現状、オーファン王国はファンドリア相手なら勝てるだろう。
統一した動きが国内でできないファンドリアはそれ故に各個撃破されるだろうからだ。
じゃあ、ロマール王国が援軍に駆け付けた場合はどうか?
かなり厳しいと見ている。
何しろレイド帝国を滅亡に追い込んだロマール軍は、騎兵中心のレイド軍を隘路に追い込んで重装歩兵の包囲で壊滅したのである。
その時に捕虜となったのがルーファスである。
「動きが取れない谷底で雨、前後を挟まれて一騎、また一騎と倒されて負けたよ。
負け戦は二度としたくないな」
実体験なだけにルーファスの言葉が重たい。
もちろん、それはオーファン王宮にも伝えているが、騎士の国であるからこそ、騎兵が主力という固定概念と既得権益を変えるのは難しい。
「建国したばかりのオーファン王国は、騎士の国というより、騎兵の武力なくして成り立たない国と言った方がいいわね。
何かあった時に騎士団が出撃できるからこそ、この国の貴族はリジャール王に従っているという訳」
もちろん、軍師ルキアルはそんなのお見通しだろう。
だからこそ、オーファン騎士団が壊滅するという事は、オーファン王国滅亡に繋がりかねないのだ。
実際、国王リジャールが命を落とす戦いにおいてオーファン騎士団はわずか300の騎士たちで全滅するまで戦いこの国を守ったのだが、そういう未来をできれば回避したいと思うのはこの国にそれなりの恩があるからこそで。
私が用意した戦力はその為に用意したと言ってもいい。
「で、ゼラが心血を注いで作り上げたのがこれか」
ルーファスが口笛を吹いて、信じられない速さで仕上げた城壁を眺める。
城壁の傍には堀が彫られており、ファンドリア方面のみに向けられた城壁が、その意味を明確に周囲に主張していた。
ドノバの村、いや、もはやドノバの町であり、滞在人口は常時1000人を超えるここが急速に発展したのは、私が見つけた遺跡によってパダへと繋がっているからで、ロマールとオーファンの交易が盛んになろうとしていた。
そして、この地はもう一つの出口、ケイオスランドに繋がっていた。
かくして、こんなトラブルもやって来る。
「ケイオスランドとの現地部族との交渉かぁ……」
私が見つけた遺跡のゲートはケイオスランドに繋がっており、その遺跡の別のゲートがパダに繋がっている形になっている。
その為、オーファンとオランの合同で調査と開拓が進められたのだが、その結果遺跡周辺に住む部族と、そこから外れたはぐれ者という存在の両者の接触と対立に巻き込まれたのである。
ケイオスランドの気候はアレクラスト大陸と比べて厳しい。
結果、その部族社会から外れた者たち『はぐれ者』と呼び、部族から追放したり部族から去った連中が庇護を求めたのである。
問題なのは、このはぐれ者たちは善意の世捨て人という訳ではなく、ゆえあって成った者や部族から追われた者もいた訳で、部族が追っている連中の引き渡しから、はぐれ者そのものの掃討を目指す部族も出てくる始末。
オランとの通路である以上、向こうの砦は死守する必要がある訳で、コピーしたミスリルゴーレムすらここにおいて守らせているのである。
「あいつら、正しい意味で蛮族よ」
ここの管理魔術師の一人であるマーヴェルは疲れ切った顔で私にぼやく。
この地の正規管理は騎士となったルーシェンダルクであり、彼の仲間である魔術師
バルアーは5レベルなので、私が渡したゴーレムの管理や研究はマーヴェルの方がはるかに進んでいた。
何よりも彼女はソーサラーだけでなくシャーマンも6レベルというのが強い。
「こっちの話は聞かない、向こうの都合を押し付ける、揉めたら力で解決……私も杖じゃなくて剣を持つ羽目になったわよ」
なお、ファイターも4レベルあり、こちら側の冒険者からも一目置かれている存在である。まぁ、しっかり肉便器に堕ちて冒険者だけでなく、蛮族やこちらの獣の上で腰を振っているせいか、実に艶々なのは言うまでもない。
「で、そんなはぐれ者で戦えそうなのはどれぐらい?」
「え?何かやばいの?」
「やばくなる前に備えるの。
オーファンとファンドリアの間がきな臭いのは知っているでしょう?
戦いとなったら、ロマールの援軍もあるでしょうから、来るのは万の兵って所ね。
こいつらを分散させるためにも、使い捨ての兵が居るのよ」
冷酷に私は『使い捨ての兵』と言い、ルーファスの眉間にしわが寄るが気にする事無くマーヴェルに尋ねると、彼女も当然という感じで言い放つ。
「今、こっちに来ているはぐれ者はおよそ1200人。
女子供は除くとして、戦える奴は300人って所かしら?
正直、あんたがもってくるゴーレムたちの方が役に立つわよ」
「そのゴーレム工房なんて軍師ルキアルなら真っ先に潰すに決まっているじゃない。その時に使える連中を確保しておきたいのよ」
「なるほど。マイシリカが送ってくれるミノタウロスの方がまだ安定供給される可能性が高いって訳ね」
送ってくれるって……二人でミノタウロス相手に楽しんだのだろうなぁ。うらやま……ゲフンゲフン。
「武器と防具についてはオランから取り寄せるわ。
高品質だから、そのあたりの蛮族と戦うぐらいなら問題ないでしょう」
「ゼラ。あんまり言いたくないけど、ミノタウロスの繁殖ってやっちゃダメなの?」
マーヴェルがこめかみを押さえながらそんな事を言う。
『悪い事をしちゃだめ』というギアスが効いている証拠である。つまり、ミノタウロスの繁殖と戦力化にここのはぐれ者の女たちを使うという元悪の組織らしい提案である。
「考えなかったと言えば嘘になるけどね」
アザーン諸島では海賊たちはゴブリンとかの妖魔を繁殖させる為に奴隷を用いていたのを知っている。
それをすれば戦力は確保できるだろうが、外道なのは言うまでもない。
「そこまですると、まぁ、王にはなれないのよ。
だから別の手段を探すわ」
そんな私の提案は、多分マーヴェル以上の外道として後世の歴史に残る事になるだろう。
それでも、私は平然な顔でそれを言った。
「氏族は水と食料で篭絡して頂戴。
アレクラストにはそれだけの生産力があるわ。
で、ある物を確保してほしいのよ。大量に」
「何よ?ゼラ。その大量に確保するものって?」
「『爆ぜ実』って言ってね……」