オラン王国。
アレクラスト随一の繁栄を誇り、その人口は十万を超える東部の大国である。
そんなオランの街の外れにある冒険者の宿が『古代王国の扉』屋である。
「おーおー。馬車三台って何処の隊商だよ」
「え?これ冒険者なのか!?
こんな成功した冒険者知らんぞ??」
「どこか別の国からやってきたのか?
だったら『黄金と栄光』亭にでも行けばいいのに」
新人冒険者たちが契約内とばかりに一番上の個室に荷物を持ち込んでゆく。
男女用衣類がぎっしり詰まった衣装タンスは奥の倉庫に。
開けると催眠状態になる宝箱には、金塊に魔晶石に宝石を入れて運んでゆく姿で私たちが成功冒険者であるというのが分かるだろう。
「何だあれ?」
「ゴーレム?
あれ銀かよ!?」
それ自体が財宝みたいなシルバーゴーレムが自ら部屋に向かうのはしばらくオランの吟遊詩人の話題になるだろう。
「さてと。
そろそろ行くわよ」
そんな声を私が出して馬車から出る。
ルーファスのソリッドスラッシュと私のアンバーローブは見る冒険者たちに頂点というのはこういうものだというのが分かるだろう。
「うわ。ほとんど女たち着てないぞ」
「娼婦かよ。あんなに連れて」
「成功冒険者ってのは娼婦を連れて冒険成功するんだなぁ……」
なお、破廉恥な恰好なのはジーン・シャミナ・マティアラ・リーマ・クリシィの五人であり、レイアとイジェルファはまだ普通の格好である。
畜生。破廉恥というか肉便器デビューをしたかったのだがアンバーローブがあったのでできなかったのと、馬車内でやっているのをオランの衛兵に白い目で見られてカルダモンに説教されたからである。
「「師匠?」」
最近はカルダモンだけでなくアルミンもドスの聞いた声で説教するので困る。
私のむくれっ面をルーファスが笑い、私たちはオランでの日々を送る事になる。
私たちがオランに着いたと聞いて真っ先に駆け付けたのがオランの賢者の学院である。
未発見遺跡調査の報酬もあるし、持ち帰ったお宝を莫大な報酬に変えなければならないからだ。
という訳で、カルダモンとアルミンを連れて賢者の学院へ。
「あのお方が『ゴーレムマスター』のゼラ導師か」
「『遺跡解放者』としてパダとアンフランの迷宮を解放したって」
「凄いな。あのゴーレム銀製だぞ」
遠巻きに私たちを眺める学院の魔術師たちの視線が。が。
カルダモンの手続きによって当たり前のようにバレン導師の所に通される。
なお、一番避けたかったルートである。
「ようこそ。オランへ。
貴方の高名はオランでも轟いておりますぞ。ゴーレムマスター」
「私としては便女冒険者の方が好きなんですけどね。
そっちの名前を広めるという事は、死霊魔術は隠しておいた方がいいと?」
便女冒険者の方にはまったく反応しなかったバレン導師は真顔でそのあたりを語る。
「死霊魔術はどうしても大衆に怖がられてしまう。
まだゴーレムの方が受けが良くてね。
とはいえ、死霊魔術は多くの資料が散逸してしまった魔術系統だ。
よければその知識を皆の前で披露してくれるとありがたい」
初期の年表とゴージャスなゴブリンのシナリオを思い出すと、まだバレン導師が属する『見つける者たち』はフリーオンに行っていないはすである。
それに絡むことはないだろう。
少なくとも、魔精霊がらみの物語は私の物語ではない。
とはいえ、最低限の知識ぐらいは渡して彼らを助けてやりたい所ではあるのだが。
「わかりました。
先に送った信書についての返事ですが……」
ケイオスランド開拓とオランとオーファンを繋ぐゲート管理の協定はオーファン側は私に一任されている。
というか、私が始めた事業だから私が責任を持てとぶん投げやがったというのが真相である。
ある意味、オーファンと言うのが新興国で剣の国らしいと思ったり。
「こちらとしては断る理由がない。
近く、王宮から担当者が来るので、その場で協議する事になるだろう。
で、だ。
マナ・ライ師が貴方に会いたがっている」
これを恐れていた。
オランの大賢者と話して、色々な事がばれるのがまずいのだ。
未来の崩壊ならまだいい。
転生知識の方にまでたどり着いたら何が起こるかわかったものじゃない。
「止めておきましょう。
私は所詮借り物の知識を用いてズルをしているだけの人間です。
自らこの道を切り開いた大賢者は私には眩しすぎる」
バレン導師の元を去って財宝の換金や褒賞を受け取る。
炎の心臓はルーファスの国になるフレイムの象徴になるかもと思って残しておくことに。
宝箱とシルバーゴーレムと遺跡調査の褒賞は金塊二個分だった。
「ああ。もっと、もっと居たい。
ここで学びたい知識がある。
得られなかった力がある」
帰る時にアルミンが思いっきり後ろ髪を引かれていたので私は誘い水を向けてみる。
「どうする?
残ってもいいわよ。
バレン導師に頼んでもいいし、その金塊一個あれば飽きるまで学べるでしょう?」
真面目な親心のつもりなのだが、アルミンの顔は不機嫌そのものだった。
首をかしげる私にアルミンが言い切る。
「師よ。
それは俺から離れて貴方は新たな知を得るという事か?」
「教室の外で学べる事が多くある事を私たちは師を通じて知ったのですよ」
カルダモンに補足されてそういうものかと話を打ち切った。
帰りの馬車に無造作に積まれた金塊二つにカルダモンが話を変える。
「本当に金塊に驚かなくなりましたね。
城でも買いますか?」
「そうね。
けど買うのは城ではないわね。
そのまま港の方に向けて頂戴」
馬車を港湾区域に向けさせて私は続きを口にした。
「買うのは帆船。
船を買うのよ」