第13独立艦隊は、沖縄の最前線の哨戒艦隊として正式に発足することとなった。南方の大規模作戦等手が回らないなどの事情があったにせよ、上空からの哨戒にも限界があったことと、曲がりなりにも沖縄の目と鼻の先で年単位で戦力が気付かれずに居座っていた事態を重く見たためである。なお、戦力は、文字通り渡りに船と居座った艦娘を追認する形となった。小規模ながら鎮守府施設の設置、通信回線の敷設が急ピッチで行われ、宿舎もどうにか建てられたところで再始動と相成った。ただし、人間はまだいない。舞鶴第4を離脱した艦娘達が通称「13艦隊」に合流してから、数か月。
『そちらの施設に余裕はあるか?具体的には居住施設だが』
舞鶴第4で代理提督をしている藤村からの連絡である。同様に13艦隊の臨時責任者にされた天龍だが、黙々と書類をこなしながらも、かなりげんなりしていた。
「藤村の大将、うちは駆け込み寺じゃねぇんだぞ。おまけにこっちの方が敵さんに近い。あと早く提督をよこせ」
『まあそう言うな、天龍少佐』
「いつからオレは少佐になった」
『数で言えば4艦隊分を超える鎮守府だ、暫定でも佐官でなければ、とのお達しだ』
知らぬ間に階級まで与えられている事実に、頭を抱える。なお、半年の間に増員が―綱紀粛正からの再編成で所属先にあぶれた艦娘がさらに送られてきたため、宿舎の増設が行われていた。正直言って、無人島内の秘匿施設、という利点が無くなりつつあるので頭が痛い。
「くそったれ、第13独立部隊と同じやり方かよ!」
当然ビームライフル付の白い奴もいないので、戦力的には不安の方が大きい。
『古参とはいえ艦娘が差配できているのはそういうからくりか。貴様、なんらかの前例を踏襲したな?』
「駄目もとで故事に倣って進めてよ。混ぜ込んだ書類の艦隊名そのものが符牒ってやつさ。だからって大本営の阿呆ども、輸送隊にミデアのコードネーム使い続けやがって。輸送隊が全滅したらどうするつもりだ」
『俺も知らん故事をご存知のようだな。まあ特務課のお偉方はそういう部分ではかなり遊ぶしな・・・脱線したな』
「一応聞くだけは聞いとく。何人だ?」
『一人だけだが、その後は分からん』
「で、経緯は?」
『回線越しで言うことか?』
「そのための秘匿回線だろ、これ。書類が回ってきた段階で断れるような状況にあるとは思えねぇ。他へ送れって言うなら最後のチャンスじゃねーか。ただでさえこっちは脱走組の回収までやってんだ、受け入れ続けたら破綻する。おまけによ・・・、いや些細な事か。愚痴はやめとく」
『次来たとき、飲むか』
「いいねぇ。で?」
話を戻せ、と天龍が促す。
『3年間、出撃にさえ回してもらえなかったそうだ』
「ようし、阿呆を出せ。舞鶴じゃ瑞鶴に先を越されたが、今度こそもぎとってやる」
『今回は加害者にもぎとるモノはつい取らん。あと、被害者のはもぎとるなよ?』
1分、2分。沈黙が支配した。
「おい、ついてる奴をこっちに送るな!我慢できるわけがねぇだろうが!ろくでもねえ奴におもちゃにされた女所帯におもちゃにされた優男送り付けたら傷のなめ合いで破綻する!そもそもオレが、まず襲う!」
『だろうなぁ。しかもそいつ、駆逐でな』
「やべぇ、ドストライクな上に艦種的に組み敷けるとか、確実にアウトだ。オレが」
『ただし加害者は元帥の同期でな』
大本営の元帥閣下と言えば、既に60にも届こうかと言う年齢だが、その能力面で未だに引退することも出来ずにいるお方である。その同期が加害者だと言うのである。
「…わりい、やっぱこっち送って。せめてモノが使い物になるようにしてから送り返すから。まともに立たねぇだろ、そいつ」
いくらなんでも筆卸から3年もの間、老婆の相手ばかりでは気の毒過ぎる。とはいえ天龍の発言はアウトだが。
『唯一の成果が艦娘用戦闘薬が回収されたことだが。いや、厳密には艦娘用とも戦闘用とも言い難いか』
「戦闘薬でさえねぇだろ。砲撃も雷撃もしねぇで僚艦や深海棲艦押し倒しに走る仲間なんざ見たくねぇぞ。あと人間に使うなよ。多分血管破れるぜ」
『実験用マウスが全身から血を噴き出して死んだそうだ』
「まあそうなるだろうなぁ」
『では、島風はそちらで一時預かり、ということでいいな?リハビリの件についてはまあ程々にな』
「待て、島風?あの島風か」
『他にどの島風がある』
「なあ、他所は無理なのか?島風となるとオレを含む旧舞鶴組が獣にならない保証がない。あのポルノ衣装で少年だぞ!?」
天龍自身は島風型の艦娘に会ったことはないが、執務にあたって艦種リストなどを渡されており、たまに眺めたりもしている。
『すまん、男艦娘の件はもう他所には送り切れん。お前らの件を重く見た大本営自体が綱紀粛正を進めた結果、島風を含め12人が確認された。異動の必要な他の4人の行き先をやっとこさ決めたところだそうだ。秘密裏に解体された者については追跡調査中だ』
少なくとも8人はまともに扱われていたのは救いかもしれないが、もう天龍はまともに考える気力もなくなっていた。
「ないわー、まじでないわー。オレや鳳翔さんが豚におもちゃにされてる間に他所の養豚場の豚に美少年がおもちゃにされてたとかないわー。藤村の大将、共産革命起こしていい?豚共は収容所送りにして美女美少年は均等に分配するのを党規にするから」
なお、藤村は大佐である。それと美少年と天龍は表現したが、艦娘の時点で「男の娘(おとこのこ)」がデフォルトなので世にいう美少年とはまったくの別カテゴリである。
『それお前が分配される側だろ。頭の中随分残念になってるが美女の範疇だぞ』
「はっはっは、よせやい照れるじゃないか。抱いて」
自己認識は男の筈の天龍だが、実のところ現状、バイセクシャルである。
『ふむ、宿はどこがいい?久しぶりに箱根に足を伸ばしたいと思っていたところだ』
「いいねぇ。冷酒で一杯やって、浴衣でくんずほぐれつとか」
『本気だと言うなら宿を取るが…なあ、天龍、貴様、大丈夫か?』
沈黙。
「正直言うと大分やばい」
『何があった』
「酒の席の冗談―いや、まあリハビリ程度のつもりだったんだよ」
返事はない。聞いてはいる、と言わんばかりにとん、とマイクを指で叩くような音がした。
「嫌な事があったからって、てめえ自身を嫌って生きていけるわけねえだろ。じゃ受け入れるしかねえ」
「ならよ、「する」しかないだろ。そいつが楽しいことだって教えてやらなきゃなんねえだろ」
『抱いたのか』
「おままごとみたいなもんさ。抱いたってか抱かれたってか、まあ女ってのはこういうもんだ、て肯定してやる。そんなところだ。あんたにしてもらったのと同じことだ。まあ竿はここにゃないけどな」
そんなことを始めたきっかけは、まあ榛名に廊下で押し倒されたせいだったりするのであるが。ともかく一人で出来るようにする、または相手に気遣って、というかTPOを考えてできるようにするのが、天龍の中では当初の目標だった。
『で』
「なんとなく落ち着いたかな。だけどよ」
『抜けられなくなったか?』
「オレ自身はいつでも抜けられるんだと思う。ただな…いや」
「毎度違う奴に誘われる。最初はさ、まあ相手を変えながらなんだろうと思ったよ。そのうち抜けて一人で出来るようになるとか、相手を決めて落ち着くんだろうって思ってたさ」
『続けろ』
「3か月過ぎたあたりでおかしいと気付いた。昼間にじゃれ合い程度でしてる奴らとかいるんだけどさ」
「昼間ふざけ合ってた相手のとこに行かないで、なんで俺のところに来る?」
『舞鶴第4の、貴様の同僚どもか』
「そいつらだけじゃねえのが正直おっかねぇ」
「ついでに言うけどな、もう一人オレがいるんだぜ。そっちにゃ全然なびかねぇ。まああっちのオレはまともだから、普段のじゃれ合いくらいでしか遊んでねえ感じでな」
『施設の拡充具合を見てだがカウンセラーの派遣するよう、俺からも上に掛け合っておく。お前からも申請を出せ』
「頼むわ」
『で、だ。すまんが個人的な頼みがあるんだが』
「哨戒の件か?」
『個人的な、と言ったろう。会って欲しい相手がいる』
「なんだ、男でも紹介してくれるのか?」
『いや、女だ。俺とお前の関係をお前の口からも説明して納得させてほしい』
再び天龍は沈黙した。数分後
「ごめん、まじでごめん。考えて見りゃあんたほどの奴なら婚約者くらいいるわ」
『俺は頼って来る女は見捨てん主義だ。ただまあ、女と言う奴は良く気が付くものでな。あと、このご時世で祝言もあげていないが、妻だ』
「箱根、無理?」
『見捨てん主義だと言ったろう。お前が助けてくれという限り俺の手の届く範囲で何とかしてやる』
「いや、あんたそれ離婚の危機だろ!」
『俺も相手も色々と古臭い家の出だ。まあ人間関係においては色々とあるのだ。ただ納得するかどうかというだけでな』
「もしかして正妻公認の女とかでワンチャンある?」
『・・・まず貴様がカウンセリングを受けろ。妾でいいとか自分で自分の位置を下げるな』
そんなやりとりから数時間後、近海を通過する輸送船団の護衛から艦隊が帰還した。
「提督、今帰還したぜ」
帰還した遠征艦隊の天龍に唖然としてしまう提督の天龍。普段なら「提督」呼びに文句を言うところだが、
「お前、柔肌を晒してうろちょろするな!負傷してるなら代理を寄こせばいいだろ、先に入渠しろ!」
見ると側面から直撃を食らったのか、左側の天龍型のブレザーとワイシャツが破れた状態だ。
「旗艦はオレだ。面ぐらい拝んでからが筋だと思ってな。それと」
「わりい、通達の方が遅れてきやがった。増加と言う程じゃないが、航行中の船舶に対する襲撃が散発してるって話だ」
「まあそんなもんだろ。不意打ちだったが2隻程度だったしな」
ふと見ると心配してついてきたらしい大井、それに北上の姿も開けた扉から見える。
「ともかく入渠だ、きっちり休めよ?」
「わかってら。それと大井がなんか用があるみたいだぜ?」
ちらりちらりとこちらを見る大井の姿が目に入る。一応、手招きをすると、小走りに寄って来る大井。
「一応、聞くだけ聞く」
「天龍さん、今夜は空いてますか」
藤村にも話した、夜のお誘いだ。
「順当ならお前の番だったがな、今回は拒否するぜ。ちょいとこの間のは頭に来たからな。まあお誘いも他にあったことだし」
「その、聞いていい立場じゃないとは思いますが、誰です?」
「言うようなことか?」
それに大井は食い下がる。
「天龍さんが私を拒否して選ぶ相手ってのが、気になっただけです」
「とりあえずお互い頭を冷やそうぜ」
威圧するのではなく、わざとぎらついたような目で大井を見る天龍。
「わかり、ました」
それに少しだけ怯んだ大井は、言葉を返して足早に退出していく。それを追う北上が一瞬こっちを睨んだように見えたが、気分的にはどうでもいい、そんな風に彼女は思った。
「職場恋愛のあげく痴話ゲンカとか、これが噂のブラック鎮守府って奴か」
茶化したように遠征隊の天龍が言う。
「勘弁してくれよ」
そう返して胃薬を探す天龍だった。
グラスを傾け、ちびりちびりと水割りを口に含むように飲む。実のところ酒に弱いとは言わないが、強いわけでもない。この提督なんぞをやっている天龍と言う存在は、ほぼ人間として思考する点を除けば凡人を強化しただけ、程度の評価が限度だ。裏を返せば、その程度の人員に権限を持たせるだけで改善するのだとも言える。なお、艦娘達は明確にではないが、基本提督に従属してしまう。まあ「基本」なので、その辺のさじ加減が分からない提督が文字通り吹っ飛ばされたり心中されたりするわけだが。
「なんかまあ、実感わかねえ」
ウイスキーを飲んでいる、ただそれだけだと言うのにやたらと贅沢なことをしている感覚。生前の記憶がはるか遠くになるほどたったの数年が濃すぎた。
「あらあら」
居酒屋「鳳翔」―ではないが、飲酒については通常の食堂と別けて行うようになっていた。まあ艦娘の外見や、施設設置時のスペースからくる制限、今後一般人の見学等があった場合を考えると全部食堂で、というのもはばかられた。何より天龍の感覚からすると、駆逐艦連中が飲んで管を巻くとかいうのを食堂で見たりするときつすぎる、というのがあった。イクやゴーヤも一升瓶を抱えたりと、傍目からすると非常に外聞が悪い絵面だ。よって食堂のある建物に増設して、より小さな半別棟が作られた。状況次第で防御陣地の一部として使用するため、所々の壁等は鋼板が入っていたりする。まあ酔い過ぎた艦娘が暴れても被害が拡大しないため、という意図もあるが。個々の艦娘で収納可能な容積が違うため、砲の一部でも隠し持てた場合の被害を考えると、やっておいた方がいいと相談先の特務の人間は言っていた。
それで、規模が小さいお座敷居酒屋(畳張り六畳二部屋・厨房付き)が完成したのだが、これが意図しない罠になった。六畳の部屋にちゃぶ台、座布団。押入れもあるから片付けて布団も敷ける。酒が入って互いに愚痴る、泣き言を言う→距離が近くてもたれかかる→翌朝になあにこれ、と目が覚めるパターンに引きずり込まれるのだ(天龍談)。それでも藤村に語ったとおり、きれいどころばかりなのである。文句はないと言いたいが、さすがにイク、ゴーヤ、そして北上がいるはずの大井の3人がかりでトばされたときは泣きたくなった。特に大井、てめーはダメだの心境である。なお、この3人には工廠で装備品抱きの刑の上、赤城(アーチャー)、兼任憲兵として配属されたあきつ丸(特務提督のあきつ丸准将とは別人)も動員してお説教したものの、続いて赤城に己のちょろさについて上乗せのお説教を喰らうという泣きっ面に蜂の状況と相成った。
「それにしても、ほんと大井の奴はわけがわかんねー」
北上さん北上さんと呟く程度に拗らせているのに、当の本人とねんごろになった気配がない。命を果てるとしても探しに離脱しようとした頃のあいつはどこにいった、とここ一月(ひとつき)で定番になった管を巻く天龍である。しかも今日も「おねだり」に来たのである。
「ちょいと北上と話して、大井のことどう思うか聞いたりもしたんだけどなあ」
彼女の返答は親友かな?である、ああ、さいですかと少々引きつりながら笑っていた記憶はある。
「いけませんよ、天龍さん。人の恋路を邪魔しちゃ」
鳳翔の忠告に、
「邪魔なんかしてねえよ、前の鎮守府のことは言ってねえしな」
女をそういうことで泣かせるつもりはないし、大体告げ口の類など自爆行為だ。何分、竿姉妹とかいう不名誉な姉妹関係であるわけだし。
「ただなあ、想い人がすぐそばに居るくせにオレと乳繰り合おうってのが、どうにも解せなくってよ」
そう言って鳳翔の空になったおちょこに、とっくりを傾ける。
「おや、ありがとうございます」
くい、とすぐに飲み干してしまう鳳翔。半ば惰性で注ごうと近づいたところで、いきなり引き寄せられる。押さえられた後頭部に急に視界いっぱいに広がる鳳翔の顔、やや辛口な日本酒の味に口移しに飲まされたと、酒で鈍った頭で理解する。とっくりを持った手を押さえられ、ことりと倒さないようにちゃぶ台の上に。右に座っていた鳳翔はそのまま天龍を引き倒す。しばし後、ぷはあと酔っぱらいらしい息を吐いて口を離れると、どちらの意味で出来上がっているのか分からない顔がお互いの目に映っていた。
「いけませんね天龍さん。また赤城さんにお説教されますよ?」
無防備に近づいて押し倒されたと理解はしているが、
「今日は鳳翔さんの番になったろ。とはいえここじゃまずいから、場所変えようぜ」
誘ってきたのは鳳翔だったので、少々のおイタは見逃すつもりの天龍だったが、
「やです」
「いや、やですって、ここは酒を飲む場所だし」
「やです。ここで天龍さんとしたいです」
普段というかよっぽどの事でない限り駄々など言わない鳳翔が駄々をこねるのに、唖然としていた。たった数年付き合いとはいえ、包容力マシマシの大人の女のイメージが強い人である。舞鶴では少なくとも、駆逐艦がいるところで弱音を吐いたことはない。
「だってずるいじゃないですか」
「ずるいって何がだよ」
「私だってどうしようもない時くらいあるんですよ。前だって、物陰で口づけするだけで我慢したのに」
慰め合うつもりなのに目を付けられては困るから、そんな時もあったにはあった。ここに来て、私室にお願いしますと来る鳳翔と致したりもしたわけなのだが。
「それが、新しい鎮守府だからって、みんなの場所で天龍さんを好き勝手して。それじゃ我慢してた私が馬鹿じゃないですか」
どうやらこの間の大井達のご乱交については、愚痴る相手を間違えたらしい。ここでされるかシて頂かないと納得しません、と鼻息が荒い鳳翔。しかし、流石にご乱交第二弾はまずい。所属あきつ丸&特務あきつ丸召喚案件になる、と酔いも醒めかける。しかし、酔った頭はその斜め上をいった。ゆっくりと両手を広げると、
「ここではあとキス一回だけだ。その代りとっびっきりやばい場所でお互い乱れるってのはどうだ?」
この返答に、少し驚いた鳳翔だったが、嘘は言っていないと思われるだけの信頼を天龍は得ていた。だから彼女はもう一度だけ短くキスをする。そしてお互いに少しだけ我慢。身をはなして片付けをする。とりあえず居酒屋スペースのヤリ部屋化は避けられた。
南国とはいえ日も暮れると海風は涼しい。まあ火のついた体を冷やす程ではないのだが。
「鳳翔さん、そんなにくっつかなくてもオレは消えないぜ」
ヒシッと記憶の中にある擬音が聞こえそうなほど、天龍の右腕を抱きしめる様にしてともに歩く鳳翔。左腕を曲げて絡め、右手で服の上から確かめるかのように上腕から下へとなでおろし、手のひらを絡ませる。
「大丈夫だって。ちゃんと動くし、感覚もあるぜ」
「心配、したんですよ?」
そういえば命令に―命令だったあれは―逆らって、あの時戻ってきたのだ、鳳翔は。赤城から後で聞いたが、その後意識を取り戻すまで鳳翔が曳航していたのである。右腕のないままの天龍を、だ。
ちょいと僚艦の負傷っていう事態を甘く見過ぎたかねぇ?
そう口の中でつぶやく天龍。彼女の認識では、入渠だけで治ってしまう以上、負傷に対する認識は「昔」より下がっているのだ。しかし、鳳翔は―艦娘にとっては喪失の記憶はより強く認識されてしまう事が多々あった。容易に僚艦を失う戦場の記憶とともに「人」に作り直されたが故。まして無事解体までされてしまった鳳翔であれば。
さて、そんな風に歩く二人だが。食堂棟を離れ、宿舎にも向かわず、歩き続ける。途中、見回り中のあきつ丸とも会うが、天龍は離れようとする鳳翔の手を離さずに対応した。
「こんばんわであります」
「よう、いい夜だな」
鳳翔は天龍の影に隠れてしまっている。
「これから本棟でありますか?」
「ああ、確認事項を思い出したし、ちょいと時間も遅くなっちまったからな。浴びるにしても浴場じゃ不経済だし、宿舎だと音が響いて迷惑になる」
「ああ、一応ある提督用私室の設備ですか」
「そういうこと。戸締りとかこっちでやっとくから、あっちの見回りはもういいぜ」
「そういうことにしておきますか」
「やっぱ無理あるか?」
「いえいえ、提督がそれを必要だと言うのでしたら、是非もないでありますよ」
にこやかに表情とともに返って来るその言葉に、少々しかめっつらで返す天龍。
「提督、提督ねえ。どうやら最低でも片足は浸かってるわけだ」
「是非ともそのまま全身で浸っていただきたくありますな。ここ以外、もう行くとこなどありませんので」
「抜けたきゃ勝って終わらせろってことか」
「それはここ最近でも最高の申し出でありますな」
それでは、とあきつ丸は食堂の方へと歩いて行ってしまう。
「ひどいですよ」
「ちょっとの散歩で知り合いに会う、最高だろ?」
「とても恥ずかしかったんですよ!」
「デート、いや逢引きならいいじゃないか。そういうもんだろ」
「あ、逢引き、ですか」
「んー、やっぱりデートの方が合うかな。街はないけどな、ちょっとの距離でもいい感じになれりゃな。まあ予行演習みたいなもんだ」
再び手を引いて歩きだす。鳳翔は、また密着してしまう。
「でーと、ですか。でーと、いいですね」
「これで雲ももうちょっと少なけりゃ良かったんだけどな。漱石を気取るのは無理だなぁ」
星も所々見えるが、月が隠れてしまっている。少し下りれば浜に出るし、木々をかき分けて2時間も登れば頂上に出てしまう狭い島だ、本当にデートするつもりなら海上も歩いて島々を回らなければつまらないだろう、と天龍は思った。うっそうと茂る木々も、少し雰囲気としては良くない。
「月、見えませんね」
「月が出る前に目的地だ、ほら」
本棟である。第一工廠、港湾設備などはさらに向こう側だ。その他の設備なども、出来るだけ分散して配置してある。もっとも、海に近いのは出撃設備を含む港湾設備と第一工廠だけだ。本棟・宿舎・食堂に第二工廠、倉庫類は海からいくらか離すようにしてある。気休めだが、襲撃されても防衛線を限定出来れば御の字である。さて、本棟まで来た時点で鳳翔にも目的地が大体わかってしまったわけだが。裏口から入り施錠、守衛室の制御パネルから警備システムを弄って一部以外は作動状態にする。とはいえ結構な範囲が解除状態になってしまうのだが、元々24時間で稼働する施設だ。監視カメラ等が動いていれば基本問題はない。本来は歩哨や憲兵なども含めて運営する鎮守府を艦娘だけで動かしているのだ、変則的なのは仕方ない。
ぎゅっと天龍の手を握る鳳翔を連れて上階に上がる。もう目的地の場所を聞くまでもない。天龍にとっては残念ながら慣れてしまった場所。
「オレの仕事場へ、ようこそ」
明かりのついた、執務室である。減点があるとすれば、天龍が提督服ではなく艦娘の服を着ていることぐらいだったが、もう鳳翔としてはそんなことどうでもいいことだった。ぶっちゃけ、天龍は地雷を踏み抜いた。それもぽんと最初に軽い爆発を起こした上で次々と連鎖爆発を起こす超広範囲の、決して爆発が止まらない地雷原だ。そのまま執務椅子に座って、鳳翔を上に座らせてと考えていた彼女だったが、お座敷での焼き直しである。椅子を引いてくるりと向きを変えたところで鳳翔に押し込められてキスされる。
「提督」
口の次に頬に
「ちょ、あ」
額に、そしてまた口に。舌も絡めて、また離れる。
「提督」
「鳳翔さ、ん」
離れた唇の間に唾液が糸をひく。
「提督、私の、私だけの」
互いにぐちゃぐちゃになるような経験をして、何もかも投げ出したくなるような状況で、引っ張り回してここまで引き上げてくれた「提督」だ。その提督が、逢引きだと言って案内してくれたとびっきりのやばい場所―神聖な提督の執務室である。みんなの場所でのご乱交はダメだと言いながら、日常、命がけの任務から帰還した艦娘達が報告し、提督の顔を見に訪れ、高官さえ訪れるこの場所を。
お前となら、ここを穢したとしてもなんの後悔もない
艦娘のことを第一に考えてくれるまっとうな提督が、そう宣言したということなのだ。ここで会い、ともに仕事をし、任務でここを出て、帰還してここで再会し、ここで愛し合う。これ以上の幸福など艦娘にあるものか。相手が艦娘だの同性だの、些細な問題だ。「自分だけの提督」―これ以上の幸福など、きっと戦後にしか存在しない。いっそ共に戦火の中で果ててしまっても、それでいい。
気付けばまたキス。鳳翔自身がしたのか、それとも天龍にされたのか。結構な力で天龍の膝の上で抱きしめられている。代わりに天龍の頭を抱きしめて口を付けている鳳翔。名残惜しいが、促されてまた離れる。お互いに息が荒い。
「鳳翔さん。ついでにオレの眼帯、脱がしちゃくんねえかな?」
「え?」
まじまじと天龍の顔を見、眼帯を見る。ああ、そう言えばこれがあった、とはたと気付く。いつも片目で私を見ているから、今夜は両眼で見たいと。当の天龍としては、なんとなく阿呆に引っぺがされた記憶を塗りつぶしたいとかもあったのだが、もう重油の雨を降らせたようなものだ。ひしと抱きしめた手を離すのも惜しいとばかりに、鳳翔は眼帯に口を付ける。
「え」
そのまま器用にくわえながら、ぺろりと閉じた瞼をひと舐めして舌を引っ込め、そろそろと眼帯を上にずらしながら取り去ってしまう。天龍の首に両腕をかけたまま少し離れると、眼帯をくわえたまま、天龍の顔を見つめる。
「ああ、そうきたか。ああ、」
何ともあざとく見える鳳翔の顔に感嘆し、
「こう見えるのか」
普通に見る目と、遠くと近くを同時に見る目で、まともな視界にならないのは分かっていた筈だった。だが、今の天龍には何故か視界として成立していた。鳳翔の眼を見、即座にその奥に映る己の火照り切った顔が見えた。低目でともすれば幼さも感じる鼻すじを見れば、老いなんて千年立とうとも知らないかのようなきめ細かい肌が間近に。形の良い、眼帯をくわえた唇を見れば、それが期待に濡れて、ごくごくわずかに震えているのさえ見えた。肉眼と顕微鏡で同時に見ているようなものなのに、全部「見えて」しまった。 互いに引き寄せ合って眼帯ごと口づけを交わし、互いの手がせわしなく相手の服を解きにかかる。鳳翔の結び目を解き、前の合わせを開く。天龍のボタンを次々と魚を捌くように細い指が外してしまう。さらしが解かれ、晒された背をつたった手が最近はつけるようになったブラのホックを外し、互いに乳房を空気に触れさせてしまう。もっと見たいとばかりにさらに動いた4つの手が、袴とスカート、その下の布きれも足もとに落とさせてしまう。
「ちょっと冷えるな」
「そうですね、でもこうすれば」
と椅子の上で半分寝る様にずれて、露出した素肌を合わせる。口と、乳房と。鳳翔が腰を浮かせて互いの膝が相手の股の間に入り、お互いにとても熱を持ったようになっているのが分かる。天龍の腕が自分に絡んでいないのが少し不満だったが、
「ま、スカートの換えもあるしな、最悪あのいけ好かない白服着りゃいいし」
ともぞもぞと何やら下の方に隠れていた腕が、すぐに和服の上の内側で己の背を抱いた。ああ、でも
「どうしましょう」
離れたくはないが、少し離れないと、生殺しのままだ。
「これで」
すぐに背から離れた天龍の右手の指が、するりと己の中に入って来る。
「あ」
不意打ち過ぎて気の抜けた声が出てしまい、力も抜けて天龍に体重を乗せてしまう。しかも天龍の指の動きが―いや、一気に締まった自分の補給口が、彼女の指を押さえ付けてしまった。中に残る指の感覚自体に2度3度全身が震えてしまう。
「え、あれ?え、そんな」
これで終わり?とあまりにも呆気なく達してしまったことに落胆する。
「何言ってんだよ、まだこれからだぜ。邪魔は入りゃしないんだ。それとも、電気も消しちまうか?」
「いえ、このままでっ」
支えにしていた片膝も椅子の下に落ちている鳳翔を左手で抱えたまま、ゆっくりと指を動かして彼女の膣内をかき回す。べたりと上に乗った鳳翔の腹で、動かしにくいと言えばそうなのだが、指をろくに動かさなくても腕に力を入れるだけで鳳翔が震える様に、変に楽しさを覚える。されど、
「鳳翔さん、できれば、オレのもたのむよ」
先ほど押し付けられた鳳翔の膝が離れてから、もどかしさ全開である。だらだらとこぼしているのは感じているのだが、蓋も栓もない上に鳳翔を支えるために足を閉じてこすり合わせる程度の事も出来ず、きつい。
「あ、すみません」
と、腹を撫でる様に、合わせた肌の間を通って鳳翔の手が天龍の股に辿り着く。十二分に潤って抵抗なく受け入れてしまった指に、あーもう出来上がってるわ、と変に諦めたような思考の天龍。
「え、オレおしえっ」
中のそれと外の突起を同時に押されて、口に出た疑問が悲鳴に変わる。
「もう、何回いっしょに寝たと思ってるんですか。場所くらいもう覚えてますって」
強めに押されて合わない視点が完全に見る対象からもずれてしまう。耳に入る水っぽい音が信じられなくて体を強張らせるが、先ほどの鳳翔同様膣を締めて性感をより強くしてしまい、思考が真っ白になる。気付くと鳳翔が唇のあたりを舐め回すようにキスしているところだった。
「あー、今多分意識飛んだわ」
流石にこのシチュエーションで気付いたら朝はもったいなさ過ぎる。
「これでお相子です」
とか言いながら、下の口で天龍の指をくわえ込んだままの鳳翔。動かしていない指を内壁が動いて締め付ける。イったばかりなのにそんなことして、と思ったところでまた鳳翔が大きく震えた。
「自爆すんなって」
何もしていないのに昇天してしまったと思って真っ赤になる鳳翔。
「違うんです、わたしはそんな」
「分かってるって、イった後は敏感だからな。それはそうとだな」
指を抜いた手で、尻の下―椅子の上に敷いたスカートに触れる。
「名残惜しいけど場所変えようぜ」
二人分の滴で、天龍のスカートは結構なレベルで濡れてしまっていた。下のクッションまで沁み込むとまずい。その言葉に少し不機嫌そうな顔をする鳳翔だったが、もう一度唇を合わせてから体を起こす。続けて天龍も立ち上がり、ついでにスカートをひょいと手にする。ふと、互いに姿を見る。ずれた下着でこぼれる乳房、シャツに胴着と違いはあれど前は完全に開いていて、股ぐらは現在進行形で濡れ続けて光っている。手にしたスカートを見て、思わず濡れた部分を舐めてみる。
「な、なにしてるんですか!?」
「いや、オレのと鳳翔さんのが混じってるだろうから、どんな感じかと思っちまって」
「そういうのはダメです!絶対ダメ!」
「ああ、うん。オレも直の方がいいや」
「口に出して言わないでください!」
こぼしてしまったあれやこれを、提督と認識してしまった天龍に舐められたり匂いをかがれたりとか、そういうのはもう羞恥心の限界突破案件である。天龍はというと、
「んー、やっぱ無理か」
「はい?」
すいっと鳳翔に近づくと抱え上げてしまい、業務終了後片付け済みの執務机の上に尻から降ろしてしまう。
「提督」
「そっちでベッドの上で、て思ったんだけどさ、やっぱ我慢きかねえ」
提督用の私室―ほぼ仮眠室にしか使っていないそれの事を示す。キスは散々したから次はとばかりに形のいい鳳翔の乳房に口を付ける。
「あの、これだと今度は」
「いいだろ」
「良くないです、たまに寝てるじゃないですか!」
そう言えば執務中の居眠りもないわけではない。そうすると卓上に突っ伏したりするわけだが、
「あ、やばいかもな」
突っ伏した拍子に鳳翔の香りなどしたら、きっと執務どころではなくなるだろう。
「それだと秘書艦も頼めなくなるけどな」
匂いでそれなら、現物がそこにいたら我慢出来ないかもしれない。いや、流石にそこまで盛ってはいない、今がおかしいだけだ、と天龍は愚にもつかない思考をする。ひとしきり鳳翔の両乳房をいじる。桜色の、悔しいことに色々と自分以外にされてしまったにも関わらずきれいな色のままのそれを、舌で転がしたりつついたりとつい遊んでしまう。口を離して目を下に落とせば、まぶしい太ももとその付け根の下に、こぼれた滴が広がっていた。
「もしかしたら昼間に誘うかも」
「馬鹿」
ここ数か月の決まり事をちょっと破って、自分から誘ってもいいような気がした。まあ大井達の件の時は最中にガチで拒否していたはずだし、彼女たちも天龍が鳳翔を余分に可愛がることに文句は言えまい。もっとも、それで順番が回らなくなる他の艦娘達にはたまったものではないが。そのまま机のヘリまで鳳翔に腰を突き出させると、前にしゃがみ込んで両ももに手をやり、綺麗な割れ目にかぶりつく。入渠のおかげかまるで「劣化」しない艦娘も多い。まあ天龍自身はちょっと黒ずんだり(ちょっとだ!)、変に胸や腰が大きくなったりとおかしな変化をしていたりするが。舌を捻じ込んでみたり、クリトリスをつついてみたりと、ベッドの上とさほど変わらないことしかやっていないのだが、溺れそうになって口をはなす。
「提督」
「せめて、んぐ、天龍で頼む」
口の中にたまった滴を飲み込んでしまう。上目づかいに鳳翔を見れば、やってることはいつもと―下手をすると舞鶴で手早く済ませたころと変わらないのに、目じりもさがり唇も半開きと蕩けている。机のヘリから滴が落ちそうになるのが見え、もったいないと思ってしまった。
「飲まないでー!」
気付くとまた吸っていて、されていることを理解した鳳翔が叫んでいた。そうは言うもののなんかのどが乾くし、もったいないし、床の掃除も大変だしと酔いと興奮と日常の混ざった意味不明の思考で鳳翔を吸い続ける。何度か抗議の声も聞こえたように思うが、再度見た時は目の高さに桜色の頂点の二つの山が見えたので、机の上でに倒れ込んでしまったようだ。
「あー、なんかもう頭まわらねえ」
途中もしかして愛液以外の液体も飲んでしまったかもしれないが、鳳翔のならいいかと完全にキてる状態で、真っ赤になって息も絶え絶えな彼女を抱え上げて隣室のベッドまで
運ぶ。運ぶ間涙目の鳳翔にぽかぽかと叩かれるが、可愛いので無問題だ。ベッドに鳳翔を載せるのと自分も倒れ込むのを同時にやる。
「じゃ、続きしようぜ」
「知りません!」
「そっか、じゃ寝るか」
べったりと鳳翔の上に乗って、頭を彼女の右肩に置いて目を閉じてしまう。背中は寒いものの彼女の体温が心地良く、今夜はオレが布団だなと馬鹿としか言いようがない思考である。
「え、天龍さん、ちょっとお願いします、まだ、まだです」
全然足りません、と泣きそうな声にぱちりと目を開く。
「あいよ」
とはいうものの、同じやり方もなんだし、と思案する。
「ちょいと気持ちいいか分かんねえけど、試すか」
「したことないやり方ですか?」
「ああ、うん。知識としてはあるんだけどな、試したことはねえな。なんせ試せる体なかったし」
男なら体位変えてぶち込むだけでも色々バリエーションあるのになあと、と愚痴る。鳳翔は背中からだと嫌がりそうだが。
「よっ」
体を起こすと、鳳翔の左脚を自分の右肩の上へ担ぎ上げてしまう。
「ちょっとこれは」
大股開きにされて先ほどのご乱交で刺激されていた羞恥心に、顔を隠してしまう鳳翔。
「とりあえず見ててよ、他の奴にもやり方教えるかもしれないんだしよ」
まあ、指の間から片目だけ見えていて興味はあるようだが。天龍はにじりよると、四苦八苦しながら御開帳された鳳翔に自分を押し付ける。
「やっぱ結構大変だな、これ」
天龍も完全に股間を晒しているような状態なので、鳳翔もいつの間にか凝視していた。一応自由になっている左手で、自分と鳳翔の割れ目を開いたり、豆を露出させたりして陰唇を合わせる。で、少しだけ腰を押し付けてみたのだが、
「ひゃ」
動いた側の天龍が変な声を上げた。運よく互いのクリトリスが掠ったのだが、その前に天龍の突起が鳳翔の下の唇に少しだけ挟まれて動いたためだ。
「あ、ちょっとい今のやばかった」
「すみません、今のだとあまり」
「んー、こうかな?」
少しだけ鳳翔の上に乗る感じで動くと、鳳翔が声を上げた。
「い、いま天龍さんにたべ、られました!」
開いても離れ気味になると下の唇は閉じてしまうのだが、そこに興奮で大きくなった陰核を挟まれたりするようである。あまり激しいと痛いだけなので加減が難しいのでそろそろと動かして
「あ」
今夜はちょっとまずいと思った天龍。ひしと担ぎ上げた鳳翔の左脚にしがみつく。
「天龍さん?」
「悪い、腰抜けて動けねえ」
中途半端な姿勢で座っているため、鳳翔の足から離れると背中側に倒れそうである。そのため少ない手掛かり(足)で鳳翔にしがみついているのだが、腰を動かせないものの押し付けてはいるため、
「悪いちょっと動かないで意識とぶ、おちる!」
鳳翔が身じろぎするたびに敏感な部分同士が掠めて意識がトびそうになるし、物理的にベッドから落ちそうと叫んではいるが、「意識が落ちる」だけに解釈されているようで。
「やです、今度は私の番です」
「ベッドからお」
するっと身を天龍側にずらした鳳翔に股間同士の密着をあげられて、一気に意識が飛んだ彼女は手を離してずるずると後ろに倒れ込む。慌てて両足で天龍の体を挟み込んで支えた鳳翔は、若干苦労してベッドからはみ出た天龍を引き戻した。さて、意識がもうろうとしている天龍が彼女の隣にいるわけだが。
「そうですね・・・」
天龍をベッドの中央に戻すと、先ほどの天龍がいた位置にぺたんと座る。仰々しく天龍の両足を上に向けると、天井を指したところで開き、自分の両肩に抱え上げると天龍の体を引き上げる。ここまでされれば前後不覚の天龍も流石に気付く。
「鳳翔さん?」
「鳳翔」
呼び方を訂正する鳳翔の笑顔に、
「なにをしてるんです、鳳翔さん?」
変に丁寧に質問する天龍。さて、ここに来るまで二人は酒を飲んでいたわけなのだが、執務室では鳳翔が先に決壊しただけであり、別に天龍が漏らさないわけではない。
「どうしても呼び捨ててくれないんですね、提督。じゃ、お仕置きです」
がぶりと天龍の股にかぶりついた鳳翔がズズ、と下品に音を立てて吸い始めた。
「あ、まって」
遅れて感覚に気付いた天龍が制止の声をかけるが、鳳翔は一向に止めない上に知ってか知らずか尿道口付近をもろに吸っており、我慢とかちゃちなもんは全力で無視され始めている。
「でるから、でちゃ」
下品に吸う音に「んぐんぐ」とのどを鳴らす音が加わり、さわやかな解放感と真っ黒い罪悪感がもたげてくる。
「やりました」
でもまずいです、と加賀の台詞を取りながら満足感いっぱいの鳳翔と、
「飲ませちまった、鳳翔さんに飲ませちまった、ガチ汚れにしちまった」
レイプ目で完全に焦点が合わない状態の天龍が混在するカオスになった。まあ流れでなんだか分からないうちに飲み干してしまった天龍と、まずいですとがっちり味わってしまった鳳翔、どちらがヨゴレかと言えば鳳翔になってしまう。鳳翔はダメ押しとばかりにもう一度天龍に口を付ける。チュ、チュルとこれまた普段聞くなら可愛い音をさせて天龍を吸う鳳翔に、音のたびに体をけいれんさせる天龍が、もう限界とばかりに泣き言を言う。
「鳳翔さ、ん、やめてまじでやめてお願いだから汚れるから」
わああああとガチ泣きまでし始めた彼女に、鳳翔はやっと吸うのを止めると天龍をもとの通りにベッドにおろし、始めとは逆に自分が上から伸し掛かかる。ぶつぶつと泣きながら何か呟いている天龍の涙を、小便臭くなった舌で舐める。
「もう、天龍さんったら。わたしたち、最初からもう汚れっぱなしじゃないですか」
それはある意味諦めだったかもしれないし、タブーなんて全部無視して楽しめる、と開き直ってるだけなのかもしれない言葉だった。
だから、一緒に沈みましょう?
そんな言葉とともに天龍の頭をかき抱くと、目を閉じてしまった。
朝日が意識を覚醒させる。開けられたカーテン、窓から吹き込む風に明確に意識を取り戻すと、天龍は恐らくは大事に思っていながら、大事に出来なかった人の腕を解いて身を起こす。
「どうかね?」
す、と差し出された紅茶のカップを、行儀悪くベッドの上に座り込みながら受け取る。
「オレの方で金出すから、今から使うティーセットはオレと鳳翔さん専用にして、新しいの買ってくれ」
「何が言いたい?」
口調がアーチャーのそれのままの赤城の疑問に、それはまあ古いセンスの返事をした。
「昨晩はそりゃもう頭がネジがぶっ飛んじまったらしくてよ。お互いのレモネード飲みまくってシャワーも浴びてねえんだ。いくら洗ってもお客様に出せねえし、そんな食器使い続けろなんてお前に言えねえよ」
「君もつくづく大概だな。とはいえ鳳翔がそうなるとは信じがたい」
紅茶に口をつけて、一息つく。
「顔色が悪いが、大丈夫かね?」
「罪悪感と自己嫌悪でぐちゃぐちゃなんだよ」
「鳳翔に言われちまってよ、汚れなんて気にするな、オレらもう汚れちまってるだろってな」
「程度問題だな。どちらにせよ私には二人ともまぶしすぎる」
「オレにゃ、なんであの時助けてくれなかったって恨み言に聞こえちまった」
鳳翔、榛名、加賀。天龍は様々な任務に駆り出された以上、残る彼女たちは集中的に被害を受けた。早々に壊れてしまった榛名と加賀に対し、まだまともな感性のまま耐えてしまった鳳翔。彼女たちのために動きながらも、彼女たちの中で一番鎮守府にいなかったことが、天龍の負い目の一つだ。
「恨み言を言う人間が、そんなきれいな顔をして眠るかね?」
「・・・こいつは、オレと一緒にどこまでも沈むつもりだ」
「少なくとも、この件では一切合切引き上げた正義の味方が、泣き言かね?私には嫌味にしか聞こえんよ」
「それこそ嫌味だろ、本当に助けられなかった数を直に見させられたのはオレだぞ」
貞操だのプライドだの投げ捨てて、それでも零れ落ちた命。アーチャーの味わったものの一端を、常人の感性で受けるとこうなるということだ。
「だが君はここに踏みとどまった。だから君は彼女たちの正義の味方をやれているんだ。私が出来なかったことだ」
その言葉に少しだけ、動きを止めると、紅茶の残りを飲み干した。空のカップを赤城に押し付けてベッドから降りる。
「天龍?」
「これ以上お前と問答してると、変に己惚れそうだからな。シャワー浴びてくるさ」
「鳳翔を起こした方がいいのではないか?」
「一緒に浴びてたら多分執務開始に間に合わなくなる」
「休養日にしてしまってもいいだろう。私がやっておくぞ」
「だからダメなんだよ。己惚れそうになるって言ったろ?」
「君も鳳翔も、頑張った分の対価は受け取るべきだと言っているんだ」
「そいつは、片が付いてからにするさ」
さて、その日の執務だったが。
「哨戒任務、行って参ります!」
「気を付けてな」
「はっ、戦果をご期待ください!」
士気高く出撃する艦娘達。哨戒でやたら戦果が上がるのもリスクとか資材的には困るし、平穏無事に帰って来てくれる方が嬉しいのだが。
「なあ、鳳翔さん」
「鳳翔」
「なあ、鳳翔、いい加減着替えたいんだけどよ」
結局着替えを持ってくる暇がなく、なし崩しで提督服を着た天龍が艦娘服を頼むが、
「ダメです」
「皆さんも張り切っていますし、そちらの方がいいのでは?」
鳳翔に否定され、「普段の赤城」に戻った赤城からもダメだしされ、視覚的にも「提督が鎮守府に居る」効果の確認に、その後の数日間を提督服で過ごす羽目になった天龍だった。
「提督、今帰ったぜ!」
「天龍、お前もか!」
ノリノリで提督呼びしてくる自分(艦娘天龍)にブルータスに裏切られた気分の天龍(提督)だった。