ずしん……ずしん……
雪原の丘をアイアン・ゴーレムが音を立てて歩く。
こんなのを隠す事ができないので、使い捨て前提で入り口に単騎突貫させる。
ここで、相手には選択肢が出る。
このアイアン・ゴーレムをディスペル・オーダーで奪うか、奪ったアイアン・ゴーレムでぶん殴るかである。
「出てくるかな?」
「魔術師は基本籠って戦うのが基本よ」
「それに当てはまらない魔術師が目の前にいるがな」
ルーファスとのやりとりは、塔への入り口近くへの森で隠れてやっている。
シースルーの射程距離からは離れているので見つかる心配はないが、精霊魔法の使用時に精霊が暴走しかねないのは皆に伝えているので極力精霊魔法を控えるようにとは伝えている。
「可能性があるとしたら、レイス・フォームでレイスになってディスペル・オーダーの後、コマンド・ゴーレムなんだけど……」
この魔法の達成値はかなり高い。
塔のゴーレムのコントロールを奪うのもかなりの賭けだったのだろう。
奇襲の上、まだウェイリンが陽動作戦をしてくれたのが大きいが、
「おっ。レイスが出てきた。
味を占めたみたいだな」
ルーファスの視線の先には、塔から宙を舞ってレイスがアイアン・ゴーレムに向かってきていた。
しばらくアイアン・ゴーレムにまつわりついた後にレイスは塔に戻ってゆく。
「まずは一手消費」
高レベルソーサラーの戦いは、MPとの戦いでもある。
魔晶石があるとはいえ使わないと回復しないので、その間にルーファスみたいなファイターに詰められる。
そして、入り口までこちらのアイアン・ゴーレムが近づくと、向こうのアイアン・ゴーレムが出てきた。
「あれ?なんだかボロボロじゃないですか?」
「腕、片方しかないですよ」
「動くので精一杯みたいですね」
シャミナ・マティアラ・リーマの三人が呟く。
なるほど。相手が無理して奪いに来た訳だ。
『黄金の車輪』はかなり抵抗したのだろう。
私は指でクリシィを呼んで、耳元で囁く。
「反対側にいるローンダミスにゴーレム排除の情報を伝えて頂戴」
「わかっ……何?あれ?」
クリシィが指を指すと、ブアウ・ゾンビになった『黄金の車輪』のメンバーがアイアン・ゴーレムに襲い掛かっていた。
ジョルジュ、バルゴッサ、ドルダーデンのブアウ・ゾンビがボロボロのアイアン・ゴーレムと共に私のアイアン・ゴーレムに攻撃している。
ブアウ・ゾンビ化している以上、手はない訳ではないが生半可な手で助けることは不可能だろう。
「あれも伝えて頂戴。
マイシリカ悲しむでしょうね……」
連絡を取り合った間に、私のアイアン・ゴーレムが敵を一掃していた。
「じゃあ、行きますか」
「わかった」
私とルーファスが姿を現す。
さすがにジャミナ以下は本当に危ないのでここに残してゆく。
レイスとアイアンゴーレムとブアウ・ゾンビを見て足手まといと理解したのだろう。
ルーファスにカウンター・マジックをかけて走らせて私はゆっくりと歩く。
塔からシャーリラが浮かんで出てきたあたりで私は顔がにやけるがそれが気に入らないらしい。
吹雪の中、第一声から罵倒される。
「気に入らないわ!
研究し、魔術師ギルドを追放されたのに、貴方はのうのうとその地位を保持しているなんて!!」
すとんと納得する私が居た。
死霊魔術はどうしても叩かれる分野だからだ。
それが今まで問題になっていないのは、単純に時間が足りないのと、属性があまりにも多岐にわたってて、固定化されていないのだろう。
ファンの住民に私のことを聞いたら『便女冒険者』か『ゴーレムマスター』あたりで『ネクロマンサー』ってのは魔術師ギルドあたりで「ああ。そうだった」と言われるぐらいだろう。
「許さない。
私が死霊魔術を復興させる際に貴方は邪魔なのよ!
ここで死になさい!!」
かくして戦闘が始まる。
先に呪文を唱えたのはシャーリラだった。
「ライトニング・バインド!!
……きぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
シャーリラの悲鳴が雪原の丘に響く。
なんでみんなを置いて、ルーファスやアイアンゴーレムとも離れたのか?
すべてはこの呪文のためである。
「マジック・リフレクション。
失われた魔法で、魔法を反射できるって聞いていないか」
「ぁ…ぁぁ。
殺す!殺してやる!!
ああ……!!!」
なお、この魔法反射できるのが個人対象の魔法を反射できるというもので、ファイヤーボールやクラウド系の魔法には効果がない。
遺失魔法なのだが、絶対これは便利すぎる『ライトニング・バインド』対策だろうと私は思っている。
かくして、自ら必殺の『ライトニング・バインド』を食らったシャーリラは電撃の網に捕らわれてもがきながら私を殺そうとするが、『ライトニング・バインド』による電撃と網の束縛で呪文が唱えられない。
少し空を見あげて、雪がやみつつあるのを確認する。
魔法装置の停止はうまくいったらしい。
「ライトニング・バインド」
「きゃあああああっっっっっ!!!
痛い!痛い!!いたいぃぃぃぃ!!!」
あとはこうやってライトニング・バインドをかけ続けて黒焦げにするだけである。
かくして黒焦げになったシャーリラは動かなくなった。
(許さない……殺す殺すコロスぅぅ!)
まぁ、レイスになっていたからそうなるだろうなとは思っていた。
黒こげの体から出たシャーリラの魂はレイスとして私に襲い掛かろうとした。
それも読んでいたのだが。
「ターン・アンデッド」
レイスになったシャーリアが恐怖で固まる。
まさか私がプリースト魔法を使えるなんて知らなかったのだろう。
動けなくなって空中にて固まったままのシャーリラが私の唱えだした呪文を理解して悲鳴をあげた。
(やめろ!
それをすると消滅してしまう!!
やめて……おねがい……)
この呪文、時間がかかるのが難点である。
シャーリラの懇願を無視して私は最後の呪文を唱えた。
「コントロール・ウェザー。晴れ」
魔法装置が停止し急速に雪雲が去ってゆくこの地に太陽の光が降り注ぐ。
雲の切れ間から降りてくる陽光は天国への階段なんて呼ばれているが、さて、シャーリラにその資格はあるかどうか。
(なぜ……どうして……
わたしは……じぶんのうつくしさを……えいえん……に……)
レイスは太陽の光を浴びると消滅する。
かくして、この時代稀代の大魔術師だった死霊使いシャーリラは、この地にて消滅することになった。
かくして、四大魔術師の塔をめぐる事件は終わったと思われた。
翌日。
マイシリカの死体が発見された。