『風を追う者』がやってきたその日、海底洞窟への通路整備が完成する。
ストーンゴーレムは通路に持っていけないので、海底洞窟内部に着いたらテレポートで持って行く事に。
ベースキャンプにカルダモンとイジェルファを残して、翌日から探索を開始する。
狭くてくねくねした道を五時間ほど下ると、やっと広い海底洞窟に出る。
「少し明るいな」
「光る苔が灯りになっているのよ。
休憩できそうな場所があればいいんだけど……」
ルーファスのぼやきに私が返事をする。
薄明りの中、瓦礫となった遺跡跡が見つかるのでそこをひとまずの拠点とする。
「何かあった?」
「そこそこの宝石とか装飾品は見つかるんだけど……」
「あ、アミュレット発見!」
うちのシーフ連中がたくましく遺跡漁りをしている中、男連中は宿泊用の拠点準備に入る。
崩れた石を積んで、火が起こせる場所づくりだ。
私はテレポートで上に飛ぶ前に、最低限の注意喚起をする。
「いい、水辺には近づかない事。
シー・ワームって化け物がいるから。
あと、マーマンとマーメイドには手を出さないように。
そのアミュレット『タング』の魔法がかかっているから会話するならそれを使えばいいわ」
「シー・ワームは潰さないのか?」
「潰してもいいけど、酸をかけられても知らないわよ」
スティックの質問に私はそれだけ返してテレポートでゴーレム工房に。
ウッドゴーレム三体とストーンゴーレム三体をこの地下に運ぶ間、拠点を作った男連中が腕試しとばかりにシー・ワームに挑んでいたが六体も出たらしくて大苦戦したらしい。
何をやっているんだか……
そんな感じで洞窟内で一泊。
集まったみんなに、そろそろこの遺跡の事を話すことにした。
「ここは古代魔法王国時代にあった水上都市跡で、その水上都市が水没した場所にできたのがカゾフの街という訳。
街の地下にもこの遺跡跡があって、そっちは大体冒険者たちによって採りつくされたんだけど、海に沈んだ方は結構残っていてね。
そんな遺跡の一つって訳」
いつもならば裸でピロートークついでにという感じなのだが、さすがにみんな服を着て真面目に私の話を聞いている。
この遺跡がある意味今いるみんなの冒険の最後という事になるのは『駆け抜ける風』も聞いたらしく、その最後の冒険にふさわしい大舞台という事を察したのだろう。
「水上都市の太守ハラド。
その彼の離宮がここよ」
誰かの喉が鳴った。
私以外誰もしゃべらない。
古代魔法王国太守の離宮ともなれば、どれほどの富が眠っているのかを考えない冒険者は居ない。
「太守ハラドは闘技場で奴隷を戦わせるのに飽きて、やがて家臣を魔法戦士にする事を思いついた。
古に残る『魔戦士』の称号。
それを成し得た知力に優れ、剣の腕前と勇気を兼ね備えた最高の戦士には栄誉だけでなく望み通りの褒美が与えられたそうよ」
私はバードスキルで古の伝説を謳う。
ルーファスの体がびくりと震えたのが分かった。
「まぁ、その先の話は実際にお宝を見てからにしましょうか」
私は口を閉じて微笑む。
そのお宝は、どうせ明日には見れるのだから。
島に来てから五日目。
私たちはついに離宮に到達する。
離宮そのものは水没していたのだが、その離宮の隣に作られた闘技場はかなり形が残っていた。
まずは離宮周辺の調査で、お宝になりそうなものを回収する。
沈んだ離宮のある水たまりにはマーマンたちが住んでいて、離宮の調査については断念する事にした。
そして、本命の闘技場に足を運ぶと、一同その内部の幻想に我を忘れる。
闘技場の幻影。剣士たちの命がけの戦いに熱狂する観客たち。
その幻影が覚めると、後に残るのはこの朽ちた闘技場とその中央に置かれた門のみ。
「すげぇ……」
ラダの声の先には貴賓席の一組の玉座に注がれる。
紫水晶を削り出し、背とひじ掛けには翼を畳んだドラゴンの小像が埋め込まれ、強力な保存魔法がかかっているこれは、持って行く所に持っていけば国が買える価値があるだろう。
「この玉座を持ち帰るために、ストーンゴーレムが必要だったのよ」
この玉座を取り外すために貴賓席周りを調べる。
ありがたい事に、ドワーフのサムスが石細工のクラフトマンだった事で、貴賓席そのものを外す事はしなくていいみたいで、貴重な貴重なこの王座は賢者の学院に送られる。
かくして、冒険はめでたしめでたしで終わる……訳もなかった。
「ゼラ。
そろそろ話してくれないか?」
大体こういう時に話を切り出すのがルーファスなのは、彼が英雄だからなのだろう。
その日の夜、闘技場での一夜だが、警戒を名目にこの闘技場にさらにストーンゴーレムを六体も置くという過剰警備ぶりにみんな察していたのかもしれないが、一応私はごまかす努力をする。
「何を?」
「ゼラが隠している事」
シャミナ・マティアラ・リーマの三人がじと目で私を見る。
まぁ、抜け駆けの前科があるので私も苦笑するしかない。
肩をすくめながら、実にわざとらしく弁明する。
「今回は抜け駆けはしない。
けど、放置できないものがあってね。
それに触れさせないように、ゴーレムを配置している訳」
そう言って闘技場中央にある門を眺める。
皆がちらちらと気にしていた門で、あの先に何かあるのだろうと察していたものである。
「魔戦士。
その試練があの門の先なんだけど、問題があるのよ」
「もんだい?」
グラスランナーのマートがオウム返しで繰り返す。
彼が一番行きたがっていたのはグラスランナーの習性である面白そうなことに反応していたのだろう。
「まず一つ目。
与えられる魔戦士の称号と褒美は、その時門に入った一人にしか与えられない」
私の言葉に反応したのはカルダモンだった。
「ああ。
大人数で入ると、その褒美で仲間割れが勃発しかねないのか」
「そういう事」
なお、これはシナリオでも示唆されており、だからこそ私はラージャンスをここから遠ざけたのだ。
金なんていくらでも得られるのに対して、この褒美は金以上のものを得られるチャンスでもあるのだ。
「で、私が抜け駆けをあきらめた理由なんだけどね」
「やっぱり考えていたんだ。抜け駆け」
ジーンのツッコミを私は無視して、私があきらめた理由を告げる。
その理由に皆、私とルーファスを見る事になった。
「この試練の最後、入った人のコピーと戦う事になるのよ」
「……つまり、最後で待っているのがゼラとルーファス?」
「入った人間のコピーだから、クリシィもルーファスと一緒に入ったら出て来るわよ」
「うわぁ……」
大勢で入ると、コピーのルーファスと私に蹂躙される上に、魔戦士の栄誉と褒賞は一人だけ。
実にたちの悪い試練である。
「ゼラ。
俺は行きたい」
それでも、ルーファスは言った。
そう言うのもどこか分かっていた。
「ついていくから」
「当然」
結果、冒険はここでおしまいという形にして、門に挑むのは私、ルーファス、クリシィ、シャミナの四人になった。