※この作品はR-18です。

ソードワールド1.0転艶記   作:北部九州在住

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パダの冒険その3

 銀の剣があった部屋の次の部屋を覗く。

 ちょうど人の頭ぐらいに穴が開いており、覗くと床がなく奈落が下に広がっている。

 声が聞こえたのはこんな時だった。

 

「引き裂かれたる『大地』を回復せし者よ。その『大地』をもて夢幻の回廊を封ぜよ」

 

 ん?何だろうと首をひねると、リーヴスが『大地』の石板を取り出す。

 彼の持つ石板が光っているのを見て、その意味を悟る。

 私も石板を取り出すと、二つの石板が消えて床に変わるまでかかった時間は6分。

 

「あのクエストはこういう理由だった訳か」

 

「とはいえ、あのクエストの先も気になるんですよね。先へ行くように促していましたし」

 

 リーヴスと話している視線の先では、できた床を確認すべくロープを身につけたジーンが部屋が落ちないかどうか確認している。

 安全なのは知識で知っていたが、かといってそれを信じられるほど知識に過信してはいけない。

 その分時間が経過するのだが、ここは割り切ろう。

 

「じゃあ、先の部屋を攻略しましょう。

 また、攻略したら女性像があるホールに戻る事。

 いいわね?」

 

 という訳で、私たちはスフィンクスのいる部屋の先に向かう。

 スフィンクスは襲ってこなかった。

 その先の扉を開けると、水音が聞こえる。

 松明が消える事を恐れてライトの呪文を私がかけると、クリシィがランタンに火をける。

 ルーファスが水流に手を当てる。

 

「それは渡れるには渡れそうだが、少し骨が折れそうだな」

 

 水流は私たちが行く先の方から流れていた。

 ラダが壁に刺さっているダガーを見つけて叫ぶ。水音で音が聞きにくくなっていた。

 

「これ、どうする?!」

 

「抜いてみて!

 一度私たちは部屋に戻るわよ!!」

 

 部屋に戻ったのを確認して、ラダがナイフを抜こうとするが抜けない。

 刺すとそのまま刺さるので押し込んだら水が止まった。

 ここまでで12分経過。通路を進み終わるのにさらに10分経過。

 ノーランド師からの通話が入ったのは、次の扉を開けようとした時だった。

 

『聞こえておるか?

 ティエナは見つかったか?』

 

「まだ見つかっていません」

 

『書庫を調べたのだが、ヴォイドという召喚魔術師が夢幻界という異界との接触と秘儀の実験を繰り返していたらしいティエナが手にした指輪はその秘儀に使われたものらしい』

 

 なかなか興味深いのだが、じっと聞いている訳にもいかず。

 ノーランド師の次に戻ってきたらしいアルミンの報告が始まる。

 

『とりあえず外まで出て、マティアラとリーマと共にこっちに戻ってきた。

 途中、崩れていた箇所があったが、どこかに繋がっていた可能性がない訳ではない。

 二人を師の言う通り奥に向かわせていいのか?』

 

「大丈夫。

 途中までの安全は確保している。

 女性像のあるホールまで来て待機して頂戴。

 後で迎えに行くわ」

 

『はーい』

 

 マティアラとリーマの返事を最後に通話を切る。

 目の前にある罠があった扉がジーンとクリシィによって開いたのはこのタイミングだった。

 部屋の小机の上に置かれていたのはカードケース。

 使い捨ての魔法が使えるカードらしい。

 これで備えろと言っているようなものである。

 カードの種類と枚数は、『プロテクション』4枚、『フル・ポテンシャル』2枚、『フライト』1枚。

 さらに次の部屋の扉を開けると、見た事がある部屋に。

 石板にて床が張られた部屋だった。

 そんな事を思っていたら、向かいのドアが開いて『駆け抜ける風』の連中が出て来る。

 合流して情報交換して、マティアラとリーマを迎えに行った結果16分の時間が経過する。

 残った扉をフェイドとシルクが開けると、石畳の通路が広がる。

 その先がT字路になっていた。

 

「あれ?

 これ、溝というか穴というか……?」

 

 マティアラがT字路の中央にあった穴に気づき、私が二部屋前にあった銀の剣を刺してみるが何も起きない。

 

「何も起きないな?」

 

「多分、条件が足りないのよ。

 何だったかしら……?」

 

 ルーファスの疑問に私が返事をして思い出そうとする。

 声がしたのはその時だった。

 

「『我は、三柱の秘められし知識の守護者の一人。我を守護するは「道しるべの光」我を造り、ここに留め置きし、我が主意にかなう力持つ者のみに、道を示さん』。あの銀の剣が刺さっていた部屋から聞こえてきた言葉だ」

 

 リーヴスが淡々と告げる。

 道しるべの光ってのは多分ホールに合った女性像から出る光なのだろう。

 つまり、あの光をこの剣に当てないといけない訳で。

 

「ああ。あのレンズはここにハメるのか」

 

 私がぽんと手を叩く。

 ホール左右の部屋に合ったレンズを外し、中央の部屋に繋がる穴にそのレンズをハメる事で光を届かせると。

 

「おねがいしていい?」

 

「わかった」

 

 私はアランにお願いして『駆け抜ける風』にレンズを外して取り付けなおす作業を頼む。

 もちろん、ただ待っている訳にはいかず、刺した銀の剣によって光が行く反対側のT字路を捜索する。

 この迷宮最大の財宝はここにあった。

 ほのかに明るい部屋の中央にあるのは魂の泉。

 生命力・精神力が飲めば完全回復。毒や石化すらも生きているならば回復できるという優れものである。

 

「凄い……」

「この遺跡がこのまま使えるならば、凄い事になるぞ!」

 

 ラダとジーンが興奮する。

 場所が場所だけに、冒険者たちがここによって回復するだろうし、彼らから銭をとれば大金持ちである。

 まぁ、魔術師ギルドが確実に封鎖するだろうが。

 歌が聞こえたのはそんな時だった。

 

『我は……、魂の……、暁の……、守護者……。愛しい人……、哀しい人……、汝の眠り……、永遠の……、魂の……、その……、悲しみの……、癒されし……、日まで……』

 

「ちょっと潜って来るわ」

 

 アンバーローブを脱いで裸になり、買った口寄せの首輪を首に巻いて魂の泉の中に潜る。

 溺れる事もなく潜ってゆくと、魂の泉の底には大理石の寝台があり、エルフの女性の死体が横たわっている。

 その手には封印の棒杖が握られていた。

 

(私の名前はセレーネ。ヴォイドが夢幻の指輪を作り出したのは、私を殺した古代帝国の支配者たちへの復讐のため。復讐は愚かで、無意味な事だが、私には彼を責める事はできない。しかし、指輪を放置すれば新たな哀しみを重ねるだけです。

 彼を止めてください……)

 

 説得すればヴォイドを止められる選択肢もあるが、長い時間によって怨霊になり果ててしまっている妄執を説得できるとも思えない。

 

(私たちの言葉では彼に届かないでしょう。届くとすればセレーネ。あなたの言葉なのです。お願いします。力を貸していただけないでしょうか?)

 

 水中で私とセレーネの霊は少し向き合う。

 どれぐらいの時間が経過したか分からないが、セレーネが頷いて封印の棒杖が私の手に握られた。

 泉から出ると15分ほど経過しており、『駆け抜ける風』の連中もこっちに来ていた。

 私の裸を見て『駆け抜ける風』の男たちから口笛が上がり、リーヴスがしかめっ面をしているのは、隣のレイアが抓っているからだろう。

 

「あ。仕事終わったら股を開くんで、遠慮なく使っていいわよ」

 

 私の一言に怪訝そうな顔をする『駆け抜ける風』の男たち。

 後で聞いたが、私の言葉より、私の仲間たちがいつものことという顔でまったく気にしていなかったことにドンびいたかららしい。

 T字路に戻ると、銀の剣に光が当たり奥の部屋に光が向かっていた。

 扉を開けると、奥にグルネルが控えていた。

 

「我は、魂の黄昏の守護者。我を守護するは魂の影。我を呼び、ここに留め置きし、我が主の意にかなう魂の影を持つ者のみに、道を示さん。

 汝は夢幻の力を望むか、それとも魂の平穏を望むか。

 夢幻の力を望む者は先へ進め。魂の平穏を望む者は立ち去るがよい」

 

 みんな黙る。

 このクラスのデーモン相手だと話すだけで取り込まれかねないからだ。

 皆を代表して私が宣言する。

 

「私が望むのは夢幻の力の放棄なり!

 去れ!デーモンよ!!

 もはや貴様の言葉は届かない!!!」

 

「愚か者め!

 ならば、夢幻の力を思い知らせてやる!!」

 

 かくして、グルネル相手に戦闘になったのだが、これが思ったより大苦戦。

 原因はこの部屋が魔法的な暗闇に覆われていて、なかなか攻撃が当たらなかったからである。

 一撃で倒し切れなかったグルネルがファイヤーボールを唱えて爆発。

 シャミナ・マティアラ・リーマの三人が重症。後ろにいて入ろうしたレイアとアランが負傷する事態に。

 うちのパーティーの弱点で、私とルーファスで潰しきれなかったら、打撃力と防御力が足りないのだ。

 私?10点です。言わせるな。恥ずかしい。

 二撃目でグルネルは倒したのだが、大事をとって魂の泉に引き返して回復。

 戦闘を含めてこの引き返しで13分のロスとなった。

 女性像の光がこの部屋まで届き、グルネルが居なくなったことで奥の肖像画を照らすと、肖像画が割れて落ち、その奥に階段が見える。

 次の部屋まで2分かかった。

 墓所に着くと、朽ちた椅子に死体が腰かけられており、私たちが入るとスペクターが現れる。

 ヴォイドのなれの果てである。

 

「私の名前はヴォイド。

 魔法実験の失敗によって『夢幻の混沌』が物質界に現れてしまった。

 これは私の責任なので私の手でなんとかしたい、誰か身体を貸してほしい。

 私以外の者では『夢幻の混沌』は倒せないだろう。『夢幻の魔法陣』は、この奥にある」

 

 これは嘘である事を私は知っていた。

 私は丁寧な口調でヴォイドの逆鱗を触る。

 

「魔術師ヴォイド。

 魔術王国は滅びました。

 あなたの復讐したい人たちはもう居ません。

 終わったんです」

 

(終わっていない!

 終わるものが!!

 私の復讐はお前たちの為に……)

 

 スペクターが絶叫する。

 今にも襲い掛かってこようとしたスペクターの動きが止まったのは、私が呪文を唱えて口寄せの首輪を発動してセレーネの魂を呼び寄せたからだ。

 

(……もう止めましょう。ヴォイド)

 

(その声はセレーネか!?

 何故だ!?何故止める!?

 お前と子供を殺した支配者たちに幾星霜にもわたる飢餓と妄執を思い知らせてやる事を何故止めるのだ!!!)

 

(私のために復讐を止めて。ヴォイド。

 新しい犠牲者を出して、彼らを私やヴォイドみたいにしないで頂戴……)

 

 少しの沈黙がとても長く感じた。

 スペクターが苦悶の表情を浮かべて消えると、私の口からセレーネの言葉が出る。

 

(ありがとう……私はあの人と一緒に行きます……)

 

 とりあえず、元凶は居なくなった。

 後は……

 

「大丈夫か?ゼラ?」

 

 ふらついた所をルーファスに抱きしめられる。

 通話の護符から声が聞こえてきたのはそんな時だった。

 

『こちらカルダモン。

 師匠。何かわかりましたか?』

 

「この迷宮の主は片付けた。

 後は奥の部屋に居るだろうティエナを救出するだけよ」

 

『師匠。夢幻の指輪は六時間もすれば支配した生命体に転移して夢幻の混沌という化け物に変えてしまうそうです。また、この化け物には生物の精神点を吸収する特殊能力があります。お気を付けを』

 

 今の時点で大体三時間か。

 転移はある程度進んだろうが、致命的ではない。

 

「最後ボスなんだけど、お願いしていい?」

 

 『駆け抜ける風』の方に振り向いてお願いする。

 アランは苦笑して了承したのだった。

 

「これで追加報酬をもらうのはさすがに虫が良すぎる。

 任せてくれ」

 

 なお、彼らは大苦戦する事になる。

 魔術師の容姿が変わり爪が延び牙が生えて目が赤くなっていた。

 その高い敏捷度にコンセージ・シルフで姿を隠してファイヤーボールで奇襲をしかけたのだ。

 これで『駆け抜ける風』の前衛が崩壊する。

 死亡はなかったが、レイアが気絶しノルクが引っ張ってレイアを部屋から出し、オルバンとアランが重傷で、ギースとフェイドが夢幻の混沌ことシャンカラと対峙する。

 リーヴスは冷徹に前に出ず、回復魔法をオルバンとアランにかけていた。

 

「依頼分の仕事はしたと思いますが!」

 

 かけ終わったリーブスが冷静さをかなぐり捨てて叫ぶ。

 まぁ、この最初の奇襲を食らいたくなかったからこそ彼らを突っ込ませたともいう。

 私は苦笑してルーファスに囁く。

 

「この杖の呪文を唱える間、あいつの気を引いてちょうだい」

「わかった」

 

 フルポテンシャルの魔法を私とルーファスにかけている。

 この杖の呪文をかけるから、サイレンスの呪文が使えなかったという事情がある。

 入り口付近に居たリーヴスと彼を守っていたアランにライトニングボルトが貫かれリーヴスとアランが片膝をつく間をぬって私とルーファスは最後の部屋に突入する。

 薄暗い漆黒の部屋の中、投げ込まれた松明が灯りを照らして、シャンカラと冒険者たちを映し出す。

 シャンカラのモンスターレベルは6。

 取りついたティエナのソーサラーレベルは5。

 今、シャンカラと対峙しているのはギースとフェイドとオルバンである程度の攻撃をしてダメージも与えていた。

 

「殺さないで頂戴!

 報酬減額されるわよ!!」

 

「難しい注文だな!おい!!」

 

 私の叫びにフェイドが叫びながらナイフで攻撃してシャンカラにダメージを与える。

 彼ら『駆け抜ける風』の欠点はここにあった。

 前衛に能力と戦力が偏り過ぎて、ルーンマスター系のサポートが薄いのだ。

 彼らが将来壁に当たり、解散するのはこのあたりにもあるのだろう。

 

「っ!?」

「遅い」

 

 シャンカラがルーファスの接近に気づいた時にはルーファスは接近しており、必殺の武器、濡らしたタオルをシャンカラの顔面に張り付ける。

 パンという良い音と共に濡らしたタオルがシャンカラの顔に張り付いて窒息させ呪文ではなくタオルを取る事を選択せざるを得なかった。

 その一瞬で十分。

 

「封印の棒杖よ!

 夢幻の指輪を封印せよ!!」

 

「AAAAAAAAAAaaaaaaaぁぁぁああああ!!!!!」

 

 シャンカラの化け物じみた叫び声から女性魔術師のティエナの声に戻ってゆく。

 床には転がった夢幻の指輪が。

 もう一度呪文を唱えると、指輪はどこからか現れた水晶球の中に入り、永久に封印される事になった。

 

「さてと。みんな生きてる?」

 

 近づいてティエナを確認すると気を失っていた。

 どうやら、この冒険も成功として記録されるらしい。

 

「じゃあ、あと一つだけお仕事をして帰りましょうか」

 

「何だそのお仕事って?」

 

 ルーファスの確認に私は少しだけ真面目な顔になってその仕事内容を告げた。

 魔術ギルドが入れば、それすら許されないだろうからだ。

 

「お墓を作って埋葬するのよ。

 ヴォイドとセレーネのね。

 こんな地下でなく、パダの丘の堕ちた都市が見渡せる所にね」

 

 かくして、この迷宮は魔術ギルドによって厳重に管理封印される事になった。

 また、助かった女性魔術師ティエナだが、魂の泉に全身をつけた事もあって、後遺症もなく元に戻った事を付け加えておく。

 

 

 

 

 

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