ナバール師が住んでいる塔があるベレーヌの村まで大体一週間の距離がある。
今回は近衛騎士ローンダミスを連れての旅なので、定期的な情報が常にやってきていた。
このあたりはさすが騎士の国オーファンと感心するしかない。
「シアルド師がドノバの村に来たって本当?」
オーファンから2日目。
その情報はさっき去っていった伝令の騎士からもたらされたものである。
ドノバから王都ファンまで3日と考えると、我々と彼のアドバンテージは5日となる訳だ。
「ああ。
その際に護衛の冒険者たちを連れていたとドノバのイールナム卿からの報告だ。
で護衛の冒険者だが、ファンドリアで有名な冒険者『黄金の車輪』だそうだ」
ローンダミスの報告に一同顔をしかめる。
有名所の冒険者が護衛として来ているという事は今回のハイエナにかなりの信憑性があると判断しているのだろう。
「こりゃ、ファンに鼠が居るな」
「むしろ居ないとおかしくない?」
朝食の干し肉をあぶりながらラダとジーンがつっこむ。
鼠とは、ファンドリアの密偵の事だ。
険悪の中であるオーファンとファンドリアだが、だからといって国境封鎖なんてしている訳もなく。
ファンドリアとオーファンの交易はそれ相応に行われており、国境のドノバはそれのチェックをする訳で。
出発前にドノバの領主に網をかけて報告してくれと頼んだのが功を奏したらしい。
足止めとかでなくチェックして報告してくれと頼んだのがポイント。
「居るのは確定として、そいつらが手を出さなかったのは向こうも事を荒立てたくないという所かしら?」
ドノバからファンに向けて、そしてこっちに来た伝令を止めなかった。
本気で取りに来るならば、このあたりも妨害してくるだろう。
「ちなみに『死神』の情報は?」
ルーファスの質問に答えたのはマルダーである。
彼はローンダミスの付き添いという事で張り切っており、周辺の村々にも馬を使った情報収集もやっていたり。
「周辺の村に聞いてみたらあやしい話は聞かなかったですね。
ただ、タイデルから来た隊商からは面白い話がきけましたよ」
ここで少し間をとってマルダーはゆっくりとそれを口にした。
「なんでも、クロスノー山脈の方に空飛ぶ船が居たとか」
私は考え込む。
西部諸国で空飛ぶ船となると二種類ある。
リプレイ集の『南海の勝利者』で出てきた飛行船。こっちならばまだいい。
問題は、西部諸国シアター『帰ってきたドラゴン』で出てきた古代魔法王国の船の方で、こっちだと色々と厄介なことになる。
「空飛ぶ船……ね」
「何か思うものがあるのか?ゼラ」
私のつぶやきにルーファスが気づいて反応する。
私は頬に指をあてて思い出すようにそれを口にした。
「『死神』って西部諸国で色々やっているけど、色々やっている場所が気になっていたのよ。
ベルダイン、タイデル、プロミジー。なかなか面白いでしょ?」
「タイデルとプロミジーは繋がっているけど、ベルダイン?
どうやって行くのかしら?」
西部諸国出身のシャミナが口を開く。
ベルダインとタイデルの間にはクロスノー山脈があり、その山脈の真ん中にタラントがある。
なお、飛行船はゴーバの研究者が研究しており、南海の魔獣合成の研究者と繋がっていた。
シナリオとストーリーを思い出すと、あの組織ドレックノールとは繋がっていないんだよなぁ。
だったら『死神』がうってつけなわけで。
「それがあの空飛ぶ船って事なんでしょうね」
そこまで言って気づく。
あの飛行船がきっとコリア湾海賊ギルドとロマール・ベルダイン・ガルガライスの三国海軍の海戦の勝因だったのだろうと。
という事は、『死神』を追ってドレックノールの連中もやってきているのだろうな。
私の予想にげんなりする一同。
それにドワーフのジェドンがみんなを叱りつける。
「何じゃ何じゃ!
ライバルが増えたぐらいで我らのする事に変わりがないだろうが!!」
「……」
「……」
「……」
なお、既に国家レベルの話になっているのを理解している私とローンダミス、それが分かるルージェンダルクは乾いた笑みを浮かべ、察したルーファスは私の肩をぽんと叩いたのだった。
その後、たいしたトラブルもなくベレーヌの村に到着する。
領主のサムソンに挨拶に行くついでに、彼の古傷と病気である丸太足病の治癒を行う。
こういう時に高レベルシャーマンが居ると便利である。
「おお。足が曲がるようになったぞ!」
おまけに近衛騎士ローンダミスを利用した状況説明に彼は完全にこちらの味方となった。
こういう時にこういうコネがあるのはありがたい。
「あの魔法使いに会いに来たそうで。
それほど悪い人にも見えず、週に一度この村に来る感じですな。
近衛騎士ローンダミス殿の説明で、あの塔の魔法装置が狙われているのは分かりました。
この村を守るために協力しましょう!」
ちょろい。
彼、領主としてやっているのか心配なレベルだが、実直な人柄が村に受け入れられているらしい。
なお、ローンダミスとマルダーとフレアは領主サムソンの屋敷に滞在するらしい。
サムソンと彼の従兵が使えるのはありがたいといえばありがたいのだろう。
サムソン
ファイター5 セージ2 ノーブル1
従兵 4人
ファイター1
「で、そろそろ方針を決めたいと思うの」
村唯一の酒場に領主サムソンを呼んで、私は言う。
『塔に行く』としか言っていないのに、次々にハイエナが現れての大乱闘が現在の状況である。
それは、ここに集まった面子も同じで微妙に方針が違うのだ。
「え?
遺跡のお宝を山分けじゃないの?」
グラスランナーのチョルブが茶々を入れるが、それを私は笑顔のまま首を横に振る。
「違うわよ。
遺跡のお宝も正直いらないのだけど、私が動いたことでハイエナが発生した。
そのハイエナの処理が今回の目的なのよ」
まずはローンダミスと領主のサムソンの方を向く。
ここの説得が実は一番の山場である。
「ファンドリアからナバール師のお弟子さんが研究を引き継ぐ為にやってきます。
これについては、そのお弟子さんに渡してあげてもいいと思っています」
「ファンドリアの連中に貴重な財宝を渡すのか!?」
領主のサムソンが立ち上がって激高するが、隣にいたローンダミスは動かない。
私が古代魔法王国の遺跡を復興させてきた実績を知っているからだ。
「ここの研究を私は引き継げないんですよ。
私は系統が違うし、ターシャスの遺跡の管理があります。
そのお弟子さんが正当に研究を引き継ぐのを主張した場合、そのお弟子さんの方に分がありますし、サムソン卿もご存じの通り、現在のオーファンとファンドリアはとてもきな臭いです。
この一件でファンドリアと開戦となるのは王宮も避けたいでしょうし」
私がローンダミスの方に確認をとったらローンダミスは無言で頷いた。
少なくとも、今のオーファンは動乱蠢く中原で軍事行動を行うつもりはない。
「じゃあ、あなたは何をしに来た訳ですか」
「ナバール師の研究のお手伝い。
だからこそ、彼のお弟子さんが来るならば、私はいらないという訳」
『明日に吹く風』のソーサラーであるバルアーが尋ね、私はあっさりと理由を告げる。
なお、途中でナバール師が死んで装置が暴走するなんて未来が起こった時の為に先回りしたなんて言える訳もなく。
「問題は『死神』の方ね。
彼らがこっちに来た場合、確実にこの塔の財宝を取りに来るでしょうね。
おそらく、ドレックノールの工作員も来るでしょうから、両方を阻止しないといけない」
「師匠。
その理由は?」
カルダモンが尋ねたので私は苦笑して告げる。
それは冒険者としての発想では確実にないからだ。
「政治よ。政治。
オーファンと隣接しているタイデルとタラントの二か国が『死神』の活動領域になっているわ。
彼らを掃討して恩を売るって訳。
ファンドリア対策の為にも、今は西部諸国と仲良くしておきたいの」
「それで、どうしてファンドリアからくる魔術師に財宝を譲る訳?」
スィートゲイルが私に少しきつめの言葉で確認する。
隣のセレシアとアイソラもあまりいい顔をしていないのは、ファンドリアがダークエルフが表を歩ける国だからだろう。
「筋道の問題。
ナバール師のお弟子さんは彼の研究を受け継ぐ権利がある。
これについては、王宮が口を挟むと魔術ギルドと揉めかねない上に、管理できそうな私が手一杯だから無理な訳で、ファンドリアに開戦の口実を与えたくない。
一方で、『死神』については元がファン王国の組織で西部諸国で悪さをしている。
その西部諸国はドレックノールを巡って戦雲が漂っているわ。
ファンドリアと一触即発だからこそ、西部諸国と仲良くしないといけない訳」
そこまで言って、私は『明日に吹く風』の一同を見渡す。
「という訳で、ノリでここまで連れてきたけど、正規の依頼として出すわ。
報酬は一人一万ガメルで前金は三千ガメル。
依頼はこっちに来ている『死神』とドレックノール工作員がこの村の塔の財宝を手にする事を阻止する。
いかが?」
人数が多くなると、意思疎通も大変である。
今回の精霊魔法がらみで連れてきたエルフたちは不満そうだし、ローンダミスはともかくサムソン卿や新米騎士のマルダーはファンドリアの連中にお宝を渡す事すら不満そうだ。
そういう意味でもしっかり仕事という形で動いてもらえる『明日に吹く風』に仕事を出す事で、彼らの行動に制限をつけるのだ。
「一ついいかしら?」
向こうのエルフであるシムシャーラが私に質問を投げつける。
それは、どうもこの場の私を知っている人間が皆思っている質問だったらしい。
「今のあなたと、夜、裸で男の上で腰を振っている貴方、どっちが本物なの?」
私は腰に手を当てて、堂々と言ってのけた。
「もちろん、夜の方」