少し遅れての昼食。今日の定食はカキフライにしじみ汁―カキとしじみがここ数日メニューに並ぶが、どうも行動を監視されているようでつらい。鳳翔からトレーを受け取ると、適当な空席に座る。カキフライを見てビールが欲しいとつい考えてしまうが、昼間から飲む習慣はなかったし、そもそも食堂での飲酒を禁じたのは自分だ。我慢するしかないだろう。食べながら周囲をちらりと見る、と言うよりちらちらと視線を感じてチェックしている感じだ。ふとさまよわせた視線の先で、少し前に着任した青葉が軽く手を振っている。
「お茶のお代わりはどうかね?」
「うん?」
青葉がカメラバッグを示した辺りで、赤城(アーチャー)が口調が変化したまま話しかけてくる。
「ああ、向こうに本来の赤城がいるからな。彼女が近くにいると矛盾解消のためか制限が緩むらしい」
湯呑に茶を淹れてもらいながら、会話を続ける。
「赤城か・・・いくらかまともっぽいけどな」
もう一人の赤城を見ると、ちらりちらりと隣に座った加賀がこちらを見返してくる。赤城と加賀は艦娘としては行動を共にする事が多くなるのが通常と、天龍は最近になって聞いてはいる。「加賀」も近頃はそんな感じだが、やっぱり天龍から離れていかないのは問題だと天龍自身は思う。それはそうと、
「あの量がまともなのかなんとも言えんな」
「私としては作り甲斐はあるがね。まあセイバー並みに食べるが」
「食に関しちゃ加賀も・・・加賀も似たような・・・ああ、加賀と榛名、ちゃんと食ってるか?」
執務の関係で食事の時間がずれやすい天龍である。大体の艦娘がちょっとした私用でも天龍に会いに来るため、日常的な部分についてはむしろ意識が回っていなかった。まあ、艦娘が提督をやっている時点で、色々と物事を言いやすいと言うことではあるが。
「まあ君が見たら食欲が落ちそうな程度には食べているが」
「まあ色々と食わせてやってくれよ、特にデザート系な」
天龍の記憶だと資材をかじる加賀と榛名しか記憶になかった。
「ならば食材の追加を頼むとしよう、提督」
「ああ、噂で聞いた間宮の甘味処もここにゃねえしな。調理の方は任せるぜ」
「ところで、天龍」
「なんだ?」
「もう少し、抑えめにした方が良いのではないか?」
「これか、それともコレか?」
一度目は盃を傾ける仕草、二度目は小指を立てる動作。まあ教育には悪そうな奴である。
「どっちもだ。まああえて言うならば酒の方だが」
「んー、多いか」
「君はあまり強い方でもないだろう。あきつ丸から、彼女達の相手をする時は酒が入ってるように見える、と聞いているしな」
「あー、なるほど。そうやって無意識に逃げちまってたか。まずったなぁ」
「つらいのか?」
「王さまと同級生と後輩と―ちっこい姉にギリシャ美人に囲まれてて気楽だったか?あ、あと虎か」
「記憶があまり定かでないが、どうにも寒気がするな」
「まあお前程気苦労はなかったかもしれんけど、どいつもこいつもきれいどころで、素面で相手するのも気恥ずかしいんよ。勢いで誤魔化してる感じなんだわ」
まーそれでも最近はマシかなぁと天龍は愚痴るが、
「艦娘の肝臓がどの程度の強度を持っているのか、私も知らんのでな。まあ控えてくれ」
「あー、飲みたくなったところでこれか、きっついなー」
「女遊びもな。いずれ刺されるぞ?」
「「モノ」もねえのに女遊びとか解せねえ」
「言葉遊びをしているわけでは・・・」
近づく者にはすぐ気づく赤城である。言葉を止めたところでとん、とテーブルの上にカメラバッグが置かれた。
「朝食時にしてはお話がきわどくありませんか?」
「青葉、だったか?」
「はい、青葉です。先任の赤城さん」
「今夜の「モデル」の件なら問題ないぞ、青葉。よっぽどの緊急事態でもなきゃな」
天龍の言葉に赤城が顔をしかめる。
「もう一つの件ですが、再確認です」
「そっちはあいつらの後押しってことで頼むわ。オレもそろそろ肩の荷降ろしたい」
「いい「画」が撮れますんで自分としては問題ないですが、いささか問題がありませんか?」
「陸(おか)ならそうだろうがな。ろくでもない言い方だが問題のない範囲で頼むわ」
「了解です」
少しほっとしたような雰囲気で青葉が立ち去ると、赤城はあくまで小声でだが、天龍に問いただした。
「盗撮はいただけんぞ」
「おさまる鞘があるならとっとと片付いて欲しいだけだっての。あと青葉の行動の抑制って感じか?」
「何かあるのか?」
「ブンや気質って話でよ。個人差はあるんだろうが「編集長」から仕事まわしてりゃ余計なことまで手が回らないだろうって考察があってよ」
「・・・あとで資料を確認する。それと言った先からかね?」
「オレも着任早々そっちのお誘いから入られるとは思わなかったんだよ」
「他の鎮守府に話が回っているのではないか?ワケありしか異動してこない可能性を考えたまえ」
「確認してみるわ。増えすぎても体もたねえし」
「よう、ちょいと付き合えよ」
盃を傾ける手つきを見せながら天龍が天龍を誘ったのは、さらに数日後のことだった。言葉は軽いが目がどうにも険しい。そしてお座敷居酒屋の一室にて、
「で、てめえ何やった。こないだっから大井が怯えてみたり近づいてきたり、やりにくいったらありゃしねえ」
グラスのビールを空けながらの遠征番長の天龍の文句に、天龍は素直に非を認める。
「あー、すまん。そこまで考えないで脅かしちまったわ」
自分の顔で凄めば指揮下にいる天龍の仕事にも影響も出る。細かく見れば違いはあるが、天龍型の似方は印象面では顕著なためだ。まあこの艦娘の天龍自身、他人との距離を近く取りがちである。この会話の時点でも顔が近い。
「おかげで北上の目がこええっての。心当たりなんかねえって言っといたから、そろそろお前んとこに怒鳴りこむぞ?」
「あ?そういうレベルでは仲いいのか?あいつら」
「普段なら何いちゃついてんだって感じだぜ」
「その状態であの有様かよ、あのヘタレ。北上も北上だ、いちゃつくんならそのまま押し倒せよ」
もしくは大井が押し倒せってのと愚痴りながら、天龍提督は溶けた氷で薄まったウイスキーを空にする。
「何やったんだ?」
「釣り合わねーだのなんだのくだらない理由でオレのところにとどまるんなら、ガチでオレの女にしちまうぞって脅かしてやったんだよ」
「あー、例のあれか。夜の教室?」
「片思いの相手がいるのに延々とオレに抱かれ続けやがって。罪悪感半端ねーんだぞ」
「ああ、うん。分かるとは言わねーけど」
「手遅れじゃねえ奴には最悪一人でも出来る様にやり方を教えてる程度にとどめてるんだ。我慢するこっちの方の身にもなってみろってんだ」
「大井みたいなのが好みなのか?」
ぶっちゃけドノーマルの艦娘天龍には理解しがたい部分である。しかし天龍提督もあくまで男性視点で見ているので、女同士、というのは分からない部分ではあるのだが。
「嫌いでもねえ奴抱けるかよ。ああ、くそ。マジで北上に渡すのイヤになってきた。なんだかんだで遠征任務じゃ苦楽を共にした戦友だぞ。オレとしちゃ好みとかそういう問題じゃねーんだよ」
「ああ、あれか。ぽっと出のどこぞの馬の骨に取られる感じ?」
「そう、それ!それでも北上は北上で、ここの設立前から仕切らせてた関係で納得してたんだよ。くそ、ヘタレ共が」
「なあ、いっそ二人まとめてお前の女にしちまえばいいんじゃね」
「榛名と加賀がやべえ。おまけにこの間、鳳翔さん沈めちまったらしい」
「節操ねえな!」
「いや、榛名も加賀もオレが前のとこいた時点でもうやばかったし、あいつらは放り出せねえ」
「で、鳳翔さんは」
「オレより古株なんだけどな、ちょっと何があの人の琴線に触れたのか分からねーけど、この間からやばい」
「何やった?」
「あんま言いたくねえんだけど」
「後学のために聞かせてくれよ。異動した先とかで役に立ちそうだし」
「オレが近いうちにくたばるの前提かよ」
「いや、そうは言っても最近の北上、お前に魚雷ぶち込みそうな剣幕だしよ」
「まじか」
がらりと障子が開く。その「北上さん」である。
「天龍、話がある」
「噂をすればってところか。とりあえず一杯いっとくか?」
「いらない。そういう気分じゃないんだ」
「こっちは浴びる程飲んで投げ出したい気分だぜ。お前にゃ期待してたんだがな」
「わたしもだよ」
「で、文句言いに来たんだろ?ちょうどオレから聞いてたところでよ」
「いったい大井っちに何をした!」
「ちょっと脅かしてやっただけだ」
「ちょっとでああなるわけないだろ!」
「逆にちょいと質問がある。大井はお前にとってなんだ?」
「親友だって言っただろ、話をそらすな!」
「いや、そらしちゃいねえよ。大事な質問だ。本当に親友でいいのか?」
「・・・大井っちは親友だ。それの何が問題なんだよ」
間があった。天龍は、考える。何か違和感が―はたと気付く。
「おい、北上。お前あいつに会ったとき、久しぶりだねって言ってたな」
沈黙。
「オレ、あの発言は艦娘特有の奴だと今まで思ってたんだが、もしかして」
「いわないでよ」
「本当に久しぶりに見た大井だったのか?」
言って後悔する天龍。北上が、泣いていたからだ。
「ああ、くそ、地雷だらけじゃねーか」
「分かってるんだよ、そんなこと。私に親友だなんていう資格、ないって」
「二人目の、大井ってわけか」
艦娘の天龍が、事実を確認するように呟いた。
「戦況もガタガタで、鎮守府自体もひどいとこでさ。好きだったよ!」
遠征任務中の不意の遭遇戦。完調の深海艦隊とコンディションの悪い艦娘艦隊―結果は目の前の北上。
「手を伸ばせば、引き上げられたかもしれない。私は、見捨てたんだよ!好きだったのに!」
沈んでいく大井の最後の言葉は「逃げて」。沈み切る前に逃げたことが、今も北上を苦しめている。
「この鎮守府に所属してる時点で、オレを筆頭にこんな奴ばかりなんだが、オレよ、やっていけるか?」
「見捨てるのも逃げるのも性に合わねえよ。ガキのお守りから鉄火場まで、死ぬまで付き合ってやるから、オレも逃げるなよ?」
泣き続ける北上をよそに、と言うわけではないが自分同士―別人だが自分と言う意識が奇妙に働く者同士、意思を再確認する。もう一人の天龍は、建造後に通常の手順で異動してきた艦娘だった。さて、酒はいらないと言ってのけた北上だが、こういう時は酒で忘れるに限る、というのもある。ちゃぶ台の上、天龍「提督」が空のグラスを北上の前に置くと「艦娘」天龍がそれにビールを注ぐ。
「気にするなとか忘れろとか言わねえよ。まあ飲め」
泣きっぱなしの北上だったが、気遣っての行動を無下にする程なげやりでもなかった。まあ、天龍達としては酒でもう少し口を軽くさせる目的もあったのだが。
「でよ、今の大井の事だ」
空になったグラスにまたビールを注ぎながら、天龍が話を続ける。
「あいつは、オレに取っちゃ戦友で、もしかするとそれ以上だ」
この時点で泣いていた北上が顔を上げ、まじまじと天龍の顔を見る。
「お前同様ろくでもない鎮守府で、体を張って守ったり守られたりしてた、と自負してるつもりだ。守り切れなかった部分があるといわれりゃぐうの音も出んが」
「オレとしちゃ、お前になら任せられると思ってた。それがオレの期待だ」
だから失望した、と言外に言うかのような天龍の言葉に、北上はやや血の気が失せた。
「あの馬鹿よ、自分じゃお前に釣り合わないだのなんだのって言ってるぜ」
「だから焚き付けちゃ見たんだが、肝心のお前まで同じような事言ってやがる。期待してたんだぞ、「避難所」をまとめてたお前によ」
「お前がこれ以上あいつから逃げるってんなら、」
その先を言う前に北上は否定の声を上げる。
「ダメ」
「オレのもんにしちまうぞ?」
「ダメったら絶対ダメ!」
「そうなっても納得できないってんなら、目の前でもう天龍さんなしじゃ生きられませんって「鳴かせる」からな」
衝撃―殴られたらしい。旧式チックな電灯が天龍の視界に飛び込んでくる。
「いくら天龍でも大井っちは渡さないぞ!大井っちはわたしのもんだー!」
捨て台詞を残して走り去っていくらしい北上。殴られた天龍は微動だにしない。
「おい、大丈夫かー?」
「ああ」
「なら起きろよ、飲もうぜ」
「起きる気力がねえんだよ」
「なんでだ?」
「自己嫌悪」
「たく、青鬼なんぞやるから・・・自業自得だ」
「ああ、ぐうの音も出ねえ」
「ところでよ、話戻すけど」
「なんだよ、もう寝たい気分なんだよ」
「結局鳳翔さんにナニしたんだ?」
「勘弁してくれよ」
その後、聞きだされたわけだが、怒鳴られた。
「おめえ、執務室でオフィスラブとか、娑婆以外じゃ最上位のシチュエーションだぞ!オレだってやられてえわ!」
もちろん相思相愛での、という条件は付くが。女子力は「艦娘」天龍>>天龍「提督」程度には開いていた。
小さな浜辺にて大井は夕日を眺めていた。夜間哨戒の番ではないため、丸々自由時間だ。はあ、とため息を吐くが、気分は晴れない。あまり風もなく、腰をおろした流木の暖かさがうっとおしいとも感じるが、直に砂に座るともっとうっとおしくなりそうなので、我慢する。
「どうしよう」
一言でいって気持ちの整理がつかない。
―北上さんが、好き
呟くように言葉にする。これは本当だろう。嘘ではない、と大井は感じた。しかし、
―天龍さんに、愛されたい
声に出さずに口にして、やはり愕然とする。
「嘘・・・」
否定してみるものの、やはり愛されたいと思っている自分がいる。むしろあの天龍がおかしいなどと心のどこかで奇怪な思考が走る。そもそも天龍型にしては微妙に大柄である。遠征隊長の天龍に比べ背が高く、元々良いプロポーションもさらにグラマラスに強化されているのだ。軽巡としてはプロポーションのいい自分よりもである。遠征隊の天龍が自分と同じくらいなのに、昔から知っている方の天龍は自分よりも背が高いのである。普通に立っていると、おでこにキスをされる程度には差があるのだ。というより、された。
「え、始めるとき、いつもおでこだ」
開幕はハグでおでこにキス。ゆっくりとベッドに腰を下ろして、脱いで。壊れ物のように扱われている?それで、
―子ども扱いされている気がして、ゴーヤたちと一緒になって天龍さんを泣かせた?
「うわ、最低っ」
頭を抱える。
「大井っち」
「ひゃいっ」
唐突に声をかけられて立ち上がる。首を向けてみれば、息を切らし気味の北上が目に入る。
「き、北上さん?」
ずんずんと歩を進めてくる北上に、思わず後ずさってしまう大井。
「大井っち」
しかしそもそも大井には北上から逃げるという選択肢はない。となれば後退もそこそこに、正面から北上に迫られる形となるわけで、
「は、はい!」
がっしりと両肩に手をかけられてテンパった大井が出来上がるのである。
「大井っち」
北上の顔が近づく。
「大井っち、わたしは大井っちが好きだ」
北上の言葉に大井は息をのむ。不意打ちではない。どこかで期待はしていた。だが、今の大井にとっては返事が難しい問題だった。
「多分、普通の好きじゃない。誰にも渡したくない、そういう「好き」だから!」
「あ」
退路を断たれた。
「大井っち」
「大井っちは、誰がいい?」
言葉を、返せない。
「わたしは」
その先を口に出来ない。
「わたし」
北上さんが好き、ただそう告げればいい。なのに声に出せない。
「わた「もういいよ」」
「大井っちが、決められないってんなら」
失望された、そう大井はその瞬間思った。だからその先は、完全に予想外。
「わたしが全部奪い取る。天龍には渡さないから!」
北上の発言を理解する前に、北上の顔の上半分が視界いっぱいに広がった。柔らかい感触が唇に触れる。背に回された腕の感触。
抱きしめられてキスされた、そう理解した大井は―意図せずに泣いた。涙に気が付いた北上が、離れそうになるのを腰に手を回して引き戻す。今度は自分からのキス。これがキス。夢にまで見たキス。ただの―ただのキス。どちらともなく離れる頃には、互いに真っ赤な顔をしていた。
「大井っち」
「北上さん、部屋に、戻りましょう」
途切れ途切れに、大井が告げる。
「え、あ、うん」
「ここじゃ、続き、出来ませんし」
続き?と疑問に思って大井の顔を見る。潤みながららんらんと輝く瞳、先ほどのキスで濡れた唇、紅潮した頬。これで続きをしなかったら、今度こそ獲られる、と北上は観念し、大井の手を取る。さて、当の大井はと言うと
「北上さん」
北上に手を引かれながら、ゆっくりと歩を進める。
「なんだい、大井っち」
「ほんとに、わたしでいいんですか?」
ぎょっとして大井を見れば、興奮したまま泣きそうな顔をしている彼女がいた。
「天龍の名前出したくないけどさ、釣り合わないとかそういうこと言ってたとかいうのは本当みたいだね」
その言葉に怯える大井。
「ねえ、大井っち。私じゃ釣り合わない?大井っちがじゃなくてさ」
「そんな、わたしに北上さんはもったいな過ぎます!」
「じゃあ、それでいいじゃん」
「でも、わたし」
手を引きながら宿舎に向かって歩き続ける。以前として大井の足は重い。
「わたし、北上さんとちゃんとしたい」
どういう「したい」かは流石に分かる。だから大井は部屋に戻ろうと言ったのだろうと。
「でも」
「でも?」
宿舎の入り口の手前で、
「ここで、されたいって思っちゃうんです」
戸を開けての発言である、幸い誰も廊下にはいなかった。
「ここで!?」
まさかの露出狂宣言に流石にびびる北上である。
「壁に押し付けられて、そのままされてしまっても、北上さんになら・・・」
雑誌に載っていた壁ドン?と北上は理解するものの、大井の思考はもっと斜め上のものだった。北上にされたことなら耐えられる、むしろ喜んでされてしまえる。だから全部北上にされてしまえばいい。
「北上さんにされたことなら、何でも許せるから」
「ひどいな、大井っちは」
「やっぱり、ずるいですか?」
「そんなこと言われたら、私、もう逃げられないよ」
大井のお望みどおりに壁際に体を寄せて、
「「2回」も置き去りになんて、出来ないから」
結局、似た者同士なんですね―そんな大井の呟きを、北上が塞ぐ。流石にそのままコトに及ばなかったのは、無粋な監視カメラが視界に入ったからではあるが。
無造作に、とは言わないが余裕のない動きで北上の指が自身の「奥」近くに入り込むのを感じる。ここ数か月は感じることのなかった感覚に、天龍の言葉を思い出す。確かに彼女は加減していた。探るような北上の指の動きが内側のある点をかすめ、大井は思わず足を突っ張らせた。
「大井っち、ここ?」
ぐるん、と指がまた膣内の腹側を撫でる。かはっ、と返事をするように息を吐くが、やはり声を出す余裕はない。と、またキス。互いに横抱きするかのような姿勢のまま、舌を絡ませる。ここで動く余裕を思い出し、おそるおそる北上の熱い割れ目に右手で触れる。
「う」
大井としてはゆっくりと滑り込ませたつもりだったのだが、
「え、あれ、きついですか?」
「あー、実はあんまりしてなかったりするんだよね」
その言葉にゆっくりと指を動かすが、全体的に締め付けがきついと言えばきつい、と大井は感じた。
「北上さん、少し、力を抜いてください」
「あ、うん」
北上は返事はしたものの、どうにも表情が固い。二本の指を奥へと押し進めるとさらにぎゅうっと締め付けられてしまう。
「北上さっん!?」
顔を見れば声を漏らすまいとしたのか、唇も噛みしめた、やや血の気が失せた表情があった。
「実は、そっちは経験なかったりするんだよね」
実は処女、との告白に大井は指を抜く。北上の前の所属先ではあくまでブラック的労働にとどまっていたようである。
「ちょ、大井っち」
「痛がらせるつもりはありませんし、他のやり方もありますから」
「でも二人でするなら、いっしょに出来る方が」
「泣き顔みたいなのは嫌です」
「ああ、うん」
大井はと言うと、北上の正面に陣取り、
「では、ちょっとこちらに」
「でもこれだと」
「交代で、しましょう」
そう言われるともう反論のしようがない北上であった。大井の前で裸身を横たえると、多分そうだろうと思い膝を立てつつ足を横に開く。大井はというと、その足―というかももの下に滑り込ませるように付け根に手を添えて肘をベッドに突くと、躊躇なく北上の下の唇にキスをする。
じっとそれを見る北上に気付き、
「北上さん」
「なに?大井っち?」
少し顔を上げると、だらしなく舌を見せ付ける。え、と声を上げて顔を紅潮させる北上を、上目遣いで見たままに、彼女のそれを舐めあげる。顔ごと動かすようにであったり、舌先だけであったり。はーはーと乱れる呼吸を聞きながら、口を開けて割れ目の上から下まで覆い隠すように貪る。音を立ててすするように刺激し、舌を挿し入れて味わう。北上はというともうおまんこに口をつけるという、知ってはいても初めての行為でいっぱいいっぱいで、両手でシーツをつかんで耐えるのがやっとだ。やがて大井は舌を出来る限り伸ばすと、北上の膣の腹側を舐る(ねぶる)。もちろん上唇で陰唇の上側を刺激し続け、吸い、卑猥な音をさせ続ける。と、唐突に太ももで頭を挟まれた。跳ねる様な腰の身じろぎと数度痙攣するかのような太ももの締め付けに、大井は北上が絶頂を迎えたことを理解する。やがてはあはあと荒い息をさせながら、脱力した北上は両足をだらしなく開いてしまった。
「おおいっち、これ、すごい」
「わたし、上手くできましたか」
「うまくも何も、頭まっしろ、になったよ」
息も絶え絶えな北上のとろけ顔に、うふふ、と笑った大井。さて、先ほどの言葉通りならまた「交代」であるのだが、
「それじゃ大井っち!?」
ようやく呼吸が整った北上が交代を言い出そうとしたところで大井が―
「かわいいです」
がっつりと北上の両ももを掴むと座っている自身の体で支え気味にして北上を逆さに引き上げてしまう。
「ちょっと大井っち、いったい」
何をと聞こうとしているものの、逆さにされた上に「おまんこ」が大井の口のそばの時点で意図は明白だろう。素の艦娘の膂力はこういった色事で無茶な体勢を取れるのも利点かもしれないが、自分がそれをされるとも思ってもいなかった北上であった。
「もっとかわいい顔、見せてください」
結局北上は3回はイかされて、その晩はお開きとなった。
なんだかんだで北上×大井が成立したので、肩の荷が少しだけ降りた天龍だったのだが、
「なあ、見せ付けに来てるのか」
「いやあ、実は相談したいことがあってさあ」
ちゃぶ台で向かい合っているのだが、この間と違うのは大井が北上にしなだれかかって至福の表情を浮かべていることだ。艦娘の天龍などは先ほどからケッと腐りながらビールを空けている。大井には突き飛ばされ、北上には殴られたあげくこの仕打ちである。泣きたい。
「なんだよ、部屋だって前から同室にしてるだろ」
「いやね、やっぱりアレはあんまり経験なくてさ、あんまり大井っちを気持ちよくさせてあげられなくて」
男前なキス等で開幕優勢にもかかわらず、どういうわけかベッドの上では大井に押されっぱなしの北上であった。
「おめえ、それをオレに言うか。オレの前で大井を鳴かせたいとかふてえこと言いやがるな」
「この通り!ご教授願います!」
ちゃぶ台の上で土下座もどきを披露する北上に、うんざりした顔を向ける。
「お前、金輪際男は要らないか、もしくは二人まとめて引き受けてくれる寛大な男を探すみたいな覚悟あるか?」
「え?」
「このご時世だからな、完全にお互いのモノになったら、男に惚れてもあとあと結婚とか難しくなる場合あるぞ」
そもそも適齢期の男が少ない。
「あー、うん。でもまあ、同じ後悔するのも嫌だし」
お互い、いつ沈められるか分からない職場である。どうせならやることやってからの方がいいし、艦娘の間は歳を取らないに近いにしても、常識的な年月の間に終戦となるかも不明である。
「とりあえずこれでまず逃げ場一つ潰しといたからな」
ぽん、と写真1枚、卓の上に置かれる。小さな砂浜でのキスシーン。
「え、なんでこんなものが」
「青葉も「教室」の参加者だからな。卒業者向けのご祝儀もどき・・・てよりお前が逃げようとしたらこれで連れ戻すつもりなんでな」
唐突な個人情報の暴露に艦娘の天龍が異議をあげる。
「おい、今のオレが聞いていいのかよ」
一応他人の性事情、口外しないことにしているが自分相手だとどうにもガードが緩くなる。
「わりい、聞かなかったことにしてくれ」
「うええ、恥ずか死ぬ」
写真の威力にちゃぶ台に突っ伏した北上がうめく。それを無視して天龍は大井に口を開く。
「んで、大井」
「何ですー?」
すっかり色ぼけて目も当てられない。
「北上はお前のモノにしたか?」
「はい?」
「オレの時よりすごい事しろってわけじゃねえが、北上をお前の女にできたって言えるか?」
「あー、その」
「すみません、痛そうだったので」
「おうし、北上、大井の手で非処女にしてやっから、覚悟しろ。気持ちいいとかそういうのはそっからの話だ」
「生々しくてひくぜ。オレに矛先向けんじゃねーぞ」
ご乱交に巻き込まれてはかなわん、と艦娘の天龍が不参加をわざわざ表明する。
「気持ちよくしてからての、ダメ?」
おちゃらけたように懇願する北上を、
「オレも大井もそれ、未経験なんでムリ」
自虐の入った否定で返す天龍。
「ははは、お手柔らかに、かなあ」
「こっちとしちゃ卒業したはずの奴が戻って来たあげく、入学者付きとか泣きたい気分なんだぞ。あまりガタガタ言うとオレが破るぞ」
「んー、それも悪くないかなぁ」
「そんな、北上さん!全部私にくれるって言ったじゃないですか!」
「おい、北上、大井を泣かせるんじゃねえ」
「いや、天龍にはなんだかんだで恩があるわけだし、それにまあそうすれば大井っちと同じで大井っちも気後れしなくてすむかなと」
「で、本音は」
「大井っちと天龍どっちも欲しくなっっちゃった」
「横から口出すとあれだ、大井も「提督」も欲しいから3人でしようってことだろ」
「ほー、大きく出たな。んじゃ、後ろ向こうか」
言われた時点で殺気もどきが背中に刺さっていることに気付く北上。後ろを振り向けば、軽母、空母、戦艦のそろい踏みである。
「提督、榛名は大丈夫ではなくなります」
「やりますか?ヤりますか」
「あらあら、使えそうな道具でしたらあげますよ?流石に買い直しになりますので、お代としてもらうモノはもらいますけど」
「発言撤回しないと、3人にぼろぞうきんにされるぞ」
具体的には手始めに台所用品で前後の処女を散らされ、その後嬲りに嬲られてベッドに放置、だろう。「お艦」鳳翔が仕事道具を冒涜するなど通常あり得ないが、泥棒猫宣言をああもされては、正妻になれた気分の鳳翔を始め古参の愛人状態の榛名、加賀、誰も彼も黙っていることはできない。
「ごめんなさい、全部大井っちにされたいです!」
即土下座である。
「なあ、これオレに対する当てつけか?当てつけなんだな、泣くぞ」
女同士の恋愛など興味はないが、かといって独り者の身で痴話げんかに巻き込まれるのはつらい、と艦娘の天龍が愚痴る。
「んー、仲間に入るか?」
「オレ、初めてはイケおっさんにって決めてるんで」
「だよなぁ」
やっぱりそっちが普通だよなぁと提督天龍が嘆くように呟く。
「そもそもお前が女に手を出してることが発端だろ」
「いや、オレの自己認識、ベースは男だし」
「マジ?建造時に資材に変なブツ混ぜ込まれたとかか?」
前世持ちなど公言してはいないので、大体がこの反応である。
「ただまあ前のとこでそっからぐちゃぐっちゃでネトネトにされたもんでよ、もうどっちでもいいかなって」
「お前やっぱ劇物だ、女所帯でオレら女として無意識に扱ってるだろ」
「そう、なるのか?」
「女学校に宝塚の男役が放り込んだようなもんだぞ」
「んー、そんなもんか。まあいいや、北上。その件は了解したし、オレからは手え出さねえから、ちゃんと自分の意思を固めとけよ?」
「あらあら、天龍さん。お優しいですね。この間殴られたって聞きましたよ?」
目の笑っていない鳳翔の言葉に、榛名と加賀の視線だけが北上に向く。
「あー、北上、大井。とりあえずお前らもう行け。話が色々ややこしくなる」
「天龍、御免!大井っち、行くよ」
「ひゃ、ひゃい」
脱兎のごとく二人が逃げ出したあと、
「とりあえずその件は不問にしたんで、荒立てないでくれよ?」
「はい、わかりました」
「なあ、オレ。なんかオレも見られてねえ?」
天龍が二人並んでいる状態である。
「鳳翔さん、もしかしてオレを並べたいとか不埒な事考えてね?」
天龍の指摘に、榛名の視線が両天龍の間をさまよい、加賀が気分が高揚します、などと言い始める。
「いえいえそんな両側から愛してるとか囁かれたりとか考えていませんから」
ひぃっと艦娘の天龍が悲鳴を上げる。
「鳳翔さん、それ白状してるのと一緒だから、あとオレまだ言ってないし」
「では言っていただけます?」
「言いたくなったらな。そんときゃ腰砕けだろうから全部飲み尽くしてやるって」
それにぼんっと真っ赤になった鳳翔が慌てたように悲鳴を上げる。
「ダメです、あれはナシです!」
「えー、あの時の鳳翔さんすっごい可愛いし」
「いくらなんでもはしたないです!」
「でもなー、あとの面倒も少ないし」
「おい、色ボケ提督、例えどっかで振られて傷心でもお前とはキスしねーからな」
「鳳翔さん、その話詳しく」
「おいおい、オレよう。色々マンネリになったら似たようなことやることになるから、否定はやめとけよ」
「加賀さんも聞かないでください!」
榛名が気付いたように加賀に言う。
「加賀さん、加賀さん、遠征隊の天龍さんがご存知のようです」
「はいはい、あとで教えてやるから、とりあえず変態二人から離れような?」
「提督は変態じゃないですよ?」
「まあいいから」
とりあえず、でっかい子供二人を退避させる艦娘の天龍だった。
後日、
「で、オレ。あの後どうしたんだ?」
「もう面倒になったし、すげえ可愛かったから口塞いだ」
「マジかよ、最低だな」
やっぱり天龍同士でも感覚は大分違うらしい。
小さな浜辺、眼帯を外して両眼で見る。
「うわ、やっべーな。まじで使えてるわ」
先日も確認したものの、視界は安定していた。きっかけがアレだったが、使えるなら有難い物だ。まあ出撃することもろくになくなってしまったが、訓練メニューくらい組んだ方がいいだろう。
「しかしまあ、女の裸見たさに開眼とかまじでエロは偉大だな」
そんな天龍に声をかけてくる艦娘。
「こちらでござったか」
特務のあきつ丸である。
「特務の方だよな、その隈からすると」
「久しぶりですな。それにしても」
「何だよ」
「天龍殿に両眼で見られるのは新鮮でありますな」
その指摘に慌てて眼帯を戻す。
「ありゃ、自分何かミスりました?」
「オレが迂闊だっただけだ。平時に両眼で見る人は、やっぱ大事な人だけにしておきたい」
「ははあ。まあそういうこだわり、ポイントですな。ん?ああ、そういえば脱がされていましたな」
眼帯を望まずに脱がされていた件に思い当たっただけである。
「古傷えぐりに来たってんなら相手になるぜ」
「どちらの意味でお相手していただけるか興味深いところですが、仕事でして。最終報告書と、証拠データ入りの端末です」
「報告書はともかく証拠データのコピーは要らねえんだけど。見たくねえし」
「そうは言いますがな、こちらも魂削って、ええ、血の涙流しながら「被害」を確定しましたゆえ、少しでも活用していただきたく」
「どういう意味だそりゃ」
「最初の開発リストファイルを見ていただければ」
指示通りにファイルを見ること数分、
「おい」
「はい」
タブレットの角を振り下ろした天龍の腕を白羽取りにするあきつ丸。
「殺す、ガチで殺す」
「顔真っ赤で言われても迫力ありませんなぁ」
殺意なし、羞恥で顔真っ赤の天龍に、にこやかに答える。
「てめえ、忘れろ、全部忘れやがれ!」
「そうは言いますが、せめて残った部分で思い出くらい作れませんと。特に大井殿。あ、道具とか必要でしたら本土から持ってくるでありますが」
開発リストファイルの先頭は何故か天龍で、開発内容はまあ下世話なものであった。なお「ケツは処女」の記述で普通にブチ切れたわけだが。
「いやあ、先頭データは天龍殿にして正解でした」
「どういう意味だ・・・」
「他の子でしたら、のど元に一発でしょう?」
「やってたかもな」
怒りの種類はおそらく変わったはずであり、殺意ものっただろう。それぐらい被害者から見れば悪辣なファイルだ。
「では大井殿のファイルを」
「おい、本当に死にてえか?あと、多分もういらねえ」
「なんと?」
「とりあえず納まるべきさやに納めたからな」
「もしやお気付きで?」
「あいつ、ほぼオレと一緒に出撃してたからな」
「天龍殿、ご自分を盾にしたと?」
「いいんだよ、意地があるんだよ」
「男の子には、というには天龍殿はなくなった筈の股ぐらがいきり立つので、反応に困ります」
「それはさておき、別ファイルのUMAを」
「注文が多いな・・・・おい。こいつは」
「専門家がいなかったら某も天龍殿のお仲間になっていたかもしれませんな。今思えばそれも魅力的でありますが」
独り寝が寂しいのですよ、と冗談を言うあきつ丸。
「で、「提督」の処分は」
「貴殿が以前言われた通り、表向きは更迭、裏は我々による保護であります。このデータが機密指定を解除されるのは、数年後と言ったところでしょうか」
「つまり、数年で無罪放免か?」
「深海棲艦の「攻撃」で艦娘を攻撃にするようになる提督を無罪には出来んでありますから、死ぬような目に遭う「再訓練」の後再投入ですな」
「ところで天龍殿」
「何だよ」
「こちらの監視カメラの証拠画像もお渡ししておきたいのですが」
「見ろってんだろ」
再生―数秒後、砂浜で追いかけっこをする二人の艦娘が見られたと言う。まあ廊下の片隅で行われた自分と鳳翔との情事など見せられれば、そうもなるが。
自分で見てる分には表記不足に気付きにくいけど、いくつか矛盾か会話的に自身が知らない事実をしゃべってる奴がいた筈。取り敢えず思い出したら修正することにして投稿。
これ投稿しても転生大井の方に追い付かないけど、先任の北上の理解にはつながるかな?って感じ。