『黒い獣』と呼ばれる岩から『三本の弓』まで徒歩で二日程度である。
元は三本並んでいる弓樫の木の事なのだが、一本切り倒されて二本になっているのがポイントである。私たちの目の前に見えてくるのはアウロア山脈。
この北壁の洞窟を攻略というのが正規ルートである。
「まぁ、通らないんですけど」
私は二本の弓となった『三本の弓』の前のキャンプで言い切る。
このゲームは、海賊『赤き血の兄弟団』より先に目的地に着くかどうかが勝負となる。
ショートカットできるならば、するに越したことは無い。
「やっぱりつけてきているわね。三人」
偵察してきたクリシィがあっさりと言う。
私たちの目的地がアウロア山脈である事が分かった以上、地の利を持っている人間を確保しやすい海賊たちが先回りしかねないのだ。
「どうする?潰す?」
ナイトシェードが尋ねるが、私は首を横に振る。
今回の指揮が死の導師シュバードならば、殺してもアンデッドになるだけで面倒な事この上ない。
そして、実を言うとこのシナリオ、世界の危機を止めるだけならば実は簡単だったりする。
その為にも、変に海賊たちを焦らせたらまずいのだ。
「明日、夜明けとともに飛びます。
多分その段階で襲ってくるだろうから、それを排除しつつテレポートで皆を目的地に連れていければ私たちの勝ちって訳」
「おー!凄いです!ゼラ導師!!」
目をキラキラさせてラヴェルナが私を見るのがちょっと眩しい。
ついでにカルダモンがジト目なのも結構きつい。
「最初に私とルーファスが飛ぶわ。
次にシャミナとジェニ。クリシィの順ね。
レイア・イジェルファ・カルダモンの三人は警戒してアウロア山脈の方に向って頂戴。
ナイトシェードとマーティとカインズは好きにしなさいな」
「えー!ここまで来てそれ!?」
「だって、私たちすら抜け駆けするでしょう?」
「うっ……」
私の返事にナイトシェードが黙るあたり考えていらしい。
マーティーとカインズがナイトシェードの肩をぽんぽんと叩くあたり仲はよさそうである。
「かなり真面目な話をするけど、今回のお宝はかなりやばいのよ。
とはいえ、それで納得する訳もないでしょうから好きにしなさいという訳。
ここから、寝らずにアウロア山脈の方に行くものもご勝手に。
ここで、私が好きにしなさいって言ったのは、そういう意味でもあるのよ」
出し抜けるもんならば出し抜いてみろという無言の圧力。
そう受け取った三人は潔く両手をあげた。
「まいった。今回はあんたに従います!」
「俺も」
「同じく」
なお、抜け駆けすると、この三人で盗賊に怯えつつ洞窟突破という事になるのだから、それほど真剣な考えでもなかったのだろう。
何しろ出し抜くと言う事はこっちの高レベル冒険者を敵に回すという事に等しいのだから。
「で、俺たちは?」
残ったローンダミスとラヴェルナのうちローンミダスが尋ね、私は前の三人よろしくあっさりと言う。
「お好きにと言いたい所だけど、二人は遊撃戦力として臨機応変に動いてほしいのよ。
こっちの攻撃もそうだし、ラグトスの村を襲う可能性もあるのよね。
だから、自由に動いて頂戴。
ただ、こっちに従ってくれるなら、最後に拾うわよ」
数を集めたがそれ以上に数を集められるのが今回の敵である。
ぶっちゃけると、数でラグトスの村を襲われて村が滅ぶというのが一番まずかったりする。
『村一つ滅んでも遺跡を取った』なんて噂を流されたら、オランとアノスの介入は完全に不可能になるからだ。
「という訳で、今日は先に寝るわ。おやすみ」
毛布をかぶって横になった私に怪訝な目をする一同。
何しろ大体しゃぶっているか腰振っているかである。
何もせずに寝るという発想に皆が驚くのも無理はない。
「つまり、明日はそれぐらい大変だって事だ」
さも当然な感じで語るルーファスの声を最後に私はそのまま夢の中に落ちていった。
フライトの呪文は本当に便利である。
早朝にルーファスを抱えて飛ぶ事小一時間。
地上を見ると、虹がかかる谷が見える。
「綺麗だな」
「そうね。ルーファス。
近くに村はないかしら?」
「多分あれだな。北西の方角」
そうして、私たちはボーレの村に到着する。
空から降りてきた私たちに村人は露骨に警戒するが、こっちは村が襲われていない事にホッとしたなんて言える訳もなく。
「誰か!村長に取り次いでもらえないかしら?
この村目がけて、海賊が襲ってくるのよ!!」
村人たちは露骨に警戒するが、村が襲われると聞いてさすがに村長に駆けてゆく村人が見える。
こっちはその間にも戦力をこっちに呼び寄せる必要があった。
テレポートで私だけ戻ると、北の方から煙が見える。
ラグトスの村を襲っているのだろう。
「さっき、ローンダミスとラヴェルナがレイアを連れてテレポートでラグトスの村へ!」
カルダモンの説明に私はシャミナとジェニの手を取る。
残った人間はこっちにも海賊が来る事を警戒してアウロア山脈の方に移動する事にしたらしい。
「山脈前の洞窟で待っていなさい!拾うから!!」
それだけ言ってテレポートで戻ると、ルーファスを武装した村人たち8人が取り囲んでいたが、テレポートで戻った私を見て包囲の輪が解ける。
こういう時に、ジェニみたいな高位司祭が居ると色々と話が便利というもの。
「何だね?私に用がある冒険者たちってのは?」
村長と共にルゼルグらしき男が姿を見せた事で、私はこのシナリオの最低限の成功を確信したのだった。
なお、ルゼルグが死んでもリザレクションが成功すれば勝てるのがこのシナリオの優しい所である。