このシナリオには時間制限がある。
六時間経つと、女性魔術師のティエナがシャンカラという化け物になってしまうのだ。
これ、本来のスタートが迷宮からなのだが、パダの町なので既に四十分が経過していた。
まぁ、その分パダの町でお買い物が出来たのだが。
ノーランド師を連れて壁内の店で買ってきたのは、二個目の通話の護符と口寄せの首輪。さらに石化対策の薬ヘンルーダ。
これから潜る洞窟で何が待っているのか知っているからの対策である。
通話の護符は一つはノーランド師から貸してもらえるのだが、中でパーティーを分けたいのでその通話用に欲しかったのだ。
価格は通話の護符が15000ガメル。口寄せの首輪が36000ガメル。
ヘンルーダは9600ガメル×4つ。
運悪くこれしか無かったが仕方ない。
この価格ならば、金の延べ棒を換金するまでもなく宝石を九個ばかり渡して飛んで帰る。
高位魔法使いの移動力の高さはこういう時強い。
そんなこんなで、ヴォイド卿の迷宮に到着。
入り口の書斎にノーランド師が待機する事になる。
そしてヘンルーダの薬だが、私とルーファスが飲み、残り二個は『駆け抜ける風』に渡してアランとリーヴスが飲むことに。
ここまでで十一万ガメルが消えているのだが、私は知っている。
私以上のお大尽アタックをする冒険者たちが現れる事を。
「カルダモンとアルミンもここに残っていなさい」
二人が素直に頷いたのは、ここが書物庫だった事もあるだろう。
「おや?
この扉閉まっていたかな?」
『駆け抜ける風』の盗賊であるノルクが閉まった隠し扉を前に首をひねる。
それを見て同じ盗賊のフェイドが彼を軽く小突いた。
「馬鹿野郎。部屋の状況を覚えとけ。
開いたままだったから閉まったんだよ」
「つまり、何かしらしておかないと扉が閉まると……」
二人のやり取りにうちのラダが加わる。
そのまま開錠作業に入る。
「罠は……なさそうですね」
「じゃあ、開けるぞ……くそっ!思ったより手ごわいぞ。この扉」
「これ、多分こうね……開いた」
ノルクが罠チェックし、フェイドが失敗した後でジーンが成功する。
自動で閉まらないように固定させてかかった時間は12分。
「じゃあ、行きましょう。
ルーファスが真ん中でジーンとクリシィが前に出て。
私とシャミナとラダが中盤、後ろはマティアラとリーマでお願い。
『駆け抜ける風』のみんなはその後ろからついてきて」
「楽な仕事で……」
『駆け抜ける風』の戦士ギースが軽口を叩くが、通話の護符は既に『駆け抜ける風』のリーダーであるアランに渡している。
中が広く分かれている場合、私たちと『駆け抜ける風』は別行動で探索をする事になる。
松明を持ったジーンが階段を下りている途中に無言で天井を指さす。
天井にバイパーが二匹。
問題なくジーンとクリシィが処理して次の扉へ。
「開いた!敵!!」
クリシィが扉を開けた先に居るスケルトンウォーリアーをルーファスが潰し、私たちがこの壁画のある部屋に入るまで12分が経過した。
なお、このスケルトンウォーリアーが持っていた魔法剣はひとまずルーファスに持たせる事に。
『どうじゃ?そっちには何か分かったか?』
一時間経過した事で、ノーランド師から通話の護符で連絡が入る。
今、クリシィとジーンが隠し扉の鍵を開けようとしている後ろで私は返事をした。
『まだ、そちらの部屋から一つしか経過していません。
そっちに居るアルミンをこっちに寄こしてください』
首を横に向けると、マティアラとリーマが見える扉を開けてもう一つの通路を固定している所だった。
ありがたい事に、女性魔術師ティエナの足跡が壁画の中に消えており、本命はクリシィとジーンが開けようとしている扉と分かっている。
こっちは何もないはすであるが、かといって放置して何か見落とすという事はしたくない。
人数も多いので、パーティーを分けてマティアラとリーマとアルミンの三人でこっちの道を確認させるつもりだった。
『分かった。急いでくれ。
また一時間後に連絡しよう』
「開いたわ!」
なお、マティアラとリーマとアルミンの三人はこの道を確認したらアルミンは最初の入り口に戻り、マティアラとリーマは私たちに合流する事にした。
下に降りる階段を五分ほど進むと、大理石造りのホールに出る。
私がライトの呪文で照らすと、ホールの中央にある女性像が持つ水晶が光り出して暖かい光がこの部屋を照らす。
「……『我は導きの明かりの担い手』……ねぇ」
女性像の台座に刻まれた下位古代語の碑文を読む。
これがこの迷宮の仕掛けのギミックなのだが、このホールから三つの扉があり、それぞれ扉には水晶のレンズがはめられている。
「すげぇ……なんて美しい彫刻なんだ……」
『駆け抜ける風』の戦士オルバンが感銘を受けている。
そういえば彼、引退後は彫刻家になったとか言っていたな。
なお、レンズがあるという事は向こうの部屋を覗けるという事で、ラダが入って左の扉を見て顔をしかめ、右の扉を見た『駆け抜ける風』の盗賊フェイドが手招きで私を呼んだ。
「……スフィンクスが居るわね」
「反対側にも何か居そうだな。
あんたの所の盗賊がいやな顔をしてやがったぞ」
という訳で、反対側へ移動。
ラダと一緒に覗くと、マンティコアが寝ていた。
「と、なると中央には……」
その中央の扉にはクリシィが居て二人で覗くと、部屋の先には光で照り返される銀色のグレートソードが一本刺さっている。
「罠っぽいわね」
「けど、行かないと」
そんなやり取りと共にため息をつく。
これらの作業で五分ほどかかった。
「とりあえず、私たちはスフィンクス。そっちはマンティコアをお願い。
無理して戦わなくていいわ。
片付いたら、ここに一度戻って頂戴」
「了解した」
という訳で、私・ルーファス・クリシィ・シャミナ・ラダ・ジーンの六人がスフィンクスの部屋に入る。
スフィンクスは起き上がってクエストを告げた。
「我は三柱の秘められし知識のひとり。我を守護するは『善』なる知識。
我を呪縛し、ここに置き留めし我が主を救わんがため、賢明なる者のみに、道を示さん。ここなる十枚の石板をもて、汝が立つべき『大地』を作れ。愚劣蒙昧の輩は、『大地』を失い、夢幻界の混沌に堕ちよ!」
マンティコアの方も似たようなクエストをしているはすである。
この時間を短縮したくて彼らを雇ったと言ってもいい。
「じゃあ、石板を動かすから手伝ってちょうだい」
あーでもない。こーでもないと作業をする事17分。
石板による『大地』が完成する。
「真実の語り手は魂の泉の底に眠っている」
そんな事をスフィンクスは言い、隣の扉を開けてくれるのだが、ここで先に進む訳にもいかないので一旦女性像のあったホールに戻る。
「おう。遅かったじゃないか!」
ホールに帰るとアランの勝ち誇った顔が。
リーヴスがこの手のが得意らしく、5分で解いたらしい。
「暇だったんで、真ん中の部屋を少し探ってみた。
フロア・イミテーターが襲ってきたんで撃退してほら」
アランが真ん中の部屋に刺さっていた銀の剣を見せる。
「これ、もらっていいのか?」
「ちょっと待って。
冒険が終わってから、処分については考えるから。
だから……」
私は、ポイっと宝石を一個アランに投げる。
マーチャント持ちのギースが居るから、あの剣の価値が8000ガメルなのは知っていただろう。
掴んだアランは苦笑しつつ銀の剣を私に手渡した。
「まったく派手に金をかけるな。
あんたら何者なんだ?」
私はローブの下から肢体を晒して誇って見せた。
「ただの肉便器ですよ」