オーファン王国はこの数日揺れに揺れた。
一つはユニコーン保護の件で、オーファン王国の豪商や騎士団の高位騎士が盗賊ギルドを通じてファンドリアに内通していた事が暴露された事で、ラムリアース王国には特使を派遣して外交関係の維持に努める一方、内通者の粛清と処分に乗り出したのである。
盗賊ギルドについては、グラント一味の粛清に終わり、豪商ホードレンは資産の半分を没収。
内通していたソクラン卿は、妻の病に付け込まれて盗賊ギルドが接触してきたという情状酌量の余地があるという事で、引退という形で処分が終わる事になる。
この処分の緩さは、新興国家であるオーファン王国の弱さともいえよう。
一方で、今揺るがしているニュースはグッドニュースだ。
未発見の遺跡に稼働している転移ゲートがあったのだから。
こういう時の国王リジャールは果敢に動いた。
ホードレンから奪った財産を使って、この遺跡に一番近いドノバの村の城塞都市化に動いたのだ。
これは、今後ターシャスの森を巡ってファンドリアと激しく争う事を見越しての事だろう。
という訳で、そろそろ状況を説明しようと思う。
「色々と説明していただけるとありがたいのですがな。
伯爵令嬢」
オーファン王国の王都ファンにある魔術師ギルド。
なぜか私はそこで圧迫面接を受ける羽目になっていた。
あのアンバーローブを着せられて、このギルドの最高導師であるカーウェスが笑顔で、その後ろで敵意丸出しのフォルテス導師と胃を押さえているハーフェン導師の姿も見える。
なお、あの遺跡の発見及び功績は全て羽根頭のパーティーのチェペルとミックとカルダモンの連名という事になっていたはずだ。
その三人は私の後ろで縮こまっている。
「何の事かおっしゃる事がよく分からないのですが?」
センス・ライがかかっているのを分かった上で堂々と嘘をつく。
フォルテス導師がキレた。
「いい加減にしろ!
貴様があの遺跡の発見の真の功績者である事は後ろの三人から聞いているのだ!!」
「その話が真実だとして、私から何をお聞きになろうと?
ゲートのパスワードから遺跡の背景に至るまで、全て報告されているはずですが?」
売られた喧嘩はという事で、わざとフォルテス導師を挑発しようとした所でカーウェス導師が間に入る。
「我々としても事を荒らげたくはないのだ。
ただ、彼らの話を鵜呑みにするには事が大きすぎる事は理解してほしい」
まぁ、彼らの立場も分からないではない。
ユニコーン絡みで国内がごたごたした後に発覚した未発見遺跡。
しかもゲートが機能しているときたものだから、はいそうですかという訳にもいかないのだろう。
「とはいっても、レイドの元貴族令嬢が亡国時に肉便器になり果てて、家に伝わる遺跡を探したという話でしかないですよ。この話は」
さて、この設定も嘘判定が出ているのだろうなぁ。
センス・ライはこういう時に厄介なのだ。
「そろそろ本題に入りませんか?
何がお望みなんですか?」
カーウェス最高導師がやっと口を開いた。
穏やかな声で、笑顔すら作って語る。
「というよりも君が何を望むかだよ。
君が得たものが大きすぎるとフォルテスなどは心配しておる」
「使い物にならなくなるなら、遠慮なくもらっておこうと思っただけですよ。
渡せるものは、このローブを含めてお渡ししたはずですが?」
「その使い物にならなくなるものが問題なのだよ」
レイスになったディアネーに体を渡した結果、彼女の記憶を受け継いだ私はあの遺跡のスケルトンウォーリアー六体とストーンゴーレム四体の命令権を手にしていた。
ちょっとした町ならば攻め落とせる戦力である。
カーウェス最高導師の言葉をハーフェン導師が補足する。
「君が空を飛ぶ報告も受けている。
受け継いだものを用いて悪しきことに利用しないかと心配しているのだ」
それ以上に問題なのが、ディアネーが死霊魔術師だったという事で、その遺失魔法を継承していた事である。
具体的に言うと、クリエイトアンデットやクリエイトブアウゾンビやレイスフォームあたりの魔法である。
高レベル魔術師は存在そのものが戦略兵器となる。
ファンドリアとくすぶっている上に、ユニコーン絡みでラムリアースとギクシャクしている現在、これ以上のごたごたはごめんだという所か。
「悪しきことをするのでしたら、わざわざ報告などしませんよ。
なんなら、ギアスでもかけて封じてしまえばいいじゃありませんか」
「そこまでは、望んでいない」
フォルテス導師がそれを主張するまえにカーウェス最高導師が否定して彼の口を封じる。
なんとなくわかってきた。
怪しい冒険者が遺跡を発見しそのお宝を得たのはいいが、そのお宝が莫大過ぎる上に、場所が隣国と揉めている近くなものだから過度に警戒しているのだろう。
「発見した遺跡は、魔術ギルドが調査及び管理する事になる。
君たちが見つけた迷宮の管理については、君の後ろに居た三人が管理責任者となるのだから、彼らに遺跡の管理は荷が重たいだろう。
で、問うた結果、君の名前が出たという訳だ。
ならば、君が管理するのが筋という物だろう?」
「最高導師!」
何を言わんとしているのか察したフォルテス導師が叫び、ハーフェン導師は本当に胃が痛いらしく前かがみになる始末。
後で胃薬を差し入れてあげよう。
「私もリジャールに付き合って竜殺しの一員なんて名前を得たおかげでこんな所に押し込められた。
君も成功に伴うそれ相応の責任は背負いたまえ」
明らかにカーウェス最高導師の本音を後ろの導師二人は聞かなかった事にしてやがる。
そんな所だぞ。オーファン魔術ギルドよ。
私のツッコミは口にしなかったので、カーウェス最高導師は決定を口にした。
「魔術師ゼラニウム。
この遺跡管理において、君をオーファン魔術ギルドの導師に任命する。
後ろの三人は君の責任において育てたまえ。
以上だ」
あ。最初伯爵令嬢、つまりアルマノニ伯爵家令嬢のマーリアで呼んだのに、ここではゼラニウムで任命しているあたり、別人でしたで押し通すつもりだ。
カーウェス最高導師とフォルテス導師が去った後、ハーフェン導師が残り裏事情を口にした。
「最初、ロマールが行ったような形で管理から君たちを完全に切り離そうとしたのだよ。
フォルテス導師はそれを強硬に主張したが、ロマールの顛末がそれを押しとどめたのだよ」
なるほど。
何も知らない人間からすれば、生きている魔法装置と魔法樹からハブられたので、オーファンで同じことをしようとしたと見える訳だ。
しかも、ロマールの時と違って決定的に成功してしまったと。
冒険者経験があるカーウェスはそのあたりを察して、無理してでも私を囲ったのだろうなぁ。
「実は、君の処遇について強硬に主張していたが後ろの三人、特にカルダモン君なんだ。
『あの人をこのまま野に置いておくのは魔術ギルドにとって損失になる』とね」
私が睨むと、自称弟子のカルダモンはニコニコ笑ってやがる。
彼の目論見が成功した訳だからなぁ。
「あと、管理責任者には遺跡の一切の管理責任がある。
君が得たものを好きに配分したまえ」
ハーフェン導師のため息もつかない声を聞かずに、私は腰に手を当てて後ろの三人に宣言したのである。
「貴方たち、私が元の肉便器にすぐに戻れるようにビシバシ鍛えるから覚悟しなさい!」