当たり前だが、ここまで天気は問題がなく、それはナバール師が実験を始めていない事を意味する。
そんな訳でローンダミスたちと分かれて私たちは塔を目指す。
「精霊がおかしくなったら言ってよね」
「今の所は問題は無いみたい」
私の確認にセレシアが返事をする。
ベレーヌの村にローンダミスたちが残ったのは、後から来るだろうシアルドたちとハイエナを考えているだろう『死神』たちへの対処というのがある。
サムソン卿はシアルドたちも追い返したい所だが、ローンダミスあたりがうまくやると信じよう。
「そうだ。
ロマールの盗賊ギルドの密偵が接触してきたから情報渡しておいた」
ラダの一言に私はあっさりとそれを了承する。
ここまで事が大きくなると、ロマールの連中も来ていない訳がないからだ。
「構わないわよ。
どうせ奴らの狙いは、ドレックノールの工作員でしょう?」
「多分ね」
私の言葉に返事をしたのはジーンだった。
森の中に入り小川を超える。
「ん?」
「おや?」
アイソラとマーカスという高レベル精霊使いが何かに気づく。
「どうしたの?」
「何か気配が変わったような気がして」
「俺もだ。精霊がざわめいた」
実験を始めたらしい。
さて、問題はこれでぽっくり死んだりする事なのだが……
「おさまったみたい」
「何かしたんだろうな」
目の前には小高い丘の上に立つ塔が見えて来る。
塔は正六角形の形をしており、その周囲に城塞みたいな構造物が建てられている。
防戦をするのならばうってつけだろう。
主であるナバール師が死んでしまったからこそ、この問題はここまで厄介になったのだ。
「あ。入り口に像があるよ」
「馬鹿!
あれはアイアン・ゴーレムだ!!」
チョルブがまだ遠い像を指さし、それをバルアーが即座に正体を見抜いて臨戦態勢に入る。
さすが高レベル冒険者。
それに合わせて動けたのはルーファスだけだったあたり、私たちもまだ修業が必要だろう。
指輪の発動体を使ってシースルーの呪文を唱えると塔の頂上でナバール師が忙しそうに何かやっているのが見える。
「誰かウインドボイスお願い」
「はい。じゃあ私が!」
私のお願いに側にいたシャミナがウインドボイスをかける。
少なくとも偶発的な衝突はこれでなくなった。
(もし。ナバール導師でしょうか?)
(なんじゃ!?儂は忙しいのだ!)
(ファンのアウザール商会の御当主様より様子を見てこいと。
アイラ様も寂しがっておられましたよ)
(おお。あの小さな娘っ子の所か。思い出した。
少し待つがよい)
(ありがとうございます。
できれば、入り口のゴーレムに攻撃しないように命じて頂けるとありがたいのですが)
(安心せい。
あれは動かん。動くのは中庭においているやつじゃから安心して入ってこい)
そうか。
あのゴーレム動かないのか。
遠慮なくもらってしまおう。
ナバール師は明らかに疲れていたが、私たちを歓迎してくれた。
こんな場所に隠棲みたいな生活をしていても、友好的にやってきて『出ていけ!』と追い出すほど偏屈ではないという事なのだろう。
「そうか。お主がゼラニウムか」
「あら。私みたいな者の名前をご存じで?」
「ふん。
あれだけ、ミスリルゴーレムを見せびらかせば、こっちにも聞こえてくるものよ。
儂はな。お主の活躍に負けんと思ってこの装置の研究に取り組んでおるのだ」
「それで体を壊されたら本末転倒じゃないですか。
雑務は私達がお手伝いしますので、体をいたわってくださいませ」
「おお。それは助かる。
雑用がたまっておったのだ」
私とナバール師の会話にカルダモンが「あっ……」という顔をする。
察しのいい君は大好きだ。
という訳で、雑務係としてこき使われる事が決定したカルダモンの隣でバルアーが立ち上がり志願する。
「師よ。
よろしければ、私にもお手伝いさせていただけないでしょうか?」
そういえば彼はラムリアースの私塾出身であまり優秀ではなかったそうだ。
カルダモンとそのあたりで話して、かつての自分と重ねているのかもしれないな。
「おお。助かる。
儂の研究をまとめたいのだ」
なお、彼が執筆した書物は莫大で、二人して苦笑する事になるのは後の話。
ルーファスがナバール師に確認をとった。
「では、塔の警備と襲ってくる者への対処は我々にお任せください」
「構わんぞ。
そのような雑事」
なお、許可をもらって入り口の置物になっているアイアンゴーレムを調べてみる。
あ。こいつ動く奴だ。
コマンドゴーレムでもらっておこう。
「おい。
何をぼさっとしておる。儂の実験を手伝わんか」
アイアンゴーレムを『コマンドゴーレム』でもらったとたんに、ナバール師が私を研究助手に勝手に任命したのだけど。
「いえ。私は雑務担当……」
「そんな事ができる人間を雑務に使うほど儂は愚か者ではないわ!
フォルテスあたりが聞いたら嫌味の一つ二つでは済まんぞ!!」
「あら?ご存じなのですか?
フォルテス導師?」
「うまは合わなんだが、奴の魔法に関する執念には一目置いておるのだ。
知っているならば、嫌味を言われんように、手伝うがよい」
あれ?
楽して私は部屋の中で腰を振り続けるという完璧な計画が……
もちろん、そんな爛れた計画を支持する人間は、この場には私しかおらず泣きながら私は実験を手伝う羽目になった。
ナバール師の記述に、
『やや横着な面があり、目下のものに雑用を押し付けたがる』
とあってこんな流れに。