フィーッシュ!
近くまで来ていた天龍は呆れた顔をして声のした方を見る。なお、海上である。艤装なしでは速度は出ないが、ぶっちゃけ艤装なしでも「そう意識すれば」艦娘は海上に立てるのである。
「お前さあ、状況分かってる?」
「ああ、天龍さんですか」
岩の上に腰を下ろした艦娘―赤城が、クーラーボックスに10匹目の魚を放り込むところであった。
「一応鎮守府から見りゃ目と鼻の先だぜ、ここ」
鎮守府の西の、地形としてやや岬上に張り出した部分の、鎮守府とは反対側。故に直視はされないものの、小舟でもたどり着けるような場所だ。
「陸上ならば罠は仕掛け済みですし、海上ならば私が見逃しません」
「それに、この子たちがいますし」
岩場の上で携帯燃料で魚を炙っているのは、妖精たちだ。艦娘赤城―その艦載機の、搭乗員妖精たちである。焚火ならば少々まずいところだが、これならば目視されるほどの煙も出ない。
「ところで天龍さん、普段は来ない筈の時間ですが、いったいどうしました?」
「この間イ級が襲撃してきてよ、憲兵が一人くたばった」
「それはそれは」
悪そうな笑みを浮かべながら言った天龍に、同様の笑みで返す赤城。
「おかげで無駄遣いのない範囲でなら大っぴらに鎮守府近辺を哨戒出来るようになったって寸法よ」
「それで徒歩で海上を?」
これまでは面倒でも、陸を移動していた。
「そういうこった、んで、これ差し入れな」
そういうと岩場の上に登った天龍は、調味料、飲みかけらしい小瓶のウイスキー、燃料缶、ボーキサイトなどが入った手提げ袋を渡してくる。調味料も使い掛けのようであるし、手提げ袋自体布製で、かつ年季が入っている。良く見れば3年2組と書かれ、名前はかすれてしまったのか読めない程度に薄い。
「これは?」
「また似たようなことになって吹っ飛ばされても癪だからな、回収してきた」
「火事場泥棒ですか」
出所はシャワー小屋同様の代物であった。なお、消毒薬目的のウイスキーだが、早速「サケダー」と叫ぶ妖精さんたちが飲み始めてしまった。
「帰って来るってんなら出るか分からない給料で返してやるさ」
一応、天龍による帳簿には記録されている。天龍が死ねば果たされることのない、また元の所有者も関知していない約束事であった。
「この分だと携帯燃料の類も必要そうだな。機会があったら探してくる」
「お願いしますね」
「あとな、一人沈んだ」
沈んだ「ことになっている」ではなく「沈んだ」である。大井や磯波の件も伝達済みだった。
「・・・誰です?」
チャラ、と音をさせて取り出したドッグタグを見せる。タウイタウイ第3、電と建造年月日の書かれただけのそれを赤城は確認した。
「お前の知らない奴だけどな、お前の方の記録も更新しておいてくれ」
天龍は少し前から、艦娘のリストは表裏共に赤城と共有していた。
「どういう理由で?」
「少し前に佐世保に民間船がたどり着いたんだが、そいつを守って死んだとよ」
「そうですか」
「あとタウイタウイ第3な、洋上であいつを回収した時点で壊滅してたらしい」
どうやらうちよりはまともなところだったみたいだぜ?と天龍は愚痴ともつかない言葉をこぼす。
「天龍さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫でなくともやらねえとな」
じゃあな、また来るぜと天龍はまた徒歩で海上を戻り始める。
赤城はそれ以上は何も言わずに、ただそれを見送った。
艦娘、正規空母赤城。しかしこの赤城はそれとは違った。まず、艦載機の運用は可能だが実は下手である。飛ばすことはできる、だがまともな指示は出せない。故に彼女の飛行隊は各々が個人技能を磨きつつ、僚機と自己判断で連携を取る方向で戦術を模索中だ。そしてここからが通常の赤城と違うところなのだが…この赤城、弓を弓として使うのである。およそ目視できる距離ならば、彼女の放つ矢は「当たる」。それに観測機としての―視界を共有できる艦載機が加わわり、水平線の向こう側であっても当たる未来像が見えてしまった。あとはしかるべき矢を放てばいいだけであり、そういった矢―主に鋼剣をいくらでも作り出せると言うおまけ付きだった。航空戦艦赤城(偽)の誕生である。
この赤城を拾ったことで天龍、及び舞鶴第4の艦娘たちの命脈は確実にプラス方向につながった。彼女は、ボーキサイトはほとんど消費しない。まあその分搭乗員妖精たちは退屈してはいるが。鋼材を馬鹿食いするような損傷もろくに受けず、攻撃隊を観測に使うため弾薬の消費は少ない。燃料だけが他の赤城と同じだけである。また、大食いと言われる赤城としては、小食でもあった。しかもその食い扶持も自分で釣ってくる上に、干物にして皆に配るほど。
天龍は最初の遭遇の時点で何者か分かっているかのように、この赤城を迎え入れた。まあ、イ級の大群に襲われているところを助けられれば、誰だって喜んで仲間にするだろうが。ただし、舞鶴第4の艦娘リストには記載されていない。なお、イ級達はもちろん飛来する剣で串刺しになされた上にしめやかに爆発四散、慈悲はない。
「私を外に置く理由はなんですか?」
「お前さ、野郎どもの視線に耐えられっか?」
そういってどうにも悪そうな表情を返す天龍に、赤城はやや顔色を悪くした。
「すみません、無理とは言いませんが、大分きつそうです」
「だよなぁ。無理やり精神と必要装備だけ体にぶっこまれてるだろ、サバイバルしてた方が多分安全だぜ」
これを聞いていた雷などはいったい何の話か分からなかった。
「ところで天龍、さんでいいのですよね?」
「おう」
「槍はお使いにならないので?」
ここで天龍は顎を落としたかのように唖然とする。
「あー、そっか、オレ、槍ニキの言動参考にして動いてたのか」
「「「「槍・・・ニキ?」」」」
赤城を含め、雷、初雪、この時はまだいた大井なども「なんだそれ」という顔をする。
「槍の兄貴だから槍ニキ。女の場合はネキな」
「それは、また・・・」
「そんなに似てたか?」
天龍の疑問にまさにそれ、と言葉を返す赤城。
「今みたいにところどころで彼を想起しましたので、尋ねました。まあ全体的に何か違う、とは思いましたが」
「オレはただ彼のファンってだけさ。同時にお前のファンでもあるから、お前がいったいなんなのか分かるってところだな」
「ファンですか」
「今は正直言って会いたくない。あの御仁、絶対口説いてくるだろ」
「お軽いですからねえ」
「オレ、今ならホイホイついてっちまう自信あるぜ」
「すみません。先ほどから聞いていると、こちらと同じ状況の様に聞こえますが」
お前男だろ、という指摘である。
「ぐっちゃぐちゃになってもう曖昧なんだよ。兄貴みたいに持ち上げてくれる相手なら多分コロっといっちまう」
「納得はしがたいですが、何とか現状は理解しました」
赤城としては理解したの部分も嘘ではあった。ただ、泣いているとも笑っているとも分からない天龍にそう言わざるを得なかっただけだ。
とまあぐだぐだな経緯で非公式に、というか天龍の個人戦力の位置につき、日々サバイバル生活をしながら干物やら刺身やらを艦娘に供給しているのである。おかげ久しぶりに人間らしい食事ができた者も多い。そういう現状もあって、赤城をいきなり鎮守府に入れるのを、天龍は避けたのではあるが。証拠を集めて正規ルートでどうにかしようとしているところで、作戦目的、正義とかやられるとむしろ事態が悪化する、特にガワが艦娘の現状だと。これが外装も「彼」だったら速攻ぶち込んで私怨込みでクソ提督共の処理を頼んでいたところだが。
鎮守府詰めの憲兵に死亡者が出た。報告書が回ってきた段階で第4憲兵隊の鏑木は手勢を引き連れて舞鶴第4を訪れたのだが。報告書の書式は整ってはいた。問題の戦闘記録を見ても戦死と扱うほかない状況だ。だが、今のところ第6まである大本営直属の憲兵隊のいずれにも緊急連絡がなかったのが問題だった。これは状態の悪い鎮守府に見られるパターンであった。
「それで、阿久津少尉は?」
「そりゃモルグですよ」
艦娘ばかりの鎮守府で、ほぼ使われることのないモルグ。使用は2回目だと言う。ますます鏑木は気に入らない。
「だから危ねえってアタシャ言ったんですがね。やっぱり軍人なのに戦場に近づけないってのは、ストレスなんでしょうかねぇ?」
ひょうひょうと答えながら案内をする秘書艦、天龍も気に入らない。天龍にありがちな、天然的な威勢の良さではなく、どこかすれたような、演技っぽさを出している辺りがである。大体天龍はオレと自分を指して言う。
「まあ、当人かの確認はこの有様なんで」
「多少時間はかかるが、問題はない。腐っても憲兵だ、親類縁者とも連絡は取れる」
モルグの保管庫から引き出された、首のない阿久津少尉の有様に鏑木はそう答えた。それの何がおかしいのか、天龍は愛想笑いをさらに大げさにしたような表情を浮かべ続けている。
「それはうらやましい限りで。アタシらみたいな建造艦にゃ望めないことですからねぇ」
違うな、と鏑木は思った。こいつは憲兵を笑っている、そういう笑みだ。ほぼ勘で下手人の類だと決めつけたところだが、あいにく証拠はない。ついでに証拠を見つけたところで、もっと特大の爆弾が埋まっている。これはそういう類の話だぞ、と長年の―刑事時代の経験がそう告げた。
「現場にいたのもお前だったな。検証にも付き合ってもらうぞ」
「了解しました、大尉殿」
艦娘にも関わらずやたら肩肘を張った、素人の様な敬礼を天龍は返した。ますますもって気に入らなかった。
「ろくでもない感じですね」
後部座席にともに座る部下の一人、矢田の言葉に、頷く鏑木。不審の目を向けて来た歩哨達。工廠暮らしと化す場合がほとんどの明石も含め、いるはずの艦娘の大半は艦娘寮で息を潜め、極一部の艦娘しか目に出来なかった。そもそも現場が鎮守府外、しかも敵の砲撃による戦死だ。鎮守府内の捜査はほぼ無理である。医務官による検死も、現場保存の観点からか行わずに保存優先―まあ首から上がなければ即死ではあるが、非協力的に見えて死体という明確な証拠を手つかずで渡してくる矛盾。現場検証後、早々に引き上げざるを得なかった。
「十中八九、黒ですね、ここ」
背後に遠ざかっていく建物をミラーで一瞥して、運転中の赤羽がそう続けた。
「しかもやばいですよ、あいつら多分グルだ」
助手席の佐竹が言うあいつら―鎮守府詰めの憲兵が艦娘を裏切るのは、前例がないわけではないのだ。そして歩哨もグルになるか、命惜しさに口を噤むかである。ここ10年での報告書で見た限りでは、歩哨の「事故死」の方が多い。いつの頃からかの慣習の一つ、「カナリヤ」などと呼ばれる代物だ。正直者やお人よし程早く死ぬ。
「歩哨までくたばらんうちに手を打たんとな」
「それと、なんか気になったんですがね」
「なんだ?」
「なんか甘い匂い、しませんでした?」
運転中の赤羽がそう言ったものの、
「すまん、花粉症気味でな」
鏑木はそう返し、他の者も分からん、という顔をする。
「気のせいですかねぇって、」
止めろと言う前に赤羽はブレーキをかけた。
舞鶴市に向かう国道の端、巫女服もどきの艦娘が親指を上に向けて腕を突き出していたのだ。
「榛名、だな。舞鶴第4にいるはずだったな」
「あれ、やばいんじゃないですか?」
赤羽の言葉に、鏑木は榛名の顔を注視する。これといった表情はないが、能面の様な無表情ではない。無気力にも見えない。
「まずいかもしれんな」
心ここにあらず、そう表現するしかない状態に見えた。にも関わらず、何らかの目的を持って自分たちを呼び止めている。
「あれ、まだ大丈夫です」
左隣の矢田がそう言った。確かか?と念を押すと
「右肩に妖精さんが乗ってます。同じポーズで。多分、お目付け役ですね」
「そうか、俺が行く。万が一の場合は俺を置いて逃げろ」
「いや、俺が行かないと状態が分からないでしょ」
鏑木を止める矢田に、
「俺は挿げ替えられる首だが、貴様は換えの効かん目だ。耳がないせいで提督にはなれんとしても、憲兵隊そのものに必要な人員だ、分かったな?」
「了解しました」
ついでに言うと、矢田の声はまだ妖精には届かない、故に提督にはなれないのであるが。妖精を見るには妖精の目が要る、故に大本営の憲兵隊にはそういう人員が優先的に配置されていた。提督だけではなく、鎮守府詰めの憲兵そのものも取り締まるためである。
車から降りた鏑木は、ゆっくりと榛名に近づいて行った。この時点で榛名の右肩の妖精が左腰をぽんと叩く動作をしていたが、とっさのことで矢田は伝えることができなかった。そして、榛名は右手を下すと、左手でそれを突き出した。
「端末?」
鏑木たちは阿久津の端末は回収していた。ただし支給端末のみである。この時点で助手席に座ったままだった佐竹は気が付き、慌てて阿久津の支給端末を確認した。何らかの電子的トラップがあるかもしれないので、行動としては規定違反だったが、舞鶴第4に調査に入る時点で申請済みだったバックドアのキーのおかげかトラップを踏むことはなかった。
「通話記録がない!」
通話記録が削除されても不可視状態でログは残るようになっているのが支給端末だ。にも関わらず攻撃隊要請時のログは、支給端末にはなかった。要請に使われたのはこの端末ではなく、榛名が突き出している端末であるということである。そんなものは、天龍が自分たちに会った時点で渡せばいいだけの事だったはずだ。だが、天龍は隠した上で、榛名に持たせてこちらに渡してきたことになる。鏑木は端末を受け取ると、つい口にしてしまった。
「おい、貴様、大丈夫か」
「榛名ですか?榛名は、大丈夫です」
榛名型にそんなことを聞いても、返答は大体似たようなものだ。そう言って榛名は鎮守府の方へ歩き出してしまった。両手を横に広げ、伸ばした足で一歩ずつ。ヤジロベーの様に体を左右に揺らしながら、
「おい」
「お使い、おわりました」
呼び止めに反応したのか、ぐるんと首だけ鏑木に向け
「お使い出来たら、天龍さんが、ご褒美をくれます」
最後にそう言って、あとは何の反応も示さなかった。路側帯の白線を一歩ずつ、なぞるように行ってしまった。赤とんぼを歌いながら。唖然とした鏑木のそばに、過ぎ去った榛名を確認してから赤羽たちが車を寄せる。
「隊長、早いとこ戻りましょう。ありゃもう気狂いの類ですよ」
「あ、ああ」
不可解なそれと、理解した現状双方からくる寒気をどうにか抑え、鏑木は後部座席におさまった。それを確認すると、赤羽は逃げるように舞鶴中心に向かって車を走らせるのであった。
大本営に帰還後、阿久津の個人端末はすぐに解析に回された。第四憲兵隊内での話ではあるが。第六まである大本営憲兵隊も、相互監視のためにその数があるのである。いきなりの情報共有はしない。万が一、鎮守府と手を組んでいる隊があった場合、ろくでもないことになるからである。まあ仮にグルの憲兵隊が真っ先に動いた場合はもみ消されるわけではあるが、何もしないよりはマシな対策であった。
「ろくでもないな」
「ろくでもありませんね」
「正直、配属になってから勃たないんですが」
「赤羽さん、それセクハラです」
「弦本よう、表情一つ変えずに見てて説得力ないぜ」
「あのうさん臭い笑みさえやめてくれりゃ飲みに誘いたいような子がこの有様だ、そりゃこっちも病むってもんよ」
大本営内に残っていた隊員たちも含めて証拠を見てげんなりしている。まあ憲兵殺害の証拠ではあるのだが、それ以前に出て来た別の証拠がこれまたろくでもない。ちょうど見ていた動画の最後で轟音が響く。
「今ので頭が吹っ飛んだわけか」
「凶器はイ級ですか。まあ上になってりゃ体上半分、堤防からはみ出して丸見えでしょうし」
「検死結果来ましたけど、まあその、奴さんイってたようで、尿道にも残ってました」
「回収時に露出してなかったのは、まあ武士の情けと言ったところか。で?」
「この動画のとおりですよ。ホトケさんの下(しも)から別のDNAも出てます。一応XX染色体の」
「ろくでもないことがあと二つあってな」
鏑木の言葉にまだあるのか、と隊員たちは恐れおののく
「大規模作戦が近い。残念ながら上からの通達で、作戦終了後踏み込めとのお達しだ」
「それって」
「舞鶴第4の状態は悪いが、それでも大規模作戦には常に1艦隊分参加させてきた、故にだ。最悪の場合被害者が戦死する」
ろくに戦力も出せない程状態が悪ければ、すぐにでも踏み込めたところだ。これは艦娘が踏みとどまってしまった弊害であった。
「そしてもう一つ。お前らも聞いたろう」
ともに出向いた部下に確認する。
「ええ、天龍さんがご褒美くれるって言ってましたね」
「あの榛名、もう提督の命令は聞いていないぞ」
既に舞鶴第4の艦娘は、離反し始めているということであった。
「先生、薬の追加頼むわ」
医務室に入るなり、医務官の源田にそう呼びかけた天龍を見て、源田は泣くとも笑うとも分からない表情を浮かべた。
「天龍」
「細けえことはなしだ、先生。当たっても困る」
妊娠しにくいとはいえ、体は女である。やむを得ず源田はピルとアフターピルを天龍に渡した。
「天龍」
現状の確認をしたかった源田を、彼女はつれなく拒否する。
「細かいことも言えねぇ。鳳翔さんとあんたの前任の轍は踏めねえしな」
年若い源田は、ここでは2人目の医務官だ。前任者は事故死ということになっている。天龍の着任はそのあとだ。鳳翔は最初からここにいた。その前があったかは、天龍も聞きだしてはいない。
「んで、加賀はどうだった?」
「薬は飲ませた。同じようなことがあったらここに来るようには言ったが、どこまで聞いているのか分からないよ、あの子も」
画像の記録日時からは、一応アフターピルで間に合う範囲だった。確実ではないが。
「まじか。他には」
「その前に一つだけ聞きたい。天龍、艦娘が提督の言うことを聞かなくなる条件はなんなんだい?」
真剣な顔をした源田に、天龍は真顔で返す。
「そいつはオレが聞きたいね」
厳密に言うと天龍は既に逆らっている。表面上従っているのは、逆らえない状態の艦娘のためだ。正規の手段で馬鹿を叩きださなければ、艦娘達は救えない。
「多分、あの子は提督の命令に反応していない。ここにいるとき、提督が来たんだけどね」
「なんか無茶振りか?」
「まあその類というか、哨戒任務の類じゃないかな。提督に反応していなかったように見えた」
んで?と先を促す。
「付き添いの鳳翔さんの言葉で動いたように、僕は見えたんだよ」
動きはゆっくりだったけどね、と源田は付け加えた。天龍は考え込んだ上で、確認する。
「気のせいじゃなくてか?」
「気のせいかもしれないし、そうでないかもしれないって言ったところだね」
「悪いけどまだ分からねぇな。今まで考えた事もなかった」
「もしかすると、榛名もそうかもしれないと見てるんだよ、僕は」
「なあ、それ、ろくでもないことにならねえ?」
「正直言って怖いね」
艦娘の離反。命令無視のサボタージュならまだいいだろう。しかしながら、その先は?そんなことを考えて天龍は体を震わせた。もっとも未だに彼女は気付いていない。そんな艦娘たちが、誰の「命令」に従っているのか。知らぬは本人ばかりなり。