「私らの動きをつけている輩が居る」
そう言ってラダとジーンは酒をあおる。
遠巻きに見る男たちの視線を意識しつつ、私とルーファスは料理を口にする。
ファンの歓楽街。それもいかがわしい方の酒場でのやりとり。
そんな場所なので私もジーンも扇情的な衣装である。
「まぁ、そうだろうな。
ロマールから数えれば、どれだけ遺跡で大当たりを出したか口に上らない訳がない」
「極めつけがあのミスリルゴーレム。
本当に国が興せるかもね」
ラダとジーンの話は要するにハイエナの存在を言っていた。
次に行く遺跡へ先回りしてお宝を掻っ攫うという訳だ。
「で、何処が狙っているの?」
私の質問にジーンが呆れ声で言い放つ。
「ここの情報屋を信用できるならば5つ」
「また多いな」
沈着冷静なルーファスもさすがに苦笑する。
そんな彼を見ながら、ラダがその5つのハイエナたちを説明する。
「まずはロマールの盗賊ギルド。
ここで寝返れと言わないあたりがさすがだが、やっている事は褒められないわな」
「ちなみに、向こうから堂々とハイエナ予告してきたわよ。
縁ってのは大事にしておくべきよね」
ロマールからすれば、大魚を逃した形になっている訳で。
ラダとジーンの事もあるからそれ相応に何か回せという婉曲的な接触なのだろう。
「何か適当なものを用意しておくわよ」
「そこまで気にしなくていいのに」
「まったくだ。一線を退いた俺達を使って脅迫するほどロマールのギルドも落ちぶれてはいないだろうよ」
「かといって、騒動が起こるのも面倒なのよね。
魔術師ギルドで開発が成功した蒸気機関の情報と設計図をあげるから功績にしなさいな」
「!?」
「おい。それ国家機密じゃないのか?」
さすがに二人が狼狽えるが私は意に返さない。
元々あれは流れる事を前提にしているのだ。
早いか遅いかの違いでしかない。
「あいにく、国王陛下も王妃様も顔を合わせることができたので、どうとでも言い逃れられます。
何より、処分したら、そこから先全部止まりますし」
ロマールの魔法樹、ターシャスのゲート、死霊魔術、遠見の水晶球、ミスリムゴーレム。
そして蒸気機関。
これらの実績が大概の事を黙らせる。
「で、次は何処よ?」
「ファンドリア。
行こうとしているバナール導師の弟子の一人が冒険者たちを雇ってこっちに向かっているらしい。
場所が場所だし、前回からの縁もあるからな。
邪魔をしてくるならば、ここが本命だろう」
「ちなみに、この情報ロマールの盗賊ギルドから。
つまり、先に恩を売られたって訳」
ラダとジーンの話になるほどと私は手を打った。
ロマール盗賊ギルドもやるものである。
恩を売って敵対しないようにしつつ利もちゃっかりと得ると。
「雇った冒険者の情報までは分からないけど、弟子の名前は分かっている。
シアルドと言って、ファンドリア魔術ギルドの高導師らしい」
そんな相手が雇うのだから、護衛としては一流の冒険者だろう。
考えていた私の代わりにルーファスが口を開く。
「で、次は何処だ?」
「ここからはちとヤバい所が狙っている。
西部諸国がらみの話なんだが『死神』って組織知っているか?」
あー。その名前はたしか……ヤバい組織だよな。西部諸国の敵役だから。
私は記憶を思いだして慎重に言葉を選ぶ。
「たしか、元はここファンの組織だっけ?」
「そう。
内戦時に色々暗躍したが、オーファン建国で居場所を失った彼らは西部諸国に流れた。
で、その西部諸国今揉めているだろう?
それに絡んで帰還するという話だ」
ラダの話の続きに、ジーンが乗っかる。
こっちはある意味わかりやすくかつ聞きたくない名前だった。
「それに合わせてドレックノールの工作員も来ているみたいよ。
あのミスリルゴーレムが効き過ぎたのよ。
あんなのが手に入るかもと思えば、そりゃ、ハイエナを考えるわよ」
ルーファスが横やりを入れる。
互いに情報収集は行っていたらしい。
「たしか、ドレックノールと言えば、同盟を組んでいたコリア湾海賊ギルドが海戦で敗北したんだっけ?」
「そう。先週入ったばかりの情報だが、コリア湾海賊ギルドとロマール・ガルガライス・ベルダインの連合海軍が海戦を行って海賊ギルドはかなりの数の船を失ったそうだ」
現在、対ロマール最前線のドレックノールと同盟を組んでいたコリア湾海賊ギルドの敗北は、ロマールのドレックノール攻略に王手がかかった事を意味する。
一発逆転の切り札があるのならばとこっちに派遣する事は十二分に考えられるのだ。
「で、残った一つって何よ?」
「ハイエナというか……」
「厄介事?」
私の言葉にラダとジーンが言葉を合わせて酒場の入り口を見る。
一人のドワーフが私たちの所にづかづかとやってきて、それを仲間らしい冒険者が慌てて引き留めようとしているのを振り払ってこっちにやってきてしまう。
「わしはジェドン。グードンのブラキ神殿の高司祭をしておる。
ゼラニウム殿。お主が発掘したミスリルゴーレムについて話がある」
冒険者集団『明日に吹く風』との接触は、こんな最悪の形で始まったのである。