「あれ?わ、私は?ダークエルフに殺されて……???」
目が覚めたマイシリカが混乱するが、とりあえず落ち着かせて部屋を出る。
部屋を出るとローンダミスが待っていた。
死体発見後、テレポートでファンに戻って彼の伝手を使ってマイシリカを生き返らせたのだ。
「ジェニ様の手を煩わせてまで、彼女を生き返らせる必要はあったのか?」
「それを確認するためにも生き返らせる必要があったんですよ」
再度テレポートで塔に戻るために呪文を唱える。
ローンダミスを連れて戻るのはこの後の事態対処というより、オーファン王国近衛騎士という身分で処理を円滑に進めるためだ。
「多分、ろくなことになっていないでしょうね……」
私のつぶやきは的中する。
塔に戻るとベレーヌの村から、
「牢が破られてダークエルフが脱走。
隣村の谷に止まっていた飛行船の船長のシーヴァ、助手のラッシド、設計者のエフレム、協力者のリーバーが殺害され、そのダークエルフは自殺」
というニュースだったのだから。
普通はメインシナリオが片付けばエンディングというのが多くの物語だが、今回みたいに舞台に多くの俳優が出ていると、その前で各勢力の蹴落としが発生する。
なお、犯人はあくまで推測だが分かっていた。
『黄金の車輪』の『ダークエルフ』のベラだ。
裏事情こみなのでローンダミスに言う事ができないが、塔攻略後に行われた殺人は『ダークエルフのしわざ』で処理されるだろう。
なお、公開処刑されかかっていたマーヴェルはローンミダスとサムソン卿と取引して塔の方に連れてきている。
「さて、どこから説明しましょうか?」
この大事件の処理に王宮から騎士団と魔術ギルド双方から人が派遣され、その到着後に私たちは去る予定である。
その前に分かっている事の説明会という名目でベレーヌの村の領主館に集まったのは以下の面子である。
ゼラ
ルーファス
ラダ
ジーン
アイソラ・フロストシルバー
セレシア
ローンダミス
サムソン
ルージェンダルク
バルアー
シムシャーラ
「ちなみに、表向きの話とやばい話の二つ用意しています。
やばい話については後で選択してもらうとして、表向きの話から片づけましょう」
こういう口調で始まったので、皆の顔が実に険しい。
そんな事を気にしながら、表向きの話を進める。
「塔を捜索した結果、ナバール師の死体が発見されました。
弟子のシアルド師と『黄金の車輪』最後の一人であるベラの姿は見つかっておりません。
シアルド師は高位の魔術師。私がするような呪文で逃げたと考えられます。
ベラはそれについていったのだろうというのが私の結論です」
まずは残りの行方不明者を片付ける。
多分違うのだろうが、こうしておかないと事件の後始末に移れない。
「魔法装置と飛行船については魔術ギルトが押収する事になります。
それぞれファンの賢者の学院にて研究する事になるでしょう。
また、帰られたシアルド師が返還等の請求をした場合は柔軟に対応する事を決めており、すでに商人に手紙を頼んでおります」
まぁ、私の考え通りならば何も言ってこないだろうが。
そんな事を口に出さずに事務的な処理を進める。
「『明日に吹く風』の皆様は依頼成功の報酬をここに用意しています。
お受け取りください。
で、ここからがやばい話に入りますが、聞かないという選択肢も用意しておきました。
扉から出られるのならばご自由に。
知らなければ、害は避けられますが、知ればろくでもないことに巻き込まれますよ」
「そのろくでもない事とは何だ?」
サムソン卿が恐る恐る質問したので、私はあっさりとその具体例を出した。
「ずっとダークエルフに狙われ続けます」
少しの間の後、立ち上がったのはサムソン卿だった。
その決断に苦渋が籠っていた。
「すまぬ。
私はここで去らせてもらう。
私が若く、まだ王都の騎士だったらきっと残っていただろう。
だが、今の私はこのベレーヌの村の領主なのだ。
この村のことを考えねばならんのだ。すまぬ……」
そう言って立ち去る。
残りは誰も動かなかった。
私は部屋にハードロックをかけた上でやばい話を口にした。
「今回の話、そもそもの発端がロマール王国の西部諸国侵攻にあります。
ガルガライス、ベルダイン、ザーンの三か国がロマール王国影響下に入った結果、ドレックノールが直接狙われ、タラントにも圧力がかかっている事を無視したらいけません」
そして、今回の敵だった『死神』に話が移る。
「さて、今回の敵だった『死神』ですが、そもそも何でここに手を出してきたのでしょうか?
魔法遺跡?それとも死霊魔術師の私?
違います。それらはあくまで副次的なものでしかありません。
お金です」
私の断定に気が緩むみんなだが、組織が活動するためには資金が必要であり、その資金をどう捻出するかというのは本当に影響を与える。
たとえば、こんな風に。
「ロマールとドレックノールの対決はそのまま盗賊ギルドの対決とも言えます。
ロマールの侵攻で先の三か国からドレックノールの影響力は大幅に落ち込みましたが、それはドレックノールと敵対していた『死神』にとって良い結果に繋がりませんでした。
それは、これのせいです」
私は持っていた袋をテーブルの上において袋を広げる。
出てきた薬に反応したのはアイソラだけだった。
「『ドリーミング・アート』。ベルダインで流通していた麻薬です。
当たり前ですが、ドレックノールに攻め込もうとしていたロマール軍はこの手の麻薬の取り締まりを盗賊ギルドに命じました。
『死神』がこの麻薬を捌く事ができたのは、タラント・タイデル・オーファンの三か国しかなく、地の利があったオーファンに流通をというのは悪い選択ではなかったのでしょうね」
初手麻薬で早くも私以外の面々の顔色が渋くなる。
口を開いたのはラダだった。
「それは分かったが、なんでこの魔法装置にダークエルフが絡んでくるんだ?
ダークエルフといえばファンドリアってのは冒険者なら知っている常識だ。
わざわざ絡んで失敗するなんて、真っ黒じゃないか」
「そうですよ。
彼らにとっては絡んで失敗する事が目的でした」
ここからだんだんどす黒く、救いが無くなってゆくのだが、まだ気づいていない。
という訳で、その陰謀の一端を私は暴露する。
「ここの魔法装置が暴走して周辺一帯が凍土になったら、オーファンは詰みます。
そうなると、必然的にファンドリアに侵攻という事になるのでしょうが、今のオーファンは私のミスリム・ゴーレムを先頭に突っ込んでいけるんですよ。
こうなると、喜ぶ勢力と困る勢力が出てきます」
「一つが、ファンドリア侵攻で援軍を出さないといけなくなるロマール。
もう一つが、ロマールの足が止まって一息つけるドレックノール」
口をはさんだのはローンダミスだった。
近衛騎士なだけにかなりの情報を入手できるのが大きいのだろう。
「気づいています?
ローンダミス卿の発言に『死神』の意図が入っていない事を?
そもそも、どうしてこの二か国は私たちがこの塔に行く事を知ったのでしょうね?
それと、忘れている勢力がありますわ。
追い詰められたオーファンと戦うことになるファンドリア」
とっても悪い笑みを浮かべて私は笑う。
なお、周囲の人間は引き気味である。
「今回の件、その始まりから全てこの三か国の監視下で行われていたんですよ。
ルージェンダルク殿。
あなたが私たちを知ったのはどうしてですか?」
「それは、ジェドンが知って……」
「そのジェドンに誰が吹き込んだのでしょうね?
ミスリル・ゴーレムを持っているのが私だと?」
「……」
ドレックノールかロマールかファンドリアの誰かは知らないが、接触し仲違いしてくれたら程度の軽いいやがらせである。
にもかかわらず、私は彼らに大金を払って雇った。
それは、複数の遺跡から貴重な品々を持ち帰った私という虚影から『次に行く遺跡も本物だ』と確信したのだろう。
「この遺跡、情報そのものはそれほど難しくはないんですよ。
ナバール師は研究を隠そうともしなかったし、この研究の結果がどうなるかなんてわからなかったのだから。
けど、私が絡んだことで三か国にとって注目度が跳ね上がった」
ローンダミスの方を向いて私は質問する。
それは、ついに来なかった彼らについての質問である。
「ローンダミス卿。
銀の弓騎士団のディーター卿が部下を率いて来るはずだったのですが、ついに来ませんでした。何かあったのですか?」
「近くまで来ていたのだが、街道沿いに盗賊やモンスターの襲撃報告が頻発して、そちらに回らざるを得なかったのだ。
今はピタリと止んでいるのだがな」
足止めの妨害工作。
誰の仕業か分からないが、それは綺麗に決まった。
「ここからはあくまで私の推測です。
真実ではありませんが、あまりよそで口にする事はよろしくないと思います」
そして私は少し間をおいて推測を口にした。
「ドレックノールの狙いは、装置の暴走による凍土化でオーファンがファンドリアに攻め込む事でした。
だから『死神』に意図的に情報を流して協力します。
失敗しても敵対勢力がダメージを受けるだけで、痛くない訳で。
死霊使いシャーリラを紹介したのかもしれませんね」
シャーリラの望む死霊魔術の研究ともなると、国家クラスのバックアップが必要なのは間違いがない。
それができるのはドレックノールしかなかった。
ドレックノールからすれば、敵対する死神と手打ちができ、勢力圏外に活動を移すのだから喜びこそすれ邪魔する必要もないのだ。
「この動きにロマールは気づいていた。
『死神』は表向きはロマールに協力していたから、死神の方から言ったかもしれません。
多分こんな所でしょう。
『オーファンに拠点を作って麻薬をばら撒きたい』。
『死神』は少数精鋭の組織ですが、この塔の魔法装置の事を最初から知っていたとは思いません。
知っていたら飛行船に麻薬なんて積み込む訳ないじゃないですか」
『死神』という駒でロマールとファンドリアの意図がバッティングする。
『死神』という駒にも意図があった事が事態を複雑化させた。
そして、ロマールの盗賊ギルドは、近くにあるこの塔が本物だと掴んでいた。
「ここで更に新しいプレイヤーが登場します。
『死神』がオーファンに麻薬を持ってくるのならば、オーファン国内にばら撒く人間が必要です。
オーファンの盗賊ギルドはそこまで馬鹿ではありません。
じゃあ、誰がばら撒くんでしょうね?」
「……ファンドリア」
「……のダークエルフ。彼らには複数の役が与えられていたから面倒なんですよ」
セレシアの言葉に私が付け足す。
『死神』にロマールとドレックノールが相乗りした事と、ファンドリアの中は各勢力が掣肘しているのと同じように、シアルドと『黄金の車輪』の意図が一つではない事がこの事件の核心だった。
「シアルド師と『黄金の車輪』は、装置の奪取が名目で送り込まれました。
もちろんうまくいかない場合として装置の暴走阻止も命じられていたのでしょう。
シアルド師以外の誰かから。
そして、彼らとは別に銀の弓騎士団を足止めしていたダークエルフが麻薬の受け取り手だった。
ところが、ここから誤算が発生します。
私たちがあっさりと装置を渡して、『死神』討伐に絞った事です」
エルフに化けていたベラがダークエルフであるという事が言えないので、別勢力がダークエルフとして大きくなったが私は気にしない。
ここで暴露して、シャーマン7・シーフ6・レンジャー6・ダークプリースト4なんて化け物ダークエルフに命を狙われるなんてしたくないからだ。
マイシリカをよみがえらせた理由がここである。
「マイシリカはダークエルフに殺された」
これでベラを容疑から外せるからだ。
本当にこれは言えないから私は話をでっち上げ続ける。
「かくして、笑えない同士討ちが発生します。
『死神』内部でも、雇われのシャーリラとウェイリン、マーヴェルと飛行船の連中の意図が違うのがこれに拍車をかけました。
後は皆さんのご存じの通り」
私が話し終わっても、しばらくは誰も何も言わず、そういう報告を前提に後始末が始まった。
裏設定
ペラのダークエルフ身バレで『黄金の車輪』メンバー全員粛正の話の代替が実はこれだったり。
ファンドリア内部での対オーファン開戦派と避戦派の路線対立があり、メンバー内部の引き抜き合戦が行われていた。
シアルド師の正体はドッペルゲンガー。