実に良い。
「ふぁ……」
「おはようございます。姐さん。
体を洗う準備できていますよ」
男の部屋から裸で出ると待ち構えた少女が私を宿のふろ場に引っ張って体を洗ってくれる。
その際に彼女も裸になるのは私のおこぼれで風呂に入りたいからだろう。
「いいなぁ。姐さんの体。
私も、こんな体になれたらいいのに」
「大丈夫。毎日毎夜男に抱かれたらきっとこうなれるわよ。シャミナ」
このシャミナという少女は西部諸国から流れてきた少女で精霊使いを探していた私にギルド経由でジーンから紹介というか購入したものだ。
シーフでもあったのだがヘマやって、奴隷に身を落としていた所をジーンから聞いた私が己の身を担保に借金をして購入したのだ。
という訳で、今はロマールの盗賊ギルドの娼婦としてギルドの娼館にて働いている。
一週間ほど経っているのだが、すっかりなついていた。
というか、一週間でトップの成績を叩き出しているので、娼婦全員から『姐さん』呼ばわりされているのがまた……
「あ。ゼラ姐さんおはよう」
「おはようございます。ゼラ姉様」
裸になって入ってきたのはハーフエルフのマティアラとリーマの二人。
オラン出身のハーフエルフという事で迫害されてきた二人は、人間社会に見切りをつけてターシャスの森のエルフの所に行く途中だという。
女二人旅で綺麗事で通る訳もなく、路銀稼ぎにこうしてギルドの娼館で働いているという訳だ。
「たしか今日でしたっけ?
ゼラ姐さんが冒険に出るのって?」
「そうよ。遺跡に潜る予定だけど来る?」
「一緒に行って良いんですか?
私、嬉しいです!!」
「えー。迷惑じゃないかなぁ?」
精霊魔法が使えるならば大歓迎である。
朝の風呂場はこんな感じで姦しい。
「ゼラ。ちょっと話があるんだけどいい?」
風呂から出て冒険前のひと眠りと洒落こむ前に声がかけられる。
この娼館ナンバー2というか、私が来るまでのトップだったコルネリアである。
そのまま彼女の部屋に入ると、コルネリアは本題を切り出した。
「このまま、ここに居つかない?」
「それ、私がトップ取り続ける事になるけどいいの?」
私の軽口もその秀麗な顔を変える事はなかった。
コルネリアはため息をついて、理由を告げる。
「やり過ぎたのよ。貴方。
幹部連中だけでなく、ロマール貴族も目をつけているわ。
冒険者なんて、一握りの成功者と無数の失敗者によって成り立っている。
あなたはここで、私と同じように一握りの成功者から蜜を吸い続けられるわよ」
「まぁ、そういってきたのは、貴方の後ろにいる人なんでしょうけどね。
ちなみに、私の事情は何処まで知ってる?」
沈黙がコルネリアの答えだった。
私は微笑を浮かべる。
「それが答えよ。
抱え込んだら、かえって爆弾が炸裂しかねない。
どうせ出ていく身なんだから、もう少し我慢しなさいな」
「とはいっても借金、まだ残っているでしょうに」
シャミナの購入価格は15000ガメル。
既に5000ガメルは返済していた。
残りは冒険で返しても良し、ここで一月も腰を振れば返済できるだろう。
「だから、ラダとジーンがお目付け役になっているんでしょう?」
「……はぁ。
好きにしなさいな。
けど帰ってきてよね。
私、貴方からトップ奪い返したいのだから」
「もちろん。そのつもりよ」
昼過ぎに起きて『奇跡の店』に着いた時、既にラダとジーンが準備をして待っていた。
「遅いと言いたいけど、もしかして仕事した後?」
「そうだけど何か?」
ジーンの確認に私があっさりと言って、ラダとジーンが呆れる。
その二人の脇をシャミナとマティアラとリーマの三人が嬉しそうに『奇跡の店』の中に駆けてゆく。
三人にそれ相応の装備を買ってあげる約束をしたからだ。
「私、姐さんとおそろいがいい!」
「ずるい!私も同じ事考えていたのに!」
「もぉ、店主のおやじさんが困っているじゃない。シャミナとマティアラ言い争うのはやめなよ」
「着替えるなら奥に行きな!
年寄りには目の毒じゃい」
店のおやじさんが叫びながら私の方にやってくる。
もちろん代金を支払うのだが、銀貨でなく本だった。
「はい。これ。
これ、ロマール魔術ギルドの本でしょう?」
「もちろんじゃ。
誰も解読ができなかった本でな。
これ一冊でお主の借金を払いきっておつりが来るわい。
無理して娼館で働かんでも十分じゃぞ」
金稼ぎに写本をし過ぎたらしい。
これ幸いと奇跡の店のおやじが持ってきたものだからついつい翻訳してしまった。
「どう考えてもあんた、冒険者なんてやる身分じゃないだろう?
ましてや、娼婦なんてと来たら元はなんとなく察する事ができるよ。
安心せい。
まだ魔術ギルドはこの写本の書き主は特定できておらんよ」
「おやじ。
ちなみにその本、魔術ギルドにいくらで売るんだい?」
「そうじゃのぉ?
足元見られても10000ガメルは固いじゃろう。
何しろ誰も読めなかった本だからな」
「そりゃ、体で稼ぐのが馬鹿らしくなるわね」
ラダが試しに聞いてみると、おやじさんはもったいつけた感じで価格を告げ、聞いたジーンが呆れる。
なお、誰も読めない本というのは間違いで、上位古代語が読めるならば誰でも読めるのだが、そんな導師級のソーサラーが共通語の写本をするという必要がないというのが真相だったりする。
多分、売り主はおやじのコネの貴族層になるのだろうが、あえて指摘する事もあるまい。
「で、だ。
おまえたち、慎重に準備を整えているようだが、前衛が足りないような気がするな。
どうだ?
もう一人加える気はあるか?」
おやじがニヤリと笑うと、店のドアが開いていつものように店のお得意様が入ってくる。
冒険の準備を整えていたその剣士は、かつての剣闘士の頃みたいに気を張り詰めておやじにこう言ったのである。
「おやじさん。
言われたとおりに来たが、凄い冒険って何だい?」
こうして私は、英雄と出会う。
シャミナ
『終わりなき即興曲』7話 「氷原に響く交声曲」ボスの愛人。
まだ若いのでシャーマン1 シーフ1で設定。
マティアラとリーマ
『瞳輝ける夜』 「空に消えた耳飾り」
『自由人の嘆き』 登場。
彼女たちのトラウマの前に登場。だから殺される男が居ない。
リーマはデータが無いので捏造。
マティアラ
シーフ2 シャーマン1
リーマ
シャーマン1 コーティザン1
コルネリア
『トライアングル・トラブル』 ペラペラ―ズ中盤から登場する体術の長の愛人。
スキルについては後で決める予定。