地下フロア。大型機械搬入用と思しきエレベーターは使用せず、端の階段で降りるのは定石だ。更に区画が区切られ、エレベーター正面の開放状態のままの鉄扉から甘く、またかび臭い匂いが漏れ続けている。タタタタとかポンと言った軽快な発砲音がそこらじゅうで鳴り続けており、先遣隊は戦闘を始めてしまった事が分かる。
「バグダ―!」
「ベーコンノフライ音!」
「撃テ、撃テ」
「汚物ハ消毒ダー、火炎放射器モッテコイ!」
遊んでいるわけではないが発言は遊んでいる陸軍妖精たち。一番いい小銃を構えたり擲弾砲を膝撃ちしたり、砲の尾栓から標的を覗いて見たりとやりたい放題である。そこへ階段を下り切ったあきつ丸が、さらに兵力を展開する。歩兵部隊、装甲車に戦車隊。全てミニチュアサイズでありながら、実際に要塞を攻めても陥落せしめるバッドカンパニーどもである。あいにくと戦闘ヘリやミサイルはなく、大元の話の様に局地戦用熱核地雷もないため、武装の威力はともかく戦力的には多分負けるのだが。
「戦車、前へ!」
言葉とともに戦車隊―指揮車らしいあんこうのエンブレムを貼り付けたⅣ号戦車が多種の車両を引き連れて前進する。あきつ丸本人も遊び過ぎと言えるが、それくらいしていないとやってられない、というのが彼女の心境だ。鉄扉の両側に二手に分かれた機動戦力、歩兵部隊が貼りつく。前衛を買って出たセイバーもその片方つくが、開放部をセイバーが走り過ぎた直後、搬入用エレベーターの壁に大穴が開いた。砲撃である。
「今のは12cmの発砲音!?誰でありますか?!」
深海棲艦か、洗脳状態の艦娘か?正規の装備ではない陸戦隊は、あきつ丸と視界を共有できない。遅れて鉄扉のあきつ丸側についた雁夜に凛、憲兵の佐竹。
「やばい?」
「艦娘か深海棲艦か・・・」
一旦全戦力を入り口側に退かせ、あきつ丸が手鏡で様子をうかがう。直後にまた砲撃が行われたが、差し出された手鏡には当たらずエレベーターの奥の壁に再び穴が開くだけだった。醜悪なイ級の面が映る。
「深海棲艦―イ級でござるが」
砲撃が散発的に飛び始めるが、精度は極端に悪く壁に穴を開けるばかり。そもそもイ級はオブジェのように頭を上に向け、口の砲はこちらに向いていない。鏡の角度を変えてみれば、資材を無理やり溶接したようなおかしな再生の仕方をしたように見え、未再生の部分から芋虫のような刻印虫が這い出してはこちら側へと向かってくる。小銃や火炎放射器で陸戦妖精が対処しているので、かなりの数いる刻印虫も扉を越えて外に出られない状態だ。
「イ級と刻印虫の悪魔合体とか誰得でありますか・・・」
やはり専門家を呼んできて正解だった、と安堵しかけるあきつ丸だったが、工事用の鋼材などを台に、上に載せられている犠牲者と、ばらばらに配置された3基の12cm単装砲に目を剥く。装甲されたテスト用制御盤とそこまでつながる配線が、鋼材で隠されているのが分かるが、陸戦隊の銃撃や砲撃でも簡単には切断出来そうにない。当然最終的にはイ級へとリンクしているはずだが。間接的な接続のため、狙いがまともに付けられないらしいのは救いである。
「自分とセイバー殿で前衛ですな。救急隊は手配済みですから、佐竹に凛殿と雁夜殿、被害者の運び出しをお願いします」
矢田は地上で妖精陸戦隊一部とともに待機中だ。
「刻印虫は「虫除け」でなんとかなるが・・・」
「まず砲を潰しますので、運び出しそのものはその後で」
セイバー及び陸戦隊に合図を送り自身も日本刀を抜いて正面に立つ。軽快な発砲音による戦場音楽が再開し、ミニチュアの戦車が刻印虫を引き潰し始めた。原典版の刻印虫が視界の端で引き潰され、心胆が冷える彼女だったが、それを押して「呼吸」を整える。
砲撃音に対し一閃
ただの鋼が12cm砲弾相当のそれを弾いた。隣ではセイバーが不可視の剣で同様の事をやっている。
「やりますね」
セイバーの感嘆の声には答えず、呼吸のサイクルをより厳密に整える。数撃ちゃ当たるとばかりに単装砲群が砲撃を繰り返すが、そのすべてが倉庫の壁に穴を開けるだけに終わった。とはいえ、弾切れにも思えない。
「やはり、使わざるを得ませんか。突貫しますので、この場をお願いします」
一呼吸、直後あきつ丸は駆ける。床、寝台もどき、鋼材、コンクリートの柱を駆け上がり、天井さえも足場に。そしてわずかに露出した配線の上に着地。ついた掌より火花が散り、単装砲の動きが止まる。単装砲そのものが壊れたわけではない。制御盤内の回路が破壊されたのである。
ギイイイイ
「ちっ、接続していても末端部までですか。どっちにせよ概念上は戦中艦、EMPはほぼ効果なしでありましょうが」
イ級の頭部?が体勢を変えようとのたうち回る。口内の砲を入り口に向けられない状態で異常再生しているためだ。ぼたぼたと再生しながらも開いてしまっている傷口から、肉を食みながら刻印虫が落ちてくる。
「やれやれ、実態は共食いとは」
倉庫の最奥側、当然虫ももっとも多いが紫電を走らせたのと同じ手を仰ぐように振るう。突風が壁に虫どもを叩きつけた。
「セイバー殿!」
砲が機能を停止した段階で、3人の「人間」も倉庫内に突入している。陸戦隊も駆除を続けており、あとは消化試合だ。憲兵の佐竹の前で、止めを「駆逐艦セイバー」に譲る。高速で接近したセイバーが剣を振るい、イ級の首が落ちた。
「あきつ丸でもできたでしょうに」
虫を踏みつぶしながらの問いに、
「そうしたいところではありましたが」
つ、と口の端から血を垂らす。
「用心して艤装を展開せずに使用しましたが、それでも紫電掌は反動が大きすぎました。連続で烈風拳までついやってしまいましたし」
艦娘の出力で紫電掌を使う。出力と耐久力のバランスが、あきつ丸だと悪かったようである。現状、日本刀で駆逐艦を斬鉄で斬るのは無理、との判断である。駆除の段階なので、先ほどよりもペースを落として刀を振るうが、精彩を欠く。
「艤装・・・お・・て」
運び出される少女が、痩せ切った手で佐竹の腕をつかんだ。
「わた・・・・える」
「もう大丈夫だ」
凛の目には手遅れに見えた。これは、もう全て焼かなければならない段階ではないのか?と自問するが、それに戻って来るあきつ丸が答える。
「冬木の鎮守府での準備は終えてる頃でしょう。元々が艦娘であります」
どういうことか?と彼女を見れば
「再建造すれば、少なくとも体は治るであります。その程度の目算、自分如きでも可能でありますよ」
そのために藤村提督とともに慎二を冬木鎮守府に戻らせたのである。資材とバケツは後ほど特務から補てんする算段だ。
「それでは、あとはバルサンですな」
身もふたもない言葉で、事態終了を告げる彼女であった。まあ逃げた奴もいるとは考えているので、あとは定期的な駆除と確認を「専門業者」に依頼するわけだが。あきつ丸の視界には、元艦娘を載せた担架の片側を持つ、間桐雁夜の姿が映っていた。
「んあ?」
大体の調査・取り調べも終わり、全ての艦娘を自室等に戻らせた舞鶴第4にて。天龍も自室で反覚醒状態でまどろんでいたが、ノックもなしに開いたドアに反応する。
「がんばりました」
「はが?」
痛覚耐性は、艦娘でまちまちだ。痛み出した右腕に、モルヒネを打たざるを得なかった天龍は現在、大分ダウン状態である。突然の来訪の上発言した加賀に、ろれつの回らない口で尋ねる。
「へむへないほは?」
「わたし、がんばりました」
ない右手で手招きしようとし、動かない?と首を傾げる天龍。仕方ないので左手を投げ出すようにベッドの空いた部分を叩き、今回の作戦で目立たずともがんばった加賀にこっち来い、と伝える。閉められていないドアの向こうで何か騒いでるように天龍には聞こえたが、すぐに静かになり、ドアも外から閉じられる。ぺたぺたとスリッパの音をさせて加賀はベッドに近づいた。なお修復用の資材は、補綴用骨格も含め現在特務課が調達中だ。
「いっしょにねてやるはら、ほれで我慢しへくれ」
言われるままに天龍の横に潜り込む加賀。流石に大破状態から変化していない天龍に、おイタは控えたようではあるが、もう離さないとばかりに抱え込んでしまった。まあそれ以上先には進まなかったわけだが。
室外にて。
「たいちょお」
女性憲兵の泉に、加賀に突破されたことを泣きつかれている後藤。
「あー、ほっといてやれ、泉。まあ天龍は重傷のままだし、看病に一人付けたとでも記録しておけばいいでしょ」
後藤もそうなだめるものの
「あの恰好でうろつかれるのもまずいよなぁ」
と加賀が胴着の上に下着だけのほぼ無装甲で出歩いていたことに、どうしたもんかと愚痴る後藤だった。