私をずっと大切に守って育ててくれた両親は、夫婦ではないらしいと言うのは分かってたの。何かにつけて揶揄うように私を拾った日の事を〝光ってたから灯りにしようと思った〟なんて、イゾウ父さんは言ってるけど……本気じゃないのも分かる。
だって、イゾウ父さんは灯りなんてなくても夜の竹薮を平然と歩けるもの。でも、それだけ何度もイゾウ父さんが私の事を光を放っていたと言うなら、それだけ私が可愛かったって事よね。
普通に考えて、光ってたと言うのは比喩表現。可愛い女の子が捨てられていたから、思わず拾って帰ったと言うのをそうやって誤魔化してるんだろうって事は分かるつもり。
……本当に、親馬鹿よね。まぁ、私もイゾウ父さんとナース母さんの事大好きだから、分からなくもないけど。
そんな事を考えながら、そっと温泉に浸かる。少し前までは無かった竹で作られた目隠しは、恐ろしい程の圧迫感を与えてくれるけど、これが無いと文字通り血の雨が降るのだと言うから仕方ないのかな。
私にも流石に、両親がいないと産まれられない事は分かる。イゾウの羨ましい程の黒髪を見れば、血を継いでないのはよく分かるけど……。
なら、私の両親は誰で、何処にいるんだろう。そう考えた時、月に呼ばれた気がして視線を向ける。
月に……呼ばれてるような、そんな気がする。そんな訳ないよねと、何度も頭を横に振るのに、不安感は増していく。
どうして、こんなにも……不安になるんだろう。私、帰らなきゃ……いけない気がするの。
もしも本当に月に帰ると言うのならば、私は人ではないという事になる。……それはそれで、なんだか、納得いかないわ。
それに、本当に月から迎えが来るなんて言ったら、イゾウ父さんは月を撃ち壊すような気がするのよね。そして、ナース母さんは、私を監禁でもしそう。
……うん、やりかねないわ。二人とも何か変だもの。
でも、私はそんな2人の事が大好きなのだ。何があっても、離れたくないと願うくらいには。
私を二人がこよなく愛してくれているのは、よく分かっているのよ。だって、この間も私への求婚者を全員追い払って、それでも残った五人の貴族に無理難題を言い渡したのだから。
当然、誰の目にも明らかな無理難題なんて誰もクリアなんて出来なくて……。被害者の中には、笑い者になってる人も居る事を知っている。
この事の何が悲しいって……もしそれで、その試練を乗り越えるのがいたら……本当に私を誰かの〝お嫁さん〟にしてたかもしれないって考えちゃうところ。そして、そんな風に考えてしまう私自身の浅ましさが悲しいし、その人達に申し訳ないのよね。
人の噂は誇張されてるから本当かは分からないけど、怪我した人がもし、イゾウやナースを怨んだら……二人に何かあったらと思うと、それが怖いの。……何よりも、人様にご迷惑かけるなんて許されないわ。
「おや、入ってたのかい?」
「見ての通りよ。私がお化けじゃないなら入ってる筈ね。……あ!湯加減は最高よ!」
「口の減らない子だ」
「口は1個しかないのよ?減ったら無くなっちゃうわ」
会話をしながら、温泉の奥まで飛沫が出ないようにそっと泳いで行く。そうして奥に到着してから振り向けば、驚く程にいい身体をした父がいる。
……そう、この人は父親なのだ。例え、血は繋がってなくても。
今、ナースとは男女の関係では無いと言っても、やっぱりいつかはイゾウにも相手はできるだろう。そうなった時も、私を変わらずに愛してくれるだろうか?
顔は言うまでもなく美しくて、隠居してるのもこの顔が原因じゃないのかなって思う程。町に降りる度に黄色い悲鳴があがるのだから、世間的に見ても翁と呼ぶのがおかしいくらいにいい男なんだと言うのはわかる。
「……あんまり見るなよ」
「良いじゃない。減るもんじゃなし。私としては、怪我とかしてないか心配なだけよ?温まったら教えてね。背中洗ってあげるから」
「それはありがたいな。お礼に、俺もナミを洗ってやるよ」
「ふふっ!ありがとう」
互いに背中や頭を洗い合う事が多いけど、私は洗ってもらうと安心するし、気持ちいから凄く嬉しい。逆に洗ってあげるのは、無防備なイゾウに触れられるからそれが嬉しく……て?
なんで、嬉しいんだろう。私って、イゾウに対してお礼の気持ちで洗ってるんじゃないのかな?
「ナミ?」
考え込んでたら不思議そうな様子で呼ばれるから、それに笑ってしまう。これで、怒ると般若さえ裸足で逃げ出す程だと言うのだから、人間とはわからないものよね。
そんな事を考えながら、言葉は別な音を紡ぐ。私も器用になったものだわ。
「イゾウって、美人さんよね」
「それは否定しないが、ナミは可愛いよ」
否定しない所がイゾウよねと思いつつ、苦笑してしまう。そうして、つい、いじけたような声がもれる。
「美人の方が価値高いと思うわ」
「可愛い方が有利だよ。美人は三日で飽きるが、可愛いものは永遠に愛でていたくなるものだからな」
「そうなんだ?」
美人さんってそれだけで物凄い力だと思う。相手を簡単に黙らせられるし、威圧するのも虜にするのも簡単だもの。
そんな事を思ってた私に、イゾウは笑う。妖艶な色香を漂わせながら。
「それよりもナミは先に、警戒心を身に付けないと、鬼さんに喰われちまうよ」
「……イゾウとナースが守ってくれるから、食べられないわよ」
「その鬼が、俺だとしても?」
「イゾウになら、食べられてもいいよ。……痛くしないでね」
足の指先からジワジワと食べられるとか、指をもぎ取りながら食べるとかじゃなくて、頸動脈を1思いにやって欲しい。そう思って言ったのに、イゾウが何故が温泉の中に沈んで行くので慌てて近付き抱き上げようと腕を伸ばす。
そんな私の行動に逆らわず、素直に助けられたイゾウは困った様子で微笑んだ。その表情に見惚れていると、何を思ったのかイゾウがそっと体勢を整えて私をお風呂から出してしまう。
その事に驚いている間に頭からお湯が降り注げば、そのまま身を任せる他の選択肢は消える。繊細な仕草で私の頭を洗ってくれるイゾウは、顔なんて見なくても優しい顔をしている事を私は知っているのだ。
「俺達の傍から、離れるな」
「それなら、お嫁さんに行かせようとしないでよ」
「行かせない為に、やってる事さね。……次は、俺の事を洗ってくれ」
「うん、喜んで」
そうして無邪気に笑うナミと、色々な意味で困っているイゾウはそれでも楽しく入浴をする。互いの中にある感情は、それぞれが自力で消化する他ないのである。
─────
人様を傷付けたりしちゃいけません!!と、叱られた数日後。求婚者が殺到するようになっても恥らう事もなく、警戒する素振りも見せないナミと入浴して……俺は自分を褒め讃えたい衝動に駆られている。
ナースから〝ナミも年頃なのよ!〟なんぞと言われて共に入浴できなくなって久しい。それがためか、成長したナミの肉体は俺の心と身体を強く刺激して来た。
生意気で、無防備。怒りで犯しそうになったのも1度や2度じゃないが、それは親としてできないと必死で自制している。
「ナミは、警戒心を持たなさ過ぎだろう」
「子供だもの。仕方ないわ」
「性教育を行うべきだろうか」
「知識は持ってるわよ、私が教えたもの。……まさか、義父が自分を襲うなんて事は、純粋なナミにとって想像もつかない事なだけよ」
ふふんっ……と鼻で笑れてしまえば、それもその通りだと思い知らされるばかり。それでも、改善策等ある筈もない。
そもそも教えられた事は明らかに医学知識よりで、感情の機微については配慮が無さすぎる。本当に駄目な母親代理であると言えるだろう。
俺は俺に逆らうナミを怒りのままに襲うような事はしたくはなかったから耐えたが、そもそもナミが可愛くて他の誰にも触れさせたくなど無いのだ。この家から出さずに、誰の目にも触れさせず、大切に愛でて可愛がっていたいと願うのに、何故こうも上手くいかない。
俺達が喜ぶからと、日々家事や炊事をこなしてくれる小さなその姿が愛しく、成長しても小柄なままのその姿にやはり誰にも傷付けさせたりはしないと強く思う。その程度には、ナミに対する独占欲と庇護欲を自覚していると言うのに。
己が不甲斐なく思えて呪わしい。俺は昔から、何も変わっていないのか。
そう思った時、ナースが言葉を向けて来た。本当に、意地の悪い女だよ。
「イゾウは、代父や義父の仮面が壊れてるわね」
「そんなもの、何の役にも立ちはしねェさ」
喉で笑う俺に、ナースは呆れた視線を隠そうともしない。だが、そんな俺達はまだ知らなかったのだ……これが、嵐の前の静けさである事など。
─────
イゾウが人様にご迷惑をおかけしたらしい事を知って半月程した頃、この国の王様……帝と呼ばれる人のお使いが来た。その人は内侍中臣房子って名前らしい。
勿論と言うか、当然の事としてその人の事をイゾウは門前払いした。いやもう、文字通り本当に門を通さなかったのよね。
それでもめげないと言うか、お仕事に忠実と言うか、それからも毎日のようにその人は来た。来る度に色々持って来るけど、それに対して持ってきた物を貰うだけ貰って追い返すその姿は正しく鬼神。
「ナース、大丈夫なのかな、あれ?」
「撃ち殺してないし、大丈夫よ」
「殺しちゃダメでしょ!?まったく……」
殺してさえいなければそれでいいとでも言わんばかりのナースに、流石に焦る。でも、言っても無駄なのは長年親子をして来たから知っているのだ。
困った人達だわ……と溜息を落としたその時、ナースも溜息混じりに言葉を紡ぐ。それは、少し不思議な単語を含んでいた。
「あんなのを送ってくる帝が悪いのよ。坊やは本当に成長しないわね」
「あれ?帝さんと、お友達なの?」
「帝さんって……。うーん、そうね。帝の死んだお兄さんと私とイゾウがお友達だったのよ」
帝と言うのが位を意味するから、さん付けしたらおかしいらしい事をそのついでに説明される。でもって、この国で1番偉いから様はつけても良いけど、基本的には帝って呼ぶのが正しいらしい。
それにしても、帝のお兄さんのお友達かぁ。そんな人達がどうして、こんな山奥で隠居してんだろう?
そう思って質問を投げかけようとしたけど、それよりも早くナースがイゾウに洗濯物を押し付けに行ったので、その質問はされないままに終わった。そんな騒動もあり、イゾウは時折苛立ちを隠さなくなっていったけど……そんなのは正直どうでもいい。
ただ、無言で見詰めてくる時のイゾウの眼差しが、怒りではない何かを含む時があって、それが怖い。……どうしてイゾウが怖いのか、私にはそれが分からなかった。
それでも、離れたくないのだ。私は、イゾウの傍にいたいと……願っているの。
「ナミ」
「イゾウ?」
「ナミが可愛すぎて、泣かせちまいそうになる。俺から、逃げた方が良いだろうと思うが……どうだ?」
「イゾウから逃げるなんて、考えた事も無いわ。傍に、居させて」
イゾウが持て余している感情の答えを、私は知らない。でも、ここで逃げ出したらきっと……イゾウの心は壊れてしまう。
そう思って伸ばした手は、イゾウに触れる前に掴まれてしまう。触れられたくないのかとイゾウを見詰めた時、絡まった視線が私の思考と呼吸を止めてしまった。
「無防備が過ぎるよ、お姫さん。このまま進めば、火傷じゃ……すまねェぞ」
「火傷くらい慣れてるわ。……火達磨になるのだとしても、イゾウの傍を離れたくない」
「ナミが、されたくない事をする可能性だってある」
「イゾウにされて、嫌な事なんて何も無いわ」
例え殺されても、私は構わない。私を拾ったのも、育てたのも、今守ってくれてるのも、すべてイゾウなのだから。
イゾウから、愛されてる事はわかるもの。そのイゾウが、私を傷付けると言うなら……きっとそれは必要な事だと思うから。
「イゾウの、好きにして……」
殺されても、構わない。イゾウになら、本当に。
きっとそうなったとしても、私は別な所で生じて……イゾウを想うだろうと分かるから。そう思って笑った時、イゾウが苦しそうに声を出した。
「……救いようのない、馬鹿だな。手放してやろうと思ったのに」
言葉は不自然に途切れて、掴まれていた腕が引っ張られる。それによりイゾウに接近するのと同時に、重なる唇。
それは、文献にある甘いものでも、事故による触れ合いでもない。ただ……未知なる感覚が身体中を駆け抜けて、身体が勝手に震える。
「んっ……ぁ、なに、からだが、へん……」
「ナミ……その顔、他の誰にも見せるなよ」
勝手に潤む瞳により、イゾウの顔がボヤけてしまう。そうでなくても、近すぎて良く見えないのに。
そんな事を考えた直後、顔の距離がゼロになり勝手に涙がこぼれ落ちる。その涙を追うように唇が私の口から離れたけど、涙を唇で掬いながらイゾウに咎められてしまう。
「口付けの
「は、い……」
「なら、続きといこうか」
「まって……!なんか、からだが、へんになる、の……」
「……本当に、煽るのが上手いお姫さんだな。だが、もう、やめてはやれねェ。俺だけのお前になっておくれな」
作注、今回の台詞でイゾウが言う〝お前〟は〝
真っ直ぐに見つめられて、私に拒絶する選択肢はない。ただ、イゾウになら本当に何をされても幸せだと思えるの。
けどね、それよりも……私がイゾウを甘やかしたい。余裕があるフリをして、なのに本当は苦しそうに瞳の奥を揺らす強がりな
そっと抱き締めるように身体に腕を回すけど、全てを包み込む事はできない。それでも、微かに揺れるその動きで……イゾウの心の傷が見えた気がした。
「愛してる。私は、幼い頃からずっと……父として、家族としては勿論、傷を隠してしまう強がりな男の子を……愛してるわ」
「ナミ」
「イゾウに拾われたその瞬間から、私の全てはイゾウのものよ。……簡単に、捨ててしまわないで」
生殺与奪権は全てイゾウにある。でもね、クーリングオフできる期間は、もう既に過ぎ去ってしまったのよ。
付け加えるようにそう言って笑えば、イゾウは私を抱き上げて月明かりさえ届かない所へ隠すように連れ去る。そこで与えられたのは、痛みではなく未知なる快楽。
快楽も過ぎれば苦痛なのだと教えられ、けれどもそれが嫌だなんて思えない。イゾウが、私を求めてくれているから。
行為の途中、幾度も呼ばれた名は、多くの人が呼ぶ通称では無く、家族だけが呼ぶ
何があっても離さないと違うように言葉を紡ぐイゾウの瞳には、既に悲しみや痛みはない。指一本さえも動かすのがつらいのに、その現実が幸せで……私の頬は自然に笑みの形を作っていた。
その日の午後、眠る私の近くでナースの怒号が響き渡ったけど、私は泥のように寝ていて起きる事ができないでいた。そんな幸福な日常が、永く続く事を心から願っているのに、私では無くイゾウに出向いて来いと帝からの勅使が来るとは何とも因果なものである。
─────
可愛くないと言えば嘘になるが、それ程深い付き合いでもなかった少年の元へと出向く。すると、太陽のような笑顔で手招く少年を見付けた。
その笑顔は愛した友を彷彿とさせ、身体から力が抜けそうになる。これが、この国の王だと言うのだから何とも言い難い気持ちにもなろうと言うものだ。
「久しぶりー!んでもってさ、なんで会わせてくれねェんだよ?」
「俺の娘だぜ?」
「それ、すっげェ美女に決まってんじゃねェか!なんで隠すんだよ!あ!お前達は下がっていろ」
そう言って周りの人間を下がらせてから、飛び付いてくる明るい少年。こりゃ、何を言っても無駄か。
そうは思うが、俺の娘は名目で……既に俺の女だ。自分の女を献上する趣味を俺は持たない。
「輝姫は駄目だ。俺の娘として育てたが、実質今は俺の女なんだよ」
「なら、その後でも良いぞ。俺は嫁取り急いでねェから」
「は?」
「飽きてからでいい。その頃には成熟した妖艶な美女になってんだろ。俺が1から育てるとか無理があるから、ちょうどいい。ま、とりあえず会わせろよ」
ナミに限っては、飽きるなど有り得ねェ。だが、それを納得させられる筈も無い事は明らか。
未来は誰にも分からない。確かに普通に考えれば、未成熟な女を妖艶な女に育てて、飽きた時捨てる貴族は多い。
そうなってから献上するのもまた、出世を望む貴族には多いのだ。とりあえず、諦めさせる為にも会わせるのが早いか。
因みにこの時代、性に関しては本当に奔放であり、父親が誰だか分からなければ、その中で1番都合のいい相手に〝あなたの子です〟と言えば、言ったもん勝ちな時代でもあった。なので、女の讓渡等は差程珍しくも無い事案である。
男が女の家に通うのが当然であり、男に身分が無ければ婚姻後も女は実家で暮らし、男は子供に会う時と女を抱く時だけその家に行くのもまたよくあった話。その分、金銭は多く届けられたので、ある意味では理想的とも言える子育ての手法かも知れない。
「……俺の子を孕んでたらどうするつもりだ?」
「姫なら美女だろうし、御子なら美しさも武器になるからちょうどいいだろ。俺は、能力のある奴が跡を継ぐべきだと考えてるから、血はどうでもいい」
「帝がそれ言っちゃ、不味いだろ」
「イゾウが惚れた女なら、いい女に決まってる。……飽きてからでいいんだから、くれよ」
この時代、女に人権はない。男の意見のみで全てが決まる時代である。
その後の会話でイゾウは友の面影に負けて、ナミと帝を会わせる約束をして帰宅した。そこで事情を説明するも、その瞳に涙を溜めて、捨てるくらいなら壊して……なんて言われたので、壊してやる勢いで部屋に篭ったのは当然の成り行き。
完全に意識を奪われたナミを横目にイゾウが書を認め、帝へと届けさせたのはイゾウの最後の足掻きなのかも知れない。直後、寝言でイゾウを呼ぶナミに獣のように覆い被さった所までが、この日の流れである。
─────
届いた書状を見て、帝……ルフィは笑う。余計に欲しくなったと思いながら。
『帝がお召しになって仰られたとしても、畏れ多いとも思いません』
『多くの人を殺してきた心であるよ』
そう返事を出して、その心を傷付けてみようと試みたが相手は頑なに会う事すら断る。その固くなさが、余計にその身を求めさせている事など、文を書いても居ない輝姫に分かろう筈もなかった。
その同時刻、ナミはイゾウから顔を背けて蹲っていた。端的に言えば、他の男に足を開けと言われているのだから、そうなって当然とも言えるだろうが。
「無理にお仕えさせようとなさるならば、消え失せてしまうつもりです」
「支えろなんて言わないさね。ただ、会ってそれを拒んでくれりゃ「イゾウが断っても聞かないのに、私の言葉など届く筈も無いじゃない!結局イゾウは、私を帝に献上して厄介払いしたいのよっ」ナミ……そんな筈無いだろう。……ナミは、俺だけのお姫さんだ」
そうして暑苦しい時間が始まるのは当然で、その終わりは見えない。それでもイゾウもこのままにはできない事を知っていたから、1度は会わせるしかないと内心で溜息を吐き出していた。
それに対して帝は、会えば確実に自分のモノにできると信じて疑わない。帝……ルフィは、だからこそ帝足り得る存在なのであろう。
二人はどうにか、帝と輝姫を会わせようと考える。思惑は正反対でも、途中経過としては同じ事を望んでいたのだ。
そしてルフィとイゾウは、狩りに行幸するふりをして会う事を決めた。そして……その作戦は成功する。
家の中で琴を演奏しつつ歌う輝姫を見たルフィは、心を奪うつもりが奪われた事を理解する。これ迄に見た誰よりも美しいその姿に手を伸ばした時、輝姫は光だけを残して姿を消した。
イゾウ達に精魂込めて大切に育てられたナミは、剃と月歩を使いこなして触れられる直前に逃げ出しただけなのだが。だが……それがルフィの心に火を付けた。
結局ナミはルフィに捕まる事無く、逃げ果せる。ルフィは次こそ捕まえてやるからな!と言い残して去って行った。
それからはとりあえず意思疎通を図る為に、ルフィは文通を始めた。こうして輝姫は帝と言う文通友達を手に入れ、愛しい翁とその相方の傍で幸福な気持ちのまま三年の時を過ごしていく。