半分耳の森とベレーヌの村は、サムソン卿の指揮の元で定期的に襲来するだろうゴブリン討伐を請け負う事になった。
王宮からの定期的な支援を受けながらも、まず最初にゴブリンたちを潰すのはここという事で、街道の警備とかもする事になる。
領主権力の拡大というやつで、数世代先、下手すれば当代にはサムソン卿はベレーヌ伯爵になるのかもしれないなと思ったり。
本人を前に言うつもりもないが。
「ファンドリアに戦をしかけられぬのが忌々しい」
「陛下のご意思です。まだ国が若いオーファンは戦をする前に国を富ませなければいけません」
「その時にお主らが居れば、陛下も助かるのだろうがな」
実に白々しい誘い水に、私も白々しく返事をする。
田舎芝居でも政治には必要なのだ。こういうやりとりは。
「去る前にできうる限りの事はしますよ。
むしろ、サムソン卿こそ、次をお探しになるべきでは?」
中年の騎士であるサムソン卿は、あっさりと領主の椅子を投げる。私に。
「あいにく、天涯孤独でこのベレーヌの村が最後の仕事となるだろう。
むしろ、望むのならば、お主の大事なルーファスにここを渡してもいいと思っている。
多分陛下もそれは止めんだろう」
「でしょうね」
王になるルーファスは王であるリジャールとここでは対立してしまう。
一つの国に王は二人もいらないからだ。
分かっているからこそ、いずれ空くだろうこの地の領主について問題が起きる前に決める事にする。
「ローンダミス卿でしょうね。預けるのならば」
「だろうな。いずれあれは騎士団を率いる事になるが、その前に領主をしておくのも悪くないだろう。なんなら、今からでも渡しても構わんぞ」
そこまではと言おうとする私を制して、サムソン卿は笑う。
自分の限界を知った者がその先を行く者に対する感情は二つしかない。
嫉妬か、憧れだ。
「お主らが来てから嫌でも察した。
わしの時代は終わったのだとな。
譲った後の生活の心配はしなくていいのだろう?」
「ええ。宮廷魔術師ゼラニウムがこの杖にかけてお約束しますとも」
サムソン卿はベレーヌの村に屋敷を構えて、悠々と生活をという訳もなく、王宮や冒険に忙しいローンダミスの現地家老という地位に納まる事になる。
いずれは不老を解いたラヴェルナとの間にできた子供たちがこの地の領主として治めてゆくのだろう。
盗賊たちから救ったというか、輪姦されて盗賊たちを腰抜けにしたグリーナとミレニアがやってきたのは、私を連れ帰って神官長に据えるつもりなのだという。
「何処の?」
「サミスーラの。いずれは聖女として大司教に」
そーだよなー。ラーファ様の神による転生がコールゴッドとリーンカーネーション扱いってロードス島の小ニース並みの格だったりする。
政治的に教団が取り込まない訳がない。
「ごめん。それパス」
「何故ですか?」
ミレニアが語気を強めるがそれすらも色っぽい。
生粋のラーファ神官のエリートなので、もちろん最高級娼婦とも言えるのだ。
いずれは彼女が教団を率いる事になるのだろうが、それを邪魔するつもりはない。
「私、ルーファスのものだし」
そういって淫紋と彫った『ルーファス』の文字を見せつける私だが、私たちのやり取りを他の面子ももちろん見ている訳で。
「やっぱり、そういう人だったんですねー」
「そりゃあ、ゼラ姐さんだし」
「今更って感じですしねー」
「そうそう。今更」
「何やったらそうなるんだよ……」
「ごめん。ちょっと理解が追い付かない……」
ラヴェルナが感心し、シャミナとマティアラとリーマが今更と苦笑し、ナイトウインドとナイトシェードがまだ理解が追い付かずになんとも言えない顔をしている私たち全員肉便器である。
なお、ガチで布教するとこのあたりラーファプリーストとれるんじゃねと思ったのは内緒である。
「まぁ、ラーファ様には恩があるから、いずれクリュオには行くわよ。
その前にやる事があるのだけどね」
私の言葉に顔を変えるミレニアとグリーナ。
グリーナがミレニアを差し置いて私に尋ねる。
「何なんです?そのやる事って?
お手伝いしますから」
その好意に感謝しつつも、こういう増援が来た事に対するラーファ神の好意というか展開を察してあいまいに苦笑するしかなかったのである。
(あー。アザーン諸島の吸血鬼を潰せって事ですね……)
と。
久しぶりのザラスタだが、港を見ると少しは状況は回復しているらしい。
豪商ダーヴィスの所に行くが、前見た時よりも顔色はいい。
「久しぶりですな。ご活躍はこちらにも耳に入っておりますぞ。
ベノール王国で政変が起こった事で海賊の目はそちらに向き、大陸との航路がある程度ましになっております」
なお、オランから三隻、アノスから六隻の船がやってきて、海賊の警戒と船乗りの訓練に当たっているらしい。
ザラスタの近くには海賊の拠点があった気がしたが、静かなのはその戦力をベノール王国に回したからだろう。
「そのベノール王国は?」
「睨みあいが続いておりますな。
戦力は、ベノールを支配しているランタニア公デゼイルはリシュア王女と婚姻してベノール王国国王として即位しました。
リシュア王女はターゴン島から動いておらず偽物と思われていますが、我々としても動きたくても、動ける船がない始末。
今回来た九隻の船が運んでくれた戦力は貴重だが、この船たちが大陸との交易をしなければ我々は詰んでしまうのです」
ザラスタとベノールはアザーン本島にあるので陸路で攻め込むのは可能である。
ただ、そのアザーン本島を領有しているアザニア王国が通行を許可するのならば。
そして、アザニア王国にも海賊は浸透していた。
「わかりました。
急いで事を仕損じるよりは確実に事を進めましょう」
「それには賛同いたしますが、何をなさるので?」
豪商ダーヴィスの質問に私は彼を見ずに海の方を見た。
おそらく、死の導師シュバードとの戦いになると感じながら私はその質問に答える。
「大陸との航路を妨害する海賊の拠点を潰すんですよ」