派手な音というのはある意味気づいてくれと言っているようなものである。
つまり、どちらかとは手が組める相手なのだろう。
「ゼラ。どうする?」
バナール師とアルミン以外の全員がホールに集まる。
もちろん、完全武装なのだが塔の防衛はバナール師のアイアンゴーレムが居るのでひとまず大丈夫だと思いたい。
ルーファスの確認に私はあっさりと結論を言う。
「私たちのパーティだと、足を引っ張る可能性があるわ。
だから、選択肢は三つ。
一つは、傍観する。
もう一つは、『明日に吹く風』のパーティが出て助ける。
最後は、私とルーファスとラダとジーンとアイソラの五人とゴーレムで出る」
傍観する場合は戦力は維持できるが、相手の心象は良くないものになる。
あれだけ派手な爆発音が聞こえて助けなかったという事になるからだ。
『明日に吹く風』を出す場合は、良くも悪くも結果待ちという事になる。
友好的である彼らに損害が出ると、その後の立ち回りが苦しくなりかねない。
「じゃあ、助けるのが冒険者ってものだろう?」
ルーファスが笑う。
今回はローンダミスやルージェンダルクという良い剣士と一緒なだけにルーファスが好戦的だったりする。
私は軽くため息をついて最後の選択肢を選ぶことにした。
「残る人間はルージェンダルクの指示に従う事。
ラダとジーンは先行して、状況を確認して頂戴。
アイソラはアイアンゴーレムを護衛につけるので、離れないでね。
出るわよ!」
戦場は、塔から少し離れた小川にかかる丸太橋で発生していた。
戦っていたのはオーファンの騎士マルダーと雇われ精霊使いのフレア。
丸太橋に陣取っていたのは、ミノタウロス。
後で聞いたが、あの爆音は炎晶石だったらしい。
ミノタウロス一匹では、私達の敵ではなく、無事に撃破する事ができた。
「良かった。
領主サムソン卿の使者として来たんです!
隣村が!隣村で村人がモンスターになって……」
なるほど。
そう来たか。
こっちが拠点に戦力を集めて籠っているのならば、分散させて各個撃破を狙ってきた訳だ。
マルダーの言葉をフレアが引き継ぐ。
「領主はベレーヌの村に泊まっていた冒険者に協力を求めたの。
けど、彼らの雇用主がこの協力を拒否して、一触即発なんです」
聞いた瞬間、私が額に手を当てて空を眺めたのを誰も咎めなかった。
ベレーヌの村にある冒険者の宿の周囲では、ローンダミスが一人宿を見張っていた。
これはそういう名目でサムソン卿やベレーヌの村人たちを暴発させない配慮なのだろう。
宿の中からの視線を感じる。
たしかに、このアイアンゴーレムは目立つだろうしなぁ。
「おお。来てもらったかありがたい。
マルダーたちから話は聞いたと思うがこんな状況でな」
「心中お察し申し上げます。
村人がモンスターになる件は心当たりがありまして」
「本当か!?」
多分、リビング・ドールという毒薬を用いたミュータント・モンスターだろう。
だとすれば、そういう事をするのは『死神』だろう。
「解決に協力するのはやぶさかでないのですが……」
そう言って私は宿の方を見る。
私たちが隣村に行くという事は、四大魔術師の塔が空く事を意味する。
『死神』はこの隙を逃さないだろう。
「わかった。
塔の件は元々魔術ギルドに一任されている。
その管理と処理についてはお任せする」
「感謝を。
では行ってきます」
私はルーファスを連れて宿の中へ。
扉を開ける前に一応確認する。
「当たり前のようについてきたけどどうして?」
「こんな面白い事、ゼラ一人で楽しませる訳ないだろう?」
互いに軽く笑ってから扉を開ける。
一階の酒場兼食堂には、『黄金の車輪』の冒険者たちとその奥に魔術師の男が私達を警戒の視線で見ていた。
「あの外のアイアン・ゴーレムってあなたの?」
ハーフエルフの女ソーサラーが声をかけてきたので、私はあっさりと肯定する。
なお、アイアン・ゴーレムのモンスターレベルは9である。
「そうですよ。それが何か?」
「じゃあ、あなたが『ゴーレムマスター』のゼラ?」
「……少し前までは『便女冒険者』って呼ばれていたんですけどねぇ……」
知らない間にあだ名が増えていた。
まぁ、ミスリル・ゴーレムを乗り回していたらそんなあだ名もつくだろう。
「改めて自己紹介を。
オーファン魔術ギルドで導師をさせていただいております。ゼラニウムと申します。
バナール師の研究のお手伝いを今はさせていただいております」
「バナール師の弟子であるシアルドだ。
師の要請に従ってここに来たのだが、この村の領主の愚かな命で塔に行く事すらできない。
なんとかしてほしい」
まぁ、魔術師というのはこういう物言いがデフォだし、元々ファンドリアの人間にオーファンの村のトラブルを助けろというのは感情的にも無理がある。
むしろよく暴発しなかったものだ。
「この村のトラブルについては私達が引きうけます。
今、塔に詰めている人間もそちらがいらないというのでしたら引き揚げさせましょう。
どうなさいます?」
「おおっ!
それではすぐ……」
シアルドの言葉が止まったのは、『黄金の車輪』のエルフのシーフがシアルドの手を引っ張ったからである。
凛とした目で私を見たこのエルフは淡々と確認をした。
「ずいぶんとこちらにとって都合の良い話に聞こえるのですが?」
「そうよね。
そちらに都合が良いように言いましたから」
ベラ。エルフのふりをしているがその正体はダークエルフである。
私的にこいつとは一番当たりたくないなんて思いつつ、笑顔で続きを口にした。
「現在、この村の近くで悪さをする輩の狙いもバナール師の居る塔なのです。
つまり、囮を処理する間に本命は……という訳です」
「気に入らないな」
向こう側のもう一人の盗賊ジョルジュが不機嫌そうな声を出す。
言い方を変えれば『潰しあえ』と言っているようなものだからだ。
「けど、手伝うという事は、分け前をよこせという事になりますがよろしいので?」
ファンドリア系の冒険者には、この手の交渉はとてもよく効く。
『黄金の車輪』の連中は美味しい話の裏を露骨に警戒しているが、雇われである以上決定権はシアルドにある。
「バナール師の研究と資料は私が引き継ぐ。
それに異を唱える事をしないと杖に誓ってもらおう」
「ええ。
杖に誓いましょうとも。お気をつけを」