「よくぞ来てくれた!賢者!!」
「征服王の旗下にはせ参じました。
末席に座る事をお許しください」
軍師ルキアルは国王アスナ―Ⅱ世に恭しく頭を下げる。
左右に並ぶ重臣たちは、そんな彼を胡散臭そうな目で見ていた。
「我が国はレイド帝国を征服しただけでなく、西部諸国にも侵攻し、その勢力は今やかつての数倍にまで膨れ上がった。
だが、残りの西部諸国の抵抗は激しく、北のオーファンは友好国であるファンドリアを虎視眈々と狙っておる。
軍師よ。そなたに期待するのはこれを打開するための策だ」
西部諸国侵攻はドレックノール征服を目指した結果、シエント川でドレックノール・リファール・ゴーバの三か国軍と戦い、敗北を喫していた。
その敗北のきっかけになったのが、ドレックノールが繰り出してきた魔獣軍団であった。
ルキアルはそれを知った上であっさりと策を出して見せた。
「まずは、敵を分断させる事が肝要。
ラバンを焚きつけてリファールにちょっかいをかけさせるのです。
ラバン国王はリファール女王に恋心を抱いていたとか。
攻めさせるのではなく政略結婚という形でラバンを動かすのです」
「簡単に言ってくれるな。軍師よ。
ラバンがこちらの望むように踊ってくれるかな?」
「心配は無用かと。
ドレックノールの魔獣軍団は強すぎましたが、ロマールと戦うには戦力が足りない。
リファール・ゴーバと手を組んだ以上、彼らはラバンを攻めようとするでしょう。
既にラバン国王の頭には、恋愛よりも疑心暗鬼が渦巻いているでしょうな」
ラバンは西部諸国の分裂に際して微妙な位置に存在していた。
タイデルの盟約の盟主であるタイデルの隣国であると同時に、シエント川リファール中流に位置するリファールを押さえてしまえば、タイデルの盟約から離反したシエント同盟は機能しなくなるからだ。
軍師が動かなくても、火種は燻っていた。
「次にドレックノールから、ベルダインに向かう船を臨検し、積み荷を没収します。
これをすると、ゴーバからの資源が届きませんが、それはロマール側が用意する事でベルダインの不満は和らぐでしょう。
物が売れなくなったリファールとゴーバはドレックノールに対して不満を抱くはず。こうやって、ドレックノールを孤立させてしまえば、リファールとゴーバはザーンやガルガライスと同じく、臣下の礼を陛下に向けてとるでしょう」
すらすらと出て来る策に、国王以下周囲の人間も言葉を失う。
それを確認しながら、軍師は策の最後を口にする。
「ドレックノールは盗賊ギルドが支配する街。
わざわざ、軍を出すのはもったいないというもの。
ザーン及びロマールの盗賊ギルドとファンドリアの盗賊ギルドに『ドレックノールのギルドを壊滅させよ』と命じるだけで十分かと」
左右の重臣たちの中で将軍たちの顔が厳しくなる。
この策が実行に移されれば、軍の出番が無い事になるからだ。
ルキアルはそこも忘れてはいなかった。
「将軍たちが率いる軍にもやってもらう仕事がございます。
まずは、ベルダインに駐屯してかの国を完全に征服する事。
ベルダインだけでなく、ザーンやガルガライスも心服していないでしょう。
後方の占領地を固める事で、前線は安心して戦えるのです」
地味な仕事と将軍たちの顔に出ているのを見越した上でルキアルは切り札を晒す。
相手を驚かすのは軍師の常道である。
「そして、軍にはザーンからラバンへ道を敷くのです。
先の敗戦は、シエント川を渡った所を待ち伏せされたのが原因。
この道ができれば、川を渡る事無く、魔獣軍団を大軍で待ち伏せる事ができるでしょう」
「おおっ!」
現金なもので、将軍たちの顔から色気が出てきたのでこの策は実行に移されるだろう。この時点で顔見せとしては十二分に成果は上げているが、追撃も忘れずにオーファンに対する策も用意する。
「オーファンは今の所動く気配はございませんが、飛行船なる空飛ぶ船を用いてタラントと接近しているのに注意を払う必要があるでしょう。
それをタイデルは快く思っておりません。
更に、かの国は王妃レルミアが王宮に入った事でエルフと人間の共存を謳っていますが、それとは裏腹に恐怖感も広がっております。
オーファンの足を止めるには、オーファンで事を起こす必要はございませぬ。
タイデルで火を煽れば十分かと」
それとなく、ルキアルは集まった重臣たちを確認する。
ロマール魔術ギルドを預かるジョウイ高導師は端の方で隠れるようにルキアルを見ていた。
彼を含めた重臣たちに漂う罪悪感もルキアルは掴んでいた。
旧レイド帝国アルマノニ伯爵家令嬢。マーリア。
今はゼラニウムと名乗って、このロマールの闘技場で活躍していた剣闘士ルーファスの情婦となって数多くの遺跡を発掘・解放して今やオーファンだけでなく、オランでも高導師として認められた魔術師。
そんな彼女が闘技場で剣闘士やモンスターに嬲られて死んで捨てられた事をこの場の人間は知っていた。
だからこそ恐れる。
彼女が復讐をするのではないかという恐怖に。
ミスリルゴーレムをはじめとするゴーレム軍団を従え、『ゴーレムマスター』とも呼ばれる彼女がオーファンよりファンドリアに侵攻したのならば、ファンドリア単独では持たないだろうと、内部抗争を続けているファンドリアの各勢力が唯一一致した見解をロマールに送り続けていた。
大軍を擁するロマール軍がシエント川の戦いから大人しい理由がこれであり、軍師ルキアルの招へいの最大の理由でもあった。
その彼女は、オーファンにもオランにも居ない。
オランの海賊退治の件でアザーン諸島に行っているからだ。
彼女と対峙する必要はない。
世界の危機で彼女を足止めすればいいのだ。
「かつて、オランより来た魔術師にこんな話を聞いたことがあります。
無の砂漠には古代魔術王国の莫大な財宝が眠ると聞きます。
今までそこを訪れた者たちで帰ってきた者は居ませんでした。
ですが、ベルダインで作られている空飛ぶ船ならば、その地を調べる事も可能……」