを啜り、自らの力へと変える。あの小僧のフォースをたっぷりと啜ったあれが、どれだけ危険な生物かが分らんか?…あの怪物の恐ろしさは分らんでも、お主の弟子がどれだけ強力なフォースをその身に宿しているかは、分かっておろう?」
「……」
確かに、リアムのフォースを自らの力へと変えたのであれば、それは脅威と言えるだろう。評議会に知らせれば、マスター・ウィンドゥや、もしかしたらマスター・ヨーダが出動するほどの事態になることは目に見えている。
リアム自身は気付いていないが、彼の潜在能力はリータとは比べ物にならない。いや、マスターの地位にいるジェダイでも、渡り合える者はほぼ存在しないだろう。それこそ、次代のヨーダとなりえる。
それほどの稀有な才能を持った少年なのだ。リータがこれまで辺境惑星を転々としていても、かつてのように評議会からとやかく言われないのも、リアムを偉大なジェダイに鍛えることが、評議会の望みだからなのだ。また、そんな少年だからこそ、墜ちていく様を見たいとリータは望んでいた。
「…あの怪物は放置することが最善よ。お主等が暗黒面を学び、この星から去った後、長い時の中で朽ちていくことしかできんのだからな」
「…いいでしょう…」
ギリッと噛み締めた奥歯から音を鳴らし、乱暴にソファへと身を沈めた。
そんなリータの様子に、本人には聞こえないように小さく溜息をもらした。
しかし、溜息とは裏腹に、ルグアには彼女の憤りが手に取るように理解できていた。それはフォースではなく、欲望を第一とするその生き方が非常に似通っていたからであった。
「マスター…?」
すると、扉が音を立てながら開き、壁に寄りかかりながら、リアムが部屋にやってきた。
一秒でも触手の粘液が纏わりついていることを嫌ったリータが、気絶している間に体を綺麗に拭いたため、柔らかな素肌が袖から顔を覗かせていた。
「あぁ!リアム!目を覚ましたのですね!」
座ったばかりだというのに、飛び跳ねるように身を起こし、リアムを抱締める。
疲労感からか、膝が震えているリアムの肩を抱いて椅子へと導く。
「申し訳ありません、マスター」
「なにを謝るのです、リアム。あなたが無事だったのなら、それで良いのです」
伏し目がちな謝罪を他所に、まるで触手に触られたことを上書きするかのように、全身をくまなく撫で回す。
それに応えてリアムも、軋む体を無理やりくねらせ、リータの首筋にキスを落とす。数度の触れるようなキスの後に、リータの首筋を舌先で舐め始める。
目を閉じ、キスの感触を味わいながら、薄く柔らかい尻の感触を堪能しているその姿は、先ほどまで剣呑な雰囲気を纏っていたジェダイ・マスターと同じ人物とは到底思えない、だらしのない姿だった。
「…んんっ。そろそろ良いか?」
リアムのズボンの中へ手を伸ばそうとした時、咳払いが聞こえたことで、リータは観客がいることを思い出した。
「これは失礼しました」
良いところを邪魔したルグアへの非難を隠そうともせずに顔に浮かべながら、頭を下げたリータだったが、反対にリアムは、他には誰もいないと思っていたのか、慌てて乱れた服を整えた。
「失礼などと微塵も思っておらんな。まぁ、気持ちは分らんでもない。儂も昔は場所など弁えんかったからの。それにしても…」
リータの態度に苦笑しながら、リアムの全身をじっくりと見つめたルグアは、リータがなぜこれほどリアムに執着するのか、その理由の一端を理解した。
救出する時には、きちんと見ていなかったが、なるほど確かに、魔性の美少年と呼ばれていても違和感を感じない。
透き通るような金髪に、シミ1つない新雪のような肌、そしてどこか儚げな表情。
生前のルグアは、少年性愛者でもなく、男を抱く趣味もなかった。しかしもしも生前にこの少年に出会っていたら、無理矢理にでもベッドへ連れ込んでいたであろうことは間違いない。それに加えて、このフォースの力強さ。
美と才を併せ持ったリアムは、確かにリータが異常な執着を見せるだけの価値がある少年だった。
「そこまでです、ダース・ルグア」
知らず知らずのうちに、獣欲の籠った視線を向けていたルグアをリータがキツく窘める。
リータは、リアムを同性愛者にしようとは思っていない。精々許せるのが自分と同じ少年性愛者である。
求めているのはリアムが美少女、美女を侍らせ、権力に酔いしれていく姿であって、筋骨隆々の大男や萎びた老人に抱かれている様では決してない。余計な茶々を入れるなと視線で訴える。
「肉の快楽を得られぬ霊体の老いぼれに、そんな目を向けるでない」
やれやれと言った様子で、ルグアは首を振る。
「マスター、この方は…?」
すると、服を整えたリアムがリータへと疑問を投げかけた。
「この方は、ダース・ルグア。遥か昔のシス卿です」
「…シス?マスターはシスと手を組むのですか?」
まるで、友人を紹介するかのような口ぶりで、目の前の老人がジェダイの宿敵であることをリアムに告げる。
普通であれば、シスを前にしたジェダイの採るべき行動はたった一つしかない。それは決して、リータの様に共にソファに腰かけ、対話することではない。普段の掟破りとは比べ物にならない、ジェダイとしては異常な行動だった。
しかし、そんなシスを前にしてもリアムは一切動じることなく、リータの意志を問いかける。
「…『選ばれし者』がいつ私たちに牙を剝くか分かりません。どこかで野垂れ死んでくれたら良いのですが、オビ=ワンは優秀なジェダイ…。それも望めないでしょう。私たちがこれから先、生き残るためには暗黒面の力が必要なのです。だからこそ、フォースは私をここへと導いた…」
「暗黒面の力を…」
「ええ。手を組むのではありません。私たちがシスとなるのです」
『選ばれし者』そう呼ばれるアナキン・スカイウォーカーは、日に日にそのフォースを強めている。今はまだ秘術により二人の淀んだフォースが評議会に知られることはない。しかし、10年後はどうか?スカイウォーカーがそのフォースを研ぎ澄ませばどうなるか。
『選ばれし者』から告発を受ける形で、自分たちの罪が白日の下に晒され、収監されるか処刑されるかである。
それを防ぐためには、ジェダイと戦う術を身に着けるか、『選ばれし者』すら欺くだけの技量を磨く必要がある。
どちらにせよ、暗黒面のフォースを身に着けることは必須だった。だからこそリータは、ルグアから持ち掛けられた時、さして悩むこともなく、了承したのだった。
「リアム、あなたが望むままに生きるのなら、暗黒面はあなたの力になってくれるでしょう」
リアムは未だ幼いが、自分たちの現状が薄氷の上であることが分からないほど子供ではなかった。とはいえ、今更元の格式ばった刺激のない生活に戻るなど出来はしない。
リータが警戒する『選ばれし者』。リアムは彼の暗殺を幾度なくリータに進言していたが、いずれも不可能だと却下されていた。
しかし、暗黒面のフォースを学べば、あの厄介なスカイウォーカーを殺せるだけの力を自分に齎すかもしれない。
欲望のままに奪い、犯し、殺す。それはどこまでも甘美な誘いだった。その為の力である暗黒面。
「はい、マスター。僕も共に学びます」
そう言ったリアムの顔は、その歳の少年がしてはならない、仄暗く淀んだ笑顔だった。