朝。
朝食をとってから本格的に冒険を始める。
「急ぐ必要がないのならば、先にゴブリンが居た洞窟を見ておきたい」
「多分場所は分かるが、お宝のある遺跡を前にそれは必要なのか?」
ルーファスの言葉にラダが確認する。
ルーファスは、既に準備を整えており、やる気も十分そうに見えた。
「だからこそだ。
危険はできる限り潰しておきたい」
お宝のある遺跡を前に、危険を先に潰すというリスク回避を選択できるルーファスはマジで冒険者の鑑。
感心していた私に、今度は私にルーファスが確認をとる。
「それと確認だが、このパーティのリーダーは誰なんだ?
俺は今回雇われだからな」
「それはゼラでしょう?
私たちも雇われみたいなものよ」
ジーンの一言に、首を縦に振るシャミラ・マティアラ・リーマの三人。
ラダも文句を言わない以上、私がリーダーという明確なパーティ序列が出来上がる。
このあたり先に決めておかないと、危機や戦闘時にパーティが崩壊するからなぁ。
ルーファスはそういうリスクも今ここで潰そうとしているのだろう。
「という訳で、ゼラ。
君が行動を決めてくれ」
「……いいわ。
午前中は先にゴブリンの居た洞窟を確認しましょう。
午後から遺跡を調べて、無理そうならば明日に持ち越しという方針で。
みんないいかしら?」
私の声に誰も反対はしなかった。
という訳で、森の外れにあるゴブリンが居たらしい洞窟の前に着く。
そこで私は失敗に気づいた。
馬車だ。
「これ置いてゆくのか?」
「さすがに持っていけないでしょう?」
ルーファスの確認に私は軽口を返すが、それは置いていったら帰ってきた時に馬車がなくなっているリスクがある事を意味する。
つまり、誰かが居残りとして馬車に留まる必要があった。
「だったら、私が残ります」
そう言ったのはリーマだった。
たしかにシャーマンしか使えない彼女はこの中で一番戦力的に使えないので、私は念のために接触をしてきた精霊プーカを呼び出して、馬車を守ってもらうように命令する。
「万一、私たちが朝まで戻らなかったら、ロマールに戻って奇跡の店のおやじか、娼館のコルネリアに助けを求めなさい。
最悪、死体回収ぐらいは出してくれるわ」
この世界は死んだら死んだでゾンビやゴーストになって冒険者や人々を襲いかねないので、全滅の放置というのは基本的になく、次の依頼という形で調査や死体回収が行われるのだ。
それはある種の命綱と言って良いだろう。
「わかりました。ゼラ姐さん。
絶対帰ってきてくださいね」
リーマの言葉に私はショートソードとスモールシールドを構えて笑った。
「もちろん、そのつもりよ」
洞窟に入る前に隊列を確認する。
前衛はルーファスとジーン。
中列は私とラダ。
後列はマティアラとシャミラである。
「たいまつをつけるわ」
私がたいまつに火をつけて持つ。
もう一方の手はスモールシールドを持っているので、戦闘になったら最初は動けない。
慎重に奥に進んでゆく。
「どうやらゴブリンは居ないみたいだな」
ゴブリンが住んでいる痕跡みたいなものは洞窟内から見つかっていなかった。
ルーファスが小声で漏らすとラダが壁の一部をじっと睨みつける。
「ゼラ。
ここをもう少し照らしてくれないか?」
「いいわよ。
何か気になるの?」
「ああ。
近くに古代王国の貴族の屋敷があって、その近くにゴブリンが住みつける洞窟がある。
もしかして、この洞窟は屋敷の秘密の出口じゃないかと思ってな……あった!」
たいまつを近づけると、漏れた空気のせいでたいまつが揺れる。
見ると不自然な隙間が見える。
隠し扉の類だろう。
「トラップはなさそうだが……どうやって開けるんだろうな?」
「ダーリン。ちょっと私も探すわ……あれ?」
「これ、向こう側からしか開かないのでは?」
ラダ・ジーン・シャミアラの三人が壁を調べてお手上げだったのに、シャミナが少し離れた壁のくぼみを見つける。
そのくぼみにの先にはスイッチらしきものがあった。
「よくやったわね。シャミナ」
「えへへ。ゼラ姐さんに褒めてもらえてうれしいです。開けます?」
「それはちょっと待って。
先にこの洞窟を全部確認してから開けましょう」
あくまで、この洞窟の安全確保が目的だ。
先に開けてしまい隠し通路向こうの敵と交戦していた時にこの洞窟に潜んでいた敵と出会ったら挟み撃ちになりかねない。
冒険に無理は禁物。
先に洞窟を確認してからだ。
結論から言うと、この洞窟にはゴブリンは存在しなかった。
ただ、前に住んでいたゴブリンたちが隠していた財宝を見つけた。
埋められた壷に入っていたのはがらくたの中に宝石や銀貨があり、ラダの見立てだと700ガメル程度になるらしい。
「じゃあ、一度馬車に戻りましょうか」
戻る際にも何も起こらず、馬車で待っていたリーマが笑顔で出迎えてくれた。
昼食を食べながらなんとなくぼやく。
「思うけど、ゴブリン退治だけで生きるのはきついわねー」
「大体相場としてはゴブリンの巣討伐の報酬は3000ガメル。
この報酬を頭割りだからな。
今回の場合、7人だから、みつけた壷の中の宝石とかも売って一人頭500ガメル。
一日の生活費が10ガメルとして一月半。
ゴブリンは定期的に湧くとはいえ、毎月仕事がある訳でもないからな」
「吟遊詩人とかは一晩酒場で歌えば10ガメル以上稼げるし、私たち娼婦もそれぐらい稼げる上に娼館だと宿を気にしなくていいのが大きいのよね。
ゼラなんて一夜軽く百ガメル以上稼いでいるのだから、冒険に出るのはもったいないわよ」
私のボヤキにラダがつっこみ、さらにジーンが補足する。
その話を真剣に聞いていたのは私でなくシャミナとマティアラとリーマである。
それにルーファスがデメリットも付け足す。
「とはいえ、ギルドに所属すると、自由に振舞えないのが難点だな。
ロマールの盗賊ギルドに所属する場合は500ガメルが必要になるしギルドからの命令には拒否できない。
おまけに、ギルドに所属してもギルドの事情で切り捨てられかねない。
ゼラがギルドに所属できないのは、元レイド貴族という背景がある上に、デュナス公の元奴隷という背景があるからだ。
デュナス公が圧力をかけたら、ゼラを守り切れない」
「そういう事。
だから、こういう遺跡に潜って、一発逆転を狙うのよ」
私は決意と共に午後からの冒険に心を這わせたのだった。