第13独立艦隊―所在地は沖縄県に所属する現無人島の一つであり、戦前・戦中には幾つかの鉱物資源を産出することで島民が住んでいたこともあった島である。
某作品の部隊名にちなんでつけられたその名前は、大本営の特務課麾下に置かれ、可能な限り大本営内及び各鎮守府間の派閥争いから隔離されるよう配慮が行われていた。もっとも特務課の勢力拡大に使われる駒である、と言われれば否定は出来ない側面もあったが。
舞鶴第4鎮守府による遠征任務は、他のブラック鎮守府による艦隊同様、過酷な任務と化した。帰還を拒否する艦さえ出すほどである。大破状態で海上をさまようなど自殺行為だ。だが帰還したところで結果は同じ、入渠さえ許されず再出撃で轟沈するのは明らかである。ならば、せめて最後の自由が欲しい。そんな自暴自棄に陥る艦娘は多い。故に
「大井、お前はここで沈んだ。いいな?」
遠征中の遭遇戦で大破状態に追い込まれ、帰還を拒否した大井に、天龍はそう告げた。回収した資材、燃料の一部さえ押し付けてくる彼女に、大井は感謝はするものの、懐疑的な視線を向ける。
「雷、ゴーヤ、初雪、磯波。すまんが前方の島にて待機してくれ。2時間でオレが戻らなかったらそのまま帰還しろ」
「天龍さん?」
「悪いが大井の身の振り先を教えるわけにはいかないんでな」
雷の問いかけにそう返すと、天龍は大井についてこい、と言い全く違う方向に進もうとする。が、それを磯波が止めた。
「わたしも・・・連れて行ってください」
天龍の手どころか辛うじて指に触れる、そんな止め方ではあったが、中波状態の磯波も気にかけていた天龍は反応できた。
「いいのか?」
「わたし・・・一度解体されたことになってますよね?多分、もう」
再出撃か解体か、帰還しても詰みである。演習どころかまともな座学さえ受けられないブラック鎮守府では、艤装を解体され世間に放りだされたところで何も出来はしまい。いや、解体後の行き先を選べるかも怪しい。
「わーった。確かに自由はあるが、後戻りは出来ねえぞ」
「はい・・・」
「雷、ゴーヤ、初雪」
「前方の島で待機します・・・」
「大井、お前にも再度聞くぞ?」
「いいよ。最後に北上さんを探してさまようのも悪くないし」
「身の振り方はあまり時間もないけどよ、行った先で少し話すぞ」
来い、そう言って天龍は大井と磯波を先導する。
「行っちゃいました・・・」
気落ちしたように言う雷に、伊58が反応する。
「天龍は戻って来るでち。戻ってこないならゴーヤも逃げるでち」
「・・・ゴーヤ?」
様子のおかしいゴーヤに初雪が名を呼ぶ。
「天龍がいないときはゴーヤか鳳翔がいじめられる。天龍は代わりにいじめられに行くのでち。ゴーヤ、ずるくてももういじめられるのはイヤ」
「ゴーヤさん、あの島まで行きましょう」
様子のおかしくなったゴーヤを引っ張って、雷と初雪は島までたどり着いた。
「少し休みましょう」
彼女たちとて状態は良くない。運よく今回は損害はなかったものの、小破状態のままだ。帰還しても、現状、入渠は天龍の用意した「予備」次第の有様だ。その点伊58は損傷自体なかったが、それ以上になんらかの消耗を抱えていた。
「ゴーヤも戻らなかったらみんながいじめられる。きっとゴーヤは逃げられないでち」
お休みくだちぃ
浜に上がってから、そんなことを呟いてゴーヤは眠ってしまった。やむを得ず二人がかりでゴーヤを運び、茂る木々の中に3人で身を隠す。
「天龍さん・・・戻って、きますよね」
初雪のそんな問いに、同じ不安を抱えている雷は言葉を返せなかった。
天龍の独断により轟沈した、または解体されたことになっている艦娘が身を隠す場所として、現無人島群はうってつけであった。場所としても本土より離れ、しかしその気になれば本土に逃げ帰ることが出来るかもしれない―そんな海域であり南方からの脱走組がそこで足を止めてしまう―そんな場所だったのである。
「天龍さん、左舷の島に誰かいなかった?」
大井の問いに天龍はああ、いたな、と返す。大井が抱えた疑問には時間も惜しいこともあり答えない。最初に進んだ方角からさらに向きを変えていた。結局は無人島群内には違いないので、しらみつぶしにされれば意味はないが、万が一電達が漏らしたところで時間稼ぎにはなるだろう。
突如左舷から接近する艦影―いや人影が目に映る。とっさに砲を構えようとする大井を、天龍は制した。
「久しぶりだね、大井っち!」
「北上さん・・・」
思いがけない再会に、ふと天龍を振り返る。天龍はにやにやと笑っていた。
「天龍、あんた知ってて」
「まあな。んで、悪いが今回は二人だ。状況は?」
「まあまあかな。意外に資源が多くてさ。ただ・・・」
「なんだ?」
「電が沈んだよ」
「そうか。1週間ほど前、佐世保にたどり着いたって船が理由だな?」
深海棲艦の襲撃を受けたその船の乗客達は、艦娘に助けられたと口々に証言した。該当時刻・海域で作戦行動中の艦隊はなく、おそらくは自然発生艦であろうと結論付けられている。
「南方からの難民船ならね。止められなかったよ」
「見捨てろなんて言えねぇよ。深海棲艦が民間船を襲ってて、そこに艦娘がいりゃやることはひとつしかねぇからな。あったかもしれない機会を求めてる、そんなガキばっかりだ」
と、北上がポケットから何かを取り出す。
「渡しとくよ」
「・・・こいつの回収で虎の子の残弾も使っちまったのか」
渡されたドッグタグに対し、北上の空の魚雷発射管を見ながら天龍は言った。北上はただ頷くだけである。しゃーねぇと天龍は呟きながら収納状態の艤装を腕に出現させ、未使用の魚雷を取り出す。
「遭遇戦はあったしな、損耗したことにしちまえばいい」
とはいえ残弾すべてを渡せるほどではなかった。
「ま、ないよりはましかな?助かる」
「他にもあるなら弾薬と燃料は小分けにして分散して隠して置けよ。万が一襲撃があった時、一か所にまとめてあったら一発喰っただけでアウトだからな」
「心配性だな」
「あとは、そうだな。難民船のとき、名乗ったか?」
「いんや、その暇はなかったしね。向こうも逃げるので精一杯みたいだったし」
「一般船舶や他の艦隊に会ったら、嘘でもいいから所属を名乗っとけ。そうだな…第13独立艦隊とかどうだ?」
その言葉に少し思案する北上。そう間も置かずに口を開いた。
「独立艦隊か、悪くないね。そうするよ」
「それじゃな、大井、磯波。あとは北上についていけ。こっちよりマシとは言い難いかもしれんが、殺されるよりは死ぬ自由の方がましだろうよ」
「天龍さんは、どうするんです?」
磯波の問いにわずかな間をおいて天龍は言葉を返した。
「逃げたい奴がお前らだけで終わると思うか?」
「・・・そうですね。任務、お疲れ様です」
「出来ればよ、次来たときも生きててくれるとオレとしちゃ助かる」
了解です、と答える磯波に、無言で手を振る大井を見ると、天龍は踵を返した。天龍の姿が島に隠れると、北上は二人に声を掛け、移動を再開する。
「ま、とりあえず生き延びようか」
第13独立艦隊、これより帰投する!
楽しそうに気勢を上げる北上を大井は不思議そうに見ていたが、大井も自分自身、何かを期待しているように感じていた。それはそう遠くない時期にやってくるのではあったが。