ディランたちの狙いが私たちの裏切りにあるのならば、次は私たちに接触するはすである。
宿の部屋に入ると、クリシィが私に言う。
「どうする?
接触してこようか?」
「やめておきましょう。
レムリアで別れてから接触してこなかったって事は、寝返りも視野に入ってるのでしょうよ。
奴ら、私たちの裏切りを切り札にしているから、その時に向こう側に媚でも売りなさいな」
そこまで言って私は彼女の下腹部を見て苦笑する。
「けど、その刻印見て裏切っていませんはないと思うわよ」
「あー」
荷物を置いて寝込んでいる羽根頭のライスの所に行く。
毒は抜けているのだが、体力まで戻っていないのでまだ寝込んでいるが回復には向かっているらしい。
起き上がろうとするのを押しとどめる。
「無理しなくていいですよ。
ターシャスの縁があるので助けに来ました」
「すまない。
この恩は絶対忘れない」
そんんなやり取りの後、襲撃について聞く。
思ったより彼らの装備は整っていた。
「六頭の馬で隊列を乱し、混乱した所を潜んでいたダークエルフと盗賊が八人襲ってきた。
ラムリアース森林衛視隊の一人が馬で応援を呼びに行き、その間防戦していたが、敵の負傷者はダークエルフが回復し、撤退時は襲った馬に彼らも乗って引いて行った。
襲撃の可能性は考えてあったので、グートン領主に応援を前もって頼んでたのが助かったな」
ライスの話を聞いて私は首をかしげた。
馬が六頭居たのに、応援を呼びに行ったラムリアース森林衛視隊の妨害をしていない?
やっぱり、ディラン達の狙いは足止めにあるのだろうと確信する。
「ん?
確認するけど、馬は六頭でその後襲ってきたのが八人だったわね?」
「ええ。
見間違いでは無ければ」
馬に二人乗りだとしても、二人乗れない計算になる。
という事は、二人ほど潜んでこちら側の動向を見張っていたんだろうな。
「で、ユニコーンは?」
「領主の館に預けられています。
ラムリアース森林衛視隊と『銀の弓』騎士団がそちらに入って警備についてるはずです」
仕掛けるとしたら今夜か。
ライスの所から出ると、この街のギルドに挨拶に行っていたジーンがあまりいい顔をしていない。
「この街のギルドだけど、あまり良くないわね。
『深紅の盗賊団』に12件ほど隊商を襲われているそうよ。
被害金額は36万ガメルにも及ぶって」
「36万ガメル!?
大損害じゃないの!!
どうしてそんなにやられているのよ?」
呆れ声で私が大声をあげるとジーンも呆れたような顛末を口にする。
間接的には私が原因だった。
「このユニコーン騒ぎでオーファンの豪商が関与していたんでしょう?
その豪商は財産半分の没収という刑を受けたのだけど、その豪商の支店がグードンにあったのだけど、そこからも没収してファンに送る事になっていた訳」
「それがものの見事に狙われたって訳ね……」
警戒していたドノバではななくグートンで荒稼ぎか。
ダークエルフも居るから、襲撃は容易だっただろうな。
そりゃオーファン王宮も騎士団派遣を決定するわな。
「失礼。
ゼラニウム殿というのは貴方か?」
不意に声がかけられると、明らかに品のある老執事が頭を下げていた。
私は、蜘蛛の糸に絡められる不安感を隠そうともしなかった。
「グートン領主モード卿のご子息であるセルジェイ様が貴方と貴方が連れてきた女性たちとの一夜をご所望でございます」
老執事に丁寧に断りを入れた後、ジーンと見ていたクリシィが私に聞いてきた。
「なんであれ断ったの?
楽に城に入れるじゃない?」
「ギルドで聞いたけど、あれ典型的な放蕩息子らしいわよ。
適当に腰を振っていたら終わるじゃない?」
「何で来たばかりの私の事をそのセルジェイが知っているのかしら?」
私の指摘にハッとする二人。
誰かが私の事を彼に告げたのだ。
肉便器である私の事を、誰にでも股を開く極上の美女という事を彼に告げられるのは、実際に私を使った連中の可能性が高い。
つまり、ディラン達だろう。
だから、こういう形で断りを入れたのだ。
『一夜をご所望との事嬉しく思います。
ですが、私どもは今、この地を荒らしている深紅の盗賊団にも使われており、下手にお会いに行けば、何かあった時に関与を疑われる身でございます。
事件が終わった際にまだ覚えていただけるのならば、その際には全身全霊を持ってご奉仕させていただきます』
我ながら狡猾だなと思ったのは、来た老執事に返事を持たせただけでなく、宿の人に頼んでモード卿側にも送った事。
これで、騒ぎが発生したらそれでも呼んだセルジェイ側に非があるというロジックだ。
その日の夜。
クリシィが私の部屋に入ってくる。
宿の人から渡された手紙にはこんな事が書かれていた。
『愛するクリシィへ
深紅の盗賊団はオーファンでの活動を終えてファンドリアに帰る事になった。
レイヴェンやギリアムたちはまだユニコーンを狙うらしいが、ここでの稼ぎを終えて解散する事になった。
僕もファンドリアに戻る予定だ。
君が寝返ったとディランは思っているが、僕は君の事を信じている。
稼ぎは均等に分けられ、もちろん君の分もあずかっている。
この金で足を洗ってつつましく暮らさないか?
一週間後、レムリアの酒場にて落ち合おう。
愛している。
ミッジ』
「なかなかの愛の告白だけど?」
「今更。
今の私はルーファスの肉便器なのに」
「報われない恋よねー」
そんな事を言いながら、私はクリシィから渡された手紙をティンダーの呪文で燃やす。
この手紙でクリシィが仲間として投獄されないようにという配慮である。
灰になったのを確認して、私は天井を見上げてぼやく。
「ユニコーンの価格が27万ガメルで、36万ガメルも荒稼ぎしたらそりゃ引き上げるわよねー」
「つまり、ユニコーンの襲撃は何だったの?」
「陽動。
足止めして私たちが来て、それでグードン太守が疑心暗鬼になって動けなくなった今、ディランとそれに付き従った連中は警戒が緩くなった南を馬でファンドリアに向けて順調に逃亡中という訳。
欲張って更に狙う連中もいるみたいだけど、立ち回りは賞賛するしかないわ」
そのままベッドに倒れこむ。
その日、彼らの襲撃が行われないのを知っているのは私たちだけだった。
稼いだ額がでかすぎて、ディラン達の撤退決定。
すごく狡猾な盗賊団の首領に成り上がったので、ロマールあたりで傭兵団のボスとして出世させてもいいかもしれない。
もうすぐあの国軍師がやってくるし。
なお、プロットが死んだ作者は発狂した。