さて、今回の出港、更に問題となったのが指揮権である。
当たり前だが、オランはオラン王国の、アノスはアノス王国に属しているから統一指揮など夢のまた夢。
オランの3隻は冒険者主体な上に、私が学院の高導師の地位についている事を理由に指揮下に入る事を了承したが、アノスの6隻は当然独自行動をという訳で、独立指揮ではあるが、お互い固まって動く事をという線で妥協が成立。
さらに厄介なのがザラスタの10隻で、出撃したはいいが、それぞれが独立商人たちなので統一行動そのものが行えていなかった。
「普通ならこれ負けるわよねー」
私のぼやきにルーファスが反応する。
もちろん負けるなんて思っていない顔だ。
「何か策があるんだろう?
ゼラには」
「まあね」
この戦いは相手側にダークエルフと高位の魔法使いがいるので飛んで行ってというのが怖くてできない。
魔法を封じられて海にドボンがかなりの確率であるのだ。
その為、泥臭い海戦になるのは目に見えていた。
そうなると勝負は、接舷するまでにどれだけ船にダメージが与えられるかと接舷後の白兵戦である。
それも実は期待できなそうなのがまた……
「師よ。
あのガレー船では大陸まで行くのはきついのではないか?」
それぞれの船の位置を確認していたカルダモンが私に質問を振ってきたので私も返事をする。
「あれはアザーン諸島で交易をする為の船よ。
だからザラスタでガレオン船に積み替えて、アレクラスト大陸に向かうって訳。
そんな訳で、海賊の影響を一番受けるのが彼ら。
どこまで戦ってくれるのやら……」
戦闘前に逃げ出してくれるなら御の字、戦闘中に裏切ったり、負けた時に海賊として私たちを捕まえるとかありそうで困る。
「多分、こちらの出撃から戦力まで全部海賊に知られていると思っていいわ」
「それでどうやって勝てるんですか?」
カルダモンもルーファスと同じような事を聞いてきたのでそろそろネタ晴らしといくとしよう。
空を眺めて一言。
「私たちは飛べないから、飛べるやつにお願いするのよ」
海賊艦隊との接敵は翌日の昼だった。
負けたと踏んだザラスタのガレー船が八隻も居なくなり、パニック状態となった所に彼らは襲い掛かったのである。
その戦力は以下のとおりである。
ガレオン船 6隻
ガレアス船 7隻
ガレー船 15隻
船数なら12隻対28隻の上、指揮はバラバラ。
相手はしっかりと統率が取れているらしく、戦列を組んで突っ込んでくる。
遠目で見てどの船にも海賊やゴブリンたちがぎっしり。
普通ならば絶対敗北の所なのだが、私はニヤリと笑う。
「かかった。ここまでダメダメなら絶対に全滅させると全力出撃すると思ったわよ」
その言葉と共に空から火の玉が落ちてきて、海賊側のガレー船が炎に包まれた。
空に君臨するはダイヤモンドの鎧に身を固めたドラゴン。名はアダマス。
『助けを求めし時は我を呼ぶがいい』なんて言っていたので遠慮なく呼ぶことにしたのである。
その威力は絶大だった。
対魔術師対策はしていただろうし、艦隊戦力でも優越していただろうが、ドラゴン一匹を相手にするにはとても足りない。
アダマスの火炎攻撃で海賊船6隻が炎に包まれると海賊艦隊に動揺が走る。
それでもまだ戦列を整えて突っ込んでくるのは、それだけの統率力がある大将が乗り込んでいるか、こちらが寡兵だからと侮っているのか。
海賊の奴らも、あのドラゴンがこちらの味方とは思っていないだろうから、ここで海賊たちの心を折りにかかる。
「我が名はアダマス。
ゼラニウムの求めに応じてこの海にやってきた。
我の炎を恐れぬ者のみ、前に進むがよい!!」
上空を飛ぶアダマスの叫びに海賊船8隻が逃げ出す。
残り14隻。
彼らは、それでも我々に向かって突っ込んできた。
敵ながらあっぱれである。だが、蛮勇だった。
ザラスタ沖海戦
ザラスタ連合艦隊
ガレー船 12隻
オラン3隻 アノス6隻 ザラスタ2隻 1隻(私たちの船)
海賊艦隊 28隻
ガレオン船 6隻
ガレアス船 7隻
ガレー船 15隻
損害
ザラスタ連合艦隊
なし
海賊艦隊 撃沈
ガレオン船 1隻
ガレアス船 6隻
ガレー船 6隻
海賊艦隊 降伏
ガレオン船 2隻
ガレアス船 0隻
ガレー船 6隻
合計 21隻
完勝である。
降伏した船は海賊たちが乗っていたのだが、撃沈された船はゴブリンたちが操っていた。彼らは自分たちが降伏しても許されないと分かっていたのか、それとも敵意に任せて突っ込んだのかそれは分からない。
とはいえ、これだけ降伏船が出るとザラスタ近くの海賊の基地攻撃はできる訳もなく、一度引き上げる事に。
空を飛ぶドラゴンの姿にザラスタ市民は驚愕したが想像以上の大勝利の報が伝わるとそれも歓声に変わる。
その歓呼の声を浴びながらも私の顔は曇っていた。
その理由は、艦隊を指揮していただろうスカルロードと死の導師シュバードを取り逃がしたからに他ならない。
この海戦で得た捕虜は海賊だけで500人を超えており、その処遇でもひと悶着あるのだろう。
そんなのはザラスタの評議会に丸投げして、帰港して次の日、私たちの船は余韻に浸るザラスタの街をひっそりと再度出港したのである。