船と言うのは技術と文化の結晶であり、それそのものに社会背景が見える。
たとえば、ロードス島ではガレー船が使われているが、外洋航海はガレー船では不向きであり、『五十隻に一隻沈む』というのはこのガレー船が原因だろうと思っている。
また、西部諸国のベルダインが行ったケイオスランド航海は帆船が使われており、それゆえにケイオスランドに届いた。
アレクラスト大陸は『自由人の街道』があるおかげで海路があまり発達していない。
それは、海賊や嵐だけでなく海上のモンスターにも気を付けなければならない事もあるのだろう。
大雑把な海上交易路はこんな感じだ。
まずはエレミアを起点とする航路で、オラン―エレミアやエレミア―ライデンあたりがある。
オラン―エレミア間が一番栄えているらしく、『自由人の街道』を使うより早く多く運べるのが大きいのだろう。
ライデン、つまり呪われた島ロードスへの航路だが、実はマーファ信者の巡礼航海が航路の中心になっている。
そりゃ、魔神戦争の六英雄でコール・ゴッドでマーファ神をその身に宿した大ニースが健在なのだ。
アレクラスト大陸で話題にならない訳がない。
神を信じるがゆえに礼拝したい信者から、己の箔付けまでこの巡礼船団によってロードスの航路は維持されていると言っていいだろう。
一方で、西部諸国だが、帆船を使う航路はなんとドレックノールとベルダインの航路だったりする。
これも理由があって、犯罪都市ドレックノールはシエント川の河口に当たり、鉱山都市ゴーバの鉱石の河川搬送の終点なのだ。
ここから鉱石は船でベルダインに送られ、加工されて各地に送られる事になる。
なお、ドレックノールとその隣のザーンの仲は良くないというか悪い。
重たくて大量の量を運ばないとならない上に、ザーンの嫌がらせを回避するためにも、帆船が必要になったという訳だ。
当然、西部諸国から東の航路も開拓されつつあり、やはりマーファ信者によるロードス巡礼航海あたりは行われているが、東への航路という意識はそれほど高くはなかった。
ロマールの西部諸国侵攻で目覚めた事で、一気に西部諸国とロマールが繋がった訳で。
今や西部諸国とロマールを軸に海軍力という軍事を背景とした物流革命が起きようとしていた。
つまり、船不足の造船ラッシュがオランでも発生していた訳である。
「今、船は見ての通り作っても作っても足りない始末。
どれぐらい時間がかかるか分かりませんよ」
造船所の棟梁は私に向かって首を横に振る。
理由は、ある意味当然の事だった。
「ロマールが西部諸国に攻め込んで、ベルダインやガルガライスに物資を送らないといけなくなった。
大軍の維持は自由人の街道だけじゃ足りないんですよ。
最初はベルダインやガルガライスの船を使っていたんですが、当然自前の海軍を持つと考えるが、内陸国だったロマールに大規模造船設備はない。
で、ロマールの奴ら、エレミアから船を買いつけた。
今、ここで作られているのはその補填用なんですよ」
こっちに来て知ったが、東部側も航路がないという訳でもなく、オラン―サラスタのアザーン諸島航路があるし、アザーンからアノスやイーストエンド、ムディールに繋がる航路もあるのだ。
「ちなみに、待ってできるまでどれぐらいかかりそう?」
私は棟梁に銀貨の入った小袋を手渡す。
中身を確認した棟梁は少し考えて口を開いた。
「普通ならば急いで二か月。
予約もあるから、半年って所かな」
そこまで言って棟梁は声を落とす。
銀貨の小袋分の情報料がこれらしい。
「本当に急ぐならば、海賊を討伐した方が多分早いよ。
賞金が出るし、船については処分は討伐者に任されている」
なるほ……ど?
棟梁に銀貨を払った甲斐があったというものだ。
「ちなみに、船の修理や改修の場合はどれぐらいかかるの?」
「一から作るのよりは早いけど、一月はほしいな」
「ありがとう。
また来るわ」
棟梁と別れると、私の後ろで置物と化していたカルダモンが口を開き上流階級出身のアルミンが突っ込む。
「つまり、どういう事なんです?」
「海賊は全員縛り首が基本だ。
そして、船員ってのは専門職だ。
つまり、船だけならオランの海軍に使っていない奴がある可能性があるんだよ。
ですが師よ。
その船員をどうやって見つけるので?」
「まぁ、おいおい考えるわよ。
とりあえず、ノルン卿に船でもねだってみましょうか」
エリサーナの件で強く出られた事もあって、海賊船を譲ってもらう事ができた。
痛みがあるがそれは修理に出せばいいとして、港にある船を見て思った。
これ、キャラベル船だ。
投石器にバリスタ装備……明らかに海賊にしては装備が整い過ぎている。
「アノスの航路を襲っていた海賊で、アノスの船と戦って逃げた際にオラン側に流れたみたいなのよ。
で、そこで近づきすぎて荒らしていた所を捕まったと」
なお、海賊は全員処刑済みである。
アノス側にも外交的に話が来ていたし、船長室にこんなのが飾られていたらそりゃファリスを国教にしているアノスはブチギレだろう。
外されたファラリスのホーリーシンボルの痕を軽く小突いて、私はその海賊団の名前を告げた。
「『赤き血の兄弟団』。この船の持ち主だった海賊の名前よ」
まだミルリーフの騒ぎが起きていない事に安堵したのは内緒である。
ロードス島のガレー船
『呪縛の島の魔法戦士』より。
マーモ帝国の私掠船。
三層のガレー船で船員は十人以上。
三段櫂船だと乗員は二百人ぐらい。
ケイオスランド航海
『混沌の夜明け』より。
船の乗員データ。
六人の騎士、四人の従士、三人の志願者、七人の水夫、三十二人の囚人で五十二人。
『石巨人の迷宮』の『魔宮の門』に出た「海竜の角」号
二本マストの中型帆船で船員が三十人。
こいつをベースにしている。
『赤き血の兄弟団』
『虹の水晶宮』より。
船長や船員のデータはここから利用する予定。